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Carbon Neutrality
2022.07.01(Fri)
目次
勉強会の前半となる第1部では「日本企業の行うべきサーキュラー化に向けたアクション~海外先進事例を踏まえて~」と題し、安居氏による講演が行われました。
そもそも「サーキュラーエコノミー」とは何なのでしょうか。従来の大量生産・大量廃棄・買い換え需要に頼った経済モデルは、地球の資源を採って物をつくり、使い、最終的に廃棄するリニアエコノミー(一方通行型モデル)でした。
このリニアエコノミーにおいて廃棄物とされていたものを資源として再活用して物をつくり、使い、つくり続けるという循環を繰り返すのが、サーキュラーエコノミー型の経済モデルです。廃棄を前提としているリニアエコノミーと異なり、最初から廃棄が出ない設計やデザインが実装されている点がサーキュラーエコノミーの大きな特徴となります。
一見すると従来の「リデュース・リユース・リサイクル(3R)」やアップサイクルの考え方に近いようですが、この3Rエコノミーとサーキュラーエコノミーはまったく異なるものだと安居氏は強調します。
「リサイクルは最後には捨てられることが前提です。例えばペットボトルのリサイクル。そもそもペットボトルは製造段階で廃棄されることが前提となっていますよね」
サーキュラーエコノミーの実例として挙げられたのが、この日安居氏がはいていたオランダのサーキュラーエコノミージーンズ「マッド・ジーンズ(MUD Jeans)」。このジーンズは月額制のリース商品で、利用者が履きつぶした後は企業に返却され、繊維を再利用することで再びジーンズとして供給されるというものです。
「マッド・ジーンズでは、利用者がジーンズを捨てずに、企業に戻してもらう前提で月額制を採用しています。また、繊維の再生に不向きな革ラベルを取り除いたり、再利用しやすい前ボタンを採用したりと、これまでのジーンズの設計・デザインを抜本的に見直しているのが大きな特徴です」
オランダが加盟しているEUではサーキュラーエコノミーに関する政策が打ち出されています。その1つが2020年3月に発表された「新循環型経済行動計画」。安居氏はそのなかに盛り込まれている「修理する権利」によって生まれている新しい生産と消費のあり方について説きます。
「利用者は修理する権利を持っているという観点から、メーカーは製品を修理できる設計にしておかないとヨーロッパでビジネスを続けられなくなるという勧告がされました。例えば家電が壊れてしまった場合、これまでは廃棄するしかなかったものを、修理して長く使い続けるといった狙いがあります」と安居氏。
修理する権利が守られた製品の1つがオランダのスマートフォン「FAIRPHONE」です。特別な知識や工具を必要とせず、誰でも簡単に分解・部品交換ができるような設計になっています。
また、この「修理する権利」が日本でも普及すると地域活性化につながると安居氏は強調。従来の大量生産・大量消費型ビジネスでは中国やインドなどで安く製造された製品が海外市場に出荷され、それらの処分もその市場周辺で行われますが、サーキュラーエコノミーにおいては市場と生産拠点の距離が近くなる傾向があるといいます。
つまり、日本市場に供給するサーキュラー製品を海外で安くつくるのではなく、日本の町工場を拠点に製造し、さらにそこで修理を行えば経済活動が生まれます。さらに町工場だけでなく流通や林業といった地域経済の活性化、地域大学との連携による技術力の向上、雇用創出も期待できます。
実は日本でも江戸時代にはサーキュラーエコノミーが完全に達成されていたと安居氏は話します。江戸時代はほとんどの製品が綿や麻、木といった自然由来の物でつくられており、修理や再資源化が当たり前のように行われていたそうです。
イギリスのネイチャー誌が公表した研究結果によると、1900年代初頭には地球上にわずか3%しかなかった人工物は、2020年12月時点で自然由来の物質の量を上回る「クロスオーバーポイント」に到達したそうです。この事実には参加者からも驚きの声が上がりました。
安居氏は「私たちがサーキュラーエコノミーを実践する際には、自然由来の物と人工物を分けて捉えることが非常に重要です」と話し、「例えば麻のTシャツ。これにポリエステルが混ぜ込まれるだけで、その後の用途は非常に狭まってしまいます。できるだけ複合材よりも単一素材でつくるといった取り組みが必要になります」と続けました。
