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vol. 01

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外食はテクノロジーでどう進化する? 業界のリーダーたちが語るサステナブルな体験価値

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コロナ禍で食の楽しみ方や届け方に大きな変化が起こっています。キーワードは“テクノロジー”と“アンバンドル化”。外食産業のリーダーたちは、この変化の時代をどう見ているのか。ワンダーテーブル 代表取締役社長 秋元巳智雄氏、八芳園 取締役社長 井上義則氏、バルニバービ 執行役員 営業本部 部長 石倉治氏を迎え、OPEN HUB代表の戸松正剛とともにクロストークが展開されました。

本記事は、2022年2月16日に開催されたイベント「ニューノーマル時代を生き残る外食店舗のあり方」におけるセッション「外食産業Update〜食のブランドストーリー(物語)の創り方」の内容をまとめたものです。

テクノロジーを前提にした新しいオペレーションのかたち

戸松正剛(以下、戸松):コロナ禍の影響で、料理の宅配に対応する飲食店が増えました。背景にあるのは、UberEatsや出前館をはじめとした宅配専門事業者の進出です。こうした状況を受けて、店内飲食機能を持たず、デリバリーやテイクアウトに特化した「ゴーストキッチン」も注目を集めています。

私は近年の外食産業における傾向のひとつとして、アンバンドル化(複数の機能を持つ製品やサービスを分割・分離すること)があると思っています。本来はひとつの企業によってワンパッケージで提供されていた外食産業の機能が独立し、それぞれ専門性を高めていっているような印象を受けます。

戸松 正剛|NTTコミュニケーションズ OPEN HUB for Smart World 代表

秋元巳智雄氏(以下、秋元氏):そうですね。サービスマンだったらサービスの提供に、料理人だったらおいしい料理をつくることに専念する。つまりはクリエイティブな仕事をさらに追求することが求められ、私たちも取り組むべき課題だと思っています。

食材の発注や棚卸といった、サービスマンや料理人が専念すべき以外の仕事は、なるべくテクノロジーを使って効率化していかなくてはならないですね。

秋元巳智雄|ワンダーテーブル 代表取締役社長

石倉治氏(以下、石倉氏):バルニバービも、従来は何でも自分たちでやろうとする気風がありました。しかし、近年ではスタッフの負担を軽減する意味でも、本来集中すべきでない仕事に関しては積極的に外に出していくようにしています。

石倉治|バルニバービウィルワークス 執行役員 営業本部 部長

井上義則氏(以下、井上氏):八芳園では、配膳・運搬ロボット「Servi(サービィ)」を導入しています。これは、席案内から注文受付、料理の配膳、会計などをサポートしてくれるロボットです。こうしたモビリティを使ったサービスは、キッチンからテーブル、店から自宅など、さまざまなシチュエーションに対応できるようになってきています。

井上義則|八芳園 取締役社長

戸松:なるほど。テクノロジーを導入する際には、サービスに対するお客様の印象や満足感の変化がひとつ懸念点になりそうですが、そのあたりのケアについてはいかがですか。

秋元氏:モバイルオーダーを導入する店が増えてきていますが、そこにブランドらしさがなければお客様の共感を得ることはできないと思っています。たとえばクラフトビールとフライドチキンといった特定の組み合わせを頼んだ時に「グッドチョイス」という言葉が画面に表示されるといったように。

また、モバイルオーダーを導入していても、スタッフが時折お客様のテーブルを回って直接会話することも大事です。料理に対する感想などをうかがうことで、新たな商品やサービスの開発にもつながります。

井上氏:サービスの設計段階からテクノロジーを組み込んだオペレーションを考えておくことが重要なのではないでしょうか。あとからシステムを導入しようとしても、既存のオペレーションや働く人たちの思いに寄り添いきれない部分があると感じます。

地方と都市をつなぐ外食産業の新しい価値

戸松:従来、都市部をはじめとした人口集中地への出店を重視してきた外食産業ですが、地方との新しい関わり方を模索する動きが活発になってきています。

井上氏:近年八芳園では、多くの自治体と連携協定を結ばせていただいて、地域と協力した産業づくりを行なっています。

先駆けとなったのが、山梨市との取り組みです。山梨市は桃の一大生産地ですが、労働力不足が問題となっています。収穫前に木から落ちた桃でも有効活用できるはずなのに、人手が足りないことでそのまま廃棄され、食品ロスが発生していたのです。そこで、落ちた桃の回収を我々が代行し、加工・販売するフローを構築しました。桃は北海道江別市のピッツェリアへ輸送し、現地の小麦粉を使った「フルーティピッツァ」という新しい商品の開発につながりました。

