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Future Talk
2024.10.02(Wed)
この記事の要約
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、ICTを活用して社会課題を解決する「スマートワールド」の実現をめざしています。2021年7月にスマートワールドビジネス部を設立し、現在は7つのチームでスマートワールド実現に取り組んでいます。
この取り組みは、単なる顧客対応や技術提供にとどまらず、社会課題解決を主軸に据えた「社会課題ドリブン」のアプローチを採用しています。NTT Comは組織改革や人材採用を通じて、より柔軟で革新的な企業文化の醸成に努めています。
スマートワールドの実現に向けて、データの収集から利活用へと段階的に進展しており、NTTドコモやNTTコムウェアとの統合(DCC統合)がこの動きを加速させています。具体的な成果として、治験参加者のリクルートメントの効率化や、スマートビルディングにおけるデータ活用プラットフォームの実装などが挙げられます。
今後は、より多くの組織との共創やコンソーシアム化を通じて、GXなどの大規模な社会課題に取り組んでいく方針です。
※この要約は生成AIで作成しました。
目次
九法崇雄(以下、九法):まずは、スマートワールドとはどういった概念なのか、改めて福田さんからご説明いただけますか?
福田亜希子(以下、福田):「DX(デジタルトランスフォーメーション)でさまざまな社会課題が解決された未来」、そのような世界を“スマートワールド”と呼んでいます。NTT Com、そしてNTTグループが一丸となって実現をめざしている未来像とも言えますね。
九法:そもそもNTT Comがスマートワールドを推進することになった経緯とは何だったのでしょうか?
福田:大きく2つあります。1つは、世の中に「解決すべき社会課題が山積していた」ことです。少子高齢化、それに伴う人手不足や消滅可能性都市の増加、さらに地球温暖化などの環境問題――。見渡せば、私たちの周りは解決されないままの社会課題が山積みになっています。付け焼き刃ではなく、根本的な仕組みから変えなければ、とても解決できない問題ばかりです。
そこでICTをはじめとしたテクノロジーの実装によって、そうした課題を解決していくことを目的として掲げようと機運が高まりました。これはメガトレンドでもありますね。
もう1つは、私たちNTT Comのメンバーが常日頃から産業・業界ごとに従事している案件のなかからも、スマートワールドにつながるような“芽”がすでに多く見えていたからです。
九法:業界ごとに見えていた芽とは、例えばどういったものでしょうか。
福田:2018年頃、文科省に出入りしているメンバーから「学校教育をデジタル化するニーズが高まっている」との声があがっていました。同じ頃、土木・建築業界の案件に携わるメンバーからは「交通やエネルギー、物流など都市を支えるデータを集積して最適化する“都市OS”が求められている」との声もありました。
あらゆる産業やインフラをDXでつなげてスマート化するような、利便性と付加価値を高める仕組みが求められていることが明白だったのです。
そうした世相の変化をNTT Comの役割に引き寄せて考えると、ただお客さまの要請に従って、案件を企画、遂行するだけではお役に立てなくなってきます。
建築で言えば「ビルにネットワークの配線をする」とか「PBX(電話機用の構内交換機)を入れる」といった従来のソリューションとは異なる取り組みを生み出していかなくてはならないわけです。お客さまのご要望に応えるだけでなく、多岐にわたるパートナーや関連会社と連携して、もっと大きな「社会課題の解決」に向けて、めざす未来を共有しながらバックキャスティングで構想して、共創するような動きが求められるようになったのです。
九法:従来のようにお客さまの要望を聞く顧客ドリブンでもなく、NTT Comのソリューションを提案する技術ドリブンでもなく、「社会課題ドリブン」で事業を手がける必要が出てきたわけですね。ただ、そうした社会課題は複雑な事象がからみあい、ステークホルダーも多岐にわたります。社内外も含めて多くのパートナーと組んで、一緒に課題を見つけて解決していく「システミックデザイン(※)」のような枠組みが不可欠になりませんか?
