Food Innovation

2021.10.20(Wed)

フードテックとは?注目される背景や参入領域、解決が期待される問題

#サステナブル #Foodtech
フードテックは、「Food」と「Technology」を合わせた言葉です。最新テクノロジーを活用するフードテックの導入は、食に関する社会課題の解決にもつながると期待されています。現在では、食糧生産や流通、外食産業など、さまざまな領域でフードテックが導入・活用されています。今後ますますの発展が期待されているフードテックビジネスへの参入を検討している企業も多いでしょう。今回は、フードテックの意味や注目されている理由、解決が期待される問題、参入領域などをご紹介します。

目次


    フードテックの定義

    まずは、フードテックの言葉の意味を確かめておきましょう。こちらでは、フードテックの定義を解説します。

    フードテック(FoodTech)とは、「Food」と「Technology」を組み合わせた言葉です。一般的に、AIやIoTなど最先端のテクノロジーを駆使して食に関する問題を解決し、食の可能性を大きく広げていく技術のことを指します。

    現在は、外食産業、農業、食品開発、流通など、食に関するさまざまな分野でフードテックの導入が行われています。食にまつわる問題を解決に導くものとして、フードテックの発展が期待されています。

    フードテックが注目されている主な背景

    フードテックは幅広い層から関心を寄せられています。こちらでは、フードテックが注目を集めている背景について解説します。

    ●世界の飲食料市場の規模拡大
    農林水産政策研究所が2019年に発表したデータによると、世界34カ国の飲食料の市場規模は、今後も拡大していくと予想されています。2015年の890兆円から、2030年には1,360兆円と約1.5倍になる見込みです。特に、アジアでは市場規模が約1.9倍になると予測されています。飲食料市場の規模自体が大きいことに加え、今後の成長も見込めるため、ベンチャーに加えて、ベンチャーと組む大企業も参入するフードテックビジネスへの注目が集まりやすくなっていると言えます。

    出典:「世界の飲食料市場規模の推計」(農林水産政策研究所)

    ●SDGsとの深い関わり
    SDGsとは2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」のことです。SDGsの目標にある「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などは、フードテックによって解決につながると期待されています。

    また、SDGsに配慮した事業を展開する企業に注目する投資家や消費者も見られます。フードテックを取り入れることが企業イメージ向上につながるでしょう。

    ●政府によるフードテック推進の動き
    2020年、農林水産省が「フードテック官民協議会」を立ち上げました。国内の食に関するさまざまな技術基盤を確保し、新興技術の活用による農林水産業・食関連産業の発展や、食糧安全保障の強化などを進めることが目的とされます。日本政府によるフードテック推進のトレンドも、注目を集める理由の一つと言えます。

    フードテックによって解決が期待される主な問題*1

    フードテックは世界の食糧問題から個人宅の食品廃棄まで、多彩な問題を解決できると考えられています。こちらでは、フードテックによって解決できると期待されている問題をご紹介します。

    ●食糧不足・飢餓
    現在、世界的に人口が増加傾向にあります。人口増加により、限られた資源の枯渇や環境破壊、雇用の不足など、さまざまな問題が起こると考えられています。なかでも、注目を集めているのが食糧不足や飢餓の問題です。食糧危機を脱するためには、効率的かつ安定して多くの農産物を育てられる技術が必要とされており、フードテックによって、こうした問題を解決できると期待されています。

    たとえば、AIを搭載した機械によって農場管理を省力化する技術があります。この技術を駆使することで生産の効率が高まり、現在よりも多くの食糧を生産することが可能です。ほかには、気候の影響を受けにくい工場内で農作物を生産する技術も食糧不足の解消を助けると考えられています。

    また、飢餓問題は貧困が大きな原因と言えます。貧困状態の地域では食材を購入しにくく、食品を保存するための設備が整っていないといった問題があるためです。フードテックにより、安価で購入できる栄養豊富な食糧や、長期保存可能なシステムなどの開発が望まれています。

    ●フードロス
    フードロス(食品ロス)とは、本来は食べられるものの、廃棄されてしまう食品のことです。飲食店や小売店、家庭などからのフードロスが問題になっています。フードロスをなくすためには、無駄な食材を買わない、製造しないといった取り組みが必要です。ただ、現状では多くの食品廃棄物が出ています。消費者一人ひとりが意識することはもちろんですが、食品を提供する事業者側にもフードロスを抑制する取り組みが求められています。

    現在は、フードロス改善のために、飲食店や小売店などで消費期限・賞味期限が近くなった売れ残りの食品を安価で販売するサービスが登場しています。カメラで食材を自動認識し、食材を使い切れるようなレシピを提案する機能を搭載した冷蔵庫も開発されています。こういったフードテックの活用が広がることで、食品の廃棄を徐々に減らすことができるでしょう。

    また、世界には飢餓問題に悩まされる地域がある一方で、上記のように食糧が余り、フードロスが問題になっている地域もあります。アンバランスな状態を改善し、世界規模で食糧均衡を保てるようなフードテックの登場が期待されています。

