Co-Create the Future

2023.12.01(Fri)

おもちゃの技術を月面探査ロボットに応用!
タカラトミー×JAXAの共創が生んだ「ワクワク感」という価値

#共創 #イノベーション #ロボティクス
異なる事業体が手を取り合い、お互いの強みやレガシー(資産)を生かすことで新しい価値を生み出す“共創”。2023年10月に開催された「docomo business Forum'23」では、タカラトミーと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛けた変形型月面ロボット「SORA-Q」を取り上げ、事業共創によって生まれる価値についてディスカッションを行いました。その模様をレポートします。

新しい起業家のスタイル「Xtrepreneur(クロストレプレナー)」とは

2023年10月に開催された「docomo business Forum’23」。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が顧客企業やパートナーと共に展開する「DXによるサステナブルな社会実現」の価値を体感できるビジネスイベントです。

このイベント内で、「Forbes JAPAN Xtrepreneur AWARD Special SESSION グランプリプロジェクトに聞く『共創価値と社会実装』」と題し、OPEN HUB代表の戸松正剛のファシリテーションのもと、タカラトミー アライアンスキャラクター事業部長の赤木謙介氏、JAXA 宇宙探査イノベーションハブ ハブ長の船木一幸氏を招いたディスカッションが行われました。

Forbes JAPAN Xtrepreneur AWARDとは、グローバルビジネス誌『Forbes JAPAN』とNTT Comの事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」が共同で立ち上げた表彰プログラムです。Xtrepreneur(クロストレプレナー)とは、アントレプレナー(起業家)でもイントレプレナー(社内起業家)でもなく、企業に脈々と受け継がれてきたレガシーをつなぎ合わせて、社会や未来を変える次世代の新しい起業家のスタイルを指す言葉です。

このアワードでグランプリに選ばれたのが、タカラトミー、ソニーグループ、JAXA、同志社大学という4つの組織が共同開発した変形型月面ロボット。通称「SORA-Q(ソラキュー)」と呼ばれるこのロボットは、野球のボールとほぼ同じサイズで250グラムと軽量ながら、形を変え、クロール走行とバタフライ走行を使い分けて月面をスムーズに探査することが可能です。

SORA-Q (左)変形前、(右)変形後
©︎JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学

1980年代から変形ロボット玩具を開発・提供してきたタカラトミーは、いわゆる“トランスフォーメーション”の技術に強みを持っていました。タカラトミーが玩具で培った技術力と、ソニーグループやJAXA、同志社大学という産官学連携で生まれたSORA-Qは、Xtrepreneur AWARDの審査会でも話題となり、満場一致でグランプリが決定したそうです。

このSORA-Qの取り組みから、異なる企業や事業体が手を取り合って新しい価値を創っていく「共創」と「社会実装」についての議論が交わされました。

「昆虫ロボット」の開発からスタートした変形型月面ロボット

SORA-Qのプロジェクトが走り始めた経緯について、タカラトミーの赤木氏は「2016年に発表された、宇宙探査イノベーションハブの研究提案公募に応募したことがきっかけ」と話します。

この宇宙探査イノベーションハブとは、JAXAが展開する宇宙探査に向けた産官学の共創の取り組みのこと。ハブ長を務め、本ディスカッションのパネリストとして参加したJAXAの船木氏がその意義について語ります。

「JAXAでは、地球から宇宙空間、そして月や火星、さらにその先まで探査するミッションを構想しています。これらのミッションをJAXA単体で実現することは不可能ですので、さまざまな企業の方や国際パートナーの方と共創しています」

タカラトミーが宇宙探査という新しい領域に参入した狙いについて、赤木氏は3つの理由を挙げています。

「1つめは、玩具で培った技術を通じて、玩具が持つエンタメ性や遊びの要素を他の産業にも活用していきたいという会社の活動目的があったこと。2つめは、玩具を通じて宇宙の出来事を自分ごととして感じられる、新たな体験価値を子供たちにも伝えたいということ。本機は現在宇宙へと旅立ち、『SORA-Q Flagship Model』として商品化も実現しました。3つめは、このプロジェクトをきっかけに『宇宙でも遊ぶ』という『新しい遊びの価値創造』を実践していきたいと考えたためです。