※システミックデザイン:システム思考とデザイン思考を融合し、環境や社会の関係性を重視した長期的な視点で複雑なエコシステムのあり方をつくり変えるアプローチ
福田:おっしゃるとおりです。そこで2021年7月にSWB部を発足したのです。スマートワールドを実現するまでの事業戦略からマーケティング、営業支援、サービスの企画・開発・運用などを一貫して行うため、横断的に組織したチームです。よって、私たちは自社(NTT Com)の顧客やそのパートナー、さらにはその先の顧客企業やエンドユーザーまでを含めた社会全体への提供価値最大化をめざすBBX(B2B2X)という考え方が重要だと考えています。
全体価値を最大化するという観点は社内マネジメントも同様で、新たなKGI(経営目標達成指標)として「貢献収益」という仕組みを設けました。自分たちが担当した案件の直接的な収益のみならず、社内連携したことによる他組織の収益を含めたNTT Comとしての提供価値最大化に貢献した活動を評価するものです。これにより、SWB部は自組織だけの視点(部分最適)ではなく、全社視点(全体最適)で活動することができています。
また、マネジメントの仕組みだけでなく人材採用の視点でも既存の枠組みにとらわれない柔軟な取り組みを進めています。劇的な環境変化に対応できるよう、他業界・他分野からの人材採用を戦略的に進めており成果も出てきています。
九法:印象論ではありますが、かつてのNTT Comでは、各ビジネスユニット単位でシステマチックに目標や評価の仕組みが整備されている半面、その枠組みを超えるような世の中のダイナミックな変化に対応するのは難しい側面もあったのではないかと推測しています。
スマートワールドの実現をめざす上では、コーポレートカルチャーの部分から変革する狙いもあったのでしょうか?
福田:ありましたね。もとより「DXで社会課題を…」というビジョンを強く持っているだけでは会社や組織は動きません。根付いたマインドセットから本当に変わる必要がある。そのためには仕掛けとして、めざすビジョンに紐づくかたちで制度自体を整えたことは重要な取り組みだったと言えますし、我々の覚悟の表れでもあります。
九法:仕掛けという意味では、業界・分野ごとに推進室を設けていますね。
福田:はい。スマートシティ推進室、スマートエデュケーション推進室、スマートヘルスケア推進室、スマートインダストリー推進室、スマートモビリティ推進室、スマートワークサイト推進室の6つの推進室に加えて、2023年度には生成AI関連の取り組みに特化した「ジェネレーティブAIタスクフォース」を立ち上げました。
もっとも、この7分野も常に変化し続けています。ビジネスの将来性や実現可能性を加味して、いわゆる「ピボット(方向転換)」を繰り返して組織を柔軟に変えながら進めています。
九法:なるほど。この「OPEN HUB」もその一端だと思いますが、組織形態も含めて、スマートワールド実現のために新しい仕組みとカルチャーをつくりあげられているわけですね。
質実剛健で技術ドリブンな集団だったNTT Comが、多様な人と社会を支えるための豊かさを提示して実現させていくというワクワクする組織になりはじめているなと感じます。
そうした変化を続けながら進めてきたスマートワールドですが、設立から現在までの3年間はロードマップと照らし合わせてどこまで進むことができたと感じていらっしゃいますか。
福田:まだまだ、到達点で言うと2合目、3合目をウロウロしている程度でしょう。ただし、歩みは着実に進んでいます。DXにおいては、「データ収集」「データ蓄積」「データ利活用」の3段階があると言われています。この3年の間に、ようやくデータ蓄積からデータ活用のフェーズへと移行できたのではないかと思っています。そうした成果には、先ほどお話ししたような組織の内側からの変化も大きく寄与しましたが、NTTドコモ、NTTコムウェアを合わせた3社(DCC)の統合が、この歩みをブーストさせてくれたと確信しています。
九法:DCC統合がスマートワールドの実現をブーストさせているということですが、その象徴となるような事例があれば教えていただけますか?
