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vol. 09

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デジタルツインの先へ、ダッソー・システムズが拓く都市と産業の新たな未来

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日本と似た少資源国は、どのようなエネルギー政策を進め、そのためにどんなデータ活用がなされているのでしょうか。フランスに本社を置き、グローバルに事業を展開する3Dソフトウェア企業のダッソー・システムズが手がける事例からひも解きます。ダッソー・システムズ日本法人代表のフィリップ・ゴドブ氏と、自動車・輸送機械・モビリティ業界アジア担当のギヨーム・ジェロンドー氏に伺いました。

持続可能な都市開発を実現する「バーチャルツイン」

自動車産業や航空機産業などに多くの顧客を抱える、フランスのダッソー・システムズ。近年ではシンガポール政府とともに「バーチャル・シンガポール」のプロジェクトを進めたほか、フランス西部のレンヌ都市圏でも同様の事例が進んでいます。

以前より3Dソフトウェアを提供してきたルノーグループに対しては、世界2万人以上の社員間でデータ共有するためのシステム「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を新たに供給しました。

——データの利活用は、気候変動などの問題や将来のエネルギー危機に対して、どのような可能性を持つのでしょうか。

ゴドブ氏:気候変動やエネルギー問題に対応するためにモビリティが進化することで、新しいサービスも生まれてくるのではないかと考えています。自動車メーカーの立場も大きく変化するはずです。そこから新たな雇用や市場が展開されることも期待しています。

さらに、震災や津波などの自然災害が、環境や経済に与える被害やコストなどのシミュレーションも可能になるので、防災対策にも貢献できます。

フィリップ・ゴドブ|ダッソー・システムズ日本法人代表
ダッソー・システムズに入社後20 年以上、技術、コンサルティング、北米営業統括などを歴任し、航空宇宙や自動車などさまざまなグローバル顧客のビジネスを支援。現在は日本法人代表として同社が展開する製造、インフラ、ライフサイエンスの各事業領域での市場変革を目指す。

——世界の主要国がカーボンニュートラル達成に向けて進むなか、温室効果ガスの排出量を把握できる「スマートシティ」構想の導入が不可欠になってきたともいわれます。ダッソー・システムズが手がける「スマートシティ」構想についてお聞かせください。

ジェロンドー氏:私たちの「スマートシティ」構想は、これまで縦割りで動いてきた都市計画に関わる人々が協働できる仕組みです。建築設計、学校の改修、インフラの敷設など、それぞれのプロジェクトを担う部署だけでなく、都市計画に携わるすべての人が関わるものです。

さらに、ダッソー・システムズでは「デジタルツイン」を超えた「バーチャルツイン」を構築する次元に向かっています。これは、単なる都市の可視化ではありません。都市の物理的な情報に加え、エネルギーの生成量や消費量、空気中の成分、樹木の成長、日照条件や建築の北側斜線などの固有データを搭載した「バーチャルツイン」を介して、都市そのものをデジタル上に再現します。建物内部についても、方位や開口部の向き、大きさ、空気の流動性などの情報から、室内におけるエネルギー消費のシミュレーションも可能です。環境に与える影響をプロジェクトに関わるメンバー全員で把握しながら、協働できるのです。

ギヨーム・ジェロンドー|ダッソー・システムズ 自動車・輸送機械・モビリティ業界アジア担当
ダッソー・システムズのアジア地域における自動車・輸送機械・モビリティ業界担当 バイス・プレジデント。デジタル・ビジネスの変革やスマートモビリティと都市の未来戦略に精通。前職では国内外の大手の自動車企業や国際的コンサルティング企業にて戦略立案や地域統括を歴任。

