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Partnership with Robots
2023.05.17(Wed)
目次
——今回のプロジェクトの概要について教えてください。
成田瞬(以下、成田):「ラストワンマイル」の移動手段として、高齢者が事前に予約して利用することができる遠隔監視型の小型パーソナルモビリティ「RakuRo®(ラクロ®)」を活用したシェアリングサービスと、その小型パーソナルモビリティにおける位置情報、および走行エリアのリアルタイムな気象情報を連携した遠隔管制における実証実験が、今回のプロジェクトの中心的な内容になります。
茨城県つくば市の宝陽台にRakuRoの乗降スポットを3カ所設置して、そこから「宝陽台北バス停」まで、安全を確保する保安要員が付き添いながら実際に地域住民の方々に乗車してもらいました。また、一連の行程はすべて遠隔監視室にて遠隔管制を行うことで、RakuRoの安心安全な移動をサポートしました。
——本実証実験がつくば市で実施されることになった背景はどのようなものでしょうか?
中山秀之氏(以下、中山氏):茨城県つくば市は、およそ150の研究機関が立地する日本屈指の「研究学園都市」であり、技術に対するリテラシーの高い市民の割合も高いとされています。また、以前から自動走行ロボットを公道で走らせる実証実験を実施しており、2007年から市内の遊歩道などで自動走行ロボットを走らせる技術チャレンジ「つくばチャレンジ」を開催しています。一方で、制度面、技術面、運用面での課題から、こうした取り組みは“実証実験止まり”であることも多く、そこから先へどのように社会実装するのか、人の生活に役立つものとして実現できるかが課題でした。
そうした課題解決を模索する中、政府が2020年12月、大胆な規制改革と複数分野間でのデータ連携により先端的サービスの提供につなげていく「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定に関する公募を開始しました。つくば市としても突破口を開きたく、これに手を挙げ、2022年4月にスーパーシティ型国家戦略特別区域に指定されました。
つくば市ではこの「スーパーシティ」としての立場のもと、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を掲げて、さまざまな取り組みを実施しています。今回の実証実験が行われた宝陽台は、この「つくばスーパーサイエンスシティ構想」において、優先地区に指定されているエリアのひとつです。
——NTT Comとドコモビジネスソリューションズが今回の実証実験を担うようになったきっかけを教えてください。
児玉雅彦(以下、児玉):私たちドコモビジネスソリューションズは、前身のNTTドコモ茨城支店時代から、つくば市が開催する「つくばスマートシティ協議会」に参加していました。その中の移動分野や医療分野での分科会への参加を通じて、つくば市の抱える課題やスーパーサイエンスシティ構想への理解を深めていくとともに、先端的サービスをもって何か貢献できないか検討を進めていたのです。
そうした最中で、今回の内閣府による「スーパーシティ及びデジタル田園健康特区における先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」の公募が、2022年6月に行われました。これはデータ連携や先端的サービスの実施を通じて地域課題を解決し、デジタル田園都市国家構想の実現を目指すための調査事業で、私たちが検討を進めていた内容にも適ったものでした。そうして応募した本案が採択され、NTT Comとともに今回の調査事業の実証実験事業を行うこととなったのです。
——つくば市としては本実証実験に何を期待していたのでしょうか?
中山氏:つくば市の中心部では家がどんどん建築され、子供も増えています。一方、中心から離れたエリアでは高齢化が進んでおり、一部の地域では高齢化率が約55%まで上がりました。自動車の交通分担率は、およそ6割で、高齢者はいつまでも車を手放せない状態です。
もちろん、市内にバスが走っていないわけではありません。しかし、バスの本数が限られていたり、家によってはバス停まで距離があったり、身体的な問題でバス停まで行くことが難しいという方もいるのです。そして、こうした環境は何もつくば市に限った問題ではなく、日本全国に似たようなエリアが存在します。
今回の実証は、こうした自宅からバス停までの移動という課題を解決できるかもしれない、という視点で意義のあるものだと考えています。
——NTT Comはどのような意図で本実証実験に臨んだのでしょうか?
