Co-Create the Future

2023.07.28(Fri)

より具体化するフェムテック事業モデル。
業界の垣根を越えて生み出すアイデアとは

#共創 #ヘルスケア #データ利活用
NTTコミュニケーションズが2023年1月に立ち上げた、フェムテック領域に携わる企業同士の連携を生み出すコミュニティー「Value Add Femtech® Community」。

同コミュニティーのメインの活動であるワークショップでは、参加企業の担当者が集まり、企業間の壁を越えて、女性特有の悩みや課題を解決する事業の可能性を探っています。

3回目となる今回は、前回に引き続き「月経・PMS・更年期」「不妊・妊活」という2つの領域を取り上げ、より具体的なビジネスモデルを描きながら、事業化における課題とその解決方法についてグループディスカッションを行いました。

目次


    ※2022/11/18活動内容の詳細はこちら
     2023/3/3活動内容の詳細はこちら

    回を重ねながら議論を深めてきたValue Add Femtech® Community。今回は、前回から参加のネクイノ、アーク・イノベーション、エイチームウェルネス、ポピンズファミリーケア、WRAY、ティーガイア、三井住友海上火災保険、ベルシステム24、三菱総合研究所の9社に加えて、新たに帝人、第一三共ヘルスケア、エクサウィザーズ、あすか製薬、TOTOの5社が加わり、計14社が集まりました。

    今回は、ワークショップに入る前に、NTTコミュニケーションズスマートヘルスケア推進室の大浦彩より、ドコモのサービス「プレミアパネル」についての説明がありました。

    「プレミアパネル」はドコモの会員組織「dポイントクラブ」のうち約600万人の会員を対象に、年代・性別・居住地・趣味・購買行動など80種類以上のセグメントから絞り込むことで、詳細なターゲティングが可能となるサービスです。フェムテック領域でのリサーチ・プロモーションにも活用が期待できるソリューションとして紹介されました。コミュニティーのメンバーも「フェムテック領域で新しいビジネスを立ち上げる際の集客に役立つ」と期待を寄せています。

    3回目となる今回は、いよいよ具体的なビジネスモデルを検討

    続いて行われたワークショップでは、参加者たちは6つのグループに分かれ、「月経・PMS・更年期」または「不妊・妊活」のいずれかの領域をテーマに、新規事業のビジネスモデルについて検討しました。

    まず、「月経・PMS・更年期」領域のビジネスモデルについて検討するグループには、下記のような想定ペルソナが提示されました。

    ・27歳女性、未婚
    ・IT企業の法人営業担当
    ・重い生理痛と偏頭痛に悩んでいるが、クリニックに通う時間が確保できない
    ・現在は鎮痛剤、漢方薬(当帰芍薬散)、耳ほぐしで対処している
    ・平日は買い物に出かける時間がないため、定期的な日用品の購入には通販サイトを使っている

    また、ビジネスモデルの例として、不調の可視化や予測から、不調を緩和するためのプロダクトや診療サービスへ誘導するデータ活用の流れと、カスタマージャーニーが提示されました。

    一方、「不妊・妊活」領域のビジネスモデルについて検討するグループに提示されたのは、下記のような想定ペルソナです。

    ・30歳女性、既婚
    ・会社員(子供が生まれても正社員として仕事を続けたい)
    ・不妊治療のニュースや友人からの話を聞くなかで、自身の妊孕力に関心を持っている
    ・結婚式を終え、妊活をしているが、意外に妊娠できない

    こちらのグループでは、簡易検査で妊孕力をチェックし、医療相談を経て不妊治療をトータルサポートするビジネスモデル例と、そこにおけるカスタマージャーニーが提示されました。

    各企業の視点を交えることで、見えてきた課題とは

    想定ペルソナ、ビジネスモデル例、カスタマージャーニーを共有し、メンバー間の目線合わせを行ったあとは、いよいよグループディスカッションに入ります。課題の洗い出しから、解決に向けたアイデア検討という流れで、具体的なビジネスモデルを検討しました。

    「月経・PMS・更年期」領域のビジネスモデルについて検討したあるグループで、課題として挙がってきたのはデータの収集と活用という点です。

    まず、分断されているデータをどのように統合するのかという課題です。アメリカでは、HMO(Health Maintenance Organization)が中心となり、病院間の医療データの共有が進められていますが、日本ではユーザーの医療データがバラバラに存在している状態です。民間企業にとっても、自ら取得したデータを他社に渡すことへの心理的抵抗が高く、データの統合がなかなか進みません。