——つまり、プロジェクトの構想段階から、エネルギー消費の指標を定めた設計を考案できるのですね。

ジェロンドー氏:そうですね。建築のデジタルデータすべてを網羅するBIM※を導入した場合、すでに用意されている都市環境のデータとスムーズに連携することができます。「バーチャル・シンガポール」では、建築の立地や日照条件、隣接する建築による日陰の影響などをシミュレーションした上で、太陽光発電パネルの有効な設置場所を定めていきました。
※BIM:建築や土木構造のライフサイクルにおけるデータを構築管理するための工程で、2次元のリアルタイムでモデリングソフトウェアを使用して設計、建設および維持管理の生産性の向上を図る。

——2017年には、フランス・レンヌ都市圏における都市開発プロジェクトに、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCEプラットフォーム」が採用されました。どのような成果がカーボンニュートラルの観点から得られているのでしょうか。

ジェロンドー氏:レンヌ市では、中央駅前の広場や建築物の設計を協議する際に、道路や橋などのインフラ、交通手段、上下水道、エネルギー消費など、各要素のインパクトを把握し、異なる部署がリアルタイムで同じデータを共有しています。それによって、あらゆるシナリオを介して最良のアイデアを短期間で選択することができます。

例えば、共同住宅のエネルギー消費を節約するためのシナリオを策定したことで、省エネ投資に優先順位をつけることができた例もあります。

さらに、地下鉄を開通させるにあたり、時間軸のデータを「バーチャルツイン」上で走らせ、人々の流動性、移動手段や移動時間などを観測するなど、公共交通機関への活用も考えています。将来的に発展していくエリアを結ぶ路線網も視野に入れて複数のシナリオでCO2排出量を予測し、カーボンニュートラルを踏まえた新たな都市開発にもつなげていけると思っています。

フランス・レンヌ都市圏では「3DEXPERIENCEプラットフォーム」(写真)を利用して都市開発プロジェクトが進む。

モビリティにおいて持続可能性を実現するには

——ルノーグループに対して、世界2万人以上の社員間でデータ共有するためのシステム「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を提供し、“車両開発期間の短縮”と“ライフサイクルアセスメント”により開発および製造過程で排出される温室効果ガスの削減を実現しました。自動車業界との連携から見えてくる兆しには、どういったものがあるのでしょうか。

ジェロンドー氏:ほとんどの自動車メーカーで、当社のソフトウェアが何らかの形で貢献しています。そこから見えるのは、モビリティの発展が著しくなる未来像です。無人運転車のミーティングスペース、無人の移動型店舗のような新しいサービスが登場することでしょう。そのような未来では、電気自動車のパフォーマンスも向上して、ますます軽量化し、クリーン・モビリティが活用されていくと思います。

そして、モビリティに関連する商業、交通、エネルギーなどが業界を超えて協働しながら、カーボンニュートラルという目標に向かっています。温室効果ガスの排出を削減するにはサイロ化された手段ではなく、業界横断で新しいアイデアを創出することが必要です。そうした異分野を自由に行き来できるのがバーチャルツインであり、人間の想像力を無限に引き出すのではないかと思います。

——ルノーグループほか5社と設立した「ソフトウェア・リパブリック」※というアライアンスは、どのような目的で生まれたのでしょうか。そのなかでダッソー・システムズが担う役割はどんなものでしょうか。
ソフトウェア・リパブリックは、Atos、Dassault Systèmes、Groupe Renault、 STMicroelectronics、Thalesの5社によって創設された。その後 Orangeが加わっている。

ジェロンドー氏:都市における公共空間の半分は、自動車用の道路空間が占めています。将来的には人間を中心に据えて設計された、快適で経済的かつ環境を思いやるモビリティが必要になります。これからの自動車産業のイノベーションは、ハードではなくソフトウェアにあります。今日までの自動車エンジニアは、明日のソフトウェアエンジニアなのです。こうした変化は、自動車に関係する産業や企業のすべてに広がっていくと思います。

そこで、私たちは欧州発のエコシステム「ソフトウェア・リパブリック」を設立しました。このエコシステムは、モビリティシステムの創造や発展を促すもので、「モビリティシステム」「エネルギー管理」「コネクテッドカー」の3部門を軸にしています。公的機関、大学や研究所、投資企業、民間企業など、さまざまな人々が参画できるようなエコシステムであり、世界に向けて開かれたものです。

