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2023.10.25(Wed)

ロボティクスについて知っておくべき5つのこと。定義や歴史、トレンドを解説

#イノベーション #AI
コロナ禍をきっかけに、人と人との接触を減らすソリューションへのニーズが急速に高まり、最近はさまざまな場所でロボットが活躍している様子を目にするようになりました。例えば、飲食店でロボットによる配膳サービスを受けたことがある方も多いのではないでしょうか。今後もさらなる発展が期待されるロボティクス(ロボット工学)。本記事では、ビジネスに応用できるロボティクスに関する基礎知識と、直近のトレンドについて解説します。

本記事は、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門の吉田賢哉氏の監修のもとに作成しています。

目次


    1.ロボットとは何か

    古くから小説や漫画、アニメ作品の中で繰り返し描かれてきたことで、多くの人にとってある程度馴染みのあるロボットという概念ですが、その産業における定義は、技術の発展とともに少しずつ変化しています。

    近年のロボティクスやAI産業におけるロボットの概念のベースになっているのは、経済産業省が2006年に発表した「ロボット政策研究会報告書」における定義です。この資料においてロボットは「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義されています。

    より詳しく言えば、基本的なロボットとは、センサーで周囲の状況を認識し、知能・制御系で状況に応じて取るべき行動などについて思考・判断し、駆動系で判断にもとづいて実際に行動する機械システム、ということになります。

    また特許庁においても、ロボットについて何度か定義づけの更新が試みられています。

    まず、2001年度の資料では、ロボットについて、「マニピュレーション(=周囲の対象物を操作して位置や姿勢を変える)機能を有する機械」あるいは「移動機能を持ち、自ら外部情報を取得し、自己の行動を決定する機能を有する機械」という2つの定義がなされました。

    1つめの定義は、工場の生産ラインなどで用いられる、いわゆる「産業用ロボット」のことを指しています。アームを用いて、物をつかんで回転させたり、何らかの加工を施したりするような機械装置です。

    2つめの定義は、ロボット政策研究会報告書の定義と類似しており、分類としては「サービスロボット」と呼ばれるロボットを指しています。典型的なものとして、飲食店や病院・介護施設に導入されている、食事やタオルを搬送するロボットがこれにあたります。それ以外にも、建物内を巡回して異常がないかを確認する警備ロボットや清掃ロボットなど、近年さまざまなサービスロボットが登場しています。

    そして、2006年度の資料では、上記2つの定義に加えて、「コミュニケーション機能を持ち、自ら外部情報を取得して自己の行動を決定し行動する機能を有する機械」という3つめの定義が追加され、必ずしも移動やマニピュレーションなどの機能を保持していなくても、ロボットとして認められるようになりました。

    例えば、人型や動物型、クッション型の形状で、会話や「なでる」などの接触に反応してコミュニケーションをとることのできるロボットが、この3つめの定義に含まれます。こうしたロボットは「コミュニケーションロボット」と呼ばれ、家庭での利用に加えて、病院や介護施設での活用が期待されています。

    株式会社リビングロボット(福島県伊達市)が藤田医科大学との共同研究によって実証実験を進めている「見守りウィーゴ」はその一例と言えます。利用者のウェルネスに貢献するさまざまな機能を備えた小型二足歩行コミュニケーションロボットである見守りウィーゴは、利用者のスケジュールを管理してくれる声かけ機能や、一緒に音楽を楽しむことでもたらされる生理的・心理的・社会的な効果から心身の健康の回復、向上をはかる音楽療法機能のほかに、一緒に体操をしたり、音楽に合わせてダンスをしたりすることも可能。愛嬌(あいきょう)のあるコミュニケーションによって、持ち主のウェルビーイングをサポートします。

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    これら既存の定義に当てはまらない新たなロボットもどんどん生まれています。一例を挙げると、身体に装着することで人間の力仕事をサポートするような装置は「サポートロボット」と呼ばれ、近年注目を集めています。

    サポートロボットの一例としては、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏が総括を務める「稲見自在化身体プロジェクト」の「自在肢※」があります。人間がロボットやAIなどと“人機一体”となることを目指す自在肢は、6つのターミナルを持つベースユニットと、着脱式ロボットアームからなるウェアラブルシステム。女性の身体側部から伸びる自在肢は、女性の身体の一部のように、時にはもうひとりのパートナーのように動きます。

    自在肢
    東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野 稲見・門内研究室と東京大学生産技術研究所機械・生体系部門 山中俊治研究室による共同研究