「フルーティピッツァ」は、山梨市のふるさと納税の返礼品などに採用される予定です。また、地元でもキッチンカーで販売され多くの方に味わっていただき、使われないはずだった食材から消費を生み出す取り組みとして評価していただいています。

秋元氏:食料の生産を担っているのは都心ではなく地方ですから、生産者の高齢化によって生産規模を縮小せざるをえない畜産農家が増えている問題には、我々も向き合わないといけません。

そうした農家を支えるために、育った牛を買うのではなく、これから育てる牛(子牛)を我々が買って農家に生育を依頼する試みを続けてきました。さらに、牛の肉質・味を高めるため、育て方のノウハウ開発も共同で行なっています。和牛は生産力だけでなく、ブランド発信の点でも海外に劣ってしまっています。たとえば海外で育てられた日本固有品種の牛の肉が「Wagyu」という商標で流通していたりします。

農家と外食産業が組むことで、日本の畜産農業のサステナビリティを高め、本物の和牛がより多くの人に親しんでもらえるための仕組みづくりを行っていきたいと考えています。

顧客とスタッフの両方に長期的な価値を

戸松:デジタル化によるオペレーションの改善方法や地方へのコミットの仕方など、三者三様のアプローチが興味深かったです。最後にお聞きしたいのは、そうした取り組みの先になにがあるのか、ということです。その答えのひとつが、より良い顧客体験の追求と思いますが、いかがでしょうか。

井上氏:八芳園は長年お客様の結婚式を支援してきました。我々が根幹に持っているのは、食を通じて忘れがたい瞬間を提供したいという思いなんです。大事なのはお客様に忘れがたい体験を提供するためのプロデュース力です。それは、テクノロジーが導入された環境でも変わらず必要な能力だと思っています。スタッフそれぞれが、個性をいかし特徴のあるプロデューサーとなることで、多様な要素が組み合わさり、お客様にすばらしい体験を提供できるようになると信じています。

石倉氏:体験を提供するスタッフのバックアップが重要という思いは我々も同じです。バルニバービの理念に「食を通してなりたい自分になる」というスローガンがあります。コロナ禍で業界全体が縮小してしまいましたが、このまま「飲食ビジネスで自己実現は無理だよね」とならないよう、飲食業界自体の価値や意味を高めていかなくてはいけないと思うのです。そのために、現場のスタッフが誇りを持って働くことができて、挑戦できる環境を生み出していきたいと思っています。

秋元氏:短期的な利益を求めるのではなく、顧客に対して人生を通じた価値提供を行なう「ライフタイムバリュー」という概念が広まりつつあります。何度も繰り返しご利用いただける飲食業というのは、そうした長期的な価値提供を意識して、事業が長く続くための店づくり、人づくり、仕組みづくりを行うことが重要ではないでしょうか。

例えば、ワンダーテーブルのとある店舗には、年間で200回も足を運んでくださるお客様がいらっしゃいます。そうしたお客様に対して、その店舗だけに来ていただくのではなく、我々のほかのブランドへも足を運んでもらえるような情報提供を行うことも大事だと思うのです。

持続的な経営のためには、お客様の人生において一度きりではなく何度も足を運んでいただけるような顧客体験を提供する「ライフタイムバリュー」を生み出すことが必要だと考えています。そのためには、特定店舗の優秀なスタッフに依存して店のファンを増やすのではなく、テクノロジーによる情報活用を駆使してノウハウを平準化し、ワンダーテーブル自体のファンをつくっていくことが大切です。そうすれば、カップルで来ていた人たちがいつかお子さんと、いつか親子三代で来ていただける。家族や仲間をつなぐコミュニティスペースとしての価値提供を行なっていければいいなと思っています。

戸松:新たな顧客体験を提供するテクノロジーが続々と登場していますが、導入のハードルが下がり、効果が見込めるからこそ、気を付けなくてはいけないのは業界のコモディティ化です。新たなテクノロジーをいかしながら唯一無二のプレミアムな体験を守り、生み出し続けることがこれからの外食産業の課題かもしれませんね。

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