    また、生理痛のような症状を抱えているユーザーの視点に立ってみると、調子の悪いときはデータを入力するインセンティブが働きますが、そこから症状が軽快してしまうと、データを入力するメリットが減ってしまいます。すると、そこでデータが途絶えてしまい、コンテンツがユーザーにもたらした効果の測定ができなくなってしまうのです。

    こうした課題を乗り越えるための新たなビジネスモデルを探る議論の中では「BtoCではなく、企業の福利厚生など、BtoB向けの事業モデルに転換する」「口コミや生の声などの非構造データと構造データを掛け合わせることで、ユーザーに行動変容を促す」等といったアイデアのほかに、「不調の可視化や予測」を起点にしたカスタマージャーニーにおいて、予測された不調への対策が集まるプラットフォームの存在が必要ではないかという声も上がりました。つまり、自らの不調に対しては各個人が何かしらの対策方法を編み出しているものであり、そうした個人の中に蓄積されているノウハウを集約して共有できるプラットフォームを用意し、同じ場所に医療機関や企業が持つデータも集めることで、シナジー効果が生み出せるのではないかというアイデアです。このようにして、さまざまな角度からビジネスモデルの検討が行われました。

    女性個人ではなく、社会全体の問題として捉えることの重要性

    一方、「不妊・妊活」領域のビジネスモデルについて検討したあるグループでは、35歳を超えると急速に妊孕力が下がることから、「いかに早い段階から妊活や不妊治療について知ってもらうか」ということが、第一の課題として挙げられました。

    日本人女性の平均初婚年齢は約30歳であり、30代に入ると「子供がほしい」と考える人の割合は急速に増加します。

    妊孕力には個人差もあり、一般的にボーダーラインとされる35歳が近づき始めてから妊活や不妊治療を始めても、思うような結果が得られない場合があります。そもそも、35歳というボーダーラインの存在を知らない人も多く、まだ結婚や妊娠への関心の薄い世代に、どのようにして妊活や不妊について知ってもらうかは、「妊活・不妊」領域の課題を解決するうえで非常に重要なテーマです。

    また、次に挙げられたのは、ユーザーをどのようにサポートするか、という課題です。

    例えば、将来子供が欲しくなったときに備える方法として卵子凍結がありますが、数十万円以上の費用がかかり、誰もが簡単に利用できるものではありません。卵子凍結のために費用の積み立てができるような保険商品の検討も進められていますが、20代・30代のうちから妊活のために優先的に資金を投資しようと考える人は多くないため、経済面でのハードルは依然として高い状況にあります。

    また、不妊治療や卵子凍結には、仕事を休む必要がある、痛みが伴うなど、身体や精神面での負担もかかります。

    不妊治療や卵子凍結がそのような負担を女性に強いる状況にある現状については、より効果的で踏み込んだ少子化対策として行政がその重要性を認識し、サポートに取り組むべきではないか、といった声が上がった一方で、例えば非正規雇用など弱い立場にある女性にとっては、妊活という話題そのものが辞職の可能性につなげられてしまい、周囲に相談しづらい環境があるという「産みにくい空気」のそのものの払拭がまず必要ではないかという意見も出ました。

    また「35歳というボーダーラインを伸ばすための医薬品を開発する」というようなテクノロジーの力で前提自体を変えていこう、というアイデアも飛び出し、より幅広い視点からソリューションの検討が行われました。妊活や不妊を女性個人の問題として捉えるのではなく、パートナーや親、企業、自治体を巻き込みながら、社会の問題として解決していく視点が欠かせません。

