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Manufacturing for Well-being
2021.10.20(Wed)
目次
最初に、ウェルビーイングの意味を確かめておきましょう。こちらでは、ウェルビーイングの定義や構成要素などをご紹介します。
●ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(Well-being)は、「幸福」や「健康」などの意味を持つ言葉です。世界保健機関(WHO)憲章の前文で使用された言葉で、一般的に、ここでの「健康」の定義である「肉体的・精神的・社会的に、すべて満たされた状態」という意味で使用されます。厚生労働省の平成30年度雇用政策研究会報告書では、ウェルビーイングのことを「個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と表現しています。
また、ウェルビーイングの指す幸福は、瞬間的というよりは、持続的な幸福を意味することが基本です。一時的な幸せを重視するのではなく、持続的な幸せを追求することが特徴と言えます。
出典:「世界保健機関(WHO)検証とは」(公益社団法人日本WHO協会)
出典:「雇用政策研究会報告書 概要(案)」(厚生労働省)
●ウェルビーイングを構成する要素
ウェルビーイングの概念は、主に5つの要素によって構成されると考えられています。こちらでは、ウェルビーイングの構成要素における代表的な2つの定義について、それぞれ解説します。
マーティン・セリグマンによる5つの要素(PERMA)
アメリカの心理学者であるマーティン・セリグマンによって唱えられた定義です。以下の各要素の頭文字をとって「PERMA」と呼ばれます。
・Positive Emotion:ポジティブな感情を持つこと
・Engagement:仕事や趣味などに没頭すること
・Relationship:人間関係が良好であること
・Meaning and Purpose:人生に意義や目的を持つこと
・Achievement/Accomplish:何かを成し遂げて達成感を得ること
この定義では、上記の5つの要素が満たされていればウェルビーイングであると考えられており、すべての要素を最大限に追求していくことで、ウェルビーイングな状態を目指せるとされています。
ギャラップ社による5つの要素
アメリカの世論調査会社であるギャラップ社が提示した定義です。この定義によれば、ウェルビーイングは、以下の5つの要素に分けられると考えられています。
・Career well-being(キャリア ウェルビーイング):仕事や勉強、育児、ボランティアなど、1日の多くを費やす活動が充実していること
・Social well-being(ソーシャル ウェルビーイング):友人や同僚など、良い人間関係を築けていること
・Financial well-being(フィナンシャル ウェルビーイング):収入や資産など経済的に満足できていること
・Physical well-being(フィジカル ウェルビーイング):心身ともに健康であること
・Community well-being(コミュニティ ウェルビーイング):居住する地域社会とつながっていること
上記の要素は、国や文化などに関係なく、多様なバックグラウンドを持つ人々に当てはまると考えられています。上記のような構成要素も参考にすることで、ウェルビーイングの概念に対する理解を深められるでしょう。
*1-1 https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/40247/
*1-2 https://spaceshipearth.jp/well-being/
*1-3 https://wellday.jp/articles/well_being
ウェルビーイングの考え方は、企業の経営方針を決定する場面でも取り上げられることがあります。なぜウェルビーイングが企業経営で注目されているのか、主な理由をご紹介します。
●ダイバーシティの浸透
ダイバーシティとは「多様性」を意味する言葉です。ダイバーシティを推進する企業には、国籍や性別、宗教など、多様な背景を持つ従業員が集まります。背景が違うからこそ、一人ひとりに合う働き方も異なります。無理に一つの働き方に当てはめていると、従業員エンゲージメントが低下してしまう可能性もあるでしょう。そのため、フレックスタイム制やリモートワークの導入など、従業員のウェルビーイング実現につながる働き方を認めるような制度づくりが求められます。
●労働人口減少による人手不足
日本の労働人口は減少傾向にあり、今後も人手不足を解消する必要性は高まることでしょう。人材流出を防ぎ、新しい人材を確保するためには、職場環境を整備することが重要です。従業員にとって働きやすい環境を整えるためにウェルビーイングの考え方が求められています。
●新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、リモートワークが普及し、オンラインで業務を進める会社も珍しくなくなりました。オフィスに集まらない働き方は、通勤時間の短縮や業務効率化などのメリットがある一方、コミュニケーションの難しさを感じたり、孤独感を覚えたりする従業員もいます。新しい働き方を推進する中で、個々の従業員のウェルビーイングを追求する取り組みが必要と言えます。
●SDGsでの言及
SDGsは国連総会で採択された、2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標」のことです。SDGsの目標の中には「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」というものがあり、より良い世界を目指すために意識したい指標の一つとして、ウェルビーイングが用いられています。
