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2021.10.21(Thu)

新規事業の立ち上げはなぜ重要?
成功率向上のポイントと事例、Q&A

#Smart World #共創 #イノベーション
市場や社会情勢などの経営環境がめまぐるしく変化する時代の経営戦略では、新規事業を立ち上げる能力がますます重視されています。自社の経営課題や社会における脅威に柔軟かつスピード感をもって対応し、顧客ニーズを捉えた新規事業創出ができると理想的です。また、新規事業開発においては共創の視点も重要だといえます。他社との協働によってビジネスに新たな価値を創造できるでしょう。

本記事では、新規事業の立ち上げを成功させるために、立ち上げの流れや活用できるフレームワークをご紹介します。新規事業開発のステップや成功した企業の事業アイデアなどを参考に、新規事業の立ち上げへ効果的に取り組みましょう。

目次


    新規事業の立ち上げが重要な理由

    ここでは、近年のビジネスシーンで新規事業の立ち上げが重視される背景を解説します。変化の多い時代に持続的な経営を実現するためにも、新規事業開発の重要性を理解しておきましょう。

    ●外部環境の変化に対応するため1
    サステナブルな経営を実現するには、常に市場ニーズの変化へ柔軟に対応できる組織体制が不可欠です。昨今は世界情勢やテクノロジーのトレンドが急速に移り変わり、予測困難な状況が続くことから「VUCA時代」と呼ばれています。また、「ESG経営(=サステナブルな発展を目指した経営)」や「エシカル消費(=社会課題の解決を考慮した消費活動)」といった多様な価値観が広まり、企業活動を評価する基準が刻々と変化しつつあります。既存事業のニーズ減少をはじめとしたあらゆるリスクに備えることが重要です。

    ●既存事業を活用して新たな収益源を確保するため
    新規事業によって新たな収益源を確保することで、多角的にビジネスを展開し、安定した経営基盤を構築できます。その際、既存事業とシナジー効果のある新規事業を創出すれば、既存事業のノウハウを生かして新規事業の売上を伸ばせる可能性があるでしょう。その際は、自社のビジネスと相性の良いパートナー企業との協業によって事業を成長させる「共創」に取り組むのも一つの手です。

    ●優秀な人材を育成するため
    企業内で新規事業開発の経験を積ませることは、将来的に経営層となる重要な人材の育成にも有効です。そのため、新規事業開発のプロジェクトでは、現場で活躍する社員からの提案を積極的に採用すると良いでしょう。立ち上げメンバーが主体的に事業運営できる環境を確保することで、現場に知見やスキルが蓄積されるのに加えて、人材育成にも大きな効果がもたらされます。

    1 https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20230623_vuca.html

    新規事業を立ち上げる流れ2

    新規事業の立ち上げ時は、具体的にどのような進め方でプロジェクトを推進するのでしょうか。ここでは、各フェーズで取り組むべきことをご紹介します。

    ▶︎Step1. 既存顧客と自社のニーズを収集する
    まずは、新規事業のアイデア出しへ向けた準備段階として、自社のビジネスに関わる潜在ニーズの棚卸しを行いましょう。既存顧客の要望を深く知るために、丁寧なヒアリングを実施します。また、従業員へのヒアリングを実施して、社内のニーズを把握することも大切です。これにより、自社と同業種・同規模の企業が抱えるニーズを理解しやすくなります。

    一方、予測困難なVUCA時代においては、企業が自ら問いを立ててあるべき未来の事業を創造するバックキャスティング型のアプローチも注目されています。「社会がどのように変わっていくか」だけでなく、「企業がどのような社会を作っていきたいか」に基づいてビジネスアイデアを創出する方向性も検討すると良いでしょう。

    ▶︎Step2. 市場や競合の調査3
    続いて、市場調査や競合調査を実施します。詳しい調査によって市場や競合他社に関する詳細な情報を入手し、データ分析に活用しましょう。分析することで顧客の潜在的なニーズ(インサイト)を可視化できる可能性があります。調査結果から得られた情報は、フレームワークを使って整理しておくと良いでしょう。バックキャスティング型のアプローチの場合は、現状の調査結果から企業が作りたい未来の社会を実現するために何が必要なのかを検討します。

    ▶︎Step3. 新規事業のアイデアの決定
    収集・分析したデータに基づいて、市場ニーズや課題に対する解決策を検討します。また、社内で新規事業のアイデアを募集しましょう。その際は、アイデアの発案者がプロジェクトメンバーになれる仕組みがあると、アイデア出しのモチベーションを高められます。

