Digital BPO

2026.07.03(Fri)

付加価値を生む業務に集中せよ――人的資本経営時代のデジタルBPO活用論

AI活用や人材不足への対応が求められる中、企業は「事業の選択と集中」と「生産性向上」、そして、「従業員の定着と価値最大化」による「人的リソースの最適配置」という経営判断が問われています。人的資本経営の重要性が高まる一方、日本企業は依然として人への投資が少なく、生産性向上にも課題を抱えています。こうした状況を打開する手段として注目されているのがデジタルBPOです。BPOはコスト削減策として語られることも多いですが、本来は企業が限られた経営資源を付加価値創出へ再配分するための経営戦略です。中でも、業務プロセスのDX化を推進するデジタルBPOのニーズは高まりつつあります。企業は何をコア業務と定義し、どの業務を外部化すべきなのか。学習院大学経済学部教授の滝澤美帆氏にお聞きします。

目次


    なぜ日本企業はDX投資を生産性向上につなげられないのか

    ――日本生産性本部の調査によると、2024年の日本の労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は、OECD加盟38カ国中28位と低迷しています。AIやデジタル技術の活用が活発な中で、なぜ日本の生産性は低いままなのでしょうか。

    滝澤美帆氏(以下、滝澤氏):さまざまな見方があり、経済学者の間では「パラドックス」と言われています。例えば、2000年前後のIT革命以降、多くの先進国で生産性が上昇しましたが、日本は横ばい、または、わずかな上昇にとどまりました。日本企業ではITがペーパーレス化や単純作業の効率化に使われ、業務変革や付加価値を生み出す活動に十分つなげられていなかったのです。技術やシステムを使いこなすためのIT人材の育成や組織的な対応も不十分だったと言えます。

    現在のAIも、同じ状況かもしれません。導入はしているものの、それを新しい価値創造につなげられていない。本来であれば、AIによって生まれた時間を創造的な業務に振り向けるべきです。人手不足や社内体制の整備が十分に進んでいないため、まだそこまで対応できていないのかもしれません。

    ――日本のIT投資の水準も海外と比べて低いのでしょうか。

    滝澤氏:GDPに対するIT投資比率や研究開発投資比率を見る限り、海外に比べて低いレベルというわけではありません。ただし、人的資本投資については状況が異なります。国際的な無形資産関連データを整備しているGLOBAL INTAN-INVESTデータベースによれば、2020年時点のGDPに対する人的資本投資の比率は、米国が0.9%、英国が1.9%、ドイツが1.5%であるのに対し、日本は0.2%にとどまっています。こうしたデータから、日本企業は、工場設備やシステムといった目に見える資産には一定の投資を行ってきた一方で、人材育成や組織改革といった無形資産への投資には十分に踏み込めていないことがうかがえます。

    付加価値を生む人材への投資が企業成長を左右する

    ――IT投資が生産性の向上に結びつかないのは、どのような要因があるのでしょうか。

    滝澤氏:過去数十年、日本では人件費が相対的に低く抑えられてきました。海外との比較でもそうですし、機械やITなどの設備との比較でも、「人の方が安い」という状態が続いてきたと言えます。経営者が「人を使うか、機械で自動化するか」という選択を迫られた場合、コストの低い方を選ぶのは合理的です。そのため、IT投資や自動化投資が十分に進みにくかった面があります。

    また、日本企業では、ICT導入やAI活用が、まだ既存業務の効率化にとどまりがちです。企業を対象に私たちが2018年に実施した「ICTと人材に関するアンケート」を用いた分析では、ICT導入時の補完的な取り組みとして「社内業務のペーパーレス化」を挙げた企業が62%と最も多くなっていました。一方で、導入後の効果を測定し、その結果を改善に活用している企業は9%、意思決定権限の分散は5%、組織のフラット化は4%にとどまっています。

    このことから、日本企業では、ICTやAIを使って紙の書類を減らす、既存業務を効率化するといった取り組みは進んでいるものの、それを業務プロセスの見直しや組織改革、新しい価値創造につなげるところには、なお課題が残っていることが示唆されます。

    滝澤 美帆|学習院大学 経済学部 教授
    2002年、学習院大学経済学部卒業。2008年、一橋大学大学院経済学研究科にて博士号(経済学)取得。同年、東洋大学経済学部専任講師。同准教授、教授を経て、2019年に学習院大学経済学部准教授に着任。2020年より同教授。この間、日本学術振興会特別研究員PD、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員も務める。

