Hyper connected Society

2025.04.04(Fri)

社会インフラをより強くしなやかに
国内外のIoT最新事例─インフラ編

#IoT #事例
IoTは建設や製造、医療、物流などさまざまな分野で、ヒトやモノをシームレスにつなぎ、社会のあり方を大きく変えつつあります。わたしたちの暮らしを見えないところで支えるインフラもその1つ。イタリアからは大規模インフラ保守管理システム、日本からは機微情報を効率的に管理する電子決済システム、アパレル生産効率化プラットフォーム、そして、アメリカの大規模物流DXまで、インフラ編ではこれからの社会基盤のスタンダードを変えつつある国内外のIoT事例をお届けします。

目次


    建設|インフラの老朽化を「定期検査で予防する」時代へ

    イタリアで約3,000kmもの高速道路ネットワークを管理するAutostrade per l’Italiaはヨーロッパ最大の高速道路運営会社。その規模は国内の道路交通網の約半分を占めるといわれています。広大な高速道路インフラを適切に維持管理するべく、同社はIBMおよびFincantieri NexTechと提携し、IoTとAIを組み合わせた次世代型のインフラ監視ネットワーク「Argo」を導入しました。高速道路上の4,000以上の橋梁(きょうりょう)やトンネルをリアルタイムで監視し、データを継続的に収集、解析します。

    従来のインフラ点検は、技術者の目に頼っていましたが、Argoは70万個を超えるIoTセンサーを駆使し、人の立ち入りが困難な場所や目ではとらえきれない箇所の劣化や異常、またその予兆を検知します。さらに収集したデータはAIが分析し、構造物の3Dデータをデジタルツイン上に再現。点検作業はタブレット端末で構造物データと実物を照らし合わせながら行います。これにより、定期検査時のデータにもとづく客観的な判断が可能になりました。

    わずか18カ月というスピードで実用化されたArgo。このシステムの真価は、インフラ管理の「見える化」にとどまらず、蓄積されたデータを未来の保守計画や新規の建設設計に活用することにあります。今後このネットワークがどのように磨き上げられていくのか注目です。

    製造|IoTのセキュリティ課題、鍵となるのはSIMカード活用

    IoTの普及に伴い、情報セキュリティの重要性が増しており、特に決済情報を扱う電子決済端末には、セキュアなネットワーク基盤が必要です。

    非対面決済市場でトップシェアのアイティアクセスは、決済情報やセキュリティ対策機能をサーバー側に持たせたクラウド型決済端末を、自動販売機を中心に13万台展開しています。2024年4月、クラウド型決済端末にNTT Com開発の「アプレット領域分割技術」を活用したSIMを採用しました。同SIMの内部には通信以外の情報を書き込めるアプレット領域と、通信するために用いる通信プロファイル領域を設けており、この2つを完全に分離して管理することができます。
    従来の決済端末では機微情報を端末内の堅牢な保存領域で管理する必要があり、その製造コストが拡張的な展開への障壁となっていました。しかし、新端末では、端末そのものではなくSIMカード内のセキュリティが保たれた「アプレット領域」で機微情報が鍵管理され、必要なときにサーバーとのやり取りを行うことが可能になったのです。

    アイティアクセスは、今後は20万台規模の拡大を目指しており、この高セキュリティかつ低コストで開発した共創型ソリューションによって、キャッシュレス決済のさらなる普及が期待されます。

    製造|すべてのデザイナーに開かれたアパレル生産プラットフォーム

    アパレル産業は大量生産、大量廃棄、複雑な製造工程といった構造的な課題に直面してきました。これに対し、IoTとデジタル技術を活用して生産現場を革新しているのが日本発のアパレル生産プラットフォーム「シタテル」です。

    シタテルが提供する衣類およびライフスタイル産業に特化したデジタルプラットフォームは生産から販売までのプロセスを一元管理します。このシステムは、情報管理、進捗確認、請求・支払、貿易・物流管理など、業務全体の効率化を目的としています。クラウド上で動作するためどこからでもアクセス可能。現場での使いやすさを重視した直感的なUIが特徴です。

    主な機能には、生産進捗管理、アイテム情報の一元化、請求書の自動生成、生地や資材のマーケットプレイス機能、原価管理、展示会管理、プロジェクト管理、取引先とのチャット機能があります。これにより情報共有を効率化するほかトラブルを低減し、サプライチェーン全体で最大30%の工数を削減。シタテルが提携している企業(縫製工場や生地メーカー等)とのやり取りのほか、ユーザーが提携している企業(縫製工場や生地メーカー等)とのやり取りに活用することもできます。

    また、クラウドを活用することで、環境負荷の軽減やサステナブルな生産活動にも貢献しています。デザイナーやOEMメーカー、アパレル販売事業者など多様な利用者を対象とし、特に業務効率化や情報の見える化を求める企業に適しています。このプラットフォームは、業界のDXを推進するツールとして、持続可能な未来を目指しています。

    物流・運輸|ルート上のあらゆる情報を観測し輸送効率アップ

    アメリカの貨物運送企業United Parcel Service (以下、UPS)は、配達効率の向上とコスト削減を目指し「ORION」を導入しました。北米の約55,000もの配送ルートを網羅するこのシステムは、アルゴリズムやGIS(地理情報システム)、スマートマッピングなどを組み合わせて最適ルートを算出。時にはベテランドライバーの経験則を上回る成果を見せました。本システムにより UPS は毎年1億マイル(約1.6億km)もの走行距離を削減。約10万トン分もの二酸化炭素排出量が削減されたことになります。

    現在は配達拠点からエンドユーザーまでの区間のみ稼働していますが、今後は都市間輸送や配送センター内の仕分け、さらには航空便まで含めたネットワーク全体のリアルタイム最適化へと発展させる計画です。

    ORIONの特徴は、単に地理情報を扱うだけでなく、効率性が考慮されていること。人間が直感的に把握しづらい複雑な条件をシステムが分析し、例えば渋滞などのリスクに鑑み、あえて遠回りに見えるルートを選ぶなど、一日の配達スケジュール全体を最適化。輸送効率を大幅に向上させています。

    IoTがつなぐ社会インフラの未来

    IoTによるデータに基づいた予防、分析、効率化は、インフラの維持管理に新しい可能性をもたらしています。これにより、事前に問題を予測し、効率的にリソースを配分することが可能となり、より強靭(きょうじん)な社会インフラの実現が近づいています。しかし、テクノロジーの導入はあくまで手段の1つ。真に求められるのは、現場の課題に寄り添い、確かな技術と経験をもとに解決へと導くパートナーシップではないでしょうか。IoT技術を活用したインフラの未来に期待が高まります。

    【関連ウェビナーのお知らせ】

    EVENT
    「超接続社会」を考える。IoTで日本の未来を変えられるのか?
    ※本ウェビナーは、2025年2月5日にOPEN HUB Parkで開催されたイベントの模様を録画、編集したものです。 ヒトやモノがあらゆる形でつながる「超接続社会」。私たちの生活やビジネスはどのように変わるのでしょうか。 社会変革と医療分野の未来研究で知られる慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏をゲストにお迎えし、「超接続社会」がもたらす変革について掘り下げていきます。 後半では、「超接続社会」に向けて企業がIoTを駆使してどのようにビジネスをスケールさせていくべきなのか、クロストークをお届けします。ぜひご視聴ください。 <このような方におすすめ> ・企業の情報部門や戦略に携わっている方 ・自社のDXに積極的に取り組まれている方 ・IoTの領域に興味がある方
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