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Partnership with Robots
2022.12.23(Fri)
目次
昨今、社会的な注目度が高まりつつある「デジタルツイン」とは、一体どのようなテクノロジーなのでしょうか。初めに、デジタルツインの特徴や仕組みなど、押さえておきたい基礎知識をご紹介します。
●デジタルツイン(Digital Twin)とは?2
デジタルツインとは、現実空間に存在する物体や状況などを、コンピューターを用いて仮想空間上でコピーのように再現したものです。「デジタルの双子」という意味合いから、デジタルツインと呼ばれています。デジタルツインは、現実空間から収集した膨大なデータを活用することにより、現実空間に非常に近いシミュレーションやモニタリングを実現できるのが特徴です。近年は、ビジネスから行政まで社会で幅広く実用化の動きが見られ、注目を集めています。
●デジタルツインの仕組み
デジタルツインは、現実空間のデータをカメラやセンサーなどのIoT機器によってリアルタイムで収集し、AIでデータ分析や処理を行う仕組みによって成り立っています。これにより、現実空間と対になる環境を仮想空間に構築し、シミュレーションやモニタリングが可能となるのです。デジタルツインでシミュレーションした結果は、その後に現実空間へとフィードバックされます。こうしたフィードバックに基づいて、現実空間で対策や改善を行い、社会のさまざまな分野で役立てられます。
●デジタルツインと似た用語との違い
・シミュレーション
シミュレーションとは、実世界で想定される状況をモデル化して予測・検証・分析することを指します。現実空間でも実施される場合がある点が主な違いです。デジタルツインはシミュレーションの一形態ともいえるでしょう。なお、デジタルツインは実在する現実空間をベースに高い精度で構成されるため、実在する現実空間を模した環境で実験する一般的なシミュレーションよりも、再現環境・リアルタイム性・精度などが高度な傾向にあります。
・メタバース3
メタバースとは、アバター(=ユーザーの分身)を通じたコミュニケーションや経済活動などができる仮想空間のことを指します。デジタルツインと同様に仮想空間に存在していますが、メタバースには「現実を再現した空間」と「空想上の空間」がどちらも存在します。それに対して、デジタルツインは現実世界に実在するものを再現し、あくまでも現実を忠実に再現した仮想空間である点が大きな違いです。
・ミラーワールド4
ミラーワールドとは、現実空間に存在するあらゆるものがデジタル化され、一つひとつ対になって仮想空間に存在する世界のことです。「鏡像世界」とも呼ばれます。デジタルツインと同じように現実を再現した仮想空間であり、デジタルツインの巨大な集合体がミラーワールドだと捉えられるでしょう。
1 https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-t/digital-twin.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd247530.html
2 https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-t/digital-twin.html
3 https://metaversesouken.com/metaverse/digital-twin/
4 https://ar-go.jp/ar-basic-knowledge/ar-terms/meaning-mirror-world/
https://the-owner.jp/archives/11426
デジタルツインの登場により、社会のデジタル化がますます推進され、今後さらに広い分野での活用例が増えると期待されています。ここでは、近年デジタルツインが注目されている背景や、グローバルな市場規模について解説します。
●デジタルツインが注目されている理由
そもそもデジタルツインが実用化された背景として、「IoT」「AI」「VR」といった基盤技術の発展が挙げられます。これらの先端技術の発展にともない、デジタルツインで再現する環境の精度が飛躍的に向上しました。今後、多くの分野や用途での活用が期待されている状況です。なお、デジタルツインを支える技術について、詳しくは後ほどご紹介します。
●デジタルツインの市場規模
デジタルツインの市場規模は、世界的に増加傾向にあります。総務省の「情報通信白書令和5年版」によれば、2020年における世界のデジタルツインの市場規模は2,830億円でした。一方、将来的な市場規模は大幅な成長が見込まれており、予測では2025年の時点で3兆9,142億円に達すると考えられています。
また、デジタルツインの市場規模を産業別に見ると、もっとも規模が大きい分野は製造、自動車、航空などの分野です。次いで、エネルギー・公共事業、ヘルスケアなどの分野が挙げられます。各業界の2020年時点の市場規模は、製造業で5.9億ドル、自動車業で4.9億ドル、航空業で4.3億ドルでした。ただし、2050年には製造業で66.9億ドル、自動車業で50.6億ドル、航空業で50.9億ドルまで成長すると見込まれています。
【出典】「情報通信白書令和5年版 第2部 第7節 ICTサービス及びコンテンツ・アプリケーションサービス市場の動向」(総務省)
