01
2025.07.18(Fri)
目次
IOWN(アイオン)は、通信と情報処理の基盤を電気信号から光通信技術へ置き換える、NTT発の次世代インフラ構想です。正式名称は「Innovative Optical and Wireless Network」で、2019年に提唱されました。
現在の通信ネットワークは、データの処理・伝送を電気信号に頼っています。しかし、扱うデータ量が急増するなかで、処理速度と消費電力の両面で伸びしろが限られつつあります。この課題に対して、NTTが打ち出したのがIOWNです。
IOWNが掲げる数値目標は、伝送容量125倍・電力効率100倍・遅延200分の1の3つです。光は電気信号に比べて伝送速度が速く、消費電力も格段に小さい特性があります。IOWNが高い数値目標を掲げられるのは、この光の特性が土台にあるためです。
IOWNが見据えているのは、通信の高速化だけではありません。大容量のデータをリアルタイムでやり取りできるようになれば、デジタルツインによる都市管理や、離れた場所からの精密な遠隔制御といったユースケースが現実味を帯びます。企業のDX推進はもちろん、消費電力の大幅な削減を通じたカーボンニュートラルへの貢献も期待されています。
NTTグループは、2030年の本格実装に向けて研究開発を進めており、APN技術を活用した商用サービスの提供をすでに始めています。
IOWNは3つの主要技術から構成されています。それぞれの特徴と役割を見ていきましょう。
●オールフォトニクスネットワーク(APN)
オールフォトニクスネットワーク(APN)は、データの伝送経路をすべて光信号で通す技術です。端末からネットワークまでエンドツーエンドで光のまま届けるため、途中で電気信号に変換する必要がありません。
そもそも従来のネットワークでは、光ファイバーで送られたデータをいったん電気信号に変換して処理し、再び光に戻す工程が発生していました。変換のたびにロスや遅延が生まれ、データ量が増えるほどこのボトルネックが大きくなります。
APNは電気と光の変換工程をなくし、全区間を光波長パスでつなぐことで、伝送容量の大幅な拡大と電力消費量の削減を実現します。長距離・大容量のデータ伝送でも通信品質と省エネルギーを両立できる点が、APNの大きな強みです。
●光電融合技術(PEC)
光電融合技術(PEC)は、電気回路が担ってきた処理を段階的に光へ置き換え、デバイスレベルでの省電力化を実現する技術です。
電子回路は集積度が上がるほど配線が長くなり、消費電力と発熱が増える課題を抱えています。PECはこの課題に対し、電子回路と光回路を一つのシステムに統合するアプローチをとります。
データセンター間の通信から、装置内のボード間、さらには半導体パッケージの内部へと、光技術の適用範囲を段階的に広げることで、電気配線に起因する電力消費と発熱を根本から抑えます。
●データセントリックインフラストラクチャ(DCI)
データセントリックインフラストラクチャ(DCI)は、コンピューティング資源を細かく分割し、必要な分だけ柔軟に稼働させるデータ処理基盤です。光配線の活用により接続距離の制約がなくなるため、遠隔地のデータセンターにあるリソースもリアルタイムに共有できます。
従来の仕組みでは、物理的に近い場所にあるリソースしか効率的に使えませんでした。DCIはこの距離の壁を光で取り払い、分散した計算リソースを一つの基盤として束ねます。使わないリソースを止めておけるため、高効率化と低消費電力化を両立できる点が特長です。
IOWNを導入すると、通信性能・コスト・環境負荷・活用領域の面でメリットが得られます。
●消費電力を削減できる
IOWNの光電融合技術により、電力効率は従来の100倍に向上すると見込まれています。データセンターや通信設備は大量の電力を消費しますが、電気配線を光に置き換えることで消費電力を根本から抑えます。
●通信の遅延を大幅に低減できる
自動運転やロボットの遠隔制御、リアルタイム予測といった分野では、わずかな通信の遅れが重大な事故を招きます。瞬時の応答を支えるには、通信基盤そのものの低遅延化が不可欠です。
