Smart City

2024.11.01(Fri)

2024年版国内スマートシティ事例 前編
―5つの都市の事業モデルと都市OS―

#スマートシティ #データ利活用 #事例 #地方創生
インフラの老朽化、災害、エネルギー問題などさまざまな社会課題が問題視されるなか、持続可能な都市の実現のため、デジタルの力が求められています。スマートシティは、2016年に「Society5.0」が提唱されて以降、官民での社会実装が活発化。2021年にはデジタル田園都市国家構想が始動し、都市部だけでなく、課題先進地である地方でも、スマートシティの事例が多数生まれています。

そんなスマートシティ実現のための重要なインフラと位置づけられているのが、都市OSと呼ばれるデータ連携基盤です。あらゆる都市のデータを集積・管理して、API(Application Programming Interface)を公開することで、プラットフォーム上でさまざまなサービスを展開することが可能になります。

現在、全国各地で推進されているスマートシティへのモデル事業では、どのように事業モデルを構想し、その裏側にはどのような都市OSが存在するのでしょうか。代表的な事例を紹介します。

目次


    福島県会津若松市 | 都市OSでつながるスマートシティ体験

    猪苗代湖や磐梯山などの雄大な自然を有する福島県西部の中核都市の1つ、会津若松市。会津若松市では東日本大震災からの復興を契機に2013年から「スマートシティ会津若松」を推進しています。これまで「市民」「地域」「企業」の「三方良し」の実現を目指し、産学官連携で健康、福祉、教育、防災などさまざまな分野におけるICT活用を行ってきました。

    2022年には「スマートシティ会津若松」の取り組みを次のステージへ進めるため、「会津若松市」「会津大学」「一般社団法人AiCTコンソーシアム」の3者で基本協定を締結。一般社団法人AiCTコンソーシアムにはアクセンチュアのようなグローバルカンパニーから地元企業・団体まで参画しており、多様な主体がデジタル田園都市国家構想交付金等を活用しながら、都市OSの構築とさまざまなサービスの開発に着手しています。

    「スマートシティ会津若松」の取り組みの特徴として挙げられるのが、都市OS(データ連携基盤)の存在です。都市OSに連動するポータルサイトを様々なサービスの入口とすることで、利用者はポータルサイトのログイン情報をオプトイン(事前の承認・許可)に基づき他サービスに提供が可能になるとともに、複数のサービス間での連携を可能にすることで、手間なく便利にサービスを利用することができます。また、2023年度にはマイナンバーカードでのログインが可能となり、利用者はIDやパスワードを使用しなくても安全にサービスを利用することができます。

    都市OS上で展開されるサービスはデジタル行政手続き、地域通貨、商店街・地域店舗のデジタルクーポンやポイントサービス、エネルギーの地産地消を推進するサービスなど多岐にわたります。現在、20以上のスマートシティサービスとデータアセットが都市OS上で接続されています。

    静岡県浜松市 | 様々なプレイヤーを巻き込み、Well-being向上を図るスマートシティ

    浜松市では2019年10月にデジタルファースト宣言を発表。人口減少、少子高齢化、インフラ老朽化、気候変動などのさまざまな地域課題にデジタルの力を活用して取り組んでいます。同市がスマートシティの目標として掲げているのは「市民QoL(生活の質)の向上」と「都市の最適化」。「オープンイノベーション」「市民起点/サービスデザイン思考」「アジャイル型まちづくり」という3つの視点で官民共創のスマートシティを推進しています。

    推進役を担う浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォームには、運営委員として、浜松市、金融機関、大学、商工会議所、関連分野の官民連携団体、パートナー会員としてNTTドコモ、ソフトバンク、アマゾンウェブサービスジャパンなどの企業が名を連ねているほか、所在地や規模を問わず民間企業や団体なども巻き込み、多様な主体の参画の下にスマートシティが推進されています。

    また、地域幸福度(Well-being)指標を活用した幸福感を向上させるシナリオの作成や、市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」の活用などを通じ、幅広い世代の市民が主体的にまちづくりに参加できる機会を創出し、一人ひとりが幸せを感じられるスマートシティの実現を目指しています。

    同市は、行政のオープンデータのほか、民間企業のデータも利用可能なデータ連携基盤をSaaS(Software as a Service)として導入しています。AIを活用したリスク情報収集など、安全・安心に資する取り組みや、ボランティアマッチングなど、地域共助の促進につながる取り組みを同プラットフォームと連携する形で展開しています。都市OSを活用したハッカソンや実証プロジェクトの支援などに注力し、都市OSのユースケースの官民共創を図っている点も特徴です。

    栃木県那須塩原市 | ファミリー層をサポートするデジタル行政サービス

    那須塩原市では「Society5.0」を背景にしたデジタル・ガバメント化の流れを受けて、2022年3月に那須塩原市DX推進戦略を策定しました。同戦略に基づき、「市民サービスの利便性向上」「行政の業務効率化と働き方改革」「地域社会におけるDXの促進」の3つの基本方針の実現に向けて、データ連携基盤を活用した行政サービスの拡充を推進しています。 

    三菱商事が全体推進役を担当して、NTTコミュニケーションズが構築を支援したデータ連携基盤は、4つのデジタルサービスと接続し、各サービスの情報や災害情報データなど、自治体が保有するデータの連携による付加価値を創出。各サービスへはマイナンバーカードを活用した共通ID・認証基盤のxIDアプリでログインすることができます。 

