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vol. 08

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人の心を動かすためのデザインとは。児玉秀明が伝える、感性に響くコミュニケーション

  • イノベーション

あらゆるビジネスの場において、コミュニケーションは必要不可欠でありながら、他者に想いやアイデアを伝えることは容易なことではありません。自分たちのメッセージやアイデアを伝え、人の心を動かすには何が必要なのでしょうか? さまざまな企業のブランディングやコミュニケーション開発を手がけるアマナのクリエイティブエバンジェリストであり、OPEN HUBカタリストの児玉秀明氏は、そのヒントはデザインにあると語ります。2022年9月7日にOPEN HUB Parkにて開催された児玉氏による講義とワークショップの模様をお届けします。

VUCAの時代に必要なデザイン思考

ビジネスの世界でデザイン思考やデザイン経営という言葉が頻繁に聞かれる昨今。講義の冒頭、児玉秀明氏はつい最近まで世界で最も多くのデザイナーを抱えていたと言われるIBMが、すでに1950年代から“Good Design is good business”の標語を掲げていたことに触れます。

「デザインは昔から、ビジネスの中に浸透していたのです」

そもそも「デザイン」とは何を意味するのでしょうか? その解釈は広がり、変遷していると児玉氏は説明します。

児玉秀明|アマナ クリエイティブエバンジェリスト
マッキャン・エリクソン博報堂(現マッキャン・エリクソン)入社。アートディレクターとして活躍した後、フリーランスデザイナーを経て、アマナグループの前身である広告写真制作会社のアーバンパブリシティに入社。株式会社アマナの取締役であると同時にクリエイティブ・ディレクターとして長らくコーポレートブランディングを担当。現、amana Creative Knowledge Laboratory代表フェロー

「日本にデザインという言葉が入って来て以来、デザインは意匠、つまり色や形などのvisibilityを意味してきましたが、今ではモノをどう伝えるのか、つまりcommunicationをも意味するようになり、UIデザイン、UXデザインなど、コトや体験のデザインへと広がっています。さらにデザイン思考や、デザイン経営などのthinkingへと変遷してきました」

そんなデザインはビジネスにおいて、ユーザーの観察からマーケットリサーチ、プロトタイピングからプレゼンテーション、最終的なブランディングに至るまで、「ビジネスの中のOSとして機能している」と児玉氏は話します。

2018年には経産省と特許庁が報告書『「デザイン経営」宣言』を取りまとめました。デザイン経営による企業のブランド力やイノベーション力の向上を図らなければ世界に負けてしまうことに日本はようやく気づいたようです。

児玉氏曰く、今日のビジネスにおけるデザインとは「経営課題解決のための武器」です。変化が激しく、先が見えないVUCAの時代に、今までのようなクリティカルシンキングやフレームワークなどのロジカルシンキングだけでは課題の解決に至らなくなりました。

「ロジカルシンキングが悪いのではありません。ただ創造性にはきっかけが必要で、きっかけを作るときの拡散思考としてアート思考やデザイン思考、つまりクリエイティブシンキングが必要だということです。初めからロジカルに思考すると答えが皆同じになってしまいますから、新しいものは生まれません。クリエイティブシンキングを駆使して何かのきっかけをつかみ、最終的には収束思考としてロジカルシンキングで答えを導くのが良いのです」

それを裏付けるのが、かのアルベルト・アインシュタインの言葉です。

「理詰めで物事を考えることによって新しい発見をしたことは、私には一度もない」

物理学者であっても、まずは右脳によるひらめきこそが重要でした。

最近では「科学者の頭脳と詩人の感性」を持ち合わせているRenaissance thinker(ルネッサンスシンカー)という言葉も聞かれます。

「アートの感覚とエンジニアの感覚を持ち合わせていたスティーブ・ジョブズはまさにその一人でした。先ほど紹介した元LVMHのポーリーンさんは、ビジネス脳とクリエイティブ脳を分けるのは時代遅れになりつつあると言います。ルネッサンスシンカーでないと、これからの時代を切り拓いてはいけないということです」

伝わるコミュニケーションとは?

講義の後半は、この日の主題である「人の心を動かすデザイン」について話が繰り広げられました。

児玉氏は「伝わるとは、相手の心を動かし、相手の行動を変えるまでのこと」と、繰り返し強調します。

「伝えているのに伝わらないのは、伝えるけれど相手の行動を変えるほどには伝わっていない、つまり相手の心が動いていないということです」

では、何が人の心を動かすのでしょうか? 児玉氏は『どう伝えるか』ではなく、『どう伝わるか』、を考えなくてはいけないと話します。

「相手の気持ちになって考えることです。私、あるいは、うちの会社はこういうことを伝えたい、ではなく、これを伝えることによってユーザーやお客さまはどのようなメリットを感じ、ワクワクするのかを考えることです」

今日、ビジネスのあらゆる場面でデザインが機能しているということでしたが、デザインにおいて鍵となるのは人々の感情を突き動かすような「物語(ストーリー)」だと児玉氏は述べます。

その一例として、児玉氏は2021年の「デジタル立国ジャパン・フォーラム」でのオードリー・タン氏のスピーチを紹介します。台湾のデジタル担当大臣を務めるタン氏は、ビジネス界のデジタル革命をテーマにスピーチを行いましたが、プレゼン資料も使わず、デジタル化の事例として水道管の水漏れ検知の作業を自動化した会社のエピソードを挙げながら、デジタル化のメリットを“ユーザーにとって身近な物語”として視聴者に伝えました。それは詳細な情報を羅列したプレゼン資料を使い、難解な言葉を重ねた日本のスピーチとは対象的でした。

