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2025.07.18(Fri)
目次
まずはゼロトラストの基本的な考え方を押さえておきましょう。後に続く導入メリットや事例を読み解くうえでの土台になります。
●ゼロトラストとは
ゼロトラストは、「すべてを信頼せず、常に検証する」という考え方に基づくセキュリティモデルです。社内・社外の境界を設けず、あらゆるアクセスに対して毎回、正当性を確認する仕組みを指します。
従来主流だった境界型防御は、社内ネットワークを安全と見なし、外部からの侵入をファイアウォールなどで防ぐアプローチでした。しかし、リモートワークやクラウド活用が広がった今、「社内だから安全」という前提は成り立ちにくくなっています。
ゼロトラストはこの前提を排し、アクセス元を問わず、すべてのユーザーとデバイスに対して毎回、認証と安全性の確認を実施します。一度ログインしたから信頼する、社内ネットワークだから通す、といった例外は設けません。
場所に依存せず情報資産を守るこの考え方は、現代のセキュリティ対策における基本方針になりつつあります。
●ゼロトラストの3原則とは?
ゼロトラストには、Microsoftが採用・推進する3つの基本原則があります。
*明示的な検証:すべてのデータポイントに基づき、全アクセスを毎回認証・認可する
*最小権限の原則:業務に必要な最低限の権限だけを付与する
*侵害の想定:内部にすでに脅威が存在する前提で対策を設計する
いずれも「信頼しない」という前提を、具体的な運用ルールに落とし込んだものです。特に「侵害の想定」は、従来の発想と大きく異なります。
これまでの対策は侵入を防ぐことがゴールでしたが、どれほど対策を講じても100%防ぐのは現実的ではありません。そこでゼロトラストでは、不正アクセスやマルウェアがすでに内部に入り込んでいる可能性を前提に対策を組み立てます。
具体的には、ネットワークを細かく分割して被害の拡大を防いだり、アクセスログを常時監視して異常を素早く検知したりする仕組みを事前に用意しておきます。
「防ぐ」だけでなく「封じ込める」までを設計に組み込む点が、従来の境界型防御との大きな違いです。
●ゼロトラストの7要素とは?
ゼロトラストのセキュリティ体制は、Forrester ZTXフレームワークが定義する7つのピラー(柱)で構成されます。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| デバイスセキュリティ | PC・スマートフォン・IoT機器など、エンドポイント全般の識別・認可・保護 |
| ネットワークセキュリティ | 通信経路の安全性確保 |
| アイデンティティセキュリティ | ユーザー認証・認可の管理 |
| ワークロードセキュリティ | クラウド上のアプリ・サーバー保護 |
| データセキュリティ | 重要データの暗号化・アクセス制御 |
| 可視化と分析 | 通信・行動のリアルタイム監視 |
| 自動化とオーケストレーション | 脅威検知から対処までの自動化 |
※実務上は、デバイス保護にEDRやMDM(Mobile Device Management)、通信経路の確保にSWG(Secure Web Gateway)やSASE、認証基盤にIDaaS(Identity as a Service)やシングルサインオンといったソリューションが活用されます。
重要なのは、7つの要素を個別に導入するだけでなく、包括的に連携させることです。どれか1つが欠けても、セキュリティ体制に隙が生まれます。
なお、NIST SP 800-207も7つの基本原則(テネット)を定義していますが、こちらは抽象的なアーキテクチャ原則であり、上記の技術ドメイン分類とは位置づけが異なります。
ゼロトラストが求められるのは、従来の境界型防御では対応しきれないリスクが増えているためです。その背景を掘り下げます。
●クラウドサービスが普及し、テレワークが一般化したため
かつては社内ネットワークに保護すべきデータが集約されており、ファイアウォールで内と外を区切れば一定の安全を確保できました。しかし、SaaSをはじめとするクラウドサービスの普及により、データはインターネット上に分散しています。接続元も自宅や外出先へと広がり、「社内」と「社外」の境界そのものがあいまいになりました。
リモートワークが日常化した今、従来の境界型防御だけでは守りきれない領域が増えています。場所を問わず安全にクラウドを利用できるセキュリティモデルへの移行が急務です。
●VPN接続の脆弱性を狙った攻撃が増加しているため
テレワーク環境ではVPN接続が広く使われていますが、従来型のVPNには構造的な弱点があります。一度認証を通過すれば社内ネットワークの広範なリソースへのアクセスが許容されるため、正規ユーザーを装った攻撃者が侵入すると、被害が組織全体に広がりかねません。
こうしたVPNの脆弱性を悪用したサイバー攻撃は、近年増加傾向にあります。境界の内側に入りさえすれば自由に動けるという構造そのものが、攻撃者に狙われているためです。
ゼロトラストが重視する「毎回の検証」と「最小権限」の原則は、このリスクへの根本的な対策戦略になります。
ゼロトラストの有効性は、セキュリティ強化だけにとどまりません。導入によって得られる主なメリットを見ていきます。
●情報漏えいのリスクを軽減できる
ゼロトラストでは、すべての通信やアクセスを毎回認証・検証します。そのため、外部からのサイバー攻撃だけでなく、内部不正やなりすましによる情報漏えいにも対応しやすくなります。セキュリティインシデントの被害を最小限に抑える仕組みとして有効です。
●柔軟な働き方を実現できる
ゼロトラストはアクセス元の場所に依存しないセキュリティモデルのため、テレワークやリモートワークとの相性が良い仕組みです。自宅や外出先からでも、社内と同等のセキュリティレベルで業務システムやクラウドサービスを利用できます。
