Co-Create the Future

2021.11.26(Fri)

自動運転から歯ブラシまで。共創が生んだ日本企業のイノベーション7つ 後編

#事例 #Smart World
組織を超えたコラボレーションが当たり前になる中、ビジョンの共有の重要性があらためて見直されています。そこで、互いの強みを生かし合い、同じ未来の実現に向かって「共創」を行う日本国内の事例を紹介。後編では国を超えた大企業同士のプロジェクトや、民間企業と自治体、大学やシンクタンクなど、組織の形をまたいだコラボレーションを集めました。

目次


    自動運転実用化に向けた技術実証
    Honda×クルーズ×GM「日本における自動運転モビリティサービス事業」

    地図作成車両(写真:Honda)

    Honda、GMクルーズホールディングスLLC(以下クルーズ)、ゼネラルモーターズ(以下GM)は、自動運転技術を活用したモビリティの変革に向け、2018年10月に協業を行うことを発表。世界では「クルマの所有」から「クルマの使用」へのシフトという大きな流れがあり、配車マッチングアプリなど一般のドライバーと利用者を結ぶ「ライドシェア」の動きが広がっています。そこでHondaは自動運転モビリティサービスの提供を目指し、クルーズ・GMと共同で、専用車両「クルーズ・オリジン」の共同開発を開始しました。

    2021年1月には、日本における自動運転モビリティサービス事業の展開に向けて、3社が協業を行うことも発表。その第一段階として、同年9月に栃木県のHonda施設内に拠点を新設し、高精度地図作成車両と自動運転車両「クルーズAV」を活用する技術実証をスタートさせました。

    クルーズはアメリカで自動運転車両の実証実験を重ねてきましたが、そのシステムをそのまま日本で使えるわけではありません。国内で安全に走行させるためには、地図作成車両を用いた高精度地図の作成と、日本の交通規則や道路標識などに合わせたシステムの構築が必要に。まずは試験コースでの地図作成を行った後、公道を走行させることにより、⽇本の環境に合わせた自動運転技術を開発・検証を行います。2020年代半ばには、3社が共同開発している「クルーズ・オリジン」を活用した自動運転モビリティサービス事業の国内での展開を目指しています。

    近年、交通インフラの整備・維持や公共交通機関の運転手不足、高齢者の免許返納による移動手段の問題など、交通を取り巻く課題はさまざま。国内で自動運転車両が実用化されると、そうした諸問題の解決に寄与することが考えられ、移動と暮らしの新たな可能性の広がりが期待されています。

    若者離れがすすむ建設現場の働き方改革
    コマツ×NTTドコモ×ソニーセミコンダクタソリューションズ×野村総合研究所「EARTHBRAIN」

    ICT油圧ショベル(写真:コマツ)

    日本の建設業界は29歳以下の就業者がわずか約1割と若者離れが進む一方、55歳以上の就業者は約3割を占め、次世代への技術継承が課題となっています。そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界の建設現場で急速に働き方改革までもが求められるようになりました。そうした課題を解決するため2021年4月30日にコマツ、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所(以下NRI)の4社が共同で新会社EARTHBRAIN(以下、EB社)を発足させることを発表。コマツが建設現場のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を目指して提供してきた「スマートコンストラクション」に、4社の知見やノウハウ、技術を組み合わせ、DXによって建設業界の安全性・生産性・環境性の飛躍的な向上を実現します。

    EB社の開発が進めば、現場可視化デバイスおよびアプリケーションによって、建設現場の地形や機械、労務、材料を遠隔からリアルタイムでモニターし、安全面や環境面を考慮しながら分析や改善ができるようになります。建設現場における生産の全工程をオープンプラットフォームでデジタルにつなぎ、最適にコントロールすることによって、安全に生産性を向上していくことを目指しています。

    産官学連携で地域医療の課題を解決
    大井田病院×NTTドコモ四国支社×メドレー×高知大学医学部×高知県宿毛市「SUKUMOオンライン医療実証事業」

    診療風景(写真:大井田病院)

    厚生労働省「令和元年度 無医地区等及び無歯科医地区等調査」によると、医療機関のない「無医地区」と呼ばれる地域は全国に601地区存在します(2019年10月末日時点)。少子高齢化で医療・介護ニーズが増加する中、過疎地域では医療機関へのアクセスが悪く、通院に負担がかかってしまうことも多々あります。高知県宿毛市は南北に長い地形に対して病院が東西に横断する形で点在するため、南北の中山間地域からはアクセスしづらい環境。定期通院しづらいうえに、高齢者への多剤服用・重複投薬が防止されていることも課題とされてきました。

