2024.11.15(Fri)
Manufacturing for Well-being
2023.03.08(Wed)
#25
目次
―まず、アミタはどのようなビジネスを展開しているのか教えてください。
宮原伸朗氏(以下、宮原氏):アミタは1977年に創業し、「この世に無駄なものはない」という考えにもとづいて、未利用資源の利活用に取り組んできました。
「リサイクル」と言えばわかりやすいのかもしれませんが、ただ単純に再資源化するのではなく、資源を必要とする企業のニーズに合わせて調合して供給するのが特徴です。例えば、工場から出る汚泥や廃油といった廃棄物の一つひとつはあまり必要とされていません。ところが、それをブレンドして再生材に加工することで、セメント会社や非鉄金属の会社にとって魅力的な資源に変わります。
また、急速な自然破壊や資源枯渇が顕在化するのに伴い、森林と水産の生産・加工・流通などを認証する国際的な環境認証審査サービスも手掛けるようになりました。
さらに、社会がゼロエミッションを求めるようになった近年では、カーボンニュートラルに向けた戦略を描くコンサルティングなども行うように。自治体からは、環境、福祉、防災などを横串でつなげて「持続可能な街づくり」の全体最適化を一緒に進めたいというご相談もいただいています。
アミタは、東日本大震災の直後に“自然資本と人間関係資本の増加に資する事業のみを行う”と定款に定めました。それからは今ご紹介したサービスを、産業と暮らしをリデザインする「社会デザイン事業」という一つのドメインで提供しています。
―NTT Comがサーキュラーエコノミーに着目したのは、いつ頃のことでしょうか。
鈴木与一(以下、鈴木):2019年の終わりごろです。弊社で製造DXを手掛けるスマートファクトリー推進室という組織ができて間もない時期で、新しいテーマの一つとしてトレーサビリティをテーマにした新規事業を構想していました。
しかし私はIoTビジネスの経験もあり、データが見えるようになるだけでは収益性に乏しく、事業化は困難だと考えていました。事業として成立するだけでなく、社会課題と結びついた価値も提供したい。社会課題解決につながるのであれば、事業性も問題ないであろう。そう思いながら、コンサルタントを含むいろいろな方と会話する中で知ったのがサーキュラーエコノミーという言葉です。
そこで海外の事例を詳しく調べていくと、製造業に限らないテーマであることや、資源を回収して再利用するだけでなく、ものを長く使うためのモニタリングや、無駄なく作るための需給調整などが重要だとわかったのです。NTT Comが持つIoTやAIといった技術や知見を生かせる領域です。また、ブロックチェーンについても、トレーサビリティだけでなく「価値の交換」や企業間のコミュニケーション、対外的な情報開示において重要な役割を果たすだろうと思いました。
ただ、NTT Comだけでは成し遂げられないのは明らかで、パートナーと一緒に進めることが前提となります。その中で、弊社エバンジェリストの境野哲が、あるセミナーでアミタ会長の熊野さんと出会い、京都にあるアミタ本社にお招きいただいたことがきっかけで今日に至っています。
―その時、どのような会話をされたのでしょうか。
鈴木:江戸時代の古民家を改装したミュージアムで、熊野さんが直々に事業内容だけでなく、江戸時代の循環型社会の仕組みを説明してくださったそうです。私はその話を聞いて、なんてビジョナリーかつ哲学的な会社なのだろうかと刺激を受けて、ぜひ一緒に取り組みを進めたいと思いました。
宮原氏:アミタが日本国内の地域について考えている段階なのに、境野さんはGAIA-X(※)の話をされたので、スケールの差に圧倒されたことが印象に残っています。そんな会社と一緒に仕事ができれば、お互いを補完しあってより良いプラットフォームにすることができるのではと、大きな可能性を感じました。
※GAIA-X:欧州発のデータ共有プラットフォームで、資源循環のバリューチェーンをグローバル規模で管理する場合にも役立つものと期待されている。
Green×ICT 欧州環境規制に対応した業界横断の情報プラットフォームで資源循環社会へ
―アミタが手掛けるサーキュラー・プラットフォームの開発に、NTT Comが参画することになりました。これはどのようなプラットフォームなのでしょうか。
宮原氏:今の社会は不確実かつ不安定で、少子高齢化や経済格差、さらに気候変動や資源枯渇といった問題に直面しています。しかし、国や自治体に頼る「公助」は破綻しつつあり、「自助」も限界です。これからは地域内における「互助」「共助」の社会システムが求められます。
そこでアミタでは、持続可能な社会の実現には、生態系の特徴にならった「エコシステム社会」の構築が必要だと考え、「エコシステム社会構想2030」を掲げました。これは「無駄を生まない循環設計」「部分最適ではない全体最適」「常に変化しながらも全体で均衡を保つ動的平衡」の3要素を持つ新しい社会のコンセプトです。
