Carbon Neutrality

2022.04.22(Fri)

シリコンバレーから見る、カーボンオフセットビジネス最前線 前編

#環境・エネルギー #サステナブル #事例
カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガス削減やカーボンオフセット活動に取り組む企業や個人が増えています。カーボンオフセット市場と呼ばれる通り、温室効果ガスの排出枠取引が活発化するなか、新しいソリューションを開発する企業が数多く登場しています。今回は、シリコンバレーを拠点に活動するNTTコミュニケーションズの小室智昭が、いま注目すべき最新のスタートアップビジネスを紹介します。

目次


    年々倍増する、温室効果ガス排出枠の取引量

    カーボンオフセット市場は、新たな取引システムが世界的に確立し、地域的な取引需要が増えたことで成長傾向にあります。企業や政府はCSR活動の一環として戦略的にカーボンオフセットに取り組んでいます。

    企業ベースの市場と比べると小さいですが、個人ベースの市場も成長しています。エコシステムサービスに関する情報提供を行う非営利団体Ecosystem Marketplaceによると、2019年の温室効果ガス排出枠の取引量は、2016年の約3倍の規模にまで急成長しています。

    個人ベースのカーボンオフセット市場の動向

    ここでは、シリコンバレーおよび世界で活動しているカーボンニュートラルに関するサービスを提供するスタートアップを取り上げていきます。前編では一般消費者向けに展開する3つのサービスを、後編では、企業向けに展開するサービスをご紹介します。

    CO2排出削減プロジェクトのプラットフォーム「CHOOOSE」

    ノルウェーのオスロに本社を置くCHOOOSEは、世界中の気候変動対策プロジェクトと交流し、信頼度の高いプロジェクトの情報を集めたオールイン・プラットフォームとして、企業や個人向けにオフセット活動の利用や導入を推進しています。

    例えば、イギリスのヒースロー空港は、CHOOOSEを使って、旅行プランとともにオフセットを行うためのプロジェクトを提案。もちろん、オフセットをするかしないかは利用者の自由です。

    ヒースロー空港の導入事例。発着地を入力すると、渡航で発生するカーボンフットプリントの量を計算してくれる

    同社の共同創業者であり、ストラテジックパートナーシップ責任者のマーティン・クベイムさんは、先述したEcosystem Marketplaceのレポートを参照した上で、「温室効果ガス排出の規制強化やユーザーのカーボンオフセットへの関心の高まりで、個人のカーボンオフセット市場はさらに成長する」と話してくれました。

    CHOOOSEは自社のウェブサイトでも、カーボンオフセットのためのサービスを提供しています。これは、参加者のオフセット活動をウェブサイト上で見える化するダッシュボードで、活動のモチベーション向上を促します。同社は積極的にパートナー開拓を行っていて、日本の大手旅行代理店も参画するなど、さらなるグローバルな展開が期待されます。

    回収ボックスで新たなサイクルを生みだす「Olyns」

    Olynsは、ペットボトルなどのプラスチック資源を回収する仕組みを開発するスタートアップです。「毎年1000億個のプラスチックがリサイクルされずに捨てられている。リサイクルのニーズに対する回収量が圧倒的に少ないんだ」と共同創設者兼CEOのフィリップ・スタンガーさんは現状を憂いています。

    カリフォルニア州では、飲料を購入した場合、CRV(California Redemption Value)という費用がペットボトルや缶、瓶などの飲料容器に課せられています。CRVは飲料の製造メーカーが政府に支払っていますが、その費用は価格に上乗せされることが多いため、結果的には消費者がCRVを支払っていることに。CRVは払い戻し可能で、消費者はリサイクル資源を店舗やリサイクルセンターに持ち込むことで、払戻金を受け取れる仕組みになっています。しかし、対面でのサービスが中心のため、手間がかかったりと煩わしい側面もあり、これが回収率が上がらない理由の一つと言えるかもしれません。

    リサイクルに関する市場動向(左)、Olynsのサービスの流れ(右上)、Olynsの回収ボックスを利用している様子(右下)

