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2025.02.07(Fri)

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「単なるデジタル化」で終わらせない。
花王に学ぶ、伝統を未来につなぐDXとは

紙ベースの業務フローからなかなか抜け出せなかった日本企業も、ここ数年で急速にDXが進んでいます。ただ、デジタル化による効率性向上は進んでいるものの、DXの目的であるX=トランスフォーメーション、すなわちビジネス革新へとつなげている企業はいまだ少ないのが現状です。実際、情報処理推進機構(IPA)が2023年3月に発行した「DX白書2023」では「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」という副題が添えられ、トランスフォーメーションの実現が急務であると指摘されています。

こうした中、全社で戦略的にDXに取り組み、際立った成果を上げているのが花王です。花王では、一人ひとりの顧客に寄り添って得たインサイトなどさまざまなデータとAIに代表されるデジタル技術を活用しながら、組織の垣根を越えてあらゆる社員がビジネス革新を実現する、真のDX実現に向けて取り組んでいます。DXを単なるデジタル化で終わらせないための具体策と、花王のDX推進の先進性、業界のリーディング企業として今後に目指す未来像について、花王デジタル戦略部門データインテリジェンスセンターの浦本直彦氏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)エバンジェリストの林雅之が語り合いました。

この記事の要約

花王は、DXを通じて業務効率化にとどまらず、新たな価値創出を目指している。
2018年にデータ活用を基盤とするDX戦略を本格化し、2024年には「データ知創戦略センター」を設立(2025年1月、データインテリジェンスセンターに改称)、データ利活用を推進している。

消費者の購買行動変化への対応として、双方向型デジタルプラットフォーム「My Kao」を展開し、顧客体験向上を図る一方、社内の縦割り構造を克服するため「データインテリジェンス・プロジェクト」を推進。シチズンデベロッパー育成や生成AIの活用などを通じて、全社員がデータを活用できる環境を整備している。

また、お客さまに強く支持されるシャープな価値提案をし、世界の中で唯一無二の存在となる「グローバル・シャープトップ企業」を目指している。このようなDXの取り組みは、企業変革にとどまらず、日本産業全体の新しいグローバル戦略にもつながる可能性を秘めている。

※この要約は生成AIをもとに作成しました。


データから「新しい価値」を生むために。DXに取り組む花王が直面した課題とは

林雅之(以下、林):浦本さんはもともと、グローバルIT企業の研究所でインターネット技術の標準化や自然言語処理を研究されていて、現在は花王のDX戦略を推進されています。具体的にどんなことをされているのでしょうか。

浦本直彦氏(以下、浦本氏):花王は2025年1月より、情報システム部門とDX戦略部門が統合され「デジタル戦略部門」となりました。その中で、私は「データインテリジェンスセンター」のセンター長として、データのインテリジェンス化、データ基盤の整備、データガバナンスを通じた花王グループにおけるデータ利活用の推進にあたっています。

浦本直彦|花王株式会社 執行役員
1990年、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。東京基礎研究所にて、自然言語処理、Web技術、情報セキュリティなどの研究開発に従事。IBM Bluemix Garage Tokyo のCTOを経て、2017年、株式会社三菱ケミカルホールディングス (現三菱ケミカルグループ株式会社) に入社。デジタル・トランスフォーメーション (DX) の推進を行い、2020年4月、執行役員 Chief Digital Officer (CDO) 就任。2022年4月より、データ&先端技術部ディレクターとして全社のデータ戦略策定と遂行を主導。2023年4月、花王株式会社にエグゼクティブフェローDX戦略担当として入社。現在、デジタル戦略部門データインテリジェンスセンター長を務めている。また、2018年〜2020年に人工知能学会会長、2020年より情報処理学会フェローとしても活動している

林:データインテリジェンスセンターはどのような役割を担っているのでしょうか?