    また、新規事業は企業が独自に取り組むほかに、ステークホルダーと協業して新しい価値を創造する「共創」という方向性も挙げられます。ステークホルダーとの対話を通じて、社会に新たな価値を生むアイデアを創出する方法もご検討ください。

    ▶︎Step4. 事業計画の立案・テストマーケティング4
    アイデアに基づいて事業計画を立案し、ビジネスの収益性や市場の将来性などを十分に検討します。本格的に事業をスタートさせる前に、販売期間や販売エリアを限定したテストマーケティングを実施し、事業化の判断や改善などに役立てると良いでしょう。バックキャスティング型のアプローチの場合は、実現したい未来像へ向けて必要な行動や想定される障壁などを明らかにします。

    ▶︎Step5. 現実的な事業計画の作成
    Step4.での成果を反映させながら、より具体性のある事業計画を完成させます。事業のロードマップや行動計画を作成するとともに、プロジェクトに人材をアサインして社内体制を整備しましょう。スケジュールの計画通りに新規事業をスタートさせます。バックキャスティング型のアプローチの場合は、目標達成が可能かをストーリーラインで検証しましょう。

    ▶︎Step6. 新規事業サービスの開始・効果検証・改善
    新規事業がスタートしたら、以降はPDCAサイクルを回して効果検証と改善を繰り返します。定期的に施策の成果を振り返って分析し、フィードバックに基づいて改善することで、より顧客ニーズに沿った事業を実現できます。

    2 https://tayori.com/blog/new-business-launch/
     https://stockmark.co.jp/coevo/newbusiness-launch-process
    3 https://www.rd.ntt/se/media/article/0022.html
    4 https://www.profuture.co.jp/mk/column/36043

    新規事業の立ち上げに役立つ主なフレームワーク

    新規事業の立ち上げで意思決定や計画立案にお悩みなら、以下のフレームワークを活用するのがおすすめです。チームで思考を整理するためにお役立てください。

    ●PEST分析
    外部環境の現状分析を行うフレームワークです。PESTとは「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」を指します。新規事業に影響を与える要因を整理する手法によって、事業開始後のリスクを予測できます。

    ●SWOT分析5
    ビジネスの外部環境と内部環境をそれぞれプラス要因・マイナス要因に分類して分析するフレームワークです。自社の「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(ビジネスの機会)」「Threat(ビジネスの脅威)」を明確化して新規事業に反映できます。

    ●クロスSWOT分析6
    SWOT分析で導き出した強み・弱み・機会・脅威の掛け合わせにより、新規事業の具体的な戦略を策定するフレームワークです。強み×機会の「SO戦略」、弱み×機会の「WO戦略」、強み×脅威の「ST戦略」、弱み×脅威の「WT戦略」が考えられます。

    ●3C分析7
    ビジネスの環境を分析するフレームワークです。「Customer(市場環境)」「Company(自社環境)」「Competitor(競合環境)」というCで始まる3つの要素を分析します。新規事業を取り巻く環境を整理する際に効果的です。

    ●SCAMPER(スキャンパー)法8
    新規事業のアイデアを発想する際に役立つフレームワークです。「Substitute(代用)」「Combine(組み合わせ)」「Adapt(適応)」「Modify(修正)」「Put to other uses(転用)」「Eliminate(削減)」「Reverse・Rearrange(逆転)」という7つの質問に答えることで、短時間に多数のアイデアを考案できます。

    ●ペルソナ分析9
    マーケティング施策でターゲットとなる具体的なユーザー像を明確化するフレームワークです。ターゲット層の情報収集と分析を実施し、ペルソナの属性(年齢・性別・職業・家族構成・ライフスタイルなど)を明確化します。新規事業のターゲットの特定に役立ちます。

    ●ポジショニングマップ10
    市場における位置づけ(ポジション)を確認するフレームワークです。自社と競合他社のサービスを2次元のマップ上に配置することで、市場の全体像を捉えられます。新規事業で市場に参入するにあたり、自社の特徴を客観的に理解し、差別化に役立てられます。

    ●ビジネスモデルキャンバス11
    ビジネスの構造を整理するフレームワークです。キャンバスを作成し「パートナー」「主要活動」「リソース」「価値提案」「顧客との関係」「チャネル」「顧客セグメント」「コスト構造」「収益の流れ」という9つの項目を記入します。新規事業を構成する要素が可視化され、社内外のコミュニケーションや、競合分析がスムーズになります。

