Manufacturing for Well-being

2023.01.18(Wed)

量子コンピューティングやIoTで社会変革の実現を。社会のウェルビーイングを向上させる先進事例

#サステナブル #事例
「快適で、健康で、幸せな状態」を意味する言葉の「ウェルビーイング」。日々の生活や仕事、あるいは社会活動や趣味などを通じてウェルビーイングを高めようという機運が高まっています。同時に、社会全体のウェルビーイングを、企業活動を通じて高めようとする動きも世界中で始まっています。本記事では、国内外の事例を3つご紹介します。

目次


    全世界で約2億回センシング。IoTセンサーでゴミ回収時間の大幅削減とリサイクル率向上を実現

    Enevoは、2010年設立の米マサチューセッツ州ボストンに拠点を置くスタートアップ企業です。Enevoは、ウェイストマネジメント(ゴミ収集管理)用IoTセンサーと、クラウドベースの管理用ソフトウェアのプラットフォームを開発し、ゴミ収集業者などに提供しています。

    使い方は簡単で、ゴミ箱に直径約10cmのセンサーを取り付けるだけ。センサーは3Gまたは4G通信を通じてネットワーク経由で堆積率、消費率、温度などのデータを管理用ソフトウェアへ送信。すべてのゴミ箱の状態が「見える化」されるため、廃棄物を回収すべき場所が明確になり、回収する収集車の経路が最適化されます。これにより回収業務の無駄を削減でき、ゴミ回収業務時間を平均で40%削減できたそうです。

    Enevoのプラットフォームは、世界中で導入が進んでいます。英ノッティンガムにあるマクドナルドでは、Enevoのプラットフォームが導入されたことでゴミの堆積量が把握でき、回収頻度を最適化することで回収数や発注コストなどが減り、廃棄物処理コストが12%改善されました。また収集の結果がデータとして可視化されたことでリサイクル率の目標値と実態との乖離が明らかになり、リサイクル率が50%向上。さらに収集車の走行ルートも最適化され、走行距離も大きく削減することに成功し、ドライバー不足問題解決の一助にもなりました。

    Enevoは飲食店だけでなく、リサイクルボックス、高速道路、畜産農家、自動車工場などでも導入が進んでいます。また廃棄物回収に加え、潤滑油や家畜飼料、セメント原材料などの配送用途の需要が伸びており、流通の効率化にも一役買っています。今後、世界中でどこまで普及するか注目したいところです。

    世界最大手ライドシェア企業が取り組む、交通安全強化を目指す完全無人ライドヘイリングサービスの実証実験

    世界最大手ライドシェア企業のLyftは、自動運転技術開発ベンチャー企業のMotionalと共同で、ロサンゼルスで完全無人ライドヘイリングサービスの実証実験を開始します。両社の発表によると、車両はMotionalが開発したヒョンデの電気自動車「IONIQ5」をベースに開発されており、Lyftのアプリから直接サービスを申し込むことができます。ロサンゼルスでのレベル4の完全無人ライドヘイリングサービスの提供は、ラスベガスに続いてアメリカで二番目となります。

    ロサンゼルスでは、2021年度の交通事故による死亡者数が前年比で21%、歩行中の負傷者数が31%それぞれ増加するなど交通事情が悪化し、交通安全に関する人々の関心が高まっています。それに対し、LyftとMotionalはロサンゼルスの担当者と協議を重ね、自動運転車の活用により交通の安全性を高めるための検討を進めてきました。

    またLyftが行った調査によると、カリフォルニア州はアメリカの他の地域と比べて自動運転車に関心を持つ人の割合が高く、自動運転車の将来的な市場としてロサンゼルスで実証実験を行うことが最適であると判断したとのことです。

    ロサンゼルス市のエリック・ガルセッティ市長は、「LyftとMotionalは、ロサンゼルスの未来の交通網を形成する真のリーダーです。両社と緊密に連携し、移動手段の1つとしての自動運転車を安全に市場に送り出すことを今から楽しみにしています」という前向きなコメントを述べています。

    LyftとMotionalは、実証実験の経過や結果について、随時情報を公開すると発表しています。今後の動向に注目です。

    作業時間を10分の1に短縮。NECが量子コンピューティングを用いた配送計画立案の効率化に成功

    NECとNECフィールディングは量子コンピューティングを活用した保守部品の配送計画立案システムを構築し、運用を開始しています。

    NECフィールディングはICT領域から非ICTまで幅広い機器に対する運用保守サービスを提供していますが、毎日2時間かけて翌日の保守部品の配送計画を立案していました。配送計画の立案には、緊急対応や定期保守、時間指定の対応などさまざまなオーダーが存在するほか、配送エリア、部品の種類・サイズ、トラック・バイクなどの配送手段といった情報の組み合わせが膨大で、相応の時間がとられていました。さらに、配送コストを抑えた効率的な配送計画を設計できる人材が限られるといった課題も存在していました。

    そこで両社は共同で、量子コンピューティングによる大規模な組み合わせ問題の超高速処理を実現する実証実験を実施。配送計画などの組み合わせ最適化問題を解くのに特化した、疑似量子を用いたアニーリング方式を採用して行ったところ、作業時間は従来の10分の1となる12分に短縮され、その精度は熟練の作業者と同等程度であることが確認されました。

    適用する業務範囲や対象エリアの拡大により配送車の削減や走行距離の短縮化も実現し、配送コストを3割程度削減できる見込みです。また、配送計画の立案に関わる作業者の負担軽減やCO2排出量の低減の実現など、今後のさらなる進化が期待されています。

    最新テクノロジーで社会のウェルビーイングを向上させる条件とは

    企業活動を通じて社会のウェルビーイングを高めている3つの事例をご紹介しました。普段、直接目にする機会はあまりないかもしれませんが、デジタルテクノロジーの活用は着実に進んでおり、それらの恩恵を受ける場面も徐々に増えつつあります。

    そして、このようなデジタルテクノロジーを活用したデバイスの実装が進むことで、やがて社会全体が最適化されて大きく変わるでしょう。その時には、社会のウェルビーイングも大きく向上しているかもしれません。