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Co-Create the Future
2024.11.29(Fri)
この記事の要約
フェムテックは、女性の健康課題をテクノロジーで解決するサービスとして注目を集めています。経済産業省の調査によると、月経・PMSや更年期症状による労働生産性の損失は年間約1兆5000億円に上ると試算されています。
専門家らの議論から、フェムテックの主な課題として、①企業内での連携不足(人事部門、健保組合、産業医など)、②女性の健康課題に対する理解不足、③相談できる環境の不足、④更年期症状への対応の難しさなどが挙げられました。
解決策としては、AIの活用による共感的なコミュニケーション支援や、データの利活用が期待されています。ただし、機密性の高いデータ収集には課題があり、また女性エンジニアの不足も指摘されています。
今後は、適切な医療提供とメンタル面でのサポートの両立、持続可能なビジネスモデルの構築、そして産業としての発展に向けた環境整備が重要とされています。
※この要約は生成AIで作成しました。
目次
―NTT ComとPwCコンサルティングは女性活躍推進に関する調査を共同で行うなどの取り組みも行っていますが、改めて両社がこれまでフェムテック領域にどのようなかたちで関わってきたのか教えていただけますか。
辻愛美氏(以下、辻氏):PwCコンサルティングは、フェムテック領域における国の補助金制度設計などに関わっており、経済産業省の令和4年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」事務局に係る補助事業者として採択されました。
この補助金は、フェムテックなどのプロダクトやサービスを活用してフェムテックを提供する企業や、導入する企業、医療機関、自治体などを対象に、妊娠や出産といった女性特有のライフイベントとキャリアを両立するための事業に対してその経費の一部を補助するものです。
鵜飼耕一郎(以下、鵜飼):NTT Comは「Value Add Femtech Community」という事業共創コミュニティーの運営を通じてフェムテック市場の醸成・拡大に注力しています。また、Value Add Femtech Communityに参加してくださっているスタートアップ企業や製薬会社、医療機器メーカー、保険会社などが持っているデータやツールと、NTTグループが持つ種々のアセットを組み合わせることで、個々人に最適な対処法を提案できるサービスや、女性のQOL向上に資する製品や製薬、ヘルスケアサービスの開発につなげていきたいと考えています。
今回のアンケート調査は、そうしたサービスやソリューションであらゆる企業の生産性向上を実現し、女性活躍推進に関する企業側のニーズを明らかにするための調査として、PwCコンサルティングさんに協力をお願いしました。
辻氏:本調査に当たっては、企業視点からの回答に加えて、女性従業員の方々の声も集めました。対象企業には、女性活躍に積極的に取り組む企業ではなく、ごく一般的な企業を選ばせていただきました。そのうえで、今後の市場の見込みやホルモンバランスが女性の労働力に与える影響度、科学的エビデンスの重要性、ビジネスとして着地するためのスピード感などを分析しました。
林真依氏(以下、林氏):調査を通じて、適切なヘルスケアを必要とする人々への支援の輪がもっと広く、男女関係なくつながっていく必要があるという所感を持ちました。例えば、企業がダイバーシティを推進していく場合でも、人事部門やヘルスケア、健保組合など複数の担当者がいて、それらと産業医がうまく連携できていないケースが珍しくないのです。自治体も同様で、産業労働系やヘルスケア系、母子保健系とがそれぞれ別ラインで動いてしまっている場合がある。もちろん、セクション間の情報共有と連携は簡単なことではありませんが、まずここでつまずいてしまっている状況があるということは課題として認識しておきたいですね。
―中立的なスタンスでフェムテック領域の啓発活動などを行っているFemtech Commnunity Japanを運営されている皆川さんは、調査結果をどうご覧になりましたか。
皆川朋子氏(以下、皆川氏):フェムテックは今、黎明(れいめい)期にあって、ここ数年で人々の意識や社会の景色は大きく変わったと思っています。経営者や自治体、政府関係者などにも関心を持ち始めている人は増えていますが、女性の健康課題に対しての理解はまだまだ「モヤッとしたものしか見えていない」が本音だと思います。私たちFemtech Commnunity Japanは、その「モヤッとした課題」を可視化して、企業、スタートアップ、医療従事者、さらには省庁・自治体などさまざまな立場の者同士で手を取り合いながら解決に向けた活動を地道に続けてきました。
この調査からも、女性のバイオリズムに対する人々の意識が高まっていると感じました。調査対象者が自分や周囲に存在する課題を認識できているということは、それ自体が女性の健康課題に対して理解をしていることの証明です。少しずつ関心のサイクルが回り始めているのを感じます。同時に、直接的な解決につながるソリューションがない、気軽に相談できる人がいない、といった問題については依然として環境を整えていく必要があることが読み取れました。
岡田彩花(以下、岡田):たしかに、アンケートの内容を見ていくと、多くの女性が多様な悩みを抱えながらも、それを相談できる相手がいないということにストレスを感じていることも分かりました。今回のアンケートのような機会でしか悩みを吐露することができない人が少なからずいるのです。まずは、そうした女性たちが何を必要としているのかを把握し、企業全体で向き合うことができる体制が必要だと思います。
―重見さんは産婦人科医や医学博士、公衆衛生学修士という立場から情報発信や講演などを行っておられますが、フェムテック領域にはどのような課題を感じていますか?
