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Carbon Neutrality
2022.05.13(Fri)
目次
企業が行うカーボンオフセットは「Compliance Carbon Offset」と呼ばれ、 温室効果ガス排出量が法的に規制されています。規制は各地域や国ごとに達成目標が設定されていて、企業のなかには独自の削減目標を設定している場合もあります。
企業にとっては、温室効果ガス排出量の削減に向けた戦略の立案やカーボンオフセットを行うための取引先の確保は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも重要です。さらに、企業が投資家や顧客と協調して、低炭素社会を実現する技術やイノベーションに投資することの必要性も説かれるようになりました。本稿では、シリコンバレーおよび世界で活動しているカーボンオフセットに寄与する企業向けソリューションを提供している海外スタートアップ事例を紹介します。
カーボンニュートラルとは国や企業が取り組むもの、と捉えている人もいるかもしれませんが、企業が個人の活動を活発化させる仕組みも生まれています。シリコンバレーのスタートアップであるAerial.isが提供しているのは、企業の社員一人ひとりのカーボンオフセット活動を促進するソリューションです。
Aerial.isのソリューションは、ビジネスパーソンの出張をターゲットにしたカーボンオフセット。これは、メールボックスの中から出張の移動に関する文書を検索し、標準的なカーボンプライシングの情報をもとにカーボンオフセットを計算してくれるというもの。
設定はとても簡単。Aerial.isのスマートフォンアプリをインストールしてアプリを立ち上げたら、メールアドレスを入力するだけ。設定が完了すると、アプリがメールボックスを検索し、カーボンオフセットのためのプロジェクトを提案してくれます。アプリでは、カーボンフットプリントの削減につながる行動の提案や、仲間同士でカーボンオフセット活動を競い合う機能の提供も行っています。
また、分析結果はブロックチェーンをベースにした独自のNFTプラットフォームで管理されているため、データの改ざんは困難。同社では、このNFTプラットフォームを活用し、企業が持つコンテンツを守るソリューションの提供も始めています。すでに数社の企業が自社の映像や音楽、デザインなどを守るために利用を開始しているとのことです。
シリコンバレーでは、以前にも増してEV(電気自動車)の割合が増えました。交差点で信号待ちをしていて、ふと気がつくと前後左右をテスラの自動車に囲まれていることがよくあります。
コロナ禍以前、シリコンバレーにある世界最大級のイノベーションプラットフォーム「Plug and Play Tech Center」には、EV充電スタンドは4機しかありませんでした。しかし、コロナ禍のSIP(屋内退避)期間中に12機に増設。それでも常に満車状態。EV充電スタンドの数はまだまだ十分とはいえず、気がついたら目的地までのルートではなく、EV充電スタンドの場所ばかりを探している、といったことがよくあります。
イスラエルのスタートアップであるAutoFleetは、そんなEVオーナーの悩みを解決するソリューションを提供。同社が最初に手掛けたのは、配送業をターゲットにしたEVの配車マネージメントです。エリア内にあるEVを管理し、どんな種類のサービス車両でも最適に配置、スムーズな運行を実現します。このサービスを利用すれば、初めて配送サービスを始める事業者でも、EVを使って簡単にビジネスを始めることができます。
AutoFleetは、車両の運行状況やドライバーの状況はダッシュボードを通じて管理者がリアルタイムに確認できたり、スマートフォンアプリを使うことで、バッテリーに優しく効率的な配送ルートを選択することができるなど、4つの機能で構成されています。
オペレーションマネージャーであるタル・ホーホバウムさんは「私たちのアプリは交通渋滞、事故レポートも考慮して配送ルートを提案している」と話します。AutoFleetのプラットフォームを利用することで、EV運用やEV充電スタンドの設置計画、充電タイミングなどが最適化されるというメリットがあります。
一般ユーザー向けのサービス提供の可能性については「関心はあるが、自動車メーカー、カーナビメーカーなどを通じたB2B2Cモデルになるだろう」との回答。すでにシンガポールの配送事業者がサービスを導入し、今後さらなる展開が見込まれます。
アメリカ・ニューメキシコ州ロスアラモスのUbiQDは、量子ドットという直径が2〜10ナノメートルの極小の半導体を使った新素材を開発しています。通常、フィルム状にして液晶モニターなどで使われることの多い半導体ですが、UbiQDの創設者でCEOのハンター・マクダニエルさんは「この技術を農業やクリーンエナジー、セキュリティの分野へと展開していきたい」と展望を語っています。
UbiQDの量子ドットは、有害な化学薬品を使わずに量子ドットフィルムを大量生産することができます。これは、他社製品と比べると大きなアドバンテージ。さらに2つの特徴があります。
1つめは、太陽光の変換です。太陽光はさまざまな波長で構成されていますが、同社の量子ドットフィルムが植物の成長に寄与する波長に変換し、効率的に植物を育成することができるのです。すでにハウス栽培で活用されています。
2つめの特徴は、太陽光発電。量子ドットフィルムは極めて高効率に光を吸収・再放出する性質をもっているため、太陽光発電ユニットに接続することでエネルギー効率の優れた発電が可能になるのです。現在、オフィスビルやホテルで実証実験が行われています。
シリコンバレーでは、Aerial.isやAutoFleetのように、企業が持つデータや企業活動によるライブデータを活用したサービスや、UbiQDのような新たな素材開発による低炭素社会の実現を目指すスタートアップが誕生しています。1〜2年前までは、カーボンニュートラルはエネルギー業界を中心に語られることが多かった印象ですが、今ではモビリティやサプライチェーン、ファイナンス、フード、トラベルなどさまざまな業界が参入しています。今後もさらなるマーケットの活況が期待され、目の離せない分野になりそうです。
前編記事はこちら:「シリコンバレーから見る、カーボンオフセットビジネス最前線 前編」
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