    ――近年、人的資本経営への関心が高まっています。人的資本はどのようなメカニズムで、企業経営に影響を与えるのでしょうか。

    滝澤氏:経済学では以前から、人材を単なるコストではなく、企業の生産性や収益力を左右する「資本」として捉えてきました。実際、内閣府『平成30年度 年次経済財政報告』では、1人当たり人的資本投資額が1%増加すると、労働生産性が平均で0.6%程度高まる可能性があると推計されています。また、その効果は労働生産性が低い企業だけでなく、高い企業でも確認されており、低生産性企業では0.7%程度、高生産性企業でも0.5%程度の効果が示されています。

    教育訓練やリスキリングへの投資は、個々の社員の知識やスキルを高めるため、生産性向上に直結します。加えて、人材への投資は、社員が「自分たちは大事にされている」と感じることにもつながり、エンゲージメントを高める効果も期待できます。

    この点については、慶應義塾大学の山本勲先生らの研究も参考になります。例えば、RIETIのディスカッション・ペーパー「従業員のポジティブメンタルヘルスと生産性との関係」では、大手小売業一社の売り場データを用いて、従業員のワーク・エンゲージメントが高い職場ほど売上高、つまり客観的な生産性指標が高いことが示されています。また、山本先生による日経スマートワーク経営研究会の分析でも、上場企業の従業員調査と財務データを接合し、従業員エンゲージメントが高い企業ほど利益率が高い傾向が確認されています。

    つまり、人的資本投資は、社員一人ひとりの能力を高めるだけではありません。組織への信頼感やエンゲージメントを高め、それが業務改善やイノベーションにつながることで、企業全体の生産性や収益力にも影響を与えるのです。そこに企業のパーパスへの共感が加われば、さらに大きな相乗効果をもたらす可能性があります。

    ――それにもかかわらず、日本企業の人的投資は少ない。どこに理由があるのでしょうか。

    滝澤氏:バブル崩壊後に借金返済を優先したことや、雇用を守る意識が強く、現金を多めに用意しておく必要があったことなど、いくつかの理由が指摘されています。研究開発や設備投資は重要なので残すとして、相対的に後回しにされやすかったのが教育訓練費だったのでしょう。先ほど述べたように、日本企業のOFF-JT、つまりOJTを除く社外研修や集合研修などへの投資は、国際的に見ても低い水準にあります。金融機関は通常、企業の設備には融資をしても、人材教育のための融資には応じにくい。結果として、余裕のない企業ほど人的投資を行いにくかったのです。

    また、「日本企業はOJTで人を育ててきた」と言われますが、近年の国際比較を見ると、必ずしもそうとは言えません。リクルートワークス研究所の「Global Career Survey 2024」では、2023年にOJTを受けた割合は日本が39.8%だったのに対し、米国は73.8%、英国は73.3%、ドイツは70.5%、スウェーデンは72.6%でした。日本では、OJTも体系的な教育プログラムというより、現場任せになりがちな面があります。

    さらに、諸外国に比べて日本企業のエンゲージメントや自己学習の水準も低いことが指摘されています。Gallupの国際調査では、仕事にエンゲージしている従業員の割合は日本が8%で、世界平均の20%、米国の32%を大きく下回っています。

    こうした状況を変えるためにも、企業は人的投資のあり方を見直す必要があると思います。その時に大事なのが、「付加価値」を生み出すことに人材や投資を集中させることです。残業を増やせば短期的に売上が伸びることはありますが、それ自体が新しい価値を生み出しているわけではありません。働き方改革で状況は改善したとはいえ、いまも長時間労働が評価される職場は少なくないのではないでしょうか。自社がどこで付加価値を生み出しているのかを見極め、人事評価制度を含めて改革を進めることが必要です。

    「何を自社で担うか」を問い直すデジタルBPO

    ――AIの活用が広がっていますが、業務のどこをAIに任せ、どこに人材を集中させるべきなのでしょうか。

    滝澤氏:極端なことを言えば、大学の仕事の多くもAIで代替できるかもしれません。講義資料や講義の動画を作ることも可能です。

    しかし、人にしかできないこともあります。例えば学生との関係構築です。最近の学生は、就職相談や人間関係の相談までAIにしているようですが、意思決定そのものをAIに任せるべきではありません。文脈を理解し、人と人との関係を築くこと、最終的な意思決定を行うのは人間です。今後はむしろ、マネジメント層の役割が大きくなるのではないでしょうか。

    ――いま、多くの企業にとって人材不足は切実な課題です。AI活用のほかに、BPOなどのアウトソーシングは解決策の一つになりうるでしょうか。

    滝澤氏:自社だけでは解決できないことを、専門企業のサポートを得て解決を目指す。ある意味では、当然のことでしょう。BPOは有力な選択肢だと思います。最近では、BPOの範囲も広がってきました。勤怠管理や給与計算のような定型業務のほかに、営業やマーケティング、サプライチェーン管理の一部業務など、コア業務をBPO化する動きもあります。コア業務とは、企業の競争優位や顧客価値の源泉となる業務のことであり、必ずしも売上に近い業務だけを指すわけではありません。そうなると、製造業なら「良いものをつくること」、サービス業なら「良いサービスを提供すること」など、本当に集中するべき領域に人材を振り向けられます。

    ――BPO導入を失敗しないために、企業はどういった対応をすべきだと思いますか?