SDGsは、政府や地方自治体だけでなく、企業も取り組んでいくことが求められています。現に、SDGsに配慮したプロジェクトを展開している企業も少なくありません。企業におけるSDGsの取り組みにおいても、ウェルビーイングを意識することが求められています。
●人的資本経営の推進
人的資本経営とは、人材そのものを資本と考えて投資する経営手法のことです。人的資本経営では、従業員がウェルビーイングな状態にあることが最終目標であると考えられています。
日本では人的資本経営の推進が行われており、2023年3月からは大手企業4000社を対象とした人的資本の開示義務化も決定しています。人的資本経営の広がりも、ウェルビーイングへの注目につながっているといえるでしょう。
合わせて読みたい:
「「私」から「万物」までを見据える、ウェルビーイングなモノづくり」
企業でウェルビーイングを導入すると、どのような効果が得られるのでしょうか。以下では、ウェルビーイング導入の主なメリットをご紹介します。
●従業員の満足度や生産性の向上につながる
従業員が働きやすくなるように職場環境を整備することで、従業員の仕事に対するモチベーションアップにつながります。意欲的に働く人が増えることで、組織全体の生産性の向上も期待できるでしょう。
●健康経営の促進につながる
健康経営とは、従業員の健康管理を投資としてとらえる経営手法のことです。従業員が肉体的・精神的・社会的に満たされる状態を目指すことは、健康経営の推進にも寄与します。健康管理や健康増進を企業がマネジメントすることで、生産性や業績の向上といった経営的なメリットを得やすくなります。
●離職防止や人材獲得につながる
ウェルビーイングを取り入れることで従業員の幸福度が高まります。結果として、自社への帰属意識が強まることが期待できるでしょう。帰属意識の強化は人材の流出防止につながるため、離職率の低下に悩む企業にとってもメリットと言えます。
また、働きやすい職場は、求職者にとっても魅力的です。求人への応募者が集まりやすくなり、優秀な人材の獲得につながるでしょう。
企業がウェルビーイングを導入する際は、時代の変化に合わせながら施策を変えていくことがおすすめです。導入前に、以下の注意点を確かめておきましょう。
ウェルビーイングを取り入れる際は、固定観念にとらわれず、柔軟な姿勢で対応することがポイントです。ウェルビーイングの定義は時代によって変化していく可能性があります。価値観の変容により、目指すべき基準や施策の内容も変わっていくでしょう。そのため、ウェルビーイング導入後も定期的に効果測定をしながら、施策の効果を確かめることがおすすめです。成果が出なくなったら、従業員にとってのウェルビーイングとはどういう状態であるのかを見つめ直してみましょう。必要に応じて調査を行い、施策の変更を検討することも大切です。
企業において従業員のウェルビーイングを高めていくためには、どのような方法があるのでしょうか。こちらでは、主な方法や実施時の注意点などを解説します。
●労働環境の改善を図る
働きにくい労働環境では従業員が十分なパフォーマンスを発揮することが難しくなります。現状の労働環境について調査した上で課題を発見し、改善策を検討することがおすすめです。たとえば、長時間労働が問題になっている場合は残業時間を減らすことが求められます。システムの導入で業務効率化を図ることで、労働時間の削減につながるでしょう。また、有給休暇の取得率が低い場合は、休暇申請しやすい雰囲気づくりを実践することがおすすめです。休みを取得しやすい環境になれば、従業員のワークライフバランスの向上につながります。
●心身のヘルスケアをサポートする
従業員の健康が損なわれてしまうと、本来の能力を発揮することが難しくなります。従業員の不調には、早めに気づいて対処することが大切です。従業員が自分自身のメンタルやフィジカルの状態を把握し、すみやかにケアできるようにサポートすると良いでしょう。主な方法として定期健康診断やストレスチェックなどの実施が挙げられます。
また、テレワークが浸透したことにより、オフィスに従業員が集まる機会が減った企業もあります。直接従業員の様子を見ることができない場合、不調の発見が遅れてしまうケースも考えられます。テレワーク中の社員にも、定期的にオンラインで産業医との面談を行うなど、ヘルスケアのサポートを実施しましょう。
●コミュニケーションの活性化を目指す
従業員同士の人間関係が悪化すると、職場の雰囲気が悪くなり、ストレスが溜まりやすい環境となってしまいます。生産性の低下にもつながるため、改善を図ることが大切です。
人間関係を良好に保つためには、一般的にコミュニケーションの活性化が重要とされます。そのためには、より多くの従業員が気軽に会話できるような仕組みづくりを行うのがおすすめです。たとえば、オフィスにリフレッシュスペースなどを設けることで、従業員の交流を促進できます。休憩時間中の会話が増えることで業務中のコミュニケーションのハードルも下がり、チームワークを高めやすくなるでしょう。
また、リモートワークが多い企業の場合は、意識してコミュニケーションの機会を増やすことが求められます。ただし、メールや電話などでは、ちょっとした確認のための連絡を取りにくくなるケースも見られるため、チャットツールを導入することで、リモートワーク中でもスムーズなやり取りを実現するようにしましょう。
●福利厚生を充実させる
