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2025.07.18(Fri)
目次
はじめに、地方創生を理解するうえで押さえておきたい基本情報を2つのテーマに分けて整理します。
●地方創生とは?
地方創生とは、人口減少と東京一極集中を是正しながら、地域が自立的に発展できる社会をつくるための国の取り組みです。根拠法は2014年施行の「まち・ひと・しごと創生法」で、国の政策方針に基づいて各自治体が施策を展開しています。
国の長期ビジョンでは「2060年に1億人程度の人口確保」という中長期展望を掲げています。この目標に向けて閣議決定による5年間の総合戦略が策定され、段階的に施策が進められてきました。
こうした枠組みのもと、2020年には第2期の総合戦略がスタートしました。計画期間は2024年までの5年間です。
この間、テレワークの普及をきっかけに地方移住への関心が高まりました。SDGsの視点を取り入れた持続可能な地域づくりなど、社会の変化に合わせた施策も広がっています。
出典:e-Gov法令検索「まち・ひと・しごと創生法」
出典:内閣官房・内閣府「地方創生総合サイト」
●地方創生2.0とは?
「地方創生2.0」は、2024年に始動した地方創生の新たな政策フレームです。従来の地域活性化の枠を超え、日本全体の活力を取り戻すことを目的としています。
キャッチフレーズは「新しい日本・楽しい日本」です。経済面では日本の成長力を底上げし、社会面では多様な幸せの実現を目指しています。さらに、地域が持つ価値を再発見する取り組みとしても位置づけられています。
この「再発見」を形にするために、デジタル技術による課題解決や官民連携での新産業創出が動き始めています。若者を含むあらゆる世代が「住み続けたい」と感じる地域をつくることが、取り組み全体のゴールです。
地方創生と似た意味で使われる言葉に「地域共創」と「地方活性化」があります。それぞれニュアンスや目的が異なるため、違いを押さえておきましょう。
●地方創生と地域共創との違い
地方創生が国主導の「トップダウン型」であるのに対し、地域共創は多様な主体が連携する「ボトムアップ型」の取り組みです。どちらも地域活性化を目指す点は共通していますが、推進の主体と仕組みが異なります。
地方創生は、人口減少と経済縮小に対応するための国の政策方針です。法律に基づいて国が目標を設定し、自治体と連携しながら施策を進めています。
一方、地域共創は地域課題の解決を通じてより良い社会をつくるためのビジネス活動です。企業・住民・自治体など多様な立場の人々が主体的に参加し、現場発のアイデアで取り組みを動かしていきます。
つまり、地方創生を実現するための手段が、地域共創なのです。国の方針だけでは届かない現場の課題に、企業や住民の力で直接アプローチできるのが強みといえます。
●地方創生と地域活性化の違い
地方創生は、地方で暮らしやすい環境を整備し、人口減少を抑制するための取り組みです。その結果として人やお金が集まり、地域経済やコミュニティが活気を取り戻す現象が「地域活性化」にあたります。
たとえば、観光客の誘致を目的に「道の駅」を新設したとします。オープン後に多くの人が訪れ、地元の野菜や特産品の売上が伸び、周辺の経済活動が活発になります。道の駅の新設が地方創生の施策で、そこから生まれた経済的な好循環が地域活性化です。
このように、地方創生と地域活性化は「行動」と「成果」の関係にあります。
地方創生が国の重要政策になっているのは、日本が構造的な課題を複数抱えているためです。
●地方創生が必要とされる理由
・地方の人口が減少しているため
若年層を中心とした都市部への人口流出が続き、地方の人口減少に歯止めがかかっていません。労働力の不足により、農林水産業や製造業など地域産業を維持することが難しくなっています。
地域産業の維持が難しくなれば、雇用が縮小し、消費も落ち込みます。この悪循環が放置されれば、公共サービスの維持すら困難な地域が生まれかねません。
・東京圏への人口集中が続いているため
地方から人口が流出する一方で、東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)への一極集中が続いています。特に都市部では、住宅価格の高騰や通勤混雑の激化、保育所不足など、暮らしへの負荷が年々大きくなっています。
この構造は、地方にも都市部にも持続可能とはいえません。テレワークの普及が地方移住や二拠点居住の可能性を広げましたが、受け入れ側のインフラが整わなければ定着にはつながりません。
●地方創生の課題解決の方向性
地方創生の課題を解決するには、地域と国がそれぞれの役割を果たす必要があります。