成田:実証実験の先にある最終的なゴールとして見据えていたのは、交通弱者のラストワンマイル対策として、小型パーソナルモビリティを活用したシェアリング型移動サービスの“社会実装”です。それに伴い、複数ロボットの運行を見据え、現在構想中の自動運転ロボットの管制プラットフォームを先行導入する意図もありました。
加えて、今回の実証実験を通じて得られると見込んでいたものが、具体的に3つありました。1つ目は、ロボットによる公道走行におけるノウハウの蓄積です。宝陽台には細街路が多いので、ロボット運行における危険なポイントなどを明確化できると考えました。2つ目は、住民の方に受け入れてもらえるのか、ニーズがあるのか、といったビジネス性の検証です。3つ目は、実証実験を通じてロボットサービスの社会的認知度を向上することでした。
さらに2023年4月1日には、改正道路交通法の遠隔操作型小型車に係る規定が施行されました。所定の届けを行うと、一定の大きさ・構造要件を満たすロボットならば、保安要員のいない遠隔操作によって、最高速度6キロで走行させられるようになります。これによって国内でのロボット実用化が一気に加速するでしょう。こうした社会情勢を見据え、実証実験を通じて得られるであろう知見は有益なものになると考えていました。
——今回の実証実験におけるNTTグループの役割分担を教えてください。
児玉:ドコモビジネスソリューションズはフロントの立場で、つくば市の抱える課題や、描いている構想をヒアリングしながら、NTTグループ全体でどのようなソリューションをご提供できるのか検討し、実現に向けて牽引していく役割でした。つくば市・内閣府と折衝を行う一方で、NTT Comのスマートモビリティ推進室やソリューションサービス部にその実現方法や運営方法を相談し、実現に向けてコーディネートする部分を担当しました。
成田:スマートモビリティ推進室は、実証実験のプロジェクトの全体統括を担いました。今回活用したRakuRoを用意するとともに、実証実験において具体的にどのようにシェアリングサービスの運用をするか決めていきました。また、先ほど述べたように、自動運転ロボットの管制プラットフォームの構築も目的のひとつでしたので、気象情報をはじめとした外部データとの連携、RakuRoの管制方法をディスカッションし、仕様を決めていきました。そうした技術面のほかにも、事前の住民の方々への周知やご説明なども我々が行いました。
久保晶(以下、久保):NTT Comのソリューションサービス部は、実証実験の実行フェーズでのプロジェクトマネジメントを担いました。
特に今回の実証事業では、つくば市の「小型パーソナルモビリティの歩道通行に係る最高速度の引上げ」に関する規制改革提案の実現に向けて、公道の自動走行における安全性においてどのようにアプローチしていくのか、内閣府やつくば市だけでなく、警察庁や茨城県警へも明確な説明を実施する必要がありました。多くの方が携わる本件をサービスとして組み立てていくために、こうしたステークホルダーとの調整や折衝に注力しました。
——もっとも苦労したことは何でしたか?
成田:今回採用したRakuRo自体は、我々であまりカスタマイズする必要はありませんでしたので、ハードウェア調整における苦労はさほどありませんでした。一方で、技術面ではないのですが、サービス利用者の確保には、知恵を絞る必要がありました。
まず地区の自治会長さんと連携をとり、地域のワークショップに参加させていただいて、宝陽台の住民の交通に関する課題を把握するところからはじめ、どうやって課題解決につなげるかをしっかり考えた上で住民の皆さまにご説明し、本実証実験の意義を理解していただいてからご参加いただく必要がありました。
久保:実施時期が寒い冬だったこともあり、利用者が少ない時間帯ではRakuRoと一緒に巡回して、私たちの方から能動的に住民の方へお声がけするといった工夫もしていました。さらにつくば市が提供している「つくスマ」というマップアプリを活用して周知を行うことで、さらなる利用者の確保を進めるなど、幅広くさまざまなご意見をお伺いできる状況を整えていきました。
——本実証実験では、どのように安全性を確保したのでしょうか?
久保:前提として、RakuRoの前に人が飛び出したとしても、自動で停止します。乗客が手動操作をする必要はありません。そして、万が一の事態を心配する方のために、乗車時に装着できるシートベルトのようなものも備えていました。
その上で、今回の実証実験では、遠隔で監視しながらも、そこに対して安全を確保しなくてはなりませんでしたので、ロボットに近接して並走する保安要員も配置しておりました。例えば、交差点などで、安全第一で進める体制をとっていましたので、住民の皆さまにも安心して使っていただけたと感じています。
成田:RakuRoは、3Dセンサーと2Dセンサーを備えているのですが、どうしても死角は発生します。保安要員が見ていて、危険だと判断した際には、止めるという処理も行いました。あとは、路上駐車があった場合には、ロボット単体では避けきれない場合があります。その場合には、保安要員がマニュアル操作に切り替えて、ルートに戻すまでのコントロールを行いました。
——つくば市としては、今回の実証実験を経てどのような気づきがありましたか?