手厚い福利厚生の制度があれば、従業員満足度を高められることが期待できます。現行の福利厚生を見直して、より充実した内容へと目指すことがおすすめです。主な福利厚生の例として、ジムの割引券や宿泊施設の優待券付与などがあります。社員のリフレッシュのために、どういった福利厚生が望まれているのかを調査してみましょう。
また、既存の福利厚生の利用率を確かめ、継続するか廃止するかを検討することもおすすめです。利用率が低い福利厚生の制度はすぐに廃止せず、なぜ利用されていないかを調べてみると良いでしょう。課題点を見つけて改善すれば、利用率が高まることもあります。
●従業員サーベイを実施する
サーベイ(survey)とは、調査・測定・測量などの意味を持つ言葉です。一般的に、物事の全体像をつかむために広範囲で行う調査を指します。
経営者の視点からは職場環境に問題があるように見えなくても、従業員側は働きにくさを感じていることはよくあります。従業員に対してサーベイを行い、組織のどのような部分に課題があるのかを把握することがおすすめです。問題点を可視化できれば、改善のためにどういった施策を行えば良いかを判断できるでしょう。
従業員サーベイを実施する際は、匿名で回答できるように配慮することが求められます。記名式にしてしまうと本音を回答しにくくなるためです。加えて、サーベイの結果や改善施策の内容をしっかりとフィードバックすることも大切です。
*2-1 https://www.kokuyo-marketing.co.jp/column/cat6/post-133/
*2-2 https://www.happy-bears.com/kajily/life/8829/
*2-3 https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0074-wellbeing_keiei.html
*2-4 https://survey.lafool.jp/mindfulness/column/0062.html
ウェルビーイング導入は、ものづくり現場の課題解決につながる可能性があります。こちらでは、ものづくり現場の現状や、ウェルビーイングを高めるポイントをご紹介します。
●ものづくりの現場の現状
製造業においては、34歳以下の若年就業者が少ないという特徴があります。2002年時点で約384万人の若年就業者がいたものの、2021年には約263万人に減少しました。約20年間でおよそ121万人が減少したことになります。
製造業界の若手人材が減ったことにより、ベテランの技能を受け継ぐ人材が不足しています。今後もこの状況が続くようであれば、熟練技術者の高度な技能の継承ができなくなる可能性があります。
また、労働力の減少は生産力の低下にもつながります。経営を続けていくためには、人材を確保するための取り組みが必要です。人材の獲得や離職防止のため、ウェルビーイングの向上を目指すことが重要と言えるでしょう。
出典:厚生労働省「2022年版ものづくり白書(第1部第4章 人材確保・育成)」
●ものづくりの現場でのウェルビーイング向上のポイント
従業員のウェルビーイングを高めるポイントの一つがDX推進です。たとえば、AIを活用した機械の導入によって従業員の負担が軽減され、長時間労働の是正や職場環境改善などにつなげられるケースがあります。
DX推進の大きなメリットと言えるのが、生産効率を高められることです。テクノロジーの活用で業務を最適化することで、省力化や作業時間短縮などの効果を得られます。ヒューマンエラーを防止できるようになり、作業の精度を高められることもメリットです。加えて、属人化を解消できる点もDXの魅力と言えます。これまで特定の作業者に集中していた業務を「見える化」し、全体で共有できるようになります。
DX推進時に抱えることになる主な課題としては、DX人材が不足していることや、導入にコストがかかることなどが挙げられます。DX推進で導入した設備は、専門知識がなければ使いこなせないことがあり、DX人材の採用・教育が必要になりますが、相応の工数やコストが発生してしまいます。また、新しいロボットや機械などの導入は初期費用が高額になることが基本です。導入後のメンテナンスコストについても考えておく必要があります。こういったメリット・デメリットを考慮した上で、DX推進計画を進めることが重要です。
先進事例を見てみる:
「量子コンピューティングやIoTで社会変革の実現を。社会のウェルビーイングを向上させる先進事例」
「自律型ロボット・ドローンやクラウド技術で働き方を変革する。働く人々のウェルビーイングを向上させる先進事例」
*3-1 https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/sitework/column/11/index.html
*3-2 https://evort.jp/article/manufacturing-industry-dx
*3-3 https://www.dga.co.jp/column/20221025-01/
企業経営における課題を解決し、持続可能な経営を実現するためには、従業員のウェルビーイング向上を目指すことがおすすめです。ウェルビーイング向上によって従業員がやりがいを持ち、充実した環境で働けるようになると、成果向上や離職防止などの効果を得られると期待できます。こういったサイクルを回していけるようになると、企業の成長にもつながっていくでしょう。ウェルビーイングな職場づくりのためには、自社にとっての問題点を把握した上で必要な取り組みを検討することがポイントです。現状を調査して結果を分析し、改善のための施策を打ち出していきましょう。
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モノづくりとニッポンのウェルビーイング