    グループディスカッションの後には、各グループの代表者より、ディスカッション内容について共有がありました。

    同じテーマでディスカッションを行った他グループの発表を聞くことで、新たな視点が追加され、それぞれのグループで検討したアイデアに磨きがかかります。

    乗り越えるべき課題はあるものの、ビジネスモデルの具現化に向けて、たしかな手応えの感じられたワークショップとなりました。

    交流会を経て、さらに深まった企業間のつながり

    ワークショップ終了後は、会員交流会が開催されました。

    交流会の冒頭では、今回新たに参加した帝人、第一三共ヘルスケア、エクサウィザーズの3社より事業紹介がありました。

    帝人のビオリエ事業部の鵜篭氏より紹介があったのは、同社のプロバイオティクス事業を通じた女性の健康への取り組みについてです。

    鵜篭留依|帝人株式会社 ビオリエ事業部

    「帝人は1918年に繊維メーカーとして創業した会社で、マテリアルとヘルスケアという2つの領域を軸に事業を展開しています。

    私の所属するビオリエ事業部は、マテリアルやヘルスケアといった枠を超えたコーポレート新事業であり、『着る繊維から食べる繊維へ』というキャッチフレーズのもと、食品素材に含まれる食物繊維に関する研究開発なども行い、機能性食品を中心に素材事業を展開しています。この事業を通じて、皆様のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献していきたいと考えているため、科学的なエビデンスにもとづいた、安心・安全な素材を提供することを大事にしています。

    また、私たちの取り扱っている乳酸菌UREXは、女性の膣内のフローラを整える乳酸菌で、妊娠準備期や更年期における女性特有の課題に新たな角度から貢献できるのではないかと考えています」

    次に、第一三共ヘルスケアの村上氏からは、同社の事業概要と、フェムテック領域のプロジェクトに関する方針について共有がありました。

    村上佳澄|第一三共ヘルスケア株式会社

    「私たち第一三共ヘルスケアは、主にドラッグストアで販売している一般用医薬品(OTC医薬品)や化粧品、オーラルケアを取り扱うメーカーです。 成り立ちが4つのメーカーが合併してできたこともありまして、幅広い領域の商品をカバーしている点が特徴になります。

    近年は情報発信に力を入れていまして、2010年より運営してきた『健康美塾』では、今年6月に全面リニューアルを行い、『生理や妊娠関連、更年期などの女性特有の健康課題(フェムケア)』にフォーカスした情報発信を新たに始めました。

    現時点では、フェムテック領域に特化した商品やサービスはまだない状況ですが、今後はこの領域に取り組んでいく必要はあるという課題意識のもと、社内に新たなプロジェクトチームを発足しまして、今回のワークショップに参加させていただきました。

    現在のチームの方針としましては『知り、計り、ケアする』をテーマに、新たな商品やサービスの可能性を検討しているところです。

    まずは女性特有の課題に取り組みつつ、将来的には男性不妊や男性更年期など、男性側が抱えている課題にも取り組み、男女の相互理解を目指していきたいと考えています」

    最後に、AI領域のスタートアップ企業・エクサウィザーズの根本卓氏より、医療ヘルスケア領域における同社の取り組みと、進行中の新たなプロジェクトについての説明が行われました。

    根本卓|株式会社エクサウィザーズ ヘルスケアサービス事業部

    「エクサウィザーズは、『AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する』 をテーマに2016年に創業した会社です。私自身は医療・ヘルスケア領域に関わる事業をやっているのですが、会社としては幅広い業界に対して、AIやDXの観点から支援しています。

    医療・ヘルスケア領域の取り組みとしては、メンタル不調に関する簡易的なアセスメントとオンライン相談ができるプロダクトを開発しているほか、アステラス製薬さんと連携して骨粗しょう症の疾患啓発アプリを開発したり、アストラゼネカさんと連携して、食事の写真をもとに栄養素の含有量が測定できるアプリを開発してきました。

    また、フェムテック領域という観点では、コミュニケーションを通じて女性特有の悩みを解決できるようなプロダクトを開発できないかと、現在プロジェクトを進めているところです。

    ヘルスケア領域の悩みを解決するためには、エビデンスにもとづく医学的な回答と柔らかなコミュニケーションの両方が必要になってきますので、そういった部分をうまく組み合わせていきたいと考えています」

    各社による事業紹介の後は、会員同士による歓談・情報交換の時間となりました。「フェムテック」というキーワードのもとさまざまな業界の企業が一堂に会したことで、コラボレーションの可能性は無限に膨らみ、ワークショップの時間とはまた違った盛り上がりが見えました。

    今後も「Value Add Femtech™ Community」では、イベントやメディアを通じて、フェムテック領域の企業の輪をさらに広げていきます。ぜひ、今後の活動にご期待ください。