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2023.12.06(Wed)

AI×データ活用で「安全対策」を新しく。
工場の“ガラパゴス的”リスク管理を一変させる次世代ソリューション

#働き方改革 #スマートファクトリー #データ利活用 #製造 #AI
昨今、高齢化や技術の高度化などを背景に、工場現場の安全リスクが上昇しています。特に近年増加する作業員の熱中症対策は喫緊の課題です。そこでNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)では熱中症予測AIを用いた「暑熱環境リスク予測ソリューション」を開発。NTTコムウェアが手がける、製造業における現場保全員の作業支援サービス「プラントコラボ」と掛け合わせ、安全性と経済効率性の両立を目的とした「安全安心ソリューション」として提供しています。

今回、プラントの点検現場で「安全安心ソリューション」のPoCを実施した長門工業の日田信博氏を迎えてのインタビューと、各種ソリューションをご紹介したウェビナー「安全安心な工場の実現と従業員のウェルビーイング向上~ひと・設備・作業データの活用による事故の予兆検知と対策実行~」の要旨をお伝えします。

目次


    安全対策と生産性は両立できる?注目のプラントDXがPoCを実施

    ウェビナーではまず、「暑熱環境リスク予測ソリューション」の本格展開を前に、NTTコム エンジニアリングの協力のもと実施したトライアルを利用してもらった長門工業の代表取締役を務める日田信博氏へインタビュー。プラントの課題解決へとつながるPoCの内容を振り返りました。プラントエンジニアリング企業である同社は、大手石油会社や物流会社の作業を請け負っており、夏場などの厳しい環境下での作業や、注意を要する作業に従事しています。聞き手はNTT Comの土田春香です。

    土田春香(以下、土田):早速ですが、どのような背景でPoCを実施したのでしょうか。

    日田信博氏(以下、日田氏):あらゆる工場現場では当然のことながら安全が優先です。特に昨今は熱中症が大きな課題になっていて、現場作業員をどう守るかが問われています。現在は「WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)」という国際基準の暑さ指数を用いてエリアを規制するなどして、現場の安全を確保している状況です。ところが、この指数を厳格に運用して工事現場エリア全体を止めると、効率が悪く経営的な損失が大きくなってしまうのが課題です。

    日田信博|長門工業株式会社 代表取締役

    仮に2,000人の現場であればその全員の動きを止めることになりますので、電子機器やソリューションの導入によって個の対応をできるようにして、現場の安全安心と効率や経済性を両立させたいところです。

    しかし、業界全体が安全性や製造工程の厳守を大切にするあまり、あらゆる変革にコンサバティブになっており、新たな手を打てないままでした。引火性の危険物を扱う現場では静電気による発火の危険性があり、それを防ぐ防爆仕様の電子機器が高額ゆえに、導入を最小限にとどめようと消極的になりがちな側面もありました。

    土田:コスト上の観点で対策がとられていない実情があったのですね。

    日田氏:はい。現場の所長は他業界の取り組みも知っていますので、対策を進められないジレンマを感じていましたし、私も誰かが第一歩を踏み出さなければと考えていました。そこで、このようなコンサバティブな状況に対するファースト・トライアルとして、現場に軸足があり、他の業界とも横断的に関係の深い当社が中心となって取り組んだのが今回のPoCでした。

    土田:実施効果は、どのように感じていますか。

    日田氏:高い安全性を要求される化学プラント現場の実情をNTT Comに認識してもらい、プラント現場とコミュニケーションをとりながら、通信の電波状況が悪いなど具体的な初歩的課題の解決策を検討し、いまだWi-Fiすら満足ではないガラパゴス的な状況を改善する足がかりができました。

    その中で、現場で働く作業員の身体状況などの個体データをサンプリングすることにより、具体的に検証して、ある程度の見える化がなされました。今後、個体のサンプル数を増加させることで、よりリアルな見える化がなされ、それらの課題への解決策がクリアになってくるものと考えられます。

    現在は日本の「プラントDX創成期」といっても過言でなく、これから現場の安全安心と効率化を両立させることにより、アメリカ(148,321ドル/1人当たり・2019年)の6割程度にとどまる我が国の製造業の労働生産性(95,852ドル/1人当たり・2019年)の現状を改善する契機になるものと考えています。

    土田春香|NTT Com ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門 Catalyst/Business Producer

    土田:安全領域の今後の方針や課題についてはどのようにお考えでしょうか?