福田:例えば、2023年11月にアイロムグループとの共創でローンチした「治験参加者のリクルートメント」でのデータ活用事例です。
ご存知のとおり、日本は高度な医療技術が普及しています。一方で新薬の承認に時間がかかり、欧米などに比べて市場に出回るまでにかなりの期間を要してしまう「ドラッグラグ」という社会課題を抱えています。そして、ドラッグラグの一因となっているのが「治験参加者の不足」です。
九法:新薬の治験を受けてくださる人をなかなか集められず、治験期間が長引いてしまうわけですね。
福田:そうです。この課題をDXによって解決しようと考えました。アイロムグループは、新薬の安全性と効果を確認するための治験支援事業で日本トップクラスを誇る会社です。同社と連携して、ドコモのd会員の中から許諾をいただいた方々のデータを活用して、「属性」「年齢」「現在地」と照らし合わせて、最寄りの医療機関で実施する治験にリクルートするという仕組みを実装したのです。
九法:治験の内容にフィットした方を、データにもとづいてピックアップし、承諾の可否を得られる仕組みですね。
福田:はい。その結果、これまで数カ月かかっていたような治験参加者のリクルーティングが、3日で済んだというケースも生まれました。
これはDCC統合によるドコモのケイパビリティがなければ、なし得なかった共創です。加えて、アイロムグループのような企業との共創を発案し、プロジェクトを推進できたのは、先に申し上げたように「積極的に他業界からの人材採用を進めてきた」からでもあります。元々ヘルスケア業界にいたメンバーの知見が起点となって、このプロジェクトの企画立案が実現したのです。
九法:データ利活用を社会課題解決に活かした好例で、同時にスマートワールド実現のために変わったNTT Comの組織体、カルチャーを象徴する事例でもありますね。
他方、スマートシティの領域でもユニークな実例が目立ち始めています。2023年3月にグランドオープンしたオフィスビル「東京ミッドタウン八重洲」も、NTT ComによるDX支援がなされています。
福田:東京ミッドタウン八重洲ではスマートビルディングプラットフォームの「Smart Data Platform for City」を実装させることで、より人に寄り添った新しいオフィスビルのモデルを提示することができました。
従来のスマートビルでは空調管理やセキュリティなどがその対象でしたが、東京ミッドタウン八重洲では、ビル内を自律走行する複数のロボットとビル設備をデータ連携し、制御しています。それによって、オフィスワーカー向けに食事や商品をデリバリーするサービスを実現しました。
セキュリティ面からデリバリー配達員はオフィスエリアに入れない場合が多いため、ロボットが配達員から物を受け取り、自らセキュリティドアを通ってエレベーターに乗り、注文したオフィスワーカーのもとまで運んでくれます。ビル設備とのデータ連携でさらにロボットが動きやすく、そこで働く人のために活躍してくれる未来への足がかりとなるプロジェクトだと感じています。
九法:そうした取り組みは、将来的にはオフィスビルを飛び出して、街全体がその恩恵を得られるものになっていくのでしょうか?
福田:そうですね。「ベニュービジネス」と呼ばれる大規模イベントの会場運営におけるDX事例がすでにあります。
新しくなった国立競技場や愛知国際アリーナ(IGアリーナ)などで行われているプロジェクトなどは、今はまだWi-Fi環境などのインフラ整備の段階ですが、将来的には観客の位置情報とフードデリバリーやロボットが連動していくといった可能性が考えられています。現時点では限られた空間での実装ですが、徐々に街区に広げ、真のスマートシティづくりにつなげていきたいですね。
九法:まさに「人に寄り添う」インフラづくりですね。私たちKESIKIも経済産業省が手がける自動運転の社会インフラ化の事業をサポートしたことがありますが、いくら優れた自動運転のモビリティがあったとしても「こんなに便利です。はい。どうぞ」という一方的なやり方では、受け入れてもらえません。住民の方々に寄り添うように入っていって、信頼を勝ち取り、「どんな困りごとがあるのか」「それぞれが抱えている課題はなにか」と本当のニーズを理解する必要がありました。スマートワールドのような未来構想も、草の根的にじわじわと社会受容性を高めていくべき側面があると思うのです。
福田:おっしゃるとおりですね。そうした部分は、もっと磨いていくべきだと感じています。九法さんにもジョインしていただいている、NTT Comの公共性とビジネスの両立をデザインするスタジオ「KOEL」なども、そうした役割を担っている存在だと考えています。また経営企画部の中にマーケットインテリジェンス(※)に特化したチームも新たに立ち上げています。
※マーケットインテリジェンス:市場や顧客、競合他社の動向といった情報を分析および収集し、ビジネス戦略を体系化するプロセス
九法:福田さんの専門領域でもある生成AIに関してもお伺いしたいです。2023年にSWB部のなかにジェネレーティブAIタスクフォースが立ち上げられました。生成AIの可能性についてNTT Comはどのような未来像を描いているのでしょうか?