さらに話はサーキュラーエコノミー先進国オランダの政策に及びます。オランダでは2016年「Government-wide programme for a Circular Dutch Economy by 2050」を発表、これは2050年までに社会全体を完全サーキュラーエコノミー化するという取り組みです。
サーキュラーエコノミーのアプローチが無数にあるなかで、やみくもに取り組むのではなく優先順位をつけ、優先度の高いところから着手することがこの政策では重視されていると安居氏は説明します。
「アムステルダム市で発生している廃棄物に対して行われた研究結果によると、廃棄物全体の約23%が建築業界から出されていることがわかりました。それを受けて、建築分野のサーキュラーエコノミー化が優先的に行われています」
その一例として挙げられたのが「BUILDINGS AS MATERIAL BANKS(資材銀行としての建物)」です。分解できる建材で建物をつくることで、建物が不要になったら分解・再利用し、廃棄物を出さない建材の活用が進められています。
また、建材の素材情報や修復履歴をQRコードとして刻んでおくことで素材の価値を落とさないマテリアルパスポートの活用も行われており、例えば数十年、数百年という時間を経ても、その素材が単一素材なのか複合材なのかをデータを読み込むことで識別できるようなデータ管理が進められているそうです。
講演の終盤に安居氏が取り上げたのが、サーキュラーエコノミーパッケージの話。これは製品ではなく容器のサーキュラーエコノミー化についての考えです。
グローバル企業であるザ コカ・コーラ カンパニーは南米市場でボトルの規格統一化を進めており、日本のビール瓶のように一度市場に渡ったボトル容器を回収し、再利用する仕組みをつくっています。
もちろん素材の見直しだけでは十分ではありません。例えば、スーパーの生鮮食品の鮮度を保つためのプラスチック容器。サーキュラーエコノミーを実践するにあたり、梱包容器を扱っているメーカーであれば生分解性素材にするといったアプローチが考えられそうですが、安居氏はここでRethink(発想の転換)が必要だと強調します。
例えば、そもそもプラスチック容器の役割が鮮度を保持することであれば、鮮度を保持できる酵素の入ったスプレーを開発し、それを食品にかければ十分梱包容器の代替となります。このような梱包や保存容器本来の役割を捉え直すことが必要なのだというのです。
そして、メーカーが行うサーキュラーエコノミー化については、どこでどの企業が容器を回収し、どのように活用するかが非常に重要だと安居氏は続けます。
「最近、廃棄ペットボトルを繊維化してTシャツやタオルをつくる取り組みが見られますが、一度Tシャツのような形にしてしまうと、資源として再利用する技術を持っている工場はとても限られてしまい、結果廃棄につながる可能性が高くなります。素材選びだけでなく、それをどのように回収して再活用するかという下流部分について考えることもサーキュラーエコノミーにおいては非常に重要です」
例えばメーカーや小売り企業が産業廃棄物処理企業と意見や情報を共有することで、新たなビジネスモデルを創出できる可能性が生まれる。サーキュラーエコノミーの考えにのっとると、市場から生産拠点に戻るという新しい流通が生まれ、これまでは競合関係であった企業間に連携の動きが見られるようになるといいます。
第2部ではサーキュラーエコノミーをさらに実践的に理解するために、参加者の皆さんが自社ビジネスのサーキュラーエコノミー化を検討し、最終的に「バタフライダイアグラム」を描いてみるというワークが、安居氏とOPEN HUBカタリストとともに行われました。
バタフライダイアグラムとは、サーキュラーエコノミーを実現するための循環を表した図表で、人工物と自然由来の物質を分けた循環を考える上で非常に有効な方法なのだといいます。
資源を投入する地点から、企業が加工・製造・販売を行った後、利用者から企業に戻る際に描かれる円の大きさが重視されています。この円が小さいほど経済と環境の面でメリットがあると考えられるのです。
例えばリサイクルを行うためには工場や輸送が必要になりますが、それらの工程が必要ないリユースはリサイクルよりもコンパクトな円を描きます。利用者自身が修理やメンテナンスをすれば、円はさらに小さくなり環境への負荷は大幅に低減できます。
バタフライダイアグラムを描くためには自社のビジネスを客観的に眺め、サーキュラーエコノミー化に必要な情報を整理することから始まります。
