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Co-Create the Future
2022.02.18(Fri)
目次
——今や、共創は多くの企業にとって事業を進めるうえで欠かせない手段となっています。あらためて、なぜここまで共創が必要とされていると考えますか?
戸松:戦後から高度成長期において、人々が抱えている課題は衣食住に関わるシンプルなものが多く、個社それぞれが頑張れば、結果として解決できることも多かったと思います。そうした課題を解決し続けてきた結果、いま日本に残されているのは、より複雑かつクリティカルで社会的な難題ばかり。複数の企業が力を合わせ、長期的に取り組まないと解決できないような課題が多いので、共創の必要性もますます高まっていくのではないでしょうか。
中西氏:ビューティーにおける価値観も、これまでは「シミやシワがなければ美しい」などシンプルなものがほとんどでしたが、近年「美しさ」の定義が大きく変動していることを肌で感じています。資生堂は2019年から「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」というミッションを掲げ、多様化する美のあり方に対して価値を提供しようとしていますが、活動を続けるためには資生堂の既存の得意分野だけではまかないきれません。だからこそ、共創にも積極的に取り組んでいます。
——実際に共創に取り組むお2人は、バックグラウンドが異なる企業同士が共創を行うためにどのようなことを心がけていますか?
中西氏:資生堂ではウェルネスやウェルビーイングの観点を非常に大切にしています。それは単なる外見の美しさにとどまらず、からだの内側、ひいては心の美しさまで、人がよりよい人生を歩むための全体的かつ通時的な美を追求していくということです。私たちの共創相手であるスタートアップ企業などに対しても、まずはそこに共感していただけるかどうかを重視しています。
また、実際にプロジェクトを円滑に進めるうえで、「課題意識を持って旗を立てる人がいること」「メンバーの役割がしっかり決まっていること」「取り組みの意義を言語化できる人がいること」の3つがそろっているかが重要になります。チームの座組みについても「この人とこのスタートアップ企業をつなげたらおもしろいかも」と普段から考え、いつまでに何をどのように達成させるかをある程度決めたうえで、メンバーを編成しています。
戸松:まさにハブのような存在ですね。中西さんのような「つなげ上手」が組織にいることも大切だと思います。
——共創に取り組むうえで、課題に感じていることはありますか?
戸松:論理的に正しく、会社の後ろ盾もあり、利益にもつなげられそうなプロジェクトなのに、なぜか熱量が感じられない。そんなケースがしばしば見受けられることです。そうした事態が起きる理由は、所属組織から与えられた宿題をこなすことが目的化し、「プロジェクトを通じて、どうしてもこの課題を解決したい」と強い思いを持つ人がチームにいないことにあります。
一方、原体験をもとに「この問題を解決したい!」と強い思いを持つ、『ドラゴンクエスト』でいうところの「勇者」が我々のもとへ来ることもありますが、社内に仲間がいない場合も多い。魔法使いや戦士など専門性のあるメンバーとパーティーを組み、相互に助け合わなければ、長く旅を続けることは難しいですよね。それと同じで、社内に味方がいなければプロジェクト遂行が難しいので、よいアイデアであれば、うまくパーティーを組めるよう勇者の上司に掛け合うこともあります。
中西氏:ただ正しいだけでは求心力は生まれませんし、情熱を持つ人が1人しかいないのも厳しい。こういった活動は永続できるかどうかが重要ですね。
戸松:社内だけでなく社外にも仲間が必要だと思います。たとえ事情があってA社が共創から抜けたとしてもB社、C社でプロジェクトは続けられますし、時勢が変われば再びA社が戻ってこられる可能性もある。プロジェクトを長期に継続できる土壌、つまり座組みを整える必要があります。
中西氏:そのためにも、組織に合わせるべきことは合わせつつ、プロジェクトとして大事にしたいことは企業を超えて守るべきです。うまくバランスを取りながらかじ取りしたいですよね。
——共創において難しいといわれることの1つに、互いのリソースをどこまでオープンにすべきか、という線引きもあると思います。
中西氏:企業である以上、すべてをオープンにするわけにはいきません。判断するときのよりどころとなるのは、「どれくらい広範囲の人の力を借りて進めたいか」、そして「どれくらい社会的意義があるのか」の2つではないでしょうか。戦略に沿ってどれほどオープンにするか決めることが大切です。
戸松:元々クローズの部分の中には、競争力の源泉である「競争領域」とパートナーと共にスピード感のある市場拡大を狙うべき「共創領域」があります。共創領域については、オープンにて掛け合わせていくと、新しいビジネスチャンスが生まれる場合がある。そうするとジョイントベンチャーの立ち上げも視野に入ってきますね。
中西氏:資生堂でも、2020年にヤーマンさまと合弁会社「株式会社EFFECTIM(エフェクティム)」を立ち上げましたが、今後そういった動きはますます加速していくでしょうね。
——これからの共創に欠かせない手段の1つにデジタル技術があると思いますが、今後それぞれの共創の営みの中で期待されるプロジェクトはありますか?
