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2025.07.18(Fri)
目次
――Code for Japanがどのような経緯で立ち上がった団体なのか、教えてください。
砂川氏:Code for Japanの原点は、東日本大震災直後の活動にあります。代表理事の関治之が都内で被災した際、有志とともにポータルサイト「sinsai.info」を立ち上げ、被災地の状況を発信したことが始まりです。関はその後、ITを駆使して地域課題の解決や行政サービスの改善に取り組む「シビックテック」を進めるため、2013年にCode for Japanを設立しました。
掲げているビジョンは「ともに考え、ともにつくる社会」。この言葉には「社会に課題があるなら自ら行動する」「困っている人とともに考え、新しい仕組みをつくる」といった思いが込められています。

――Code for Japanは、自治体向けにどのような活動を行っているのでしょうか。
砂川氏:活動は多岐にわたりますが、分かりやすいのは自治体向けの研修事業でしょう。DXやサービスデザインをテーマに、実践型のプログラムを提供しています。半日から数日規模の研修が最小単位で、そこから発展した「伴走支援型研修」では半年ほどかけて課題解決に取り組みます。
さらに長期的な取り組みとして、自治体の組織変革プロジェクトや、テクノロジーを活用した持続可能なまちづくりの推進もしています。
例えば、兵庫県加古川市では、スマートシティ推進の一環として、階層別研修や課題解決支援研修を通じ、職員が実務課題をもとに政策立案や業務改善に挑戦できる仕組みづくりを支援しました。さらに、研修を単発で終わらせず、既存の制度や事業立案の流れと結びつけることで、継続的な組織変革にも伴走しました。
また、豊岡市役所では、オープンデータ推進支援や区長業務の負担軽減を目指すデジタルサービスの開発などに携わっています。いずれのプロジェクトも技術一辺倒ではなく、市民の暮らしを起点に課題解消を目指す試みです。


――行政運営において、テクノロジーの活用やデジタル化がなぜ今強く求められているのでしょうか?
砂川氏:行政の現場では人口減少により、これまで人手で支えてきたサービスの維持が難しくなりつつあります。労働人口が減っていくなかで、従来の運営体制だけでは立ち行かなくなる場面が今後さらに増えていくでしょう。したがって、これからの行政運営では二つの軸が重要になります。
一つは「効率化の軸」です。限られた人員でこれまでと同等、あるいはそれ以上のサービスを提供するためには、デジタル技術によって業務を見直し、再現性の高い仕組みに変えていく必要があります。これは、サービスを持続させるための前提条件といえます。
もう一つは「価値向上の軸」です。デジタルは単なる効率化の手段ではなく、サービスの質を高める力を持っています。従来は一律だった行政サービスも、テクノロジーの力で住民一人ひとりの状況に応じた支援や情報提供が可能になります。この「効率化」と「価値向上」をいかに両立させるかが、今後の行政運営における大きなテーマとなっていくでしょう。
――AIが一般にも広く語られるようになってきました。自治体への浸透度合いは、現在どの程度進んでいると見ていますか。
砂川氏:AIを積極的に取り入れる自治体が出始めています。Code for Japanが支援している佐賀市でも、2025年に有料版のChatGPTを全庁導入しました。職員アンケートをとったところ、回答者582名のうち約6割が利用しており、利用した職員の96%が「効果を実感した」と回答しています。
佐賀市職員自らもGeminiを活用し、 佐賀市の公式スーパーアプリと連携するミニアプリを開発しています。有明海に飛来する渡り鳥の情報を発信するアプリで、開発期間はわずか5日ほど。職員有志による「生成AI筋トレ部」も始動し、今後は「個人活用から組織活用へ」をテーマに、AIエージェントを取り入れた業務改善にも挑戦する予定です。


ただし、これらの成功例はごく一部に過ぎません。現状、導入自治体の多くはチャットインターフェースの利用が中心で、用途も文章の要約や答弁作成、資料のドラフト作成などが主流となっています。また、総務省のデータによると、政令市の約90%が生成AIを導入している一方で、その他の市区町村の導入率は30%程度にとどまっています。民間企業ではAIエージェントが業務を担う方向へと向かっていますが、自治体はそこまでの段階に至っていません。
――まだまだAIを活用する余地があるということですね。
砂川氏:そこで課題になるのがセキュリティやAIガバナンスです。技術的には開発できても「どのデータを使っていいのか」「住民情報をどう守るのか」といったルールがまだ整っていない。ここは自治体だけでは対応しきれない部分だと思っています。安全かつ安定的に運用するとなると、やはりNTTドコモビジネスの皆さまはじめ、民間企業のノウハウが不可欠になるでしょう。
――自治体でDXを進めようとすると、具体的にどのような壁が立ちはだかるのでしょうか?
砂川氏:この数年間でDXは広く認知され、導入後の効果にも注目が集まるようになりました。一方で、組織内でDXを推進できる人材は依然として不足しています。業務効率化の有用性は理解されているものの「誰が担うのか」が曖昧なままになっているのが実情です。とくに小規模自治体では、職員が複数業務を兼務しているケースも多く、DXに割けるリソースは限られています。通常業務とDXを並行して進めるのは容易ではありません。
さらに組織体制の見直しには一定の摩擦が伴います。内部で批判的な意見が出れば、それだけで担当者のモチベーションが低下してしまうこともあります。旧来の業務プロセスは、安定的なサービス提供を前提に最適化されてきましたし、行政特有の縦割り構造にも一定の合理性がありました。しかし、社会環境の変化により、その前提自体が揺らぎ始めています。
独特の組織構造ということもあり、自治体は業務を根本から見つめ直す経験そのものが少なく、変革に踏み出す機会も限られがちです。こうした現実を踏まえると、まずは小さく動ける場をつくることが重要になります。組織のしがらみにとらわれない「遊撃隊」のようなチームを設けるのも有効なアプローチの一つだと考えます。