    滝澤氏:BPOを導入していく上では、自社の競争力の源泉を見極めながら、コア業務を再定義し、組織や人材配置を全社的に最適化していくことが重要です。そのために、各部門を説得し業務プロセスや組織の変革を進めていくリーダーの存在は欠かせません。それはまさに、経営者の役割だと思います。

    また、「この仕事は、この人しかできない」といった属人化の度合いの高い企業ほど、BPOで成果を上げるのは難しいと言われます。ITやAIを活用して生産性、競争力を向上させる上でも、標準化は避けて通れません。今後、AI活用がさらに広がることを前提とすれば、早急に標準化への取り組みを強化する必要があるでしょう。

    ――AI活用を前提とした社内システムの刷新が必要な日本企業は多いと思いますが、なかなか実行に踏み切れないのはなぜでしょうか。

    滝澤氏:ERPのような企業の中核業務を支える基幹システムの改修などでは、社内のさまざまな意見が対立し、結果としてその場しのぎの対応にとどまるケースが多いようです。それが、属人性の温存にもつながってしまう。ゼロベースで新たに構築したほうが合理的だとしても、投資を続けてきた既存システムを捨てるという判断は、容易ではありません。経済学では「サンクコスト(埋没費用)」と言いますが、過去に費やしたコストにこだわって将来の計算を誤り、結果的に損失を膨らませてしまうのは避けるべきです。経営者はときに、冷徹に判断をしていくことが必要です。

    競争力を高めるためのパートナーシップの築き方

    ――企業とBPO事業者との関係について、どのようなパートナーシップが望ましいとお考えですか。

    滝澤氏:重要なのは信頼関係です。BPOでは、社内の状況を共有することになりますから、本当に信頼できる相手かどうかを検討段階で慎重に見極める必要があります。その上で、単なる委託先ではなく、長期的なサポートも含めて相互に協調し合えるパートナーとしての関係性を構築する。そして、徐々に共有するデータの範囲を広げていくことが望ましいと思います。

    私たちの研究活動でも、自分の研究テーマとは無関係に見えるデータを共有してもらうことによって視野が広がり、意外な発見につながる場合があります。私の想像ですが、ビジネスにおいても同様のことが起こりうるのではないでしょうか。

    例えば、BPO を委託している企業が NTT ドコモビジネスのような企業に自社が持つさまざまなデータを共有することで、BPO に関連した業務だけでなく、もっと広い視野で事業全体に価値をもたらすようなアイデアを提案してくれる可能性が高まるわけです。

    ――BPOを委託する側は、どういった組織文化や人材育成に取り組むとよいでしょうか。

    滝澤氏:先ほどもお話した通り、自前主義や長時間労働を評価する考え方は、制度面を含めて見直さなければなりません。さらに重要なのは、改革の目的を社員にしっかり伝えることです。私たちの研究でも、制度設計そのものより、社員が制度を理解し納得しているかどうかが、成果を左右することが分かっています。なぜ外部化するのか、なぜコア業務へ集中するのか。その意図を浸透させていくことが大切です。

    また、社員の皆さんのリスキリングもセットで考えるべきです。AIやBPOで代替できる仕事は増えていきますが、その人が不要になるわけではありません。新しいスキルを身につけ、別の業務で活躍できるようにすることが重要です。

    ――最後に、経営者をはじめとするビジネスパーソンへのメッセージをお願いします。

    滝澤氏:人材不足とAI活用が同時に進む時代、企業はすべてを自前で抱えることはできません。だからこそ、自社が価値を生み出す領域を見極め、人材を集中させる経営判断が求められます。コア業務の再定義とは、自社の本質的な役割、「自分たちは何者か」を自問することです。激しく変化する環境の中で、コア業務の定義も少しずつ変わることでしょう。企業にある膨大なデータを使って環境変化を察知するとともに、課題を発見して価値創出につなげること。こうした変革の一歩を踏み出す勇気と覚悟が求められると思います。

    特に経営者は、ますます複雑な意思決定が求められます。そのためにも、経営者自身が本来向き合うべき課題に集中できる環境をつくってもらいたいです。

    ■デジタルBPOソリューションはこちら
    https://www.ntt.com/business/services/digital_bpo.html

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