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    ●食の安全性に関する問題
    食品は、生産・流通・販売などの過程を経て消費者に届きますが、いずれかのプロセスで問題が生じ、異物混入や食中毒などにつながるケースがあります。そのため、食の安全性に強い関心を持つ消費者も少なくありません。また、一度でも食の問題が起こってしまうと、食品を提供した会社の信頼失墜による損害が生じ、さらに風評被害へ発展するケースもあります。問題の影響が大きくなると、経営が立ち行かなくなる可能性も考えられるでしょう。事業を続けていくためにも、安全性を担保しながら消費者へ届けるためのフードテックが求められています。

    たとえば、食品工場での製造段階で食品の腐敗や異物混入などをチェックするテクノロジーを活用することで、消費者に不良品が届くことを防げます。傷みにくい食材や、長く新鮮な状態を保つ容器を使うことで、さらに安全性を高めることも可能です。

    ●労働力不足
    少子高齢化によって、幅広い業界で人材不足の問題が生じています。食に関する分野でも同様に、農業・漁業・酪農などの生産者や、食品加工・流通、外食産業の従業員などの労働力不足が深刻化しています。フードテックによって、少人数でも十分に運用できる仕組みがあれば、労働力不足による問題も解消できるでしょう。

    たとえば、農作業ロボットの導入による自動化で、少人数で大量の農作物を生産できるようになることが挙げられます。飲食店がAIによる無駄の少ない人員配置を実現すれば、人手不足の解消につながるでしょう。

    ●多様な食習慣に関する問題
    宗教上や健康上の理由で避ける食材があるなど、食習慣は人によって異なります。多様なニーズを満たすために、新しい食品の開発も期待されています。

    たとえば、ベジタリアンやヴィーガンなどは、食べられる食材が限られるため、たんぱく質が不足しやすいことが懸念です。栄養不足の問題を改善するため、動物由来の成分を使わずにたんぱく質を摂取できるリーズナブルな代替肉などの開発や普及が求められています。

    また、ダイエット中の人からは、カロリーを抑えながら栄養バランスが偏らないように食べたいというニーズがよく見られます。この需要を満たすため、機能性食品や健康食品などの開発も進められています。

    ●環境に関する問題
    フードテックは、環境負荷を軽減することにも役立つと期待されています。たとえば、フードテックによってフードロス削減が実現できれば、廃棄の際に発生する温室効果ガスの削減につながります。

    また、大豆などで作られた代替肉が環境保全につながるとも言われています。実は家畜の飼育は、森林破壊や水質汚染など、さまざまな環境問題を招くとされており、代替肉によって飼育する頭数を減らすことができれば、環境にかける負担を少なくできるでしょう。肉だけではなく、代替魚の普及を進めることも重要と言われています。代替魚の広がりで漁獲量を減らすことができれば、乱獲による絶滅を防げるのです。サステナブルな漁業のためにもフードテックが望まれています。

    *1-1 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38696
    *1-2 https://www.asahi.com/sdgs/article/14807307
    *1-3 https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102182

    フードテックを導入・活用できる主な領域*2

    フードテックは食に関する幅広い領域で導入されています。こちらでは、フードテックを導入・活用できる主な領域についてご紹介します。

    ●食糧生産
    農業や漁業など、食糧の生産現場でフードテックが取り入れられています。特に、農業生産にIoTなどのテクノロジーを導入することは「スマート農業」や「アグリテック(AgriTech)」などと呼ばれます。

    実際に、AIとセンサーで温度・湿度の管理を自動化したり、トラクターの自動運転を行ったりと、農業のさまざまな場面でテクノロジーが活かされています。農業従事者の負担軽減や効率化、農作物の品質向上といった目的で導入が進められています。

    植物工場にて安定した生育環境のなかで、野菜などを栽培する例もあります。一般的な露地栽培では気温の変動や降雪など、自然の影響によって収穫量が左右されてしまうことが課題です。工場での生産が可能となれば、予測できない自然災害による収穫量の減少を避けることができ、常に安定した量の収穫を目指せます。加えて、工場での生産はマニュアル化しやすい点もメリットです。経験の少ない人であっても生産に携わりやすいため、新規参入のハードルも下げられます。結果として、人材不足の解消にもつながるでしょう。

    漁業においては「陸上養殖」が注目を集めています。陸上養殖とは海や湖などの自然環境を利用せず、陸上の人工的な環境のなかで養殖する方法です。飼育管理しやすいため生産性の向上につながるほか、輸送費や人件費といったコスト削減を実現することができます。養殖の方法によっては海洋汚染などの環境負荷も軽減できます。

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    ●調理技術
    調理に関する領域でもフードテックが導入されています。主な例はフードロボットの導入による調理・盛り付け・配膳の自動化などです。飲食店や食品製造工場が取り入れることで、人手不足の解消や業務の効率化につなげられます。