    都市OSを活用した行政デジタルサービスとしては、「ファミリー層が住みやすいまちづくり」を目指し、4つのアプリを展開しています。市民の所属するコミュニティに合わせてイベントなどの情報を提供する『地域ポータル』。手続きの管理・効率化を可能にする子育て支援機能も有した『電子母子手帳』。環境配慮行動を行うことで貯まり、商品やサービス購入の補助として利用できる『エコポイント(地域通貨)』。LINEプラットフォームを用いて観光客だけでなく市民もまちの魅力を再発見できる『観光パスポート』などです。 

    那須塩原市では、これらのアプリが利用されることで蓄積されていくデータを今後の施策に活用していくほか、新規の行政サービスも同様の都市OSを用いて開発できるようにすることで、今後も柔軟に地域課題に対処していく予定です。 

    東京都狛江市 | 小さな自治体が共同利用で実現した都市OS

    スマートシティの推進においては、多大なコストが必要となります。政府や都道府県の助成制度を利用したとしても、小規模な自治体にとってその実現は簡単ではありません。しかし、リソースが限られた小規模な自治体だからこそさまざまな地域課題の解決のためにデジタルの力を必要としているものです。日本で2番目に面積が小さい市である東京都狛江市もまた、持続可能な都市の実現のため、デジタルの力を必要としていました。

    スマートシティ推進のためにデジタル田園都市国家構想推進事業のほか、東京都のスマート東京先進事例創出事業補助金の採択を受けた狛江市。それに加えて同市が取り組んだのが都市OSの共同利用でした。子育て支援という同じ課題を共有する福島県矢吹町とともに、三菱商事が全体モデル設計、ビジネス開発・運営、プロジェクトマネジメントを担当し、小規模自治体向けのデータ連携基盤をNTTコミュニケーションズの支援のもと構築。都市OS上で展開する子育て支援を軸としたサービスは、狛江市と矢吹町がそれぞれ開発しました。

    都市OSでは、公共データ、学校・広報データ、災害情報データ、予防接種記録データ、地域のイベント情報、公園データ、文化資産データ、ボランティアデータなど、今後のデータ整備を想定して自治体保有のデータの連携基盤を構築。子育て層に向けたサービス開発に着手しています。

    狛江市と矢吹町が共同で展開する地域コミュニケーションプラットフォームでは、オープンデータを活用した子育て世代への情報提供のほか、利用者にパーソナライズされた子育て情報を提供。同じく狛江市と矢吹町が共同で展開する地域デジタルコモンズサービスでは、地域活動・学びプログラムなどの情報を告知し、参加状況などをライフログとして蓄積できるようにしました。狛江市独自のサービスとなる多世代交流拠点サービスでは、プログラミング、デジタルアート、テクノロジーを体験できるイベントを開催し、子どもの学びの機会の創出や交流へとつなげています。

    今後、スマートシティの取り組みを小規模な自治体を含む日本全国へ普及させていくにあたり、今回のようなプラットフォームやサービスの共同利用の事例が増えていくことになるでしょう。

    岡山県西粟倉村 | 森林と人々の暮らしの価値を守る都市OS

    岡山県の北東部に位置する西粟倉村。同村は2008年に百年の森林構想を立ち上げて以降、林業の6次産業化モデルを確立させたり、ローカルベンチャースクールをきっかけに50社を超えるスタートアップ事業が立ち上がったりと、さまざまな取り組みで地方創生の成功事例として挙げられる、人口約1400人の村です。

    村をあげて森林の価値創出に取り組む中で、デジタルの力を活用した行政サービスの拡充にも着手しています。西粟倉村は、デジタル田園都市国家構想推進事業に2022年と2023年に連続して採択されました。

    2022年度は、デジタルサービスによる森林の新たな価値創出を目的とし、ツアーコンテンツや森林利用のマッチングサイト、自然を題材にした生涯学習やJクレジット登録支援サービスを開始しました。2023年度は、住民の生活のデジタル化を目指して、村が独自に運営する行政ポイントサービス「あわくらポイントサービス」の利用データとの連携、村内を走る電気自動車のデータとの連携も開始しました。

    このほか、村内の気温や雨量等の定点観測データや、脱炭素先行地域として村が進める脱炭素・再生可能エネルギーデータとの連携にもデータ連携基盤を使用するなど、都市OSを村のインフラ整備や新規サービス創出に役立てています。

    地域の数だけ存在する都市OSのあり方

    デジタル活用全般に言えることですが、本来は手段であるはずのデジタル化が、往々にして目的化してしまうことが少なくありません。スマートシティの推進にあたっても、デジタル化自体が目的となってしまえば市民のニーズとはかけ離れたものになってしまい、デジタル版の“箱物行政”が誕生することになりかねません。

    今回紹介した5つのスマートシティモデルを含め、スマートシティ推進に成功している地域の多くは、自らの地域の課題や歴史・文化、そしてそこで生活する人々のことを鑑みて、コンセプトを掲げ、都市OSやサービスの仕様へと落とし込みを行っています。

    今後、スマートシティの取り組みが一部の地域ではなく全国へ普及していく過程で、その土地らしい、さまざまな特徴のスマートシティや都市OSのユースケースが生まれていくのかもしれません。

    ※参考:デジタル庁『デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の活用事例』/会津若松市HP『「スマートシティ会津若松」について』/浜松市『浜松市デジタル・スマートシティ構想(解説版)』/

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