まずは自社のミッションとバリュープロポジションの洗い出しを行い、次にサーキュラーエコノミーをデザインするために考えられる「機会」や「脅威」をもとにした自社ビジネスの改善ポイントを考えるという流れでワークが進められました。
「バリュープロポジション、つまり顧客が大事にしていることはRethink(発想の転換)でアイデアが広がります。顧客はこれを大事にしているということが、自分たちの思い込みになっていないか。広い視点で見ると新しいサーキュラー型ビジネスモデルにたどり着くかもしれません。
例えばマッド・ジーンズは、顧客に捨てさせず企業に返却してもらうための手段として、販売ではなくリースや月額制を採用しました。
具体的なイメージを膨らませてみると、実はサーキュラーエコノミー型のビジネスにまったくメリットが見いだせない、という結論に行き着くことも当然あり得ると思います」
安居氏からのこのようなヒントをもとに、参加者同士での意見交換も行われながらワークは進行しました。
バタフライダイアグラムを描くにあたって、これまで意識してこなかった視点からビジネスを捉え直すことにチャレンジした参加者たち。サーキュラーエコノミーと自社ビジネスを紐づける良い思考トレーニングになったようです。ワークを終えた参加者の皆さんに感想を伺いました。
「サーキュラーエコノミーは地球環境に貢献する仕組みの一つというイメージでしたが、勉強会ではいろいろな業種で実践できるビジネスモデル形態であることを理解しました。今日学んだことを組織内で共有し、また今後OPEN HUBで行われるダイアログのようなイベントにも積極的に参加したいと思います」(日本電気株式会社 西田圭介さん)
「社内でサーキュラーエコノミーの担当をしていますが、ワークを通じて体系的に知識を再整理することができました。サーキュラーエコノミーに馴染みの薄い、より現場に近い仲間がこのような勉強会に参加することで、自分の仕事との関わりを振り返るきっかけとなり、社内で幅広く理解を深められるのではないかと思います」(株式会社ブリヂストン 本橋淳さん)
「自分が想像していたよりも世界は未来のことを考えているのだな、というのが率直な感想です。サーキュラーエコノミーやSDGsという言葉が世の中にあふれていますが、価値観を押し付けるのではなく、世の中ではすでにこういう考え方が進んでいるのだということを理解してもらえるような教育や伝え方が大事だと思いました」(東日本旅客鉄道株式会社 新倉拓朗さん)
「自分だけでは気づかない部分をインプットとして教えていただき、ワークでアウトプットもサポートしていただいたので非常に勉強になりました。リアルな場所・人の集まる場所を持っている我々がどのようにサーキュラーエコノミーを実践していくか、今後はその仕掛けつくりを勉強していきたいですね」(東日本旅客鉄道株式会社 渋谷春奈さん)
「今までは建築時の温室効果ガスの削減やカーボンマイナスの視点から建築物を考える機会は多かったのですが、『設計の段階から分解を前提に考える』という廃棄を出さない建築という視点が新鮮でした。まだまだ日本では実績も少ないと思いますが、修理・再活用を踏まえたサーキュラーデザイン化を検討していくことへの関心が高まりました」(大東建託株式会社 喜内慶子さん)
「修理や再利用も含めたビジネスモデル構築を初期の段階から戦略に組み込むことこそが、消費者に望まれるモデルとなり、今後のビジネスの根幹となりつつあると実感しました。それと同時に、サーキュラーエコノミーを企業イメージアップの戦略として捉えることについても、考えを改めさせられることとなりました。この新しいビジネスモデルの構築は、チャンスであるだけでなく、取り組まなければ時代に乗り遅れるリスクともなると認識できました」(Amazon Japan合同会社 小川修平さん)
最後に安居氏は「サーキュラーエコノミーの認知度を100%にする必要はないと思っています。全体の5%の人が動けば社会は変わると言われています。日本なら500万人です。手探りでも本質的な仕組みを一つひとつ整えていくことが日本の社会をシフトしていくきっかけになると思います」と締めくくりました。
ここ数年、耳にしない日はないくらい一般的な言葉となったSDGs。サーキュラーエコノミーはSDGsを達成するために必要な実践的な考え方の一つであること、そして従来のリサイクル型ビジネスとは根本的に違うものであること、そして実践には発想の転換が必要であることへの理解が、日本のサーキュラーエコノミー化を加速する鍵になると言えそうです。
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