    また、家庭用の調理家電にも、スマートフォンとの連携機能や自動調理機能などが搭載されています。たとえば、冷蔵庫とスマホを連携して在庫管理できる機能が登場しています。日々活用することでデータが蓄積されるため、食材消費のペースをつかむことも可能です。自分の消費ペースに合わせて計画的に食材を買えるようになり、食品廃棄を減らすことができます。

    自動調理機能を搭載した家電なら日々の料理を効率化できるため、仕事や家事、育児などに追われる人のニーズを満たすことができます。個人の料理スキルを問わず、安定して美味しい食事を作れることも魅力です。

    加えて、これまでにない斬新な調理方法の開発が進んでおり、食の可能性が広がっています。代表例が分子ガストロノミーです。食材を分子レベルまで細分化して調理することで、味わった経験のない風味や食感を楽しめるようになりました。

    ●流通・配送
    食品の流通や配送に関する領域の課題も、フードテックによって改善へ導くことができます。たとえば、ICTなどの技術を活用することにより、適切な量の食材を適切なタイミングで届けられるサービスがあります。結果として、フードロス削減になる点もメリットです。

    現在はECサイトで生産者と消費者が直接つながることで、より手軽に新鮮な食材を入手しやすくなっています。特に恩恵を受けやすいのは、少量かつ多品種の食材を仕入れる小規模飲食店など。従来であれば大量の仕入れにしか対応していない卸業者や生産者も見られ、少ない数を注文したい小規模飲食店のニーズを満たすのが難しいケースもありました。生産者とつながれるようになったことで、大量仕入れを行わない飲食店でも必要な食材を必要な分だけ購入しやすくなりました。

    また、スマートフォンなどのアプリを活用したフードデリバリーサービスもフードテックの領域です。登録した配達員が注文者へ料理を届けるサービスでは、飲食店が配達に必要な人員を用意せずに済みます。人材にかかるコストを抑えながら、幅広い顧客へ料理を購入してもらうことが可能です。提供方法の選択肢が広がることは、事業者の売上の増大につながります。

    ●外食・中食
    外食や中食の領域にも、フードテックの技術が活用されます。代表的な例がモバイルオーダーです。飲食店側は注文を取る必要がなかったり、会計の手間を省いたりすることができるため、その分の人件費を削減することができます。顧客にとっては注文や支払いを手軽に済ませられる点がメリットです。また、料金の精算後に調理が開始されるため、キャンセルのリスクを減らし、フードロス削減につなげられる点も魅力と言えます。

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    ●代替食品
    フードテックにより、人工肉や培養肉などの代替食品の開発が進んでいます。人口増大によって肉の供給が追い付かなくなる事態が起こった場合、代替食品が肉の代わりになると期待されています。

    人工肉とは動物性原料を使わず、本物の肉のように作られた食品のこと。主なものに、大豆を原料とした大豆ミート、小麦のグルテンを原料としたグルテンミートなどがあります。植物由来の成分で作られているため、動物性の食材を避けている人も食べることができます。

    培養肉は、動物の細胞を培養して作られた肉のことです。現状、培養肉の開発は途上ですが、これまで食べられていた肉と変わらない味や食感を目指して研究が進められています。実現すれば、家畜の生産による環境負荷の低減や、家畜の感染症拡大防止などが期待できます。

    ●健康食品
    ICTを駆使して、健康状態や体質などに合わせた食品開発も実現できます。現在は一食で多くの栄養素を摂取できる完全食の開発が進んでいます。栄養不足に陥りやすい生活を送っている人も、完全食があれば手軽に栄養バランスを改善できるようになるでしょう。ほかには、アレルギーを持つ人も安心して食べられる食品の開発も進められています。

    また、個人の健康状態や嗜好などに合わせ、適切な調理方法を提案するサービスも登場しています。「手元の食材を無駄なく使い切るレシピを知りたい」「糖質制限しながら美味しく食べられる調理方法を知りたい」といった、個人によって異なる需要に応えることができます。

    *2-1 https://qeee.jp/magazine/articles/9458
    *2-2 https://www.n-culinary.ac.jp/contents/column/foodtech/
    *2-3 https://wisdom.nec.com/ja/article/2019112901/index.html
    *2-4 https://mygreengrowers.com/blog/cultured-meat/
    *2-5 https://socialgood.earth/land-aquaculture/
    *2-6 https://panasonic.jp/reizo/function/stock.html

    フードテックは需要拡大が期待されるビジネス領域

    食はすべての人にとって欠かせないものです。将来的にも飲食料市場の規模は拡大すると考えられています。一方で、いまだに解決されていない食の問題も多く、幅広い領域においてフードテックの導入・活用が求められています。

    最新鋭のテクノロジーを取り入れるフードテックビジネスは、今後も需要が拡大していくと期待されます。食の変化をキャッチし、新たなビジネスに柔軟に対応していく姿勢が求められるでしょう。