    日田氏:人身のエリア管理の時代から個体の管理へ、より見える化を加速させ、全体の効率を保ちながら、個々の作業員・人を大切にする職場として、3K職場からの脱却を図り、人員の確保をもかなえる近代的な現場としなければなりません。そのためには、より斬新なプラントDXを施すための通信インフラとソフト、そして現場環境とインフラを理解するコーディネーターの存在が不可欠になるでしょう。

    熱中症はデジタル技術で予防する。暑熱環境リスク予測ソリューションとは

    続いてNTT Comの羽田ゆり花と南葉潤一が、PoCで提供した暑熱環境リスク予測ソリューションの具体的な価値と機能について、デモンストレーションを交えながら紹介しました。

    暑さ指数のWBGTは、環境省が公表している全国840地点の予測値です。単一の指数のみを判断基準とすると、個人ごとの作業負荷や体力、健康状態、また作業場所の環境などが考慮されないため、リスクの過小評価によって熱中症を引き起こしやすくなります。一方で過大評価は、日田氏が指摘したように、作業の全停止による生産性の低下という課題につながります。

    羽田ゆり花:本ソリューション導入のメリットは大きく3つあります。まず、未来のリスクを個人ごとに予測できるため、作業者それぞれの体調に合わせたアサイン計画により、安全性を確保しながらも、全作業者一斉での作業停止を減らすことで、生産性の低下も抑え、収益率を改善します。

    2つめに未来の予測と併せて、リアルタイムでもリスクを計算するため、急激な体調変化や転倒といったリスクの変動についても、位置把握や緊急アラート機能により迅速な対応が可能となります。

    3つめはデータを蓄積分析していくことで、リスクの傾向が把握でき、より危険度の高い作業場所や作業者に対して優先的に安全対策を打てるようになるため、安全対策費の割り当て最適化につながります。

    羽田ゆり花|NTT Com ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門

    安全安心な現場を実現するためには、データを適切に可視化し、実際の行動変容につなげることが重要です。本ソリューションでは、収集したデータをリアルタイムで可視化し、さらに将来の値をAIモデルで予測します。

    南葉潤一:リアルタイム可視化では、個人の心拍数とWBGTから計算された暑熱環境リスクレベルのリアルタイムデータが表示されます。事前に設定した閾値を連続して上回った場合、指定のメールアドレスに通知されるため、危険回避行動につなげることが可能です。

    また、データの高低をカラーバーで表現し、地図上に軌跡と共にマッピングすることで、対象者の居場所とリスク状況を直感的に把握することが可能です。特定のエリアでリスクが上昇していないかなど、地理的な観点から作業現場の安全性を把握することにも活用できます。

    南葉潤一|NTT Com ソリューションサービス部 デジタルソリューション部門

    一方、将来の暑熱環境リスクレベルの予測では、WBGTの予報値をベースにしつつ、作業現場の局所的なWBGTの推移を学習することで、現場に合わせた高精度の予測を行っています。気象状況は刻一刻と変化するため、環境省が翌日、翌々日のWBGTを最新化するのに合わせて予測も見直すことで、より精度の高い対応が可能です。

    もうひとつの計算根拠となる心拍数の予測データは、複数名が同じ作業をしたとしても、年齢や健康状態によって作業負荷は異なる可能性があるため、個人ごとの特定作業時の心拍数の推移を学習することでパーソナライズされた予測を行っています。また、こうした個人別リスク予測も翌々日まで算出されるため、生産効率の高いシフト管理やスケジューリングなどにも活用できるでしょう。

    製品版では複数の作業員の一括管理、一覧表示なども含めて充実した機能をご用意しています。

    事故情報や“ヒヤリハット”はすべて蓄積。現場作業をトータルサポートする「プラントコラボ」

    続いてNTTコムウェアの北山翔悟氏が、同社とNTT Comが共同で検討しているサービス「プラントコラボ」について紹介しました。

    北山翔悟氏:NTTコムウェアは、電柱や脚立に上った作業員の危険を予測するAIであったり、ヒヤリハット、事故情報の蓄積可視化や関連する現場の進捗管理であったり、オフィスワーカー向け音声ストレスチェックなど、さまざまな安心安全における取り組みを行ってきました。

    現場作業員の作業支援サービスであるプラントコラボでは、現場管理者に向けて作業アサインや進捗管理などのサービスを提供しています。現在、NTT Comの暑熱環境リスク予測ソリューションを組み合わせて拡張し、現場作業員向けには熱中症リスク、転倒検知、危険エリア侵入、ストレスチェックなどの自身の安全リスクをウェアラブルデバイスなどから客観的に伝えられる機能を検討しているところです。


    北山翔悟|NTTコムウェア エンタープライズソリューション事業本部

    日々の朝礼や点検、安全、巡回などの業務に対してプラントコラボを用いてどう貢献できるのか、5つの利用イメージを提案しています。

    1つめは作業計画・情報管理の効率化で、①「現場の細かな気づきの蓄積」や「ヒヤリハット・事故情報の共有などノウハウ蓄積」による安全強化、②「スマホで気軽にできる作業時間データの蓄積」や「作業状況の可視化」による安全管理強化、この2点によって現場の安全管理を強化できると考えています。