技術や解決策を研究することだけが目的ではありません。具体的なビジネスを創出し、そのエコシステムを発展させ、経済を活性化させていくことを目指しています。将来的には設立メンバー社以外の企業ともパートナーシップを組んでいくことも視野に入れており、3部門におけるプロジェクトベースでのインキュベーションも可能です。

——ソフトウェア・リパブリックは、カーボンニュートラルの実現にどのような役割を果たすのでしょうか。

ジェロンドー氏:ソフトウェア・リパブリックはカーボンニュートラル社会の実現に向けたインキュベーター役となっており、このたびモビリティ用バッテリーチャージャーのシェアに取り組む企業、都市におけるインフラを診断して最適化を担う企業、モビリティの位置情報を提供するシステム企業などを選出しました。これらスタートアップ5社に対してデータの開示を行うほか、さまざまな分野のエキスパートたちと結んでコーチングを受けられる制度を発足したばかりです。

ソフトウェア・リパブリックの設立記者発表の様子

デジタルの力で企業のイノベーションを導く

——持続的な開発・成長という観点で、あらためて今後デジタルで実現する未来について教えてください。

ジェロンドー氏:まず、モビリティという観点でお話しします。都市においては、インフラ、公共交通機関、電気自動車の充電、駐車場など、たくさんの考慮すべき要素があります。クリーンエネルギーや静かで快適なモビリティ、とりわけ交通の安全に関しては、社会問題として真剣に取り組んでいます。

自動車業界においては、バーチャルツインのおかげで、開発者やエンジニア、設計者たちが、原材料の調達情報、生産プロセス、利用、メンテナンスやアフターセールス、リサイクルといったバリューチェーン全体におけるデータをリアルタイムで知ることができます。

それにより、開発・生産の検討段階で、各自がバリューチェーンへの影響、素材の持続開発性やリサイクル方法、CO2排出削減目標の達成可否まで検証しながら、導入を決定することができるのです。

ゴドブ氏:私たちが見据える将来は、人間を中心に捉えたバーチャルツインです。

その未来に向けて、「スマートシティとインフラ」と「マニュファクチュアリングとエコシステムバリュー」、そして「ライフサイエンスとヘルスケア」という3つのテーマを掲げています。異なる活動分野でありながらも共通しているのは、日々の実験や検証結果にもとづいた「バーチャルツイン」などのシミュレーションデータが最良最善な判断を可能にし、デジタルの力で企業のイノベーションを導き出していくことです。ライフサイエンスを例に挙げると、新型コロナの登場に伴い、2020年2月までの時点で世界の製薬会社により500件以上の臨床試験が進められましたが、その約6割が当社の統合プラットフォームを利用してバーチャル臨床試験を行いました。シミュレーションやデータ共有と連携が、新しいワクチンを世に出すための期間短縮につながっています。

ジェロンドー氏:膨大なデータを有効活用して、いかにイノベーションを創出できるか。さらにAIによって、最適な未来を予測することができます。

昔は新しい素材を開発するにはプロトタイプが不可欠でしたが、AIを利用すれば自動車のバッテリー構成素材を膨大な数の組み合わせから、持続性や耐久性などの観点で最適な素材を選定し、オンタイムで検証できます。

——デジタルがより人間に近い距離で、私たちの生活を快適にしてくれることが伝わってきます。

ゴドブ氏:現在はまだ「バーチャルツイン」が社会のすべてに導入できる状況ではありませんが、中長期的な将来を見据えて的確な判断をしていくために必要不可欠なツールとなることは確かです。

カーボンニュートラルに関しては、世界各国が達成を目指す2050年よりも早く具体的な結果を出していけるはずだと前向きなビジョンを持っています。(取材・文:浦田 薫)

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