浦本氏:花王は創業以来、生活者に寄り添い、生活を豊かにする商品を提供してきました。その過程で、生活者に関するデータが昔からずっと蓄積されてきています。ただ私が見るに、その豊富なデータにもとづき業務上の意思決定をしたり、アクションを取ったり、ということが当たり前になっているかというと、まだ十分でないように感じています。

データを有効活用するためには、人間が経験から知恵(インテリジェンス)を生み出すように、データから新しい価値を創り出して、意思決定やアクションにつなげていくことが必要です。そのためにはどうしたらいいか、というテーマから「データ知創戦略」というセンター名を付け、DXの核となるデータの利活用領域やAI活用を担当しており、2025年1月には「データインテリジェンスセンター」に改称し、活動を拡大しています。

林:後ほどまた詳しくお伺いできればと思いますが、浦本さんが花王で手がけられている先進的なDX施策のひとつに、部門の壁を越えて自由に全社データにアクセスし価値創造していく「データインテリジェンス・プロジェクト」がありますよね。

私が現在NTT Comで推進している、大容量/低遅延/低消費電力を兼ね備えた次世代情報通信基盤「IOWN」においてのデータセントリックインフラストラクチャー(DCI:データマネジメントを支えるデータハブ・インフラ)領域や、クラウドのアーキテクチャー、ネットワークと連携するAI技術など、幅広いレイヤーでリンクする部分がありそうです。

林雅之|NTT Com エバンジェリスト
クラウドやデータ活用のマーケティング担当等を経て、現在はイノベーションセンターIOWN推進室に所属。次世代通信基盤・IOWNのマーケティングに従事しながら、IOWNのキーテクノロジー「光電融合技術」や、AI連携による分散型ネットワーク構築といった未来のテクノロジーのリサーチ・開発なども兼務している。国際大学GLOCOM客員研究員。クラウドサービスにまつわる著書を手がけるほか、DXとビジネスをテーマにした記事も多数執筆している

浦本氏:なるほど。林さんとは、日本でクラウド・コンピューティングが知られるようになってきたころからの長い付き合いですが、今日もいろいろ参考になるお話が伺えそうです。

林:こちらこそ、企業DXの実践に関して浦本さんにいろいろ伺えればと思っています。早速ですが、花王のDX戦略の推進・実践はどのような経緯でスタートしたのでしょう?

浦本氏:まず、花王におけるDXの取り組みについては、現在の社長である長谷部佳宏が2018年に先端技術戦略室を立ち上げ、DX戦略やデータ利活用に向けた全社的な活動がスタートしました。

これと並行して起こっていたのが、消費者の購買行動の変化です。家庭用品もそうですが、特に化粧品は、実店舗よりもドラッグストアやECサイトで購入する、という方が増えてきました。また、Z世代の若者は価値観が我々と異なり、それが購買行動にもあらわれています。

そこで花王も、2022年に「My Kao」というデジタルプラットフォームを立ち上げました。

林:My Kaoとはどのようなものなのでしょうか。ECサイトとは違うのですか?

浦本氏:オウンドメディアとしてお客さまに情報発信しながら、花王の製品やアイデアを体験してもらったり、ともにアイデアを出し合って課題解決のためのソリューションを創ったりする双方向のコミュニケーションプラットフォームである点が、ECサイトとの大きな違いになります。また、そんな複合的で双方向のコミュニケーションをデジタル技術で実現・サポートしていくことは、花王DXの大きな柱にもなっています。

2023年は1,000万人来訪、月間UU数160万人を記録。皮脂RNAモニタリング等最先端肌解析による会員制パーソナルスキンケアサービスなども行っており、生活者一人ひとりに最適なサービス/製品を提供することで、製品やブランドのみならず「花王」そのもののファンを醸成していくマーケティング基盤として機能している

花王はかつて、生活者のもとにインタビューに行ったり、実際にご自宅に伺って日常生活の様子を見学させてもらったりして、潜在ニーズの発掘に勤しんでいました。しかし今は、コロナ禍なども経て対面タッチポイントでインサイトを発掘する機会は少なくなっています。多様で良質なデータを安定して得ていくためにも、時代に合った新しいやり方に対応しなければなりません。

なぜ日本企業のDXが進まないのか。花王がたどり着いた「DXの進化」とは

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