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Co-Create the Future
2022.07.15(Fri)
目次
講義とグループワークの2部制で行われた勉強会には、IT業界および企業のIT部門に所属するグロービスMBAホルダー IT人材コミュニティである「ENJIN」から、リアル25名、オンライン10名の合計35名が集まりました。まず、NTT Com エバンジェリストの林雅之によるSXを解説する講義からスタート。
企業の持続可能性を重視した経営へと転換するSXは、先行きが不透明かつ不確実になったこの時代において最も重要な戦略指針だといいます。現在、各企業が推進しているDXとともに語られることの多いSXですが、その違いを林は以下のように説明します。
「DXが他社より早く優位性を確立する短距離走であることに対し、SXは持続可能性を重視し、企業の稼ぐ力とESG※の両立を図る長距離走です。また、DXはデータが重視されるデータドリブン経営が重要であることに対し、SXは企業の競争力強化と社会のサステナビリティを両立させるため、その企業に求められる存在意義(パーパス)を重視するパーパス経営です」
※ESG:企業が長期的に成長するために必要とされる環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点を合わせた概念。
さらに、そうした考え方のもとで経営者や組織が持つべき能力は、組織内外の経営資源を再結合・再構築する「ダイナミック・ケイパビリティ」であると説きます。
「これまではオペレーションや管理、ガバナンスといった技能的な効率性を優先した、守りの経営であるオーディナリー・ケイパビリティが重視されていましたが、これからは予想できない変化に応じて変革していくダイナミック・ケイパビリティによる攻めの経営が必要です。ダイナミック・ケイパビリティとは、『感知』『捕捉』『変革』の3つの能力を用いてサイクルを回し、変化に柔軟に対応できる事業モデルへと転換していくことです。『感知』は環境変化を察知する力、『捕捉』は自社の経営資源を正確に認識する力、そして『変革』はデジタルテクノロジーを用いて経営のダイナミックな見直しや新事業の立ち上げを推し進める力です」
ダイナミック・ケイパビリティによる攻めの経営によって、サステナビリティを実現するためには、GDP以外の新たな指標も必要だと林は説きます。それは、将来のウェルビーイングを保障し、人類の資産を未来に渡すことを目標にする「サステナブル指標」と呼ばれるもので、GDPと並べて重要視すべきものだといいます。
そして、資産をすり減らさずに未来へとつなげていくための1の手段として、「サーキュラーエコノミー」を取り入れた新たな事業モデルを紹介しました。
「これまでの事業モデルにおける経済活動は、大量生産、大量消費、大量廃棄を一方通行で行う『リニアエコノミー』。このモデルから脱却しないうちは、稼ぐ力とESGの両立は不可能です。転換すべきは、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みに加えて、資源投入量、消費量を抑えつつ、ストックを循環的に活用しながらサービスや商品に付加価値を生み出していく『サーキュラーエコノミー』です。
そのモデルを実現するためには、サーキュラーエコノミーのためのプラットフォームを構築していく必要があります。例えば、バリューチェーンにおけるトレーサビリティを高めてライフサイクルをマネジメントしたり、廃棄物排出業者と廃棄物を原材料とする事業者のマッチングの仕組みを用意したりする等が考えられます」
ダイナミック・ケイパビリティを強化することで変化に柔軟に対応し、サーキュラーエコノミーという価値共創を実現するビジネスモデルによって不確実性の時代に適応する。林は「今後はDXよりSXを考えて日本の経済や社会を元気にしていく。それに加えて環境に配慮したビジネスを考えていく必要があります」と語り、講義を締めくくりました。
後半のグループワークでは、講義で学んだことを踏まえ、与えられたテーマについてグループ内でディスカッションを行いました。
テーマは「企業の稼ぐ力とESGは両立できるか、そのためには企業はどのようなことが必要か?」と「SXによる持続的なビジネスモデル、エコシステムとは?」の2つ。
それぞれのテーマごとに、用意されたホワイトボードに論点をまとめたり、図解を使ったりしながら活発にディスカッションを行い、SXについての考えを整理していきます。
ディスカッション後の発表では、まず1つめテーマである「稼ぐ力とESGの両立」について、あるグループは「財務的価値と社会的価値の両方を上げることが障壁となっているのではないか」と切り出しました。