    2つめは心理的不調の把握です。近年、現場作業員のメンタルヘルスケアの重要性が求められており、高ストレス・不眠の作業員はそうでない方と比較して、ヒヤリハットの体験リスクが2倍にもなるといわれています。ただ、現在運用されているストレスチェックなどのアンケートは現場負担が大きく、なかなか定着が難しいのが現状です。プラントコラボでは、作業員が朝入場時にタブレット端末などに発声するだけで、AIがスコア化した作業員の心理的不調を安全ダッシュボードで確認できるようになります。これにより、作業員自身でリスクを把握するだけでなく、管理者が不調リスクの高い作業員をケアしていくことで、ヒヤリハットや重大事故の削減に寄与できると考えています。

    以降は、暑熱環境リスク予測ソリューションとの連携により実現するものです。

    3つめは身体的不調の把握で、ウェアラブルデバイスのバイタルデータをAIが学習することで、現場の作業員ごとの熱中症などの身体的リスクを管理者がプラントコラボの安全ダッシュボードから確認し、リスクの高い時間帯での作業を避けるような作業アサインを行えます。

    4つめは危険エリアへの侵入検知で、あらかじめ設定した危険エリアへの侵入を検知すると、自身だけでなく管理者へリアルタイムで音声通知を行います。

    5つめの転倒検知は、作業員が着用したウェアラブルデバイスの加速度センサーを利用して、転落や転倒などの自身が状況を発信できない事態でも、管理者に音声通知を行います。

    これからの工場現場に求められる「安全安心」とは

    ウェビナーの最後に土田から、ここまでに説明した「暑熱環境リスク予測ソリューション」と「プラントコラボ」を包含する総合サービス「安全安心ソリューション」が紹介されました。

    土田:この数年、休業4日以上の死傷者の数は増加傾向にあり、特に令和4年度はここ10年間でもっとも多い結果になりました。また、地球温暖化や都市化により暑さが厳しさを増し、作業者の高齢化も進んでいるため、熱中症の発生件数も近年増加傾向です。

    お客さまの声をもとに労災発生の背景を明らかにした上で、安全対策の方針をまとめると、「適切な安全対策の実行」「事故の未然防止」「作業者の負荷軽減」の3点が求められると考えています。NTT Comでは、これらの対策として安全安心ソリューションを提供しています。

    安全安心ソリューションの中心となるのは、安全安心プラットフォームです。工場内のあらゆるデータとリアルタイムに取得する検知データを相関分析することで、事故の傾向をつかみ、安全対策や作業改善につなげていきます。ソリューションのポイントとなるのは分析の部分で、我々のAIエンジニアが独自開発したデータモデルを活用し、リスクを未然検知することが可能です。

    本ソリューションの特徴は3つです。

    1つめは「安全データの有効活用」で、労働安全データを一元管理して情報連携の効率を上げます。これにより、安全担当者の負担を軽減します。

    2つめは「リスク可視化」で、AIが作業内容や作業者ごとにリスクレベルを数値で可視化します。事故の起こりやすいポイントを把握でき、有効な安全計画の立案を可能にします。

    そして3つめは「リアルタイム検知」です。危険を検知した場合に、即座にアラートを発出し事故防止につなげます。

    これらの特徴を踏まえ、安全対策を実現する5つの提供メニューをご紹介します。

    「01.安全衛生データの一元化とリアルタイム共有」
    ヒヤリハット、事故記録などの安全関連データをひとつのデータに統合することで、効果的な労災対策ができるようになります。拠点間での情報共有もスムーズになり、類似災害の抑止にも貢献します。

    「02.リスクスコアリング」
    蓄積された過去の労災データから、作業者や工程ごとにリスクレベルの傾向を把握し、効率的な安全対策の優先度判断、保全計画の最適化に役立てます。

    「03.暑熱環境リスク予測」
    暑熱環境リスクをリアルタイムで検知するだけでなく、個人ごとに翌々日まで予測することができます。未来の熱中症リスクを事前に把握することで、作業計画の適切な見直しや、作業メンバーの最適なアサインを実現します。

    「04.危険状態検知」
    カメラで取得する映像データをAIで分析し、作業者が危険な行動を起こした場合に、管理者側に通知を行います。リアルタイムでの検知・通知により、現場監督や管理者の迅速な対処が可能になります。また、パトロールの人員削減にも貢献します。

    「05.現場作業改善」
    リスクスコアリングや暑熱環境リスク予測の結果を連携し、作業者の配置計画にスムーズに反映します。計画見直しなどの対応も臨機応変にできるようになります。

    お客さまの現状に関する情報やすでにお持ちのデータを共有してもらうことで、課題整理や計画立案からの支援も可能です。実際にワークショップを開催し、現場の課題を集めながら計画実行のサポートをさせてもらっている事例もあります。導入の際は5つあるメニューのうち、どれか1つからでも利用できるようになっているので、ご相談やご紹介など、ぜひお気軽にお声がけください。

    ●安全安心ソリューションに関する詳細はこちら