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Co-Create the Future
2023.05.19(Fri)
目次
※2022/11/18活動内容の詳細はこちら
OPEN HUB Parkには、前回から参加のネクイノ、アーク・イノベーション、エイチームウェルネス、ポピンズファミリーケア、WRAYと、新たにティーガイア、三井住友海上火災保険、ベルシステム24、三菱総合研究所が加わり、計9社が集まりました。
今回は、ワークショップを始める前に、スタイラス ジャパンの秋元陸氏による講演が行われました。スタイラス ジャパンは、あらゆる産業分野におけるイノベーション事例の調査研究を行っているアドバイザリーファームです。秋元氏は、Value Add Femtech Communityの参加メンバーに向けて、国内外のフェムテック市場の動向や注目すべきプロダクトに関する調査報告を発表しました。
成長が予想されるフェムテックの市場規模についての話題からスタートした、秋元氏の講演内容の一部を以下にご紹介します。
「WHOの発表によると、フェムテック市場は2027年までに600億ドル規模に成長すると予測されています。ちなみにこのうちの30億ドルをテクノロジー系のヘルスケア用品が占め、250億ドルを女性の月経ケアに関するサービスが占めるだろうと試算されています。近年、欧米ではかなりオープンに語られるようになってきていて、もっとも急成長している領域の1つです。
市場成長をけん引している要因の1つは女性の社会進出です。それによって女性の収入も増え、自身の健康にあてるための可処分所得が増えていきました。同時に、女性特有の健康問題に関して特別なサポートやケアが必要であることが一般的に認識されるようになってきています。
ここで1つ事例をご紹介します。イギリスの生理用品メーカーのBodyformは、広告クリエイティブを通じて女性の健康課題に関する啓蒙を行っています。お見せするのは2021年の「カンヌライオンズ」で4部門グランプリを獲得した「#Wombstories(子宮の物語)」という作品です。女性の体の変化に伴うライフイベントを映像やアニメーションを用いて表しています。
こうしたクリエイティブが、ネット上で拡散されることによって、女性の健康課題に関する認知啓蒙が進み、市場が拡大していったのです。
業界を幅広く見渡すなかで、フェムテックは業界・業種を問わず注目を集めるテーマであると感じているところです。本日は、私たちの事業活動のなかで収集した海外事例をもとに、フェムテックの最新トレンドをご紹介していきたいと思います」
「はじめに1つお伝えしておきたいのは、海外の先進的なフェムテックの事例は必ずしもテクノロジーによって実現されているわけではないということです。最新技術の開発を競うことよりも、目の付け所が重要であるというのが数々の事例を見てきた私たちの率直な意見なのです。そのためには多様な社会課題や課題を抱えた人々の存在に目を向ける必要があります。
市場参入を企図する企業が忘れてはいけないのは、女性のどのような痛み・不安・悩みを取り除いたり、緩和したりできるのかということです。フェムテックは非常にセンシティブなテーマであり、この領域に取り組むのであれば、社会課題を解決しようとする意志を持つことが重要です」
「事例をいくつかご紹介していきましょう。フィンランドのルネットは、従来型の生理用品を使用するときに経血が白い布地に付くこと自体が、月経を不浄なものとしてとらえてしまう要因になっていると考えました。そこで、従来の月経カップに着目し、医療用シリコンで繰り返し使えるエコな製品につくり変えることで、使用している女性自身の月経に関する考え方を変えていこうとしています。
オーストラリアのオヴィラが開発したのは、月経前症候群(PMS)における生理痛を緩和するための低周波治療器です。腰回りに電極を貼り付け電気を流すことで、薬に頼ることなく痛みを緩和させる効果があります。
イギリスのカラリーは、人間工学にもとづいた新しい生理用品のあり方を提案する企業。同社のタンポンは、肌に優しいオーガニックコットンを用いていて、環境にも優しいことも強調されています。
同じくイギリスのアスティノが開発したのは、更年期障害に悩む方に向けの時計型のウェアラブルデバイスです。急に顔が熱くなったり、汗が止まらなかったりするホットフラッシュが起こった際に自動で検知して、手首を冷やすことで症状をコントロールしようという研究が続けられています」
「このほかにも、子育てや介護、経済など多様な側面で女性のライフスタイルを快適にしようとするヘルスケア以外の領域のフェムテックも多く存在します。