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    また、定義に従えば自動運転車やドローンもロボットの一種と捉えることができます。自動車をロボットと呼ぶことに違和感を覚える人も少なくないでしょう。ロボットに関する技術や製品が日々進歩している中で、その定義は拡張・変化し続けており、ロボットやAIと、他の機械・装置や技術との境界は、非常に曖昧になっているのです。

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    NTT e-Drone Technology「AC101」
    畑を飛行しながら全体の画像を撮影、AIで解析し、必要なエリアにピンポイントで除草剤を散布する農業用ドローン

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    2.人間の代替から、人間の能力の拡張&超越へ。ロボットの歴史

    時代とともに、人間がロボットに求める役割も変化してきました。

    時代をさかのぼって1970年代。国内ではじめて産業用ロボットが使われ始めた当時は、徐々に高くなっていく人件費を抑えるために、工場で人間が担っていた作業を代替することがロボットには求められました。

    その後1990年代に入ると、インターネットやコンピューターが広く一般に普及し始めたことで、知能・制御系の研究開発が一気に加速。さまざまなサービスロボットが開発され始め、2002年にアメリカで発売した家庭用掃除ロボット「ルンバ」は、現在にまでその人気が続く大ヒット商品となりました。

    2000年代後半にAIやディープラーニングの技術が花開いてからは、より多様なサービスロボットが登場し、さまざまな現場で使われるようになり始めました。

    飲食店や病院・介護現場で導入されている配膳ロボットもその1つです。こうしたサービスロボットはいまのところ、従来は人間がやっていた作業の一部分のみを切り出して代替しています。例えば、調理場で受け取った料理を客のいるテーブルまで運ぶところまではロボットがやるけれども、その料理を受け渡す動作は人間に協力してもらう、といった具合です。

    配達ロボット「Skippy」
    カリフォルニア発のスタートアップCarbon Originsが開発した、VRでの遠隔操作によって料理や食材のデリバリーサービスを展開する配達ロボット

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    しかし将来的には、技術が発展していくにしたがって、ロボットが担える作業の幅が広がっていくのではないかと予測されます。

    そして現在は、人間の作業の代替だけでなく、人間の能力の拡張や人間には不可能な作業の遂行といったロボットの可能性に注目が集まっています。

    人間の能力を拡張するロボットとしては、力仕事をアシストする装着型のパワードスーツや、歩行や起立をサポートするロボット、遠隔手術を可能にするロボットなどが挙げられます。また、VRゴーグルのようなデバイスとセットで使うことで、拡張世界の情報によって作業の補助を行うようなロボットの市場も、これから拡大していくはずです。

    分身ロボット「OriHime」
    ALS(筋萎縮性側索硬化症)などさまざまな理由により外出困難な方々が “パイロット”として自宅から遠隔操作を行い、「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で接客やコーヒードリップなどの業務にあたる

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    宇宙空間や災害現場など、人間が作業を行うには大きな危険が伴う場所や、そもそもロボットにしかできない場所での作業にも、今後はますますロボットが活用されていくでしょう。人間の代替を目的として始まったロボットの開発は、いまや人間の能力の拡張と超越を目指しているのです。

    3.現代のロボットが手にした「柔軟性」

    近年、研究開発が進んでいるのが、ロボットがより生物に近い動作を獲得するための「ソフトロボティクス」という領域です。

    さまざまな技術革新が進んでいるとはいえ、ロボットにはできないこともまだまだたくさんあります。人間のロボットに対する優位性の1つに、よくわからないものや曖昧な状況に対して瞬時に対応できる「柔軟性」がありますが、ソフトロボティクスとはまさに、生物の強みである柔軟性をロボットに取り入れようという試みです。

    従来の産業用ロボットは、すべての動作を事前に設計することで生産効率を最大限に上げる、という発想のもとでつくられていました。そのため、一定の間隔で流れてくる一定品質のものや、つかむ際に力加減をあまり考えなくてもよい硬いものなどに対して速く正確な対応をすることは非常に得意であった一方、定位置からずれたもの、バラバラな品質のものや、つかむ際の力加減によっては破損の可能性のある柔らかいものなどに対する対応は、長らく苦手としてきた領域でした。

    しかし最近では、素材やセンシングの技術が発達してきたことで、ずれた位置にあるものを正確につかみ上げたり、柔らかいものを適切な力でつかみ上げたりすることができるようになってきました。