福田:「AIフェデレーション(連邦)」のような世界観を提唱しています。現状もてはやされている生成AIは、オープンな情報にアクセスし、学習して新たな価値を生み出すというタイプのものが主流です。
しかし、企業が活用するとなると情報漏洩のリスクや、フェイク情報にアクセスする危険性が高く、そのままでは活用しづらい面があると感じています。また、企業や自治体などの組織が「あまり外に出したくないデータ」を使わないと、本当に有意義な価値を生み出せないのではないか、という側面もある。
このようなジレンマを解消していく上で、NTT Comの特徴でもある「安心感・信頼感」のようなものは強みになるのではないかと考えているのです。
各企業、組織が個別に持っている「外には出したくないデータ」を使いつつ、外部の幅広い情報と合わせて生成AIを活用したアウトプットを出す。そのために、堅牢なセキュリティの機構や、プライベートクラウドといったテクノロジーのバックボーンを持つ我々の知見やアセットを使っていただきたいのです。そうした本当に安心で安全な生成AI技術があってこそ、スマートワールドのそれぞれの現場で生成AIが利活用されていくようになると考えています。
九法:お話を聞いていて、「誰一人取り残さないためのインフラづくり」を得意としてきたNTTグループが、さらにその先にある「一人ひとりに本当の困りごとにフィットする個別の解決策」を提案し、実装し始めているという印象を受けました。
福田:もちろん、個別の困りごとを解決しながら「これは標準化できるのではないか」という部分は模索しています。だからこそ、多彩な業界、組織、個人の方々とつながり、共創の輪を広げていくことが不可欠だと感じています。
スマートシティ、スマートモビリティ、スマートエデュケーションに関しても、私たちが主導的に動いて、それぞれの業界プレーヤーを巻き込むかたちでコンソーシアム化していきたいのです。良くも悪くも特定の業界に属していないNTT Comだからこそ、できる仕事だとも感じています。
九法:スマートワールドがめざすものの姿が少しずつ見えてきたいま、今後注力していきたい取り組みや展望について教えていただけますか。
福田:データ利活用やICTを活用することで解決に導くことができる領域はまだまだたくさんあるので、既存の取り組み領域をピボットしながら、拡大させていく深化を進めつつ、新しいテクノロジーの種を見つけ、アプローチを貪欲に進める探索も両立させていきたいですね。
例えば、GX(グリーントランスフォーメーション)などは特に重視していくべき領域と考えています。インダストリー業界のスマート化ではすでに個別のCO2排出量の削減や見える化は進んでいますが、さらに視座を高めて、サプライチェーン全体で考えた環境負荷の削減につなげる必要があると考えています。
そのためには、業界をまたいで大きなサプライチェーンをつなげた意思統一と共創が必要になります。大変な仕事になると思いますが、地球環境の変化への対策は大きな社会課題であり長丁場になるからこそ、社会的責任感が強みでもあるNTTグループ、NTT Comがやるべきことなのではないかと自負しています。
九法:先ほどのコンソーシアム化というキーワードにも象徴されるように、大きな社会課題を解決するにはやはり1社でできることには限界があります。いかに多くの組織とつながり、共創していくかがスマートワールドを実現する上で不可欠なのでしょうね。他業界、省庁、自治体、住民……。スマートワールドを本当に実装するには、多様なプレイヤーを巻き込んでいく視点がなお大切になると感じます。「どのような未来を描こうとしているのか」「使う人にどのようなワクワク感を提供できるのか」といった具体的なビジョンを伝えていくことは、極めて大事になっていく気がします。
福田:そう思いますね。「利他」を心の真ん中に置きながら、多彩な企業や自治体、組織、人、データをつなげていくことで、世の中を良くしていき、より良い未来であるスマートワールドを実現していきたいと思います。
九法:NTT Comだからこそつくることができる、体温のあるインフラ、愛されるスマートワールドに引き続き期待しています。
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