デジタルツインの活用によって、社会や企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。将来的なデジタルツインのビジネス活用を視野に入れながら、期待できるメリットを確認してみましょう。
●品質の向上
デジタルツインの仮想空間で試作や実験を行えば、品質向上や顧客ニーズに応えた新製品開発を実現できるようになります。現実空間では多くの負担がかかる試作や実験を繰り返し実施することも可能です。製品の使用状況やフィードバックを効率的に収集し、改善や開発へ速やかに反映させられます。
●コストの削減
デジタルツインの仮想空間でシミュレーションを行う場合、現実空間と比べて短期間かつ低コストで試作や実験が可能です。そのため、開発・製造のコスト削減や効率化による工数削減につながります。さらには、製造のリードタイム短縮が可能となり、自社のビジネスの優位性を確保できる点もメリットだといえるでしょう。
●設備の保全
デジタルツインを通じて、現実空間の製品や設備の状態をリアルタイムで把握できるようになります。現場で異常や不具合が発生した場合、AIを用いた分析やシミュレーションで迅速に原因を特定することが可能です。また、機械の故障の原因や発生時期を予測し、事前にメンテナンスや部品交換を行えるので、予知保全によりダウンタイムや修繕コストを削減できます。
●トラブルのリスク低減
現実空間の製品や設備の動作・挙動をデジタルツインの仮想空間で再現すると、懸念されるトラブルを把握でき、未然に発生を防ぎやすくなります。工場の事故防止や防災のための対策を講じる際に役立ちます。また、トラブル発生後の対処法や回復策を事前に検討できるのもポイントです。
●アフターフォローの充実化
販売した製品が顧客の手に渡った後も、デジタルツインでパーツやバッテリーの消耗具合や使用状況をシミュレーションすることが可能です。さらには、仮想センサーによって製品のデータを取得し、状況把握や寿命予測を行える可能性もあります。よりきめ細やかなアフターフォローを提供できるでしょう。
●接触機会の増加による売上の向上5
デジタル上で顧客に製品を体験してもらう仕組みがあれば、店舗やショールームへ足を運んでもらう必要がありません。製品が大型のため運搬が難しいケースや、顧客が遠方にいるケースなどでも、デジタルツインを活用すれば接触機会を提供できます。これにより売上向上の効果が期待できます。
●作業員のノウハウ・技術の継承6
デジタルツインによって機器の稼働状況をリアルタイムで確認できると、遠隔地で仮想空間のデータを参照しながら、現場の作業員へ指示出しをすることが可能です。高齢化する現場で熟練の職人による支援の可能性が広がるのに加えて、作業内容や稼働データが蓄積されるので、ノウハウや技術の継承にも寄与します。
●開発における物理的制限からの脱却7
デジタルツインでシミュレーションを行う場合、物理空間のようにスペースやコストによる制限がありません。そのため、こうした制限にとらわれず柔軟に試作や実験にチャレンジできます。万が一失敗した場合も、物理空間と比べてリスクが少ないので、挑戦のハードルが下がるのが魅力です。
●社会課題の解決8
街づくりの分野でデジタルツインを活用すると、社会課題を解決できる可能性があります。例えば、3Dモデル化した都市で公共交通機関の運行を最適化すれば、現実の都市で鉄道やバスの利用促進を叶えられるでしょう。結果として、道路の交通渋滞が緩和されるほか、CO2排出量の削減にもつながります。
5 https://aismiley.co.jp/ai_news/digital-twin/
6 https://www.cognite.com/ja-jp/blog/digital-twin-in-industry
7 https://hibiki.dreamarts.co.jp/smartdb/learning/le-sp211229/
https://www.hcc.co.jp/hcclab/20200827/
8 https://www.cognata.com/jp/blog-jp-autonomous-vehicles-digital-twins-and-the-future-of-public-transportation-smart-cities-part-iii/
https://metaversesouken.com/digitaltwin/disaster-prevention-6/#i-6
デジタルツインの技術は、主に以下のデジタル技術によって支えられています。すでにビジネスシーンで実用化されているテクノロジーも少なくありません。改めて各技術の特徴をおさらいしておきましょう。
●IoT
IoTとは「Internet of Things」を略した用語で、モノをインターネットに接続して情報を送受信する技術を指します。デジタルツインにおいては、現実空間で取得したデータや情報を仮想空間へ送信する際に用いられています。IoTを通じて現実空間での状態や変化などが仮想空間へ反映され、シミュレーションや分析が可能となる仕組みです。
●CAE9
CAEとは「Computer Aided Engineering」を略した用語で、コンピューター上のシミュレーションを支援するシステムです。デジタルツインにおいては仮想空間でのシミュレーションに用いられています。CAEを活用すれば、精度の高いシミュレーションを実現できるだけでなく、現実空間では難しい条件を設定して実験を行うこともできます。
●AI10
