Partnership with Robots

2023.04.12(Wed)

人の見えないところで活躍するロボティクス最新事例
ビジネス・産業編

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製造業のみならず、あらゆるビジネスの現場に導入が進められているロボット。人の作業を代替してくれるものや、人の作業をサポートしてくれるもの、人ができない作業を担ってくれるものなどその活躍領域は多種多様です。今回は、水道インフラ保守や建設など、私たち生活者が普段目にすることのない“裏側”の現場で活躍し、社会課題の解決へとつながるロボティクスの最新事例をご紹介します。

目次


    修繕箇所をピンポイントで特定。 水道インフラ保守に革新をもたらす自律型メンテナンスロボット

    水道管の中を自らはい回り、その状態を検査して劣化の可能性のある箇所を報告してくれる自律型ロボットをご存じでしょうか。全米最大級のテックイベント「CES2023」でも3つのイノベーションアワードを受賞した、フランスのACWA Roboticsが製造している「Clean Water Pathfinder」は、断水することなく配水管内を自律的に状態検査することを可能にしたロボットです。

    配水管は数十年前に整備された古いものがあったり、迷路のように複雑に入り組んでいたりしますが、そんな中でもPathfinderは自力で動き回り、立ち往生してしまいそうになればその危険性を察知して引き返すようにプログラムもされています。そして高解像度の撮影機能も駆使しながら、配管を破損することなくその厚さや状態を調べて修繕必要箇所を感知し、ピンポイントに知らせてくれるのです。

    ACWA Roboticsによれば、世界の水道事業者はその供給網の状態の悪さやノウハウ不足によって、毎年32億㎥ものきれいな水を失ってしまっているそうです。国連の発表でも、淡水資源の不足は2030年までに必要量の40%に到達するとされており、水道インフラの整備向上はまさに喫緊の世界共通課題。

    こうした点検ロボットが普及すれば、水道管の交換必要箇所を正確に特定することができるようになります。水道会社はメンテナンス費用を抑えられるだけでなく、世界的な淡水資源不足への対策効果も見込めるでしょう。

    デジタルツインでヒトもロボットも“進化”する。 ロボットとの新しい協働ワークスタイル

    提供:産総研(トヨタ自動車(株)協力)

    作業者の負担を軽減して生産性を向上させてくれる協働ロボットも、デジタルツインでの遠隔管理によって最適化が進められています。産業技術総合研究所は、デジタルツインを活用して作業者とロボットの作業状態をリアルタイムで計測し、人とロボットそれぞれの得手・不得手作業を効率的に割り当てることができる「半自動化」システムを開発しました。

    ロボットは人が負担に感じるような作業もいとわない高い生産力を備える一方で、柔軟物を扱うといった器用さを求められる作業が苦手です。また、多くのセンサーを要することでコストがかさむなど導入のハードルが高いのも事実。そこで開発された本「半自動化」システムは、デジタルツイン上の力学的解析によって作業者の身体負荷を推定。ロボットとの安全な距離を維持しながら、身体負荷の高い作業はロボットに、ロボットの苦手な作業は作業者に指示することで、作業者のスキルや身体的差異に合わせた効率的なロボット協働が見込めます。

    このシステムの実証実験は、実際の部品供給作業を再現できるトヨタ自動車の模擬生産工場にて実施。生産性の10〜15%の向上や、作業者の肩や腰にかかる身体負荷の約10%の軽減といった成果が2023年1月に報告されました。

    生産年齢人口の減少が急速に進む日本において、労働力不足の対策効果が期待される本システム。協働ロボットとデジタルツイン技術が掛け合わされて実現する、新たな労働モデルに注目が集まっています。

    人手不足解消だけでなく新しい雇用創出も? 建設現場にも遠隔操作ロボットが登場

    人の作業を代替してくれるロボットの遠隔操作の実現によって、建設現場における人手不足の解消が見込まれているケースをご紹介します。NTT西日本と建ロボテック(香川県三木町)は、格子状に組んだ鉄筋の交差部分を結束してくれるロボット「トモロボ」の遠隔操作実証実験を2022年9月から2023年3月にかけて実施しました。

    建設業界では人手不足が深刻化しており、2030年には約130万人の建設労働者不足が生じるといわれています。この遠隔操作実証実験では、建設業務やロボット操作に慣れていない人でも簡単に操作できるかどうかが念頭に置かれており、建設現場の負荷軽減のみならず、新しいリモートワーカーの雇用創出の可能性も開かれていくかもしれません。

    この遠隔操作において重要になってくる仕組みが、ロボット操作に必要な現場映像の伝送技術、そしてロボットを動かす演算処理をクラウド上で実行する「クラウドロボティクス」です。このクラウドロボティクス基盤や、その基盤を機能させるネットワーク環境の構築をNTT西日本が、トモロボの遠隔操作に対応する改造およびわかりやすい操作UIや実証環境のセットアップを建ロボテックがそれぞれ担当。

    これまでは走行するレーンや方向を作業員が手動で操作していましたが、遠隔操作が実現することでそうした手間も解消され、専門外の人でもトモロボを操作できるようになります。また、クラウドロボティクス基盤上に蓄積されるロボットの作業結果、稼働状況、エラーデータなどの解析により、さらなる生産性の向上も見据えられています。

    建設作業員と遠隔操作ロボット協働の先に、人とロボットが共存し、さらに誰もがどこからでも働けるようなSmart Worldの実現が期待されています。

    ロボットと人が共存する世界はすぐそこに

    世界的な資源不足や、日本において顕著な人口減少に伴う労働力不足など、さまざまな社会課題の解決に向けて、日々新しいデジタルテクノロジーやロボットが登場しています。今回は、今後ビジネスや産業の現場で活躍が見込まれる、3つの協働ロボットについてご紹介しました。次回のライフスタイル編では、介護や日常活動など、生活者の観点からも注目を集める新しいサービスロボット・AIについてご紹介します。