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Hello! OPEN HUB
2022.04.01(Fri)
OPEN HUB Catalyst File #04 吉村健佑
目次
——吉村先生は、精神科の臨床医、産業医、さらに厚生労働省での勤務経験もお持ちです。さまざまな視点で医療分野を見た今、医療分野のDXについてどのような課題があると考えますか?
私がDXやICTに関心を持つようになったのは、厚生労働省に入省してからのことです。臨床経験から、当初は「診療は対面ですべきものでは?」とオンライン診療に対して半信半疑で、カルテなどの医療記録も紙で運用するのもやむなしと思っていました。それが2015年の話ですので、医療分野のDXは非常に遅れていたんですね。厚生労働省では、現在のオンライン診療につながる制度のルール整備や、電子カルテを含めた電子的な医療記録の環境づくりなどを担当しましたが、仕事をしていく中で、こうした技術が医療全体を変革していくのだと、その可能性に気づくこととなりました。
現在、医療分野のDXの課題は大きく3つあると思います。1つめは、ベンダー優位のサービス提供。エビデンスや患者さんの利益、医療従事者の使いやすさよりもビジネスが優先されがちで、医療機関側は比較的オーバースペックで高額なシステムを提案されてしまうことが多くなっています。2つめは、その裏返しともいえますが、医療従事者側に医療DXや最新ICTの知識や技能がないこと。医療現場で本当に必要な技術は何なのか、ベンダー側と上手にコミュニケーションが取れないまま、コストが高くて使用頻度は必ずしも高くないシステムが実装されてしまいます。そして3つめは、情報の標準化(マスターコードの整備)が非常に遅れていることです。医療の進歩に伴って治療や検査などが常に変化していくため、医療情報すべてを標準化するのは困難です。加えて医師の間でカルテに記載する診断名にばらつきがあり、言語の標準化を進める努力をしてこなかったことも反省点の1つではないかと思います。
——医療サービスや研究開発の質やスピードを向上させていくためには、何が必要だと思われますか?
質やスピードの前に、どういう患者さんのどのような課題を解決するための研究開発なのか、明確にしてから着手する必要があると思います。患者さんの利益に直結する明確な目的がないまま、「良い製品や良い技術があれば助けになるのでは」という製品・技術ありきの発想だけではうまくいきません。
例えば千葉大学医学部附属病院とNTT Comの共同研究をコーディネートする際、臨床現場のニーズと技術のミスマッチが起きないように、現場の課題とNTT Comが提供できる技術を丁寧にすり合わせることにこだわりました。各診療科を回って20名以上にヒアリングを行い、臨床現場での困りごとや未解決の課題について幅広く意見交換をしたんです。NTT Comの技術がどのように役立てられるのか話し合いを重ねた結果が、現在行っている3つの診療領域での共同研究です。
※参照:
「大学と企業がともにひらく、ヘルスケアDXの未来」
「抗生物質が効かなくなる? 抗菌薬をめぐる課題解決は“秘匿化”にアリ」
「疾患の早期解決へ。医療DXが目指す、患者が参加しやすい「観察研究」のカタチ」
比較的厳しいマッチングを行った甲斐もあり、どれも歯車が噛み合ってうまく進んでいます。想定外のことが起こったとしても、課題に対して技術をマッチさせるために、NTT Com側も柔軟に対応してくれています。
その上で、質やスピードを向上させるためには、研究開発に携わるマンパワーが必要です。現在は圧倒的に不足していると実感しています。医師は大半の時間を診療に取られるため、新たなことに取り組む余裕がほとんどありません。大学病院ですら十分な人員を確保できていない状況で、予算も乏しい。個々の先生方の努力に頼っている状態で、今後新たな研究が進められず停滞してしまうことを危惧しています。
——OPEN HUBを活用して企業との共創を進めることで、医療分野に対してどのようなインパクトを期待しますか?
医療分野はプレイヤーが少なく、閉鎖的な業界でした。医療従事者、患者さん、保険会社、製薬会社ぐらいでしょうか。しかし、このような閉じた状況では財源も限られますし、治療方法の拡大に伴って少数のプレイヤーだけでは間に合わなくなってきています。今まで他領域で実績を出し、医療の世界に参入していなかった企業に参加してもらい、患者さんへ配慮しながらも新たな価値を提供してもらえることを期待します。
未解決の課題は、各診療科にたくさんあります。私が個別にヒアリングして共同研究をコーディネートしたように、医療現場の人たちにOPEN HUBに来てもらってボトルネックを挙げてもらい、それに対してピッチコンテストのような形でソリューションを持っている企業に提案していただくのもよいと思います。単なる情報交換にとどまらず、何を大事にしていて、どのような価値観で動いているのか、分かり合えるような場になると理想的です。
次世代医療構想センターは、2022年4月から「共同研究部門」となり、企業との共同研究を中心に据えた組織になります。医療現場と企業との共創はまだまだ足りていません。大きな流れをつくるためにも、まずは、中長期的な視点で研究開発にお付き合いしていただけるパートナーシップを大切にしていきたいと考えています。
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