この構想で打ち出しているのが、ひと・自然・もの・情報をつなげるサーキュラー・プラットフォーム「MEGURU PLATFORM」の構築です。
MEGURU PLATFORMは、互助共助コミュニティー型の資源回収ステーション「MEGURU STATION®」と、良質な資源と情報が集まるサーキュラーマテリアル製造所「MEGURU FACTORY」が軸となります。
MEGURU STATION®とは市民が集まる資源回収拠点で、現在全国3地域6カ所で稼働しており、生活者の皆さんに家庭ごみを分別して持ち寄っていただくことで良質な資源が集まるだけでなく、この場所を通じたコミュニティーづくりや健康づくりも目指しております。そのための仕掛けも施されていて、子供たちを遊ばせたりお茶が飲めたりするスペースなどが設けられています。
ここでの交流によって心が豊かになることは、千葉大学予防医学センターとの共同研究で明らかになっており、要介護リスクも低くなることが確認されています。地域社会との関わり方や社会保障・福祉費の問題を解決すると同時に、ウェルビーイングの向上に資する取り組みなのです。
MEGURU STATION®で回収された資源を、MEGURU FACTORYに運び、資源の価値を高めたサーキュラーマテリアル(循環資源)に加工した上で、持続可能な調達を目指す企業に供給します。そして、この資源をもとに企業がものを作って世の中に提供し、それをまた生活者が購入して、再びMEGURU STATION®へと持ち寄るという循環が生まれるわけです。
このプラットフォームでは地域の方々の想いや顔が見えるので、資源が循環したあかつきにはウェルビーイングの向上に自分たちも寄与していることがわかります。今の企業経営ではパーパスが強く求められますが、この循環に参加することでパーパスを体現することにもつながるでしょう。
ただし、このプラットフォームはアミタグループだけで実現できるものではなく、さまざまな企業とのパートナーシップが欠かせません。
―そこでNTT Comが参画することになったわけですね。
鈴木:市民、地域、企業からなるエコシステムに、環境負荷の観点から収集したデータを可視化するデジタル技術が加わることで、再生資源や製品の循環を生み出し、市民・企業に行動変容をもたらします。
そこでサーキュラーエコノミーに関心を寄せていたNTT Comは、2022年10月にアミタホールディングスと基本合意書を交わし、ICTシステムの導入検討および構築、資源循環プラットフォーム構築に必要な情報システムに関する企画、保有する情報システムやサービスの実証試験への提供を行うことにしました。両社は、2023年度末の事業化を目指してサーキュラー・プラットフォーム『MEGURU PLATFORM』を構築していきます。
具体的には、データを取得するIoTセンサーや入力してもらうためのスマホアプリの技術、データを流す技術、データ活用のための分析基盤やAIの活用などで貢献できるのではないかと考えています。
―両社の取り組みは始まったばかりだと思いますが、現在の進捗と今後の展開について教えてください。
鈴木:NTT Comの顧客である企業、自治体、生活者の皆さんを、どのようにつないで価値を提供できるか検討しているところです。資源循環はもちろん、例えばCO2削減量を別の価値に変えられないかなど検討しています。
宮原氏:地域でのトークンエコノミーができれば、そこに暮らす方々の可処分所得を増やし、お金に縛られず安心して生活できる社会が実現します。まだ構想に過ぎませんが、そんなことも考えています。
具体的な目標としては、MEGURU STATION®を2026年に1万カ所、2030年には5万カ所を全国に展開する予定です。このとき、プラットフォーム上にさまざまな事業者によるサービスをつなげていくことが重要で、例えばMEGURU STATION®の利用状況がわかってくると、企業側では過剰供給によるロスを削減するなどの最適化が実現できるでしょう。
アミタが「消費者」ではなく「生活者」と呼んでいるのは、サーキュラーエコノミーにおいては市民の皆さんが資源を供給する側にもなるためです。その意識が定着すると行動変容が起こり、ものを買う際の選択基準が変わります。顧客が手に取るものが変わると、企業が変わり、社会も変わっていくでしょう。すると時代も変わって、また生活者の意識が変わっていくという大きなスパイラルが生まれる。このダイナミックな世の中の攪拌を、サーキュラー・プラットフォームのビジネスを通して実現できれば、今は先行きが危ぶまれている未来を楽しいものにできるのではないかと考えています。
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Issue
Manufacturing for Well-being
モノづくりとニッポンのウェルビーイング