大塚直哉氏(以下、大塚氏):つくば市でこれまで行われてきた実証実験というのは、市街地にある、幅の広い、整った舗装路が中心でした。しかし、今回は中心部以外での高齢化が進んでいるエリアにおける細街路——つまり「実環境」での検証ができたことで、とても有益な知見が得られたと感じています。
中山氏:例えば、現在も「シニアカー」や「電動カート」などと呼ばれる乗り物は存在しますが、これらはどうしても運転スキルに影響されるので、事故が起こることもあります。その点、今回のようなロボットによる自動走行は、ユーザーのスキルに依存せずに安全に運行できそうだという印象を抱きました。また、シェアリングという仕組みも実現すれば、ユーザーには所有コストが発生しないという点で、前向きな可能性を感じます。
小型パーソナルモビリティは、どちらかというと歩行者に近い扱いになりますので、歩行者が歩ける空間はどこでも通れるのが理想です。しかし、実際の運用を考えると、車道に出ざるを得ないケースも出てくるのがわかりました。もしかすると、技術だけの課題ではなく、こうした交通手段を前提に考えた街づくりの工夫も必要になるかもしれません。
先進的なチャレンジでは、どうしてもさまざまなリスクとベネフィットを天秤にかけることになります。その上で、今後は自治体として、住民として、どういう決断をするのかが問われるでしょうね。
——NTT Comとしては、実証実験の成果をどう捉えていますか?
成田:今回の実証実験の成果としては、まず公道でロボットを操作した実績を作れたことがあります。特に、細街路における走行ノウハウを得られたことは、大きな成果です。
久保:ロボットを公道で活用できた事例は、弊社の中ではまだまだ限定的です。私が携わったプロジェクトマネジメント的な視点でも、こうした施策において、どこを注意しなければいけないのか、という知見を得られました。こうした経験自体も、将来的なサービス化を見据えていくために、大いに価値のある成果だったと言えます。
児玉:一方、今回の実証実験は、本当に“ファーストステップ”でした。次のステップに向けて考えていかなければいけないことはたくさんあります。例えば、今回の走行ルートは限定的なものだったので、今後はよりコミュニティーのニーズを最大限反映するために、走行エリア拡大へと視野を広げていかなくてはなりません。
成田:法的な規制が緩和されるといっても、自動走行に関する課題、住民ニーズの反映、マネタイズの課題など、実現への課題はまだまだ残っています。今後も、自治体やパートナー企業との連携を強めつつ、課題解決に向けて進んでいくつもりです。
あとは、我々が取り組んでいる自動運転ロボットの管制プラットフォームの構想について、外部データとどのように連携するのかを見極めていく必要もあります。例えば、「この道路は通れません」といった道路規制情報や道路占有許可情報を事前に入手できれば、よりスムーズにロボットを運行できるでしょう。そのために、どういったパートナーと話をし、連携していかなければいけないのか、整理していく必要もありますね。
こうした実環境での走行から見えてくる課題を地道にクリアしていくことで、小型パーソナルモビリティ社会実装の実現が見えてくると考えています。
さまざまな成果とともに、社会実装に向けた次なるステップが見えてきた今回の小型パーソナルモビリティの実証実験。最後に、本実証実験のきっかけとなった、「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」を推進する内閣府地方創生推進事務局企画調整官の松野憲治氏から届いたコメントを掲載します。
政府は、2022年4月につくば市を大阪市とともにスーパーシティ型の国家戦略特区として指定し、産学官連携のもと、デジタル技術やロボットを活用したイノベーションを実現し、高齢者、子ども、外国人、障害者を含め「誰一人取り残さない」包摂的な社会のモデルを構築することを目標として、幅広い分野での取り組みを進めています。
2022年度に実施した「交通弱者のラストワンマイル対策としてのパーソナルモビリティを活用した移動サービス」の調査事業は、このようなつくば市のスーパーシティの目標達成に向けて、つくば市の中でも高齢化率の高い地区において、遠隔操作型のパーソナルモビリティを活用したラストワンマイルの移動サービスを導入する際の課題を検証するために行ったものです。
2023年4月に施行された改正道路交通法により、遠隔操作型のモビリティは一定の要件を満たせば、届出により歩道を通行できるようになりました。しかし、今回の調査事業で明らかになったように、最先端の技術が実際にサービスとして導入され、住民の方々の生活の利便性向上に貢献するためには、技術の開発、制度の整備とともに、住民等関係者の理解を得て、導入環境の整備を行うことも必要となります。つくば市のスーパーシティの関係者と協力して今回の調査で明らかになった課題を解決し、全国の自治体のモデルとなるような移動サービスの実現を図っていきます。
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