    また、ロボットがネットワークにつながったことで、プログラムも以前より柔軟に更新できるように。エラーを検知した際も、単にアラートを出すだけでなく、プログラムを自動で修正して対応したり、AIでデータを分析して改善案を提案させたりする、といったことができるようになってきています。

    物理的に柔らかいものに対応する柔軟性と、さまざまな状況を賢く判断して進化し続ける柔軟性。現代のロボットは、ハードとソフトの両面で、ますます柔軟になっていると言えるでしょう。

    4.ロボットの可能性を広げる、3つの技術と最新動向

    少子高齢化とそれに伴う労働力不足という大きなトレンドの中で、今後もロボティクスにはさらなる注目が集まっていくでしょう。また、センシングやAI、ネットワークなど、周辺領域の技術と組み合わせることで、ロボットにできることは飛躍的に増えていくと思われます。

    ▼センシング
    センシングは、ロボットがよりさまざまな状況で周囲を認識できるよう、あらゆる方向での発展が見込まれます。1つの方向性は、小型化・省電力化の進展です。より正確に周囲を認識するために、さまざまな場所にセンサーを設置する必要が生じると考えられます。その際、限られたスペースを有効活用しながら、時に電源供給を受けられないような場所にも設置するためには、センサーの小型化・省電力化が不可欠です。

    また、複合的なセンシングという方向性の発展も期待されます。1つのセンサーで得られる情報は限定的ですが、複数のセンサーを用いれば、より周囲の認識が深まります。例えば、1つのカメラだけでは、光の加減や雨が降った際などに正しく周囲を認識できないことがありますが、カメラを複数化したり、さまざまな波長のレーダーを併用したりすることで、より正確な周囲の認識が可能になります。用途に応じて、より効果的・効率的なセンシングを実現するセンサーの組み合わせが考えられるようになっていくと見込まれます。

    加えて、より「柔軟性」を実現する方向についても、高度化とともにセンシングした結果を再現する取り組みも行われています。例えば、人間が手で何かをつかんだり、動かしたりする際に生じる圧力等を、グローブ型のセンサーでリアルタイムに把握し、同じくグローブ型デバイスを装着した遠隔地にいる人にモーターや空気圧を用いて再現することや、医療ロボットを遠隔地から操作して挙動をリアルタイムで同期させるようなことが可能になってきます。また、スポーツ施設で行われている競技の様子をさまざまなセンサーで複合的に把握し、それを遠隔地にいる人の目の前で映像や音響などによって再現する取り組みも行われています。

    ▼AI
    AIは日進月歩のテクノロジーです。既存の用途・機能をさらに発展させ、より高精度・高品質の実現が可能になっていくと見込まれています。現時点で、AIから広告のレコメンデーションを受けたり、防犯カメラで異常に関するアラートを受けたり、病気の可能性の診断をしてもらうサービスが実装されていますが、今後は、AIの発展によっていままで以上に魅力的と感じる広告の提案を受けることや、より高精度での異常検出や病気診断が可能になっていくものと考えられます。

    さらに、AIが扱うデータは、数字や文字列(キーワード)、画像、音声などからさらに拡大し、私たちが普段使う言語(自然言語)も高いレベルで理解するようになり、より高度な判断や、よりスムーズな人間とのコミュニケーションが可能になっていくでしょう。

    その一方で、特定の用途・機能に限ったAIの発展も進むと見込まれます。さまざまな場所にセンサーが設置されるようになっていくと、より高速化や省電力化を実現するために、センシングが行われる現場においてAIが判断することが望まれるシーンも登場すると考えられています。例えば、電源供給が受けられない場所で長期間にわたり異常検出を行う場合などでは、異常事態の発生を判断するAIを、ネットワークを介したサーバー側に設置するのではなく、センサーと一体化してデバイス側に設置した方が効果的・効率的な場合があります。いわゆるエッジコンピューティングといわれる発想のもとでAIが発展していく流れも注目されます。

    「Clean Water Pathfinder」
    フランスのACWA Roboticsが製造。配水管内を自律的に状態検査し、断水することなく水道管の交換必要箇所を正確に特定することが可能

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    ▼ネットワーク
    ネットワークについては、大容量データを高速かつ低遅延で正しく届ける技術、また、さらなる通信可能エリアの広範囲化を実現する技術が、引き続き発展していくでしょう。2000年代に入り、移動通信システムは第3世代(3G)が普及して以降、4G、5Gへと発展を重ねてきました。2030年ごろには、6Gが活用されるようになると見込まれており、データ通信の高速化、低遅延、高信頼(低障害)は、ますます突き詰められていくことになるでしょう。