    そんな中、同市はアプリを用いたオンライン診療とオンライン服薬指導、および地域医療情報ネットワーク「はたまるねっと」を組み合わせて行う「SUKUMOオンライン医療実証事業」をスタート。実証期間は2021年6月28日~12月28日の半年間です。宿毛市が事業主体となり、同市内で地域医療へ貢献するため積極的にICT化に取り組んできた大井田病院が事業を運営。オンライン診療には「CLINICS」、オンライン服薬指導には「Pharms」と、いずれも医療プラットフォーム事業を手掛けるメドレーのサービスを採用し、NTTドコモ四国支社、高知大学医学部、高知県など産学官の連携によって推進します。

    実証事業では患者と医療機関がつながり、決済までをオンラインで完結。患者が自身のスマートフォンなどでオンライン診療、服薬指導を受けるオンライン再診外来と、コミュニティナースがタブレット持参で自宅に訪問し、オンライン診療、服薬指導を介助するオンライン訪問診療の2種類を実施します。

    さらに宿毛市が有する有人離島の1つである、無医地区鵜来島(うぐるしま)へドコモ四国支社がタブレットを提供。同市は保健師と島民をオンラインでつなぎ、保健指導や健康相談を行う独自の事業も実施しています。今回の実証事業で市民の医療アクセシビリティ向上、在宅医療における効率的な医療提供体制の構築、多剤服薬や重複投薬の抑制を実現できれば、高齢化社会における地域医療の可能性が広がります。

    リアルな店舗を生活者の購買行動や反応を探る場に
    大日本印刷×NTTコミュニケーションズ「ストアDX」店舗内におけるCXの可視化

    boxstaイメージ(写真:大日本印刷)

    コロナ禍によってショッピングのデジタル化が加速し、流通・小売企業やメーカー企業では、店頭などのリアルな場所のあり方を見直す動きが高まっています。今や店舗は、商品やサービスを販売するだけでなく、生活者の興味・関心を探るマーケティングや、企業価値を高めるブランディングのための空間へと変わりつつあるのです。そうした状況を踏まえ、印刷技術と情報技術の強みを生かしてEC・リアル店舗双方のマーケティングや売場づくりの支援を行ってきた大日本印刷(以下DNP)は、DXによって商品・サービスの価値を高め、生活者に新しい買い物の体験を提供する「ストアDX」を進めています。

    従来、店舗内での生活者の購買行動や商品への反応を把握することは困難でしたが、DNPは店舗内にマイクとカメラを設置し、接客時の会話データと来店客の行動データを取得して、生活者の潜在的な購買欲求を解析・可視化することを目指しています。2019年11月には、東京・渋谷区に最新のIoTを体験できる次世代型ショールーミング店舗「boxsta」を開設し、生活者の店舗内における回遊行動データや、接客時の会話データをマーケティングデータとして収集する実証実験を実施。この実証実験での結果を踏まえて、2021年5月に「DNP店舗内CX解析サービス」のトライアルパッケージの提供を開始しました。

    「DNP店舗内CX解析サービス」では、NTTコミュニケーションズの集音デバイス(マイク)や音声データ分析エンジン(COTOHAシリーズ)の活用についても検討しており、店舗内における接客会話から取得する音声データから、顧客のインサイトの抽出・可視化・解析を行います。将来的には音声データ以外の顧客属性データや導線データなどとも連携しながら、マーケティング、商品開発・改善、店舗改革、店員教育への活用を実現していく計画です。2022年には本サービスの提供を開始し、2023年度までに関連サービスも含めて約20億円の売上を目指しています。

    OPEN HUB JOURNAL編集部より

    前編では森永製菓、ファミリーマート、ライオンといった企業の新たな顧客価値の創造を目指した共創事例をご紹介しましたが、今回ご紹介した4つの事例は、CASE、建設現場DX、オンライン医療、カスタマーエクスペリエンス向上といった大きなテーマに取り組む共創事例。それゆえに、日本を代表する複数の大企業が業種を超えて取り組んでいます。

    こうした大きなテーマは、社会インフラ維持、超高齢化社会、人手不足、医療提供体制の維持、過疎化といった多くの課題を抱える“課題先進国”の日本にとっては、どれも喫緊のテーマです。課題の解決には、新たな価値を生み出し、社会システムを変革するようなイノベーションが必須ですが、自社だけのリソースでは限界があることから、企業が共創によってその実現を目指すのは自然な流れだといえるでしょう。

    また課題先進国である日本が直面する社会課題の多くは、諸外国もいずれ向きあうものでもあります。生み出したイノベーションによる解決策を海外に展開することは、日本企業にとって大きなビジネスチャンスになる可能性も秘めています。国内市場が縮小し、海外市場に活路を見出す日本企業にとって、共創の果たす役割や意義はますます大きくなると考えられます。

    関連記事:「共創とは?求められている背景と3つの種類、得られる効果