重見大介氏(以下、重見氏):女性が抱えている月経や閉経、更年期といった課題や性教育に関する重要性について世間の認知は少しずつ広がっています。
産婦人科医という観点から理想を言えば、男性も女性もセルフケアや医療サービスについて包括的で適切な知識と情報を持っておくことが必要です。
例えば、産婦人科を受診することに対して心理的なハードルを感じてしまう人が日本には多くいます。月経痛に悩む学生が産婦人科を受診したくても、周囲に妊娠したと誤解されることを懸念してしまう、ピルは体に良くないという風説を真に受けてしまうなどの理由で受診せずに耐えることを選んでしまう。そうした事態に対して、当事者同士が情報を適切にシェアしていくことで、自分の知らなかった対処法を身に付けていくことができるような環境が用意され、オンライン診療などのテクノロジーを積極的に活用していくことができれば、適切なセルフケアや医療サービスへのアクセシビリティが大きく前進するのではないかと期待しています。
さらに、医療現場の立場から申し上げたいことは「女性特有の症状や悩みに対する治療やセルフケアができること」と、「日常的に抱えている不安感、ストレスを解消すること」とは、実はイコールではない部分があるということです。仮に医師がその場で正しい医学的処置を施したとしても、患者さん自身の気持ちが満たされていないという場合があるのです。そこには、「話を聞いて欲しい、寄り添って欲しい」という思いが症状の裏側に隠されているわけです。そうしたメンタル面に対するアプローチは、医療的なケアとは別に必要だと思っています。
また、先の調査では、女性の健康課題がどれくらいの社会的損失なのかを分析されていました。そのなかで「更年期」が着目すべき領域であるというインサイトが記載されていましたが、その点については私も同感です。ただ、一口に更年期といっても実際の症状は千差万別です。フェムテックが進んでいる欧米の医学研究論文では「更年期」というワードはあまり用いられず、もっと具体的な症状に応じた研究がされているわけですが、それでも解決できていないことがまだまだ多い分野です。日本では、まず更年期を1つのテーマにしつつ、その先にある、実は個人個人が異なる身体症状を抱えているという実態に対して、テクノロジーを生かしていけるとより良い環境がつくられるのではないかと思います。
皆川氏:フェムテック分野では多くのスタートアップが立ち上がっていますが、更年期に取り組む企業はこれまで数社ほどしかありませんでした。2023年あたりから少しずつ広がってきてはいますが、まだまだ少ないです。更年期に取り組むことの難しさは、重見先生がおっしゃったとおり、症状が多様なことや、原因を特定できない不定愁訴が多いこと、不調から来る心理的なモヤモヤという医療的知見だけで解決できない側面に原因があると思います。
重見氏:医療者は、医療に従事する者として正しい診断と治療に当たるのが主たる役割のため、コミュニケーションの訓練をあまり受けていないことがあります。2年ほど前、ChatGPTで患者さんと会話をした実験の研究論文が発表されています。その論文によると、医師かAI(人工知能)かを隠して患者さんと会話を行ったところ、AIのほうがより共感性を発揮するという結果が出たそうです。ただ、会話の相手がAIだったこと明かすと、逆に信頼度は下がったそうです。
現時点ではAIへの信頼度はあまり高いとはいえないとはいえ、患者さんが望むコミュニケーションを提供するという意味では、今後AIを活用していくことに解決の糸口がある可能性はあると思います。
鵜飼:ヘルスケアにおけるAIの活用については、NTT Comでも取り組んでいる分野の1つです。共感性を高めつつ、相談や寄り添い、専門家への導きなど、サービスを次のレベルへ進めていくための手段になりうると考えています。
皆川氏:フェムテック分野でAIをはじめとするテクノロジーの活用をビジネスとしてスケールさせていくためには、まずはデータの利活用が重要であることは間違いありません。ただ、データを利活用するといってもフェムテックは非常に機密性の高いデータを扱うため、実現を目指すうえでは政策提言が必要になるでしょうし、そのためのエビデンスも求められます。さらに、利活用の前段階であるデータの収集にも高いハードルがあります。より適切な医療やセルフケアにつなげるためには、検査レベルのバイタルデータが必要になるわけですが、それらをどうやって安定的に集めるか。ウェアラブルデバイスなどが突