AIとは「Artificial General Intelligence」を略した用語で、「人工知能」とも呼ばれています。人間の脳の仕組みを参考にした「ディープラーニング」という方法で膨大なデータを学習し、非常に高い認識精度を実現するのが特徴です。デジタルツインにおいては、学習によってシミュレーションの精度を高めるために用いられています。
●5G11
5Gは「第5世代移動通信システム」と呼ばれる新しい通信技術です。このテクノロジーにより、高速かつ大容量の通信を低遅延で実現できるようになります。大量のデータを瞬時に送受信できるため、現実空間のデータをリアルタイムで仮想空間へ反映させる必要があるデジタルツインにおいても重要です。
●AR・VR12
ARとは「Augmented Reality(=拡張現実)」を略した用語で、現実空間に仮想空間を重ね合わせて拡張する技術です。一方で、VRは「Virtual Reality(=仮想現実)」を指し、仮想空間を疑似体験する技術となっています。デジタルツインの仮想空間は、これらの技術によってリアルに再現されています。
9 https://www.cybernet.co.jp/ansys/product/cae/
https://comm.rakuten.co.jp/media/iot/002.html
10 https://www.nttdata.com/jp/ja/services/data-and-intelligence/001/
https://aidiot.jp/media/adt/ai_study/
11 https://www.docomo.ne.jp/special_contents/5g/what5g/
12 https://www.canon-its.co.jp/solution/mr/vr-ar-mr/
https://www.nttbiz.com/solution/vss/column/2022/09/1812.html
国内外では、デジタルツインを街づくりへ活用する新たな動きがすでに始まっています。最後に、デジタルツインの導入事例をご紹介します。デジタルツインによって社会にもたらされる可能性に注目してみましょう。
●複数のデジタルツインを掛け合わせて未来を予測する実証実験「街づくりDTC ®」13
NTTグループでは、未来の街づくりへ向けて2021年2月から「街づくりDTC®(デジタルツインコンピューティング)」のデジタル基盤の開発・実証実験を行っています。複数のデジタルツインを掛け合わせたシミュレーションによって、現実世界へのフィードバックを行い、多様な価値を提供できる街づくりに取り組んでいます。
例えば、次世代型オフィス「アーバンネット名古屋ネクスタビル」の事例では、最適空調の実証実験が行われました。デジタルツインコンピューティングを活用し、AIによってビルの空調を最適化する制御システムを運用。当日の気温やビルの混雑度に応じて空調をコントロールすることで、快適な空調設定と省エネ化を実現したのです。従来の建物の「ビルに人が合わせる」状態から、「ビルが人に合わせる」状態へと進化を遂げています。
合わせて読みたい:
スマートビルからはじめる都市アップデート
●ヘルシンキの都市計画「カラサタマ・デジタルツイン・プロジェクト」14
フィンランドの首都ヘルシンキでは、観光DXの実現を目指して、2011年からパブリックデータの利活用が始まっています。ヘルシンキ市が収集・管理するデータは、プラットフォーム「ヘルシンキ・リージョン・インフォシェア(HRI)」で一般公開されています。誰でも自由にデータにアクセスし、原則無料で利用することが可能です。官主導の「カラサタマ・デジタルツイン・プロジェクト」では、これらの一般公開のデータを活用し、市内のカラサタマ地区をデジタルツイン化することで都市開発プロセスを最適化しています。
こちらのプロジェクトでは、デジタルツインの技術を用いて仮想空間上にカラサタマ地区の3D都市モデルを構築し、ビューアの作成および公開、オープンデータ化が行われました。これにより、仮想空間で建物の設計やテスト、建設などを実施できる状態となっています。例えば、建物の建設による風向・日照時間・日陰などのデータを可視化でき、未来型の都市計画に役立てられると期待されています。
合わせて読みたい:
データ利活用で“顧客体験”を最適化―海外での観光、スポーツ、モビリティ分野の最新動向
13 https://www.ntt-us.com/waga-machi-mirai/dtc/index.html
https://www.ntt-us.com/waga-machi-mirai/dtc-exper/index.html
14 https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/docs/roadmap/roadmap_slides.pdf
ここまで、デジタルツインの基礎知識や、活用するメリット、成功事例までご紹介しました。デジタルツインの活用によって、製造プロセスの品質向上・コスト削減・リスク低減といったメリットが期待できます。また、デジタルツインを街づくりなどの分野へ取り入れることで、従来の社会の課題を解決できる可能性もあるでしょう。今回ご紹介した導入事例では、デジタルツインをはじめとした先端技術を生かして現実空間に新たな価値がもたらされています。これまでにないビジネスアイデアを実現するために、デジタルツインの活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
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