働く場所の制約がなくなれば、採用の幅が広がり、従業員の生産性向上にもつながります。セキュリティと柔軟な働き方を同時に実現できるのは、経営判断上の明確な利点です。
●各種クラウドのセキュリティ設定や運用を一元管理できる
複数のクラウドサービスを利用する企業では、サービスごとにセキュリティポリシーが異なり、運用管理の負担が膨らみがちです。
ゼロトラストを導入すれば、認証基盤やアクセス制御の仕組みを統合的に管理できるようになります。バラバラだったセキュリティ運用を一本化することで、管理コストの削減と一貫したセキュリティ体制の確保を実現可能です。
●コンプライアンス遵守とガバナンス強化を両立できる
ゼロトラストでは、アクセスログの取得や操作履歴の記録が標準的に行われます。誰がいつ、どのデータにアクセスしたのかを可視化できるため、監査対応やコンプライアンス遵守の要件を満たしやすくなります。
●DXを推進できる
ゼロトラストでクラウド活用やリモートアクセスの安全性が確保されれば、新しいサービスやソリューションの導入判断にスピード感が出ます。
実際、セキュリティへの不安がDX推進のブレーキになっている企業は少なくありません。ゼロトラストで安全なIT環境を整えることは、守りの対策であると同時に、新たな取り組みを進める後押しになります。
メリットの多いゼロトラストですが、導入にあたって知っておくべき注意点があります。
●初期費用とランニングコストがかかる
一般的に、ゼロトラストの実現には、既存ネットワークの再設計や新たな認証システムの導入が必要とされます。EDR・SASE・IDaaSなど複数のセキュリティ製品を組み合わせるため、初期投資が膨らむ傾向にあります。
加えて、複数のクラウドサービスを契約・運用することで、月々のランニングコストが発生します。導入の規模や段階に応じて、費用の見通しを事前に立てておくことが大切です。
●利便性が低下するおそれがある
多要素認証の導入やアクセス権限の細分化により、「毎回ログインし直す手間がかかる」「特定のファイルにアクセスしにくい」といった不満が従業員から出る可能性があります。
セキュリティを強化しつつ、業務のスムーズさも保つには、認証フローの最適化やシングルサインオンの活用など、ポリシー設計と運用面の工夫が欠かせません。
●既存システムとの統合や移行に技術的な難易度が伴う
レガシーシステムやオンプレミス環境が多い企業ほど、ゼロトラストへの移行には慎重になるべきです。既存のネットワーク構成やアプリケーションとの整合性を取りながら、優先度の高い領域から段階的に進めてください。
自社のIT部門だけで対応しきれないと感じた場合は、早い段階で専門ベンダーに相談することをおすすめします。移行計画の策定から製品選定まで支援を受けられるため、手戻りのリスクを減らせるでしょう。
先進的なゼロトラスト導入事例として、七十七銀行の取り組みを紹介します。
宮城県仙台市に本店を置く同行は、2030年度までの経営計画「Vision2030」のもとでデジタル改革を進めています。
同行はこれまで、物理的にネットワークの内外を分離する境界型防御を採用していましたが、二段階ログインの手間、データ授受の遅延、Webアクセスの制限など、セキュリティが業務効率を下げる場面が目立つようになっていました。
そこで「安全性と利便性の両立」をコンセプトに、約3,000台のクライアント端末やデータセンター、セキュリティ基盤を刷新しました。主な施策は次のとおりです。
*シンクライアント用VDI基盤のオンプレミス再構築
*EDR搭載のセキュアFAT端末の導入
*クラウドプロキシによる柔軟なセキュリティ対策
*SOC(NTTドコモビジネスの「WideAngle」)による検知・対処・分析体制の導入
特徴的なのは、完全なゼロトラストへ一足飛びに移行するのではなく、従来の境界型防御にEDRやSOCなどの動的検証を組み合わせたハイブリッド構成を採用した点です。
このアプローチにより、金融庁のガイドラインが求めるセキュリティ管理体制を充足しながら、クラウド活用による業務効率化を同時に推進しています。
その後、第三者機関による脆弱性診断において、推奨項目までカバーする高い評価を獲得しました。現在はグループ全体への展開を計画しています。
●Q. ゼロトラストとは?
ゼロトラストは、すべての通信やアクセスを「何も信頼しない」という前提に立ち、毎回正当性を検証するセキュリティの考え方です。「社内ネットワークだから安全」という従来の前提を排し、ユーザー、デバイス、アプリケーションのすべてに対して、アクセスのたびに認証と検証を行います。
●Q. ゼロトラストとVPNの違いは?
VPNが「入り口を守る」仕組みであるのに対し、ゼロトラストは「すべてを常に確認する」アプローチです。ここに根本的な違いがあります。
従来型のVPNは、一度認証を通過するとネットワーク内部への広いアクセスが許可されます。ゼロトラストではアクセスのたびに認証・検証を行い、必要最小限の権限だけを付与するため、VPNの脆弱性を突いた攻撃のリスクも軽減できます。
●Q. ゼロトラストの弱点は?
主な課題は、導入コストの高さ、認証プロセスが増えることによる利便性の低下、既存システムとの統合の難しさの3つです。
ただし、一度に全体を移行する必要はありません。優先度の高い領域から段階的に実装し、コストと運用負担をコントロールしながら対応範囲を広げていくのがおすすめです。
クラウドの普及やリモートワークの一般化により境界型防御の限界が明らかになった今、企業のセキュリティ対策は転換期を迎えています。ゼロトラストの3原則と7つの構成要素が示すとおり、「すべてを信頼せず常に検証する」という考え方が、これからのセキュリティの軸になります。
一度にすべてを変える必要はありません。七十七銀行のように、境界型防御との併用から段階的に移行を進める方法もあります。自社に合った進め方を検討するために、まずはゼロトラストの基本を理解するところから始めましょう。
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