IOWNは、光信号のままデータを伝送することで電気変換にともなうタイムラグをなくし、遅延を従来の200分の1に抑えます。デジタルツインの精度向上やIoTデバイスが収集したデータの即時処理など、リアルタイム性が求められる領域を幅広く支えます。
●大容量・高品質のデータを高速送信できる
8K映像や3Dデータなど、リッチなコンテンツを扱う場面は増えています。しかし従来の通信帯域では容量が足りず、品質を落とすか、伝送に時間をかけるしかありませんでした。
APNはこの制約を解消します。伝送容量が従来の125倍に拡大するため、大量のデータを高品質なまま高速に送受信できます。企業間のリアルタイムなデータ共有やスマート農業での大容量センサーデータの活用など、ビジネスシーンへの応用範囲も広がります。
●データベースを二重化できる
IOWNの低遅延・大容量通信を活用すれば、数百キロメートル離れた拠点間でデータベースのリアルタイム同期が可能になります。たとえば、災害時に一方の拠点が被害を受けても、もう一方でデータと業務を即座に引き継げるため、BCP(事業継続計画)の実効性が高まります。
IOWNの実用性を示す取り組みとして、2024年10月に日立製作所とNTTドコモビジネスが約3週間にわたる実証実験を行いました。
従来のストレージ同期技術では、リアルタイムにデータを同期できる距離は100km圏内が限界とされていました。この実験では、IOWN APNと日立のストレージ仮想化技術「GAD(global-active device)」を組み合わせ、東京〜大阪間に相当する600km超の距離で同期を検証しています。
結果、往復応答時間は日立製作所が推奨する上限(20ミリ秒)を大きく下回り、書き込み時7.5ミリ秒、読み込み時0.1ミリ秒以下を達成しています。遠隔地間でデータ損失のないリアルタイム同期が実証されたことで、災害時のバックアップ運用や障害発生時の自動切り替えにも対応できることが確認されました。
100kmの壁を600km超で突破したこの成果は、IOWNの低遅延通信が実用レベルに達しつつあることを裏付けています。
【参考】「IOWNが可能にする「データ損失ゼロ」の未来。日立×NTTドコモビジネスが拓く長距離リアルタイム同期の新基準」
URL:https://openhub.ntt.com/journal/14014.html
●Q. IOWNとはどんな構想?
IOWN(アイオン)は、2019年にNTTが提唱した次世代の情報通信基盤構想です。電力効率100倍・遅延200分の1・伝送容量125倍を目標に掲げ、光技術でネットワークインフラを根本から刷新することを目指しています。
●Q. IOWNの何がすごい?
AI・IoTの普及やデータ通信量の増大により、処理能力と消費電力の限界が社会課題になっています。IOWNはこの課題を光技術で根本から解消できる可能性を持った構想です。
●Q. IOWNは何の略称?読み方は?
IOWNは「Innovative Optical and Wireless Network」の略称で、読み方は「アイオン」です。2019年にNTTが発表しました。
●Q. IOWNはいつ実用化される?
本格的な実装・普及のゴールは2030年頃です。NTTグループが公表しているロードマップでこの時期が目標として示されています。
ただし、実用化はすでに始まっています。2023年にはIOWN APN技術を活用した商用サービスの一部が提供され、導入事例や対応サービスは段階的に拡大中です。
IOWNは、光を軸にAPN・PEC・DCIといった3つの技術が連携することで、大容量通信・低遅延・低消費電力を実現する構想です。事実ベースの成果が示すとおり、IOWNは構想段階から実用化に向けて、着実に歩みを進めています。
本格実装の目安は2030年頃です。まだ先に感じるかもしれませんが、技術の選定や検証には準備期間が求められます。自社のIT・DX戦略やカーボンニュートラルの計画とあわせて、IOWNの最新動向をチェックしてください。
OPEN HUB
THEME
Hyper connected Society
#IoT