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2025.03.06(Thu)
――ヘルスケア・医療事業に関して、お二人はどのようなかたちで携わられているのでしょうか。
久保田真司(以下、久保田):医療分野における課題は、超高齢社会の到来による医療需要の増大、医療費の増加、人手不足など多岐にわたっています。こうした課題を解決するためには、病気の予防に注力して健康寿命を延ばしたり、質の高い医療を効率的に提供したり、医療従事者の働き方を変えたりと、多角的な取り組みが必要になります。
そのため、一つの課題に対しても様々な角度からアプローチしています。私はNTTドコモが強みとしているモバイル通信技術の活用という観点で、久野はヘルスケアデータの収集、統合、活用という観点から課題解決に挑んでいます。
久野誠史(以下、久野):NTT Comはデータを扱うための秘密計算、認証認可、同意管理などの技術を持っており、プラットフォームを強みとしています。一方、NTTドコモは通信技術やデバイスに加えて、「ユーザーに近い」という強みもあります。土台となるプラットフォーム側とユーザー側の2方向から、医療分野の課題解決を図ろうとしているわけです。
久保田:私たちがユーザーという「面」を広げていくことでデータを収集し、久野が担当するプラットフォームに集める、という循環になっていますね。
――docomo businessは院内用PHSサービスの時代から医療分野に貢献してきました。その当時からスマホが主流となった現在までに、医療DXにはどのような変化があったのでしょうか。
久保田:ドコモでは2014年にメディカルICT推進室が発足し、医療ビジネスの取り組みを開始しましたが、ちょうどこの頃から、医療機関での携帯電話の使用に追い風が吹き始めました。もともと携帯電話は医療機器との電波干渉が懸念されていて、院内の限られたエリアでしか使用できませんでした。電波干渉の起こりにくい周波数であるPHSが長らく使われてきたのはそのためです。
しかし、2014年に指針が変わり、機器と一定の距離を確保できれば院内でも携帯電話を使用できるようになりました。さらに、2016年には日本医師会が医療機関でのIT活用を推進する「日医IT化宣言2016」を発表しました。こうして2016年以降、スマホ活用の動きが進んでいくことになります。スマホの場合は通話以外にもさまざまな機能を使うことができるので、スマホの導入によって一気にDXが進み始めた印象です。
久野:こうした流れは、基本的には世の中の変化と同じだと思っています。医療現場は命を扱うこともあって、変化が慎重に進んでいくことが多いのが特徴だと思います。
久保田:そうですね。私達が医療機関にご導入いただいたスマホは8割以上がiPhoneなのですが、日本でiPhoneが普及したのと並行して、医療機関でもiPhoneの使用が増えたのです。魅力的なデバイスの普及もDXのポイントなのだろうと思います。
――医療のデジタル化全般としては、どのように変化してきたのでしょうか?
久保田:電子カルテが導入されて、診療情報のデジタル化が進んできました。ただ、電子カルテは病床数が400床以上の大規模病院だと9割方導入されている一方、200床未満の小規模病院やクリニックでの導入率は5割程度にとどまっています。データのデジタル管理を推進することも依然として課題です。
大きな変革点となったのは、2010年以降オンライン化の動きが強まったことだと思います。例えばレセプトデータは、電子媒体を使って物理的に送付されていたのですが、現在はオンラインでデータをやり取りするようになっています。また、最近では医療機関でマイナンバーカードをカードリーダーに通すと、オンラインで保険資格の確認が可能になっています。
久野:データの活用という点では、医療分野の場合、扱う情報の機密性が非常に高いという特徴があります。例えば、スマホやウェアラブルデバイスを通して日々取得されるライフログは個人情報に該当しますが、医療機関での診察や病歴に関する情報は「要配慮個人情報」となります。要配慮個人情報は、通常の個人情報とは同意の取り方が異なるため、これまでの医療データの活用はあまり進んでいませんでした。我々はこの点を克服するためのプラットフォームを開発し、データ活用の同意を取得する仕組みや、データを安全に活用するために暗号化した上で統計処理などが可能な秘密計算のしくみを用意しています。
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