――「DX人材」の不足も影響していそうですね。
砂川氏:加えて、個々のスキルと与えられたポジションがフィットしていないケースも多く見られます。そもそも、自治体では3年ごとの人事異動が一般的であるため、ミスマッチが生じやすい構造なのです。DX人材が関わり順調に進んでいたプロジェクトでも、後任が専門外の人材になると、一気に推進力が失われてしまいます。前任者が継続的に関与することも難しく、結果としてプロジェクトが停滞してしまう。
また、DX人材に限らず、行政運営は担当者個人の暗黙知に依存しがちです。その知識が組織の資産として蓄積されないまま、異動や退職とともに失われてしまう点は大きな課題といえるでしょう。こうした構造を見直すために、Code for Japanでは実践型プログラム「公共ナレッジエンジニアリング開発室」へのご参加を提案しています。これは参加者たちが現場に蓄積された暗黙知を紙のマニュアルに書き起こして引き継ぐのではなく、構造化されたデータとしてAIが活用できる形で組織の知識を蓄積・管理していく—その仕組みと文化を、複数の自治体が横断的に学び合いながら作っていこうという取り組みです。
すでに約30の団体が参加しており、得られた知見は今後できる限りオープンに公開する予定です。自治体にとどまらず医療機関や教育機関、さらには民間企業まで、公共性の高い形での展開を目指しています。
――官民連携で自治体DXを進めるケースは少なくありません。その場合、民間企業はどのような意識でプロジェクトに関わればいいのでしょうか。
砂川氏:民間企業が自治体DXに関わるうえで重要なのは、自治体側の事情を理解することです。もちろん、企業には企業としてゆずれない部分があります。自社のサービスを提供する責任があり、投じたリソースを回収しなければならない。それは当然のことです。ただ、自治体にも自治体ならではの事情があります。
一方で、自治体側にも民間企業へのリスペクトが求められます。民間企業は単なるサービス提供者ではなく、信頼関係を築くべきパートナーです。たとえば、せっかく一緒に汗をかいてプロジェクトを進めてきたのに、「ここから先は価格勝負の入札です」とリセットされてしまうと企業側も報われません。公平性は担保しなくてはいけませんが、構造的な課題は制度面から見直していく必要があると感じています。
加えて、両者のギャップを埋める“翻訳者”の存在も欠かせません。神戸市役所での取り組みでは、サイボウズと協定を結び、職員と企業側の担当者をつなぎました。日々の業務にあたる自治体職員と、ツールを提供する企業側の人材。その間に私が入り、ツールの使い方フォローのみならず、同社「kintone」の現場導入伴走支援、導入事例の庁内向け広報や、市長をはじめとする幹部のみなさまとのやり取りなどを担いました。その後、後任の専門官の尽力もあり、庁内のkintoneユーザー数は導入から2年で1500超へ増加。400以上のアプリが本運用されています。双方の立場を理解する人間が間に立つと、職員にも納得感が生まれやすく関係性も築きやすくなります。
――自治体DXに関わることで、企業側にはどのようなメリットがありますか?
砂川氏:自治体DXの現場に人材を送りこむこと自体が大きな学びになると見ています。自治体で課題を設定し、解決策を導き出していく経験は人材育成の観点からも意義があります。現場で得た知見を社内に持ち帰り、ナレッジとして蓄積することもできるでしょう。
近年は「越境学習」という言葉が広がっていますが、地方自治体の実務に関わることも一種の「越境」です。企業側は新たな視点を獲得でき、自治体側も民間の知見を取り入れることで発想の幅が広がる。双方にとって価値のある関わり方になると考えます。

――行政・民間・市民が協働する時代において、砂川さんが思い描く日本社会の未来像とはどのようなものでしょうか。
砂川氏:これまでの社会は、行政・民間企業・市民が役割を分担し、すみ分けしてきました。しかし今後、その前提が変わっていくと想定しています。それぞれの役割を限定するのではなく、専門性や主体性に応じて柔軟に関わっていく社会へと変わっていくのではないでしょうか。
その際に重要になるのは、それぞれの知識やスキルを持ち寄り、地域をより良くしていくという姿勢です。私たちが掲げる「ともに考え、ともにつくる社会」とは、まさにこのことです。特別な取り組みとしてではなく、日常の延長線上で自然に協働する。それが、これからの社会の理想的な姿だといえます。
民間企業のなかには、自治体や地域との接点を持てずにいる人もいるかもしれません。そういった方は、まずは小さな関わりから始めてみてはいかがでしょうか。身のまわりで困っている人に自分の知識や経験を共有するだけでも、立派な社会参加です。会社員としての「A面」と生活者としての「B面」を意識すれば、見える景色も少しずつ広がっていくはずです。そこから、自社のビジネスと地域創生の両方を叶えるヒントが得られるかもしれません。
――より本質的に地域とかかわるためには、どのような視点が重要になるのでしょうか。
現在、多くのビジネスパーソンはデータやAIをもとに意思決定することが多いと思います。しかし、地域の実態はそれだけでは捉えきれません。そこで暮らす人や活動する人たちと対話し、その土地ならではの事情や価値観に触れることが大切です。
テクノロジーは、そうして得た気づきをもとに仮説を立て、検証を進めていくための有効な手段です。地域と向き合い、まず人の声に耳を傾け、そのうえで技術を生かしていく姿勢が重要だと思います。
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