情緒的感性が人の心を動かす

「日本人は情報を説明しようとしますが、“伝える”のではなく、“伝わる”ことを考えなくてはなりません。さらにそこには、パワフルで訴求力があり、記憶に残る言葉と表現が必要です」

世界の音楽産業を変えたとも言われる「iPod」を初めて披露した際の、スティーブ・ジョブズがプレゼンテーションで伝えた「1000曲をポケットに」というシンプルなメッセージはその最たる例です。短い言葉で、難しい言葉もありませんが、聴衆を魅了しました。

技術的なことを細かに説明したところで人の心は動きません。得られるメリットやワクワク感などが人の心を動かし、機能的価値ではなく情緒的価値の伝達が共感と共創を生むのです。

さらに「言葉の力」を感じさせる例として、児玉氏はある盲目の生活路上者を題材にした動画を流します。「目が見えません。お恵みを」と書かれた段ボールを見て足を止める人はわずかでしたが、「今日もいい日だね。でも僕には見えないんだ」と書き換えただけで多くの人がコインを置いていく様子は、指示的機能よりも情緒的機能によって人々が共感を示すことを表していました。

「言葉には情報と感性を伝える2つの力があります。それをうまく活用することです」

そう述べた児玉氏は、写真にも同様に情報と感性(感情)を伝える2つの機能があることに触れ、2枚の報道写真をスクリーンに映し出しながらFact(情報)とStory(物語)を伝えるそれぞれの写真の違いを説明します。

アマナはかつて「感性に伝わるフォトニケーション 伝えるから伝わるへ」という本を出しており、そこで写真がどのように人の心に響くかをひもときました。

児玉氏はそうした感性に響く写真を活用した実例として、小山薫堂氏による日光金谷ホテルの施策を取り上げます。従業員がそれぞれ気に入っているホテル内のさまざまな箇所をプロの写真家が撮影し名刺にプリントすることで、ホテルへの愛着を可視化したプロジェクトは、ホテルの機能的価値ではなく働く人たちの感性的価値を顧客に伝えることに成功し、円滑なコミュニケーションと従業員のモチベーション向上につながった成功例です。

児玉氏は最後に、アマナでは現在、感性を可視化するエモーショナルスケールを使った“感性の翻訳機”のようなAIを研究していると話しつつ、ハーバード・ビジネス・スクール教授の竹内弘高氏による人とデジタルの役割を示す指標を紹介して講義を締めくくりました。

「これからの時代、ビジネスの0から10のスケールのうち、1から9までの領域をAIやロボットが代替していくことになるでしょう。しかし無から有を生み出す0-1と、感性と美意識を使う9-10の領域は人が関わるべきだと竹内氏は考えます。逆に言えば情報化社会から感性化社会に向かっていかなければ、人間が働く場所はなくなっていくということです」

人の心を動かすには感性が求められ、その感性を磨くことが、これからの時代に必要不可欠となりそうです。

常識を疑うアナーキーであれ

約1時間の講義の後は、児玉氏の講義内容を参考にしたワークショップが行われました。参加者はグループに分かれて、「伝わるコミュニケーション、伝わるデザイン」について話し合います。

テーマは「自社の人たちがOPEN HUBに参加したくなるような伝わるコミュニケーションを考える」。

まずはチーム内で名刺交換を行い、自己紹介をしながらアイスブレイク。各々の業務内容やプログラムに参加した理由なども伝え合います。


ワークではテーマを考える上で2つのトピックが与えられ、思い付いたことを付箋に書き記し、互いの考えをシェアします。最初のトピックは、「OPEN HUBの魅力をリストアップし、自社の人に伝えるストーリーを考える」。2つ目は「自社の人の否定的な意見と疑問をリストアップしその懸念を和らげるストーリーを考える」。

集中してたくさんのアイデアを付箋に書き込むグループがある一方で、話に夢中になり付箋の書き込みが進まないグループもありましたが、年代も業種も異なる参加者が活発に意見を交わす様子は、人と人とがつながり共創することを掲げるOPEN HUBらしい場面でした。


ワークの締めくくりでは、各チームがメンバーの意見をまとめ、発表を行いました。いかに「伝わる」ように伝えるかについて、以下のようなコメントが上がりました。

「リスクや時間の無駄を回避したがる社内の人たちに対して、いかに彼らのニーズに応え、感性に訴える説明をして心を動かすかがポイントだと思う」

「技術系の開発者たちは見方が狭くなりがちですので、自分の範囲に閉じこもることなく、他部門の人たちと接するとブレークスルーがあるのではないかとこの場で感じました。そんなことを期待しながら伝えてみたいと思います」



こうしたさまざまな意見や感想が聞かれた後、最後に児玉氏からの講評と総括がありました。

「“伝える”から、“どう伝わるか”を意識して視点を変えるだけでも、社内でのコミュニケーションも、普段使う言葉も違ってくると思います。会社ではイノベーションを!と言われていると思いますが、普段から“なぜこれはこうなのだろう?”と、違和感を覚えていただきたい。それも感性なんですね。感性を鈍らせないためにも、常識を疑い、どこかアナーキーなところを持ち続けてください」

さらに児玉氏は次のように語りかけてこの日のプログラムの幕は閉じました。

「日本はデジタル後進国と言われ、経済的にも停滞し、今難しい局面にあります。OPEN HUBを通して皆さん一人一人の力で日本を変えていくためにも、ぜひ感性に響くコミュニケーションを活用していただきたいと思います」

OPEN HUB Baseでは、11月9日(水)に経済産業省×OPEN HUB メタバース勉強会を開催予定です。
内容の詳細、参加申し込みはこちらよりお願い致します。
https://openhub.ntt.com/event/4621.html
※申し込み多数により募集を締め切りました。

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