    そこでフィリップさんはOlynsを立ち上げ、無人型の回収ボックスを開発。利用者にとっては、リサイクル資源を回収ボックスに入れるだけでCRVの払戻金をPayPalのポイントとして受け取ることが可能に。また、ユーザー自身で払戻金を受け取れるため、店員の手間を減らすことにもつながり、回収率の向上につながっています。

    また、店舗側もボックスの利用をきっかけに訪れた新たな顧客の獲得が期待できるメリットがあり、Olynsにとっても、回収ボックスの大型ディスプレイに広告を表示することで、もう一つの収益モデルを構築しているのです。

    2022年の「スーパーボウル」の会場に設置されたOlynsの回収ボックス

    開発当初は、回収する資源を認識する精度が低く、投入口が詰まってしまうトラブルも多かったようです。現地で故障した回収ボックスを修理しているフィリップさんの姿を何度も見かけました。今では性能が上がり、故障もほとんどなくなったようです。

    Olynsのスマートフォン向けアプリでは、回収ボックスの場所や稼働状態を示す地図、PayPalマネーの表示と換金、利用者のランキングなどが確認できます。今後は、ギグワーカーが資源を回収してリサイクル業者まで搬送する仕組みを検討しているとのことです。

    ネットショッピングにエコ習慣をもたらす「EcoCart」

    最近、ネットで買い物をすると支払い時にカーボンフットプリントを表示するウェブサイトが増えています。カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルまでの各過程で排出された温室効果ガス排出量をCO2量で表示したものです。

    ここで紹介するEcoCartは、オンラインコマースを通じてエコを応援するスタートアップです。同社は、商品製造に伴う温室効果ガスの排出量を自動的に計算し、購買行動を変えることなく、購買者がオンラインショッピングを通じてエコに貢献できるようにするAPIを提供。EcoCartの共同創設者兼CEOのデイン・ベイカーさんは「サービス開始後8ヶ月で300以上の企業がEcoCartのサービスを利用するようになった。そして、EcoCartのプラットフォームを利用している企業の業績は成長した」と説明しています。

    EcoCartの機能は、ブラウザにインストールするかたちでも利用可能。一般利用者がウェブブラウザで商品を検索すると、検索結果にEcoCartのロゴが表示され、環境負荷の軽減に貢献できる商品が一目でわかるようになります。

    EcoCartの算出方法では、同じ製品を購入する場合でも、より近い場所にあるお店から購入する方が温室効果ガスの排出量が少なくなります。そうすることで、結果的に地元の店舗を救済するソリューションにもなっているのです。

    EcoCart社が貢献しているSDGs事例

    また、EcoCartのプラットフォームを採用しているオンラインショッピングサイトで買い物をした場合、購入者は植林の寄付に利用できるポイントがもらえます。コミュニティ全体で、すでに50万本に相当する樹木の保護に貢献。カーボンプライシングのための森林が不足している現状を考えると、EcoCartの取り組みは今後さらに重要になるのではないでしょうか。

    人を動かすソリューションがライフスタイルを変えていく

    シリコンバレーのあるカリフォルニア州は環境意識が高く、例えば2018年のJATO社の調査によると、カリフォルニア州のEVの販売台数は全米の販売台数の約4分の1を占めています。EVシフトは、コロナ後のガソリン価格の高騰でさらに進むと予想されます。同じアパートに住む友人は、会うたびに「Teslaに乗り換えてよかった」と言います。

    一方、リサイクル分野において特に多く見られるのが、物体認識とAIを使って資源分別の自動化ソリューションを開発しているスタートアップです。そうしたソリューションに加えて、今回紹介したOlyns社のようなサービスが広がれば、資源回収の手間や労力が減り、さらにリサイクルが進むことでしょう。

    人々の環境意識と、行動を後押しする技術が合わさることで、取り組みは加速していくのだということを肌で感じています。人々の活動に付随するかたちでカーボンオフセット活動を促すような新しいサービスの存在は、ライフスタイルのあり方を刷新していくかもしれません。

    関連記事:「カーボンクレジットとは?企業のメリット・デメリットと取り組み事例

    関連記事:「カーボンニュートラルとは?気候変動に対する国や企業の取り組み事例

    この記事の評価をお聞かせください
    低評価 高評価
    必須項目です。
    この記事の感想があればお聞かせください