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    加えて、車の自動運転など、素早く正確なデータを必要とするロボットの利用に対応できるよう、より高密度・広範囲に設置されるセンサーなどを効率的かつスピーディーに統合するネットワークの発展が期待されます。ロボットは、自身が搭載しているセンサーに加え、ロボットの周囲のセンサーからのデータも統合的に扱うことで、より正確に、そして幅広く周囲を認識できるようになります。加えて、センサーから得られる情報以外も扱う重要性が高まっていくことになるはずです。例えば、自動運転を高度化していく中では、周囲をセンシングして得られた情報に加え、「この道路は今日はイベントで、○時~○時の間は通行できない」といったデータも扱うことができれば、より最適な移動経路選択を行うことが可能になります。あるエリアの情報を統合して扱い、データやAIの判断結果を必要とするロボットに、より迅速に届けることが可能なネットワークの実現が望まれます。

    また、周囲のロボット同士のコミュニケーションを可能とするような取り組みも重要になっていくでしょう。ある空間に複数のロボットが存在する場合、それらの制御には、複数ロボットがそれぞれ他のロボットを認識することが必要になります。より高度な制御を目指すのであれば、管理者が異なるロボット間であっても、互いを認識できるネットワークの仕組みを整えることが必要になると想定されます。

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    5.ロボティクスのさらなる発展のために重要なポイント

    しかしながらロボットは、技術が発展すれば自然に普及していくというものではありません。そこで最後に、これからロボティクス産業が発展していくうえで重要となる3つのポイントについて、触れておきたいと思います。

    1つめのポイントは、ニーズと市場の見極めです。

    以前に比べれば、ロボットをつくるコストはずいぶん下がってきましたが、それでもある程度の機能を備えたロボットをつくるには、それなりに台数が出るものでなければ、ビジネス上、成立しません。

    また、ライフスタイルをガラッと変えるようなロボットの場合は、たとえどれだけ便利であっても、ユーザー側のマインドが醸成されなければ普及しません。

    すでに固定電話が普及していた日本よりアフリカ諸国の方が携帯電話の普及スピードが速かったように、既存のソリューションがあふれている日本よりも、課題の多い発展途上国などの地域の方が、先にロボットが普及する可能性も大いにあります。

    企業側にはそうしたニーズや市場を慎重に見極めると同時に、ロボットの魅力を訴求し、ユーザー側のマインドを醸成していくことが求められます。

    2つめのポイントは、ハードとソフトの両面において標準化を進め、製造コストを下げることです。現在は、業界のスタンダードとなるパーツやソフトウェアはまだありませんが、そのようなオープンソフトウェアが公開され、誰でも自由に使える状況になれば、ロボットの開発はさらに進んでいくでしょう。

    企業側にしてみると、せっかく自分たちがコストをかけて開発したソフトウェアを無料で公開することのハードルはなかなかに高く、ハードの標準化も容易ではありません。一般的には、用途を限定した方が安くパーツをつくれますし、あらゆる用途に応えられるパーツというのは存在しないからです。しかし、中長期的にでも標準化を進めていくことで、一般の人でも気軽にロボットをつくれるようになり、より多様なロボットが社会に生まれるのではないでしょうか。

    3つめのポイントは、安全性の担保です。ロボットが普及してくると、さまざまな用途のロボットが同時に同じ場所で作業するようになるでしょう。また、公道で作業するロボットも登場することでしょう。

    ロボット同士、そしてロボットと人の事故を未然に防ぎ、安全に作業できるような環境を整えることが何より大事となります。センサーを使った衝突防止や、天候や人流といったデータを組み合わせて複数ロボットを制御する仕組みを充実させることが、ロボットと人が共生する未来に大事なポイントなのではないでしょうか。

    監修者
    吉田賢哉
    株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門
    東京工業大学大学院 社会理工学研究科 経営工学専攻修了。株式会社 日本総合研究所入社、リサーチ・コンサルティング部門所属。 2005年度~2008年度は東京工業大学大学院21世紀COEプログラム 研究員(テーマ:インスティテューショナル技術経営学)を兼務。2011年度~2015年度 静岡県立大学経営情報学部 非常勤講師。民間企業向けテーマ、行政および関連団体向けのコンサルティングテーマに幅広く従事し、各種市場の将来予測や、新規事業立ち上げ、イノベーション・新産業の創出などに取り組む。大学での研究経験と合わせ、産官学の視点の融合によって新しい社会・価値・知の創造を目指している。