中西氏:いま盛り上がっているのは、スマートフットウェアを開発しているスタートアップ企業の株式会社ORPHE(オルフェ)と取り組んでいる、美容と歩容(歩き方)の関係性を解き明かすプロジェクトです。研究者と消費者が直接コミュニケーションをとることができるこのS/PARKでも何度かイベントや実証実験を行いましたが、参加してくれたお客さまの生の声に研究員も刺激をもらっていて。共創する相手がスタートアップ企業にとどまらず、消費者へと広がっていると感じます。また直近では、fibonaとしては初の海外共創先として韓国企業「LABnPEOPLE」との連携を発表しています。
戸松:OPEN HUBでは、常時100件程度のプロジェクトが動いています。総合商社と共創してブロックチェーンを使ったフードロス削減の取り組みを行ったり、小売流通業、印刷会社、広告代理店などとデジタル技術を活用した次世代の店舗のあり方を考えたり。また最近では、三井不動産と名古屋の久屋大通公園におけるリアルとバーチャルを往来するパークDXに関するプロジェクトも進んでおり、OPEN HUB Journalでも紹介しています。
参照:「名古屋市・久屋大通公園から始まる、リアルとバーチャルを往還する未来のまちづくり」
——デジタルと美しさの掛け合わせでいうと、SNSやメタバースなどデジタル上での自分の見せ方や美しさについて考える機運が高まってきていますよね。
中西氏:コロナ禍を機にオンラインのつながりが増えたことで「人にどう見られたいか」という美意識が以前に増して顕在化し、自身の内面との向き合い方も変化しています。私が考えるその先にある世界は2つあり、1つはウェルビーイングのために自身の生体データを有意義に活用する世界。もう1つはメタバースに代表される「生身の人間ではない自分」を自分らしい、美しいと感じる世界です。後者は生身の人間のメイクアップが意味をなさない未来かもしれませんが、その場合、人はどこに美しさを見いだしていくのかとても興味深いです。
戸松:実際に、S/PARKで自分の顔タイプを診断するデジタルコンテンツを体験しましたが、自分が思う自分と人から見えている自分はまったく違うのだと感じました。今後デジタルテクノロジーが発展し、デジタル上の自分がより複雑に形づくられるようになると、アイデンティティーのあり方も変化していきますよね。そこに長年、美しさを掘り下げて考えてきた資生堂がどう対応していくのかも気になります。
——最後に、お2人の今後のビジョンを教えてください。
中西氏:自分の中にある見えないものを、どう見える化していくか。その見える化を通して人の行動変容を起こせたらいいですね。
戸松:私も現実が動くプロジェクトを1つでも増やし、そこで生み出される変化が、また新たなプロジェクトを組成する気づきを生むような循環をつくっていけたらと考えています。そして共創コミュニティーの運営側が無理にプロジェクトを動かそうとするのではなく、プレーヤー自身がコミュニティーを通じて、自律的に物事を進めていけるヘルシーな生態系をつくれるようにしたいです。
中西氏:自分以外の人がやっても回るように人や環境を整えていくことこそ、長期的に継続することにもつながりますからね。熱いうちに次へとバトンを渡していけたらと思います。
【イベントのお知らせ】
資生堂fibonaと、美の自分らしさを実現する、リアルとバーチャルの可能性について考えるイベントを開催します。
日程は4月上旬頃を予定。
詳細については後日、本サイトのイベントページ・メールマガジンにてお知らせいたします。
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