「その障壁を取り除くには、顧客が社会的価値を認めるようにならなければなりません。例えば、もともと企業の社会的責任やエシカル消費※に対して理解のある客層をターゲットにしている企業であれば、ターゲットに価値観を共有し訴求することは比較的容易です。それはブランディングとなり、差別化・売上につながります。一方で、そういった価値観に関心が薄い客層をメインターゲットにしてきた企業の場合、新たに社会的価値を付加し訴求しても、顧客が価値を見出してくれるかには疑問が残ります。
※エシカル消費:消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援したりしながら消費活動を行うこと。
つまり、『稼ぐ力とESGの両立』に取り組みやすい会社とそうでない会社があるということです。とはいえ、取り組みやすい会社にとっても、いきなり自走することは難しいですから、例えばNTT Comさんのような企業がコーディネーターとしてオープンな場を用意することで、自走に悩んでいる企業も参画しやすくなる。そこが目指すべきエコシステムなのかと思います」
また別のグループでは、競争原理に基づいて市場シェアを獲得することを前提にした「稼ぐ力」はESGとは合わないという見解を示しました。
「シェアを奪い合う構造では、企業はESGに十分に取り組むことはできないのではないか。それよりも、市場自体のパイをどんどん拡げていけばESGという考え方にうまく適合できるのではないかと思います。われわれはESGの中でも特にGのガバメント、政府に着目しました。政府は企業の産業政策を進めていくものではなく、ヨーロッパのグリーン政策のように市場を創造したり、プレイヤーの一員として行動したりするものでなくてはならないのではないか。つまり企業と政府がある意味において対等な関係になることが必要なのだと思います。
政府の役割として新しい仕組みや環境をつくっていく。そのためには国境を超える活動に対して政府はどうアプローチするか、企業はどう政府を動かしてESGを達成するか。そのためには、例えばDXプラットフォームの活用が役立つのではないか、といった議論を行いました」
2つめのテーマである「SXによる持続的なビジネスモデル、エコシステム」については、「そもそもサステナブルとは何だ」という定義づけから議論を始めたグループも。
「サステナブルとは要するに、供給量と消費量のバランスを最適化することではないでしょうか。そう考えると、消費されたものが資源に戻るような循環型の考えが、やはりもっとも優れたモデルであるといえそうです。そして、これを実現するには消費者やプレイヤーの意識が重要なポイントになります。ただ意識しろといってもなかなか実行しないので、そこには自分ごとにするためのインセンティブが求められるでしょう。
ただ、このインセンティブは短期的なゲーム理論で考えると持続化が難しいので、中長期的に社会的なミッションをつくる必要があると思います」
約2時間にわたって行われた勉強会を終え、講演やワークを通じての気づきや感想を参加者から聞きました。
「SXに取り組みやすい企業でも、自覚しているところもあれば、そうでないところもあります。そこをどうやって足並みをそろえていくかが今後の課題だという学びがありました。そして、誰かが社会のファシリテーターとして立ち、DXだけでなくSXの必要性や稼ぐ力を高める方法を各企業にインプットする。そんな場所づくりも求められるのではないかと思います」
(日鉄ソリューションズ株式会社 瀬藤亮太さん(ENJIN代表幹事))
「SXは正直難しい課題ですが、これから重要になってくる概念だと思います。 私が携わっているサイバーセキュリティやオブザーバビリティの事業においても、企業が持続可能な経営を行うためにどんなサービスの開発・展開が可能なのか。 遠回りになってもいいので考えていきたいです」
(Sumo Logic Japan ルッチ哲朗さん)
「私が携わっている事業では、健康問題という社会課題と向き合っています。社会課題の解決と収益の両立をいかにして実現するか、日々難しさを感じています。SXの考え方は、そういったジレンマを解消するヒントになりそうです。これからは短期的な業績ばかりを追い求めるのではなく、より長期的な視点で事業戦略を立てる必要があるのだと改めて思いました」
(TIS株式会社 今田季穂さん)
「SXの必要性」をみんなで考えることを通して、実はあらゆる業界が近い課題感を共通して抱えており、SXのような指針を求めているのではないか、という認識を参加者の皆さんは持ち帰ることができたのではないでしょうか。このように、企業の垣根を超えた人材が頻繁に交流することも、SXを推進するためには重要なのでしょう。
OPEN HUB Baseでは、7月27日(水)にSX勉強会「DXからSXへ いま企業に求められる姿勢とは」を開催予定です。
内容の詳細、参加申し込みはこちらよりお願い致します。
※申し込みは終了しました。
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