    5 https://www.innovation.co.jp/urumo/swot/
    6 https://the-owner.jp/archives/4613
    7 https://cyber-synapse.com/dictionary/en-all/3c-analysis.html
    8 https://stockmark.co.jp/coevo/scamper
    9 https://www.toshibatec.co.jp/datasolution/column/20220701_03.html
     https://www.brainpad.co.jp/brandwatch/blog/4309/
    10 https://sony-startup-acceleration-program.com/article662.html
     https://sairu.co.jp/method/12780/
    11 https://hybrid-technologies.co.jp/blog/knowhow/20230313/

    新規事業の立ち上げを成功させるポイント

    新規事業の立ち上げを成功へ導くには、以下のポイントに留意してプロジェクトを推進すると良いでしょう。失敗を避ける上で大切なポイントをお伝えします。

    ●自社の軸を踏まえて事業ドメインを見極める12
    事業ドメインとは、「事業領域」を意味します。新規事業を立ち上げる際は、自社の強みを生かせる事業ドメインを選択することが大切です。そのためにも、会社のミッションやビジョンなどの軸に沿ったビジネスプランを選定しましょう。自社の軸を踏まえて判断することで、短期的な利益に偏った判断を避けやすくなります。

    ●必要なリソースを把握し、スモールスタートで開始する
    新規事業開発プロジェクトは、リスクヘッジの観点から必要最低限のリソースで開始するのが望ましいといえます。スモールスタートにすることで開始後に方向性を調整しやすくなり、無駄なコストの発生を防げます。新規事業の立ち上げに必要な人材・予算・技術・ノウハウなどのリソースをあらかじめ把握した上で、小規模から取り組み始めましょう。

    ●パートナー企業と組んで共創を行う
    新規事業の立ち上げでは、パートナー企業と協力しながら「共創」に取り組むことで大きなメリットが期待できます。事業化にあたり必要なアセットを互いに提供し合う仕組みによって、自社で一から開発するよりもスピード感を高め、大規模な市場へのアプローチを実現できます。これまでにないさまざまな事業にチャレンジできるでしょう。他社とのコミュニケーションを通じて、業界の常識を覆す新たなアイデアが生まれるほか、既存のビジネスモデルや自社商品に変革がもたらされるなど、可能性がより広がります。

    合わせて読みたい:
    共創とは?求められている背景と3つの種類、得られる効果

    ●補助金・助成金制度を活用できないかを確認する13
    新規事業の立ち上げでは、要件を満たせば公的な補助金・助成金の制度を利用できる場合があります。補助金・助成金は融資とは異なり、基本的に返済の義務がない制度となっています。新規事業の立ち上げで発生する費用負担を抑えることにつながるため、ぜひ活用しましょう。なお、補助金・助成金を利用するには事業計画書や決算書などの必要書類を提出し、審査に通過する必要があります。

    【参考】「創業者向け補助金・給付金(都道府県別)」(J-Net21)

    ●撤退ラインを事前に決めておく14
    万が一、新規事業のスタート後にビジネスを黒字化できなかったケースに備えて、あらかじめ撤退ラインを設定しておくことが重要です。一般的には「一定期間を過ぎても費用対効果が見込めない」「将来的に市場の成長が期待できない」といった背景から撤退を判断する場合が多いといえます。迅速な判断を実現するためにも、事業を立ち上げる時点で撤退ラインを設定しておきましょう。

    ●経営陣の適切なコミットを引き出す15
    新規事業の立ち上げではスピーディーな判断を求められるケースが多く、マネジメントを担う経営陣のコミットが不可欠です。プロジェクトチームと経営陣の連携を強化することで、スムーズな立ち上げを実現しやすくなります。その反対に、経営陣の判断が遅れると、当初と市場の状況が変わってしまうおそれがあるでしょう。プロジェクト運営では、経営陣のコミットを引き出すことが大切なポイントです。

    12 https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12247.html
    13 https://www.saisoncard.co.jp/credictionary/subsidy/jyoseikin_57.html
    14 https://relic.co.jp/battery/articles/8095
    15 https://note.opt-incubate.jp/n/ndb2b85b73a54#7b88212e-ef62-4f3e-a451-d5c3b6c637e8

    新規事業の立ち上げ事例

    新規事業の立ち上げに成功した企業の事例をご紹介します。ステークホルダーとの共創によってビジネスにイノベーションを起こし、新たな価値を創出した企業が多くあります。こうした共創の観点を意識して未来のビジネスを思考しましょう。

    ●NTTコミュニケーションズ×スタンレー電気×加賀FEI×ダッソー・システムズ「スマート道路灯」
    スマート道路灯とは、AIカメラやセンサー等のデバイスを搭載して5Gネットワークでつながった新しい道路灯です。環境情報や交通データを集めることで、省エネ対策や交通安全、メンテナンスの省力化などの社会課題の解決が期待されています。このプロジェクトには4社が関わっており、自動車用照明機器のトップ企業であるスタンレー電気株式会社が道路等の企画・開発を行い、NTTコミュニケーションズ株式会社がネットワークやデータ流通領域の開発・運用とビジネスプランニングを担当。加賀FEI株式会社はセンサーデバイスおよびエッジAIカメラなどのシステム開発、ダッソー・システムズ株式会社がデジタルツイン上の多角的なシミュレーションを行うという風に、各社が得意分野を担当して共創することで、新たなインフラを生み出そうとしています。

    合わせて読みたい:
    スマート道路灯が照らす、まちづくりの未来 共創によって実現する“路上のデジタルハブ”

    ●タカラトミー×JAXA×ソニーグループ×同志社大学「SORA-Q」
    株式会社タカラトミー、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ソニーグループ株式会社、同志社大学という4つの組織による協業の事例です。複数の組織の産官学連携により変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」を開発しました。タカラトミーが変形ロボット玩具で培った技術により、形を変えながら月面を走行し、スムーズに探査できる独自の形状を実現。共創の取り組みを通じて、同社が提供する玩具のエンタメ性や遊びの要素をより幅広いビジネスに展開し、新たな分野へ参入する可能性が広がりました。

    合わせて読みたい:
    おもちゃの技術を月面探査ロボットに応用!タカラトミー×JAXAの共創が生んだ「ワクワク感」という価値

    新規事業の立ち上げに関する参考情報

    最後に、新規事業の立ち上げに関する参考情報をご紹介します。事業性を見極め収益化するために以下の観点も踏まえて取り組みましょう。

    ●新規事業の成功率はどのくらい?
    新規事業の立ち上げに成功する企業の目安は20%~30%程度だといわれています。さらに、このうち事業の黒字化に成功する企業は10%~20%であることからも、難度の高さがわかるでしょう。この数値から成功率を考えた場合、「10つの新規事業を立ち上げたとき、成功するのは1~2つの事業」ということになります。ただし、単に成功率の数値のみで判断するのでなく、新規事業創出の取り組みで組織文化にもたらされる効果なども踏まえて判断することが大切です。

    ●新規事業の黒字化にはどのくらいかかる?
    一般的に、新規事業を立ち上げてから黒字化するまでには3~5年の期間がかかるとされています。起業する場合、少なくともこの期間は事業を続けられるだけの経営資源が必要です。余裕を持って資金調達を行い、黒字化するまで継続できる内部環境を整備しましょう。

    ●新規事業のアイデアを出すコツは?16
    新規事業のアイデア創出を活性化させる手法の一つとして、社内ビジネスコンテストの開催が挙げられます。従業員が主体的に新規事業に参加でき、多数のアイデアを収集できるのが魅力です。このほかに、先ほどご紹介した「SCAMPER(スキャンパー)法」などのフレームワークを活用する方法も挙げられます。

    ●新規事業の撤退ラインを決める基準は?17
    多くの企業では、「KPI(重要業績評価指標)」や「PL(損益計算書)」などに基づいて定めた基準で事業撤退の判断が行われています。また、現段階の損益だけでなく、今後の市場の動向や将来の成長性なども重要な判断基準となります。

    ●新規事業の立ち上げに利用できる補助金や助成金は?
    新規事業の立ち上げに利用可能な制度は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するポータルサイトで「J-Net21」で情報を確認できます。例えば、東京都では都内で創業予定または創業5年未満の中小企業の創業者を対象に「令和5年度第1回 創業助成事業」が実施されています。管轄の自治体の制度をご確認ください。

    【参考】「創業者向け補助金・給付金(都道府県別)」(J-Net21)

    16 https://note.opt-incubate.jp/n/n3c5f8817b4f2?gs=1673e57f7156
    17 https://pro-d-use.jp/blog/business-withdrawal-standard/

    パートナーとの共創で新規事業の立ち上げを成功へ導きましょう!

    今回は、新規事業の立ち上げを成功させるための立ち上げの流れや活用できるフレームワークなどをお伝えしました。企業が既存の事業で培った強みを生かしてビジネスを創出することで、これまでにない新たな価値を生み出せる可能性があります。その際は、協働パートナーとアセットを提供し合う「共創」の選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか。互いの強みを生かせる新規事業のアイデアを検討し、新しい顧客体験の実現を目指しましょう。