何をつくるのかではなく、女性が持つ課題に寄り添い、どんな悩み、どんな痛みを解消できるかということを考えることが、この領域で支持を得て、成功するための鍵なのです」
秋元氏の講演によるインプットを踏まえて、ワークショップに臨みました。参加メンバーたちは班に分かれ、班ごとに「生理/PMS」または「更年期」のどちらかのテーマについてディスカッションを行いました。「生理/PMS」と「更年期」というテーマは、前回のワークショップで交換されたアイデアのなかで、特に注力すべきものとして多くのメンバーが支持していたことから選ばれました。また、前回でてきた注目アイデアに明るい企業が今回から新たに参画したことで、より深い議論へと発展していきます。
今回は、この2つの悩みを抱える女性を対象として、どのようなデータを集め、どのようなサービスに応用することで女性のウェルビーイングが達成できるか、というお題が出されました。メンバーたちは、渡されたシートにそれぞれのアイデアを書き出します。
PMSへの対策としてあるメンバーが考えたのは、生理管理アプリのデータとそのほかのアプリで収集する体調や健康管理データを組み合わせることで、不調を予測できるのではないかというアイデア。時に複合的な原因が重なることで生じる「しんどさ」を、多様なデータを集めることで予想、可視化するというサービスに共感が集まりました。
また、そうしたコンディションを周囲に共有するためのサービスがあれば、職場などでのコミュニケーションが円滑になるのではないかという意見も飛び出しました。これについては、更年期を扱うチームでも同様の意見がありました。相手が更年期かどうか尋ねづらいという課題に対して、可視化したバイタルデータを任意で開示できるサービスがあれば、間接的に状態を共有することができ、休職の際の理解にもつながるのではないか、というアイデアが提示されました。
別のメンバーからは、月経痛やPMSの症例データを集めて傾向を分析し、それらを標準化してプラットフォーム化することで、女性が自身の症状をタイプ別に把握し、最適な市販薬や生理用品、下着などをレコメンドしてもらえるサービスがあると良い、という意見も出ました。既存のプロダクトやサービスをパーソナライズするためのフェムテックにも潜在需要があるのではないかという考え方は重要です。
更年期については、早期に対策が立てられることの重要性を挙げるメンバーが多く、発症の時期や症状に応じたケアのあり方をガイドする予兆・予防のサービスの必要性について意見が交わされました。「更年期の症状は徐々に出てくるもので、本人も自覚ができていないケースもある」という声から、健康状態やホルモンなどのパーソナルデータを可視化し、まずは本人が自分の状態を客観的に認識できるツールが必要であること、また、そこから予兆や対策を導き出してくれるサービスにつなげていくことで、対症療法に終始しない更年期障害との付き合い方が見えてくるのではないかという議論に発展しました。
前回のワークショップの内容を踏まえ、新たな参画企業と共に、さらに踏み込んだ議論が交わされた今回のワークショップ。当事者目線での課題の洗い出しは非常に解像度が高く、それに対してテクノロジーやノウハウを組み合わせて解決の道筋を立てるためのアイデアが提示されました。
参加メンバーからは、
「他社のサービスと自社が展開するサービスの連携に新しいビジネスの可能性を感じた」
「マネタイズの面において、皆さんと同じような悩みを抱えていると実感した」
「さまざまな企業風土やバックグラウンドを持った方々と一緒に考えることで、企業や一個人としての課題の共有ができ、意義がある」
「大きな社会課題に対しては、1社でやれることの限界があるためこのような取り組みは有効」
など、コミュニティーへの参加に意義を感じられたという声が寄せられました。
また、組織の垣根を越えた議論を交わすなかで、「ヘルスデータの活用についての難しさを改めて実感した」「一過性でなく継続的なビジネスモデルを構築できるのか、なかなか明確な答えが見出せない」といった新たな課題も洗い出され、そうした課題と今後向き合っていくためにも「“自分のミッションの達成”と“フェムテック市場の発展”を両輪で進められるようなコミュニティーにしていきたい」という意見も挙がりました。
今後は、参加メンバーの皆さんの意見を取り入れながら、男性または社会全体における女性の健康に関する知識の不足や意識の低さの解消や、今回可視化されたような課題に対して解決策を講じるための資金の調達方法など、さらに具体的なテーマについても扱っていく予定です。コミュニティーの今後の活動に期待しましょう。
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