地域側に求められるのは、働き続けられる雇用の創出と生活インフラの整備です。若者が地元に残りたいと思える仕事があり、医療・教育・交通の基盤が整っていることが定住の前提になります。DXやデジタル技術で地域産業を効率化し、新たな事業を生み出す動きも広がっています。
そして国に求められるのは、中長期にわたる継続的な支援です。地方創生は短期で成果が出る施策ではないため、補助金や交付金の制度を安定的に維持する必要があります。そのうえで、自治体が自走できる仕組みづくりが次の課題です。
地域の自立と国の支援、この両輪がかみ合ってこそ地方創生は前に進みます。
近年、全国各地で地方創生に取り組む事例が生まれています。ここでは、デジタル技術を活用した2つの事例をご紹介します。
●事例1:新潟県五泉市
新潟県五泉市は、AIアバター「AIさくらさん」を観光施設に導入し、多言語での観光案内を実現しました。人材不足をデジタル技術で補った自治体DXの先進事例です。
背景には、インバウンド需要の高まりがあります。佐渡金山の世界文化遺産登録を契機に海外からの観光客が増えましたが、地方では多言語対応できる人材の確保が難しく、受け入れ体制の整備が課題になっていました。
この課題に対し、五泉市は2025年10月にAI接客アバター「AIさくらさん」を観光施設へ導入しました。「AIさくらさん」は日本語・英語・韓国語・中国語の4カ国語に対応し、観光情報をリアルタイムで案内するシステムです。
導入後は人手に頼らず外国人観光客を迎えられる体制が整い、同市の田邊正幸市長は、市役所の案内業務への展開にも意欲を示しています。
参考:地域の未来を動かす生成AI──中小企業が“使いこなせる”環境とは何か
●事例2:静岡県浜松市
静岡県浜松市は、産官学の多様な主体が参加する公民連携プラットフォームを軸に、スマートシティの構築を進めています。2019年10月の「デジタルファースト」宣言を皮切りに、デジタル技術を活用した地域課題の解決に本格的に取り組んできました。
2021年3月には「デジタル・スマートシティ構想」を策定し、「オープンイノベーション」「市民起点/サービスデザイン思考」「アジャイル型まちづくり」の3つの視点を掲げています。企業・大学・自治体など多様なステークホルダーが参加する体制を整えた点が、同市の大きな特徴です。
具体的な成果も生まれています。たとえば、市民参加型の合意形成プラットフォーム「Decidim」の導入や、AIを活用したリスク情報の収集、ボランティアマッチングサービスの実装が進みました。さらに、地域幸福度(Well-being)指標を活用した幸福感向上シナリオの作成にも取り組んでおり、他の自治体からも注目を集めています。
参考:2024年版国内スマートシティ事例 前編 ―5つの都市の事業モデルと都市OS―
●Q. 地方創生とは?
人口減少と東京一極集中を是正し、地域の自立的発展を目指す国の取り組みです。2014年の「まち・ひと・しごと創生法」に基づき推進され、2025年からは「地方創生2.0」に移行しています。
●Q. 地方創生を成功させるポイントは?
地域資源の活用、デジタル技術の導入、県外の企業や自治体との連携が重要です。特にデータに基づく意思決定やAI活用は、限られたリソースで成果を出すポイントになります。
●Q. 地方創生における主な課題は?
施策の継続性確保、人材の育成・確保、財源の安定が主な課題です。短期で成果が見えにくいため、長期的な視点で評価と改善を繰り返す体制づくりが求められます。
●Q. 地方創生に企業が取り組むメリットは?
地域課題の解決を通じて自社の技術・サービスの価値を実証でき、事業拡大の足がかりになります。さらに新規市場の開拓やCSR・SDGsの推進、官民連携による補助金活用といったメリットもあります。
●Q. 地方創生拠点整備交付金とは?
地方自治体が地方創生に資する施設整備や設備導入を行う際に、国が費用の一部を交付する制度です。2025年度からは「新しい地方経済・生活環境創生交付金」に制度が刷新され、観光拠点やテレワーク施設の整備などが対象になっています。
地方創生は、2014年の「まち・ひと・しごと創生法」から始まり、2025年には「地方創生2.0」へと進化しました。人口減少と東京一極集中に対し、国・自治体・企業・住民が連携して取り組む長期的な政策です。
五泉市のAI接客アバターや浜松市のスマートシティ構想が示すように、デジタル技術を活かした取り組みが具体的な成果を生み出しつつあります。地域共創やテレワークの普及も後押しとなり、企業にとっても参画の間口は広がっています。
自社の強みと地域の課題をつなぐ視点が、これからの事業戦略に新たな選択肢を加えます。本記事が、その出発点になれば幸いです。
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