公募の要件には、宇宙探査するための『昆虫ロボット』の研究協力を求めるという内容がありました。それであれば、自分たちがこれまで培ってきた玩具の技術が活用できるかもしれないと思い、応募しました」

赤木謙介|株式会社タカラトミー アライアンスキャラクター事業部長

玩具のレガシーが宇宙探査にもたらした「ワクワク感」という価値

SORA-Qを開発する過程では、走行の障害となるレゴリス(砂や風化物などが堆積したもの)が多い月面上でスムーズに動き、傾斜のきつい坂を乗り越えられる機体を作るための試行錯誤が重ねられたそうです。結果として、バタフライ走行とクロール走行という2つのモードを使い分けることで、月面探査のための理想的な動作を実現するに至ったのです。

SORA-Qは、その機能性が評価され、JAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」に搭載されることが決まります。SORA-Q のミッションは、SLIMの月着陸直前に使用する小型探査ローバの『LEV-1』と共に射出され、月面を撮影するとともに月面走行データを取得すること。このミッションを達成すべく、JAXAの宇宙探査イノベーションハブはイメージセンサーに強いソニーグループと同志社大学にも協力を仰ぎ、さらなる開発を進めていきます。JAXAの船木氏はこうした連携を生んだ本プロジェクトを次のように評価します。

「宇宙探査においては、企業や組織が持っているさまざまな技術を活用する必要があります。それは同時に、地上の事業の活性化にもつながるのです。そうした共同研究開発を我々は推進していますが、今回のSORA-Qはまさにその理想形と言えるでしょう。JAXAは宇宙で使うための技術開発を提供し、タカラトミーさんは頑丈で高機能なハードウェアの開発を担う。同じゴールを共有しながら技術を持ち寄ることができた結果だと思います。

タカラトミーさんがもたらしてくれたのは『遊びの価値』を他事業に転換するという発想です。野球ボールのような小さなロボットが月面で活躍する。そこには玩具の世界で培われた卓越した技術力があり、それが宇宙の世界と結ばれ、実際に宇宙に向かっているということは非常にインパクトのあることだと思います」

船木一幸|宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙探査イノベーションハブ ハブ長

船木氏の言葉を受けて、NTT Comの戸松もSORA-Qのストーリーが持つ「ワクワク感」に注目します。

「私はトランスフォーメーションを単なる玩具の機能と捉えていたのですが、今回の取り組みによって、トランスフォーメーションは『タカラトミーさんのテクノロジーであり、レガシーである。そして遊びへの探究心が宇宙のナゾに迫ることができる』ということに気付き、感心しました。なにより、ワクワク感を得られるということが重要です。事業共創というと、社会課題の解決というマイナス要素を解消する意味で語られがちですが、この取り組みには宇宙探査という未知の世界に玩具が飛び込んでいく創造性があります。マイナスをゼロにすることももちろん重要ですが、可能性や新しさ、未知の世界といった広がりが感じられる点も大切だと思います」

戸松正剛|NTT Com OPEN HUB代表

各社が強みを発揮できるバランス感が共創の要

大きな組織同士の共創では、利害関係者が広がり意思決定やビジョンの共有が難しくなるといったリスクがありますが、本プロジェクトにおいては「絶妙なバランス感」でそれを回避していると戸松は指摘します。赤木氏はSLIM搭載決定以前と以降を振り返りながら、そのバランス感がつくられた経緯について次のように語りました。

「当初、タカラトミーとJAXAの2社体制だったSORA-Qのプロジェクトですが、ミッションが固まったことで、例えば月面上で撮影を行うためのイメージセンサーの開発といった新たな課題が見えてきました。そうしたなかで他社やアカデミアを誘い参画してもらったことで、それぞれの強みが生かされる座組みが構築されました」

イベントの最後に、船木氏は「SORA-Qのプロジェクトをきっかけに、宇宙に行く方法にはさまざまな関わり方があるということを知ってもらいたい。そうすることが、このプロジェクトの発展にもつながると思います」と期待を語り、赤木氏は「事業領域を広げることは困難も伴いますが、前向きに立ち向かっていけば新たな経験を得ることができるということを学ぶことができました」という振り返りの言葉でトークを締めました。

SLIMが月面に着陸するのは2024年はじめごろとのこと。SORA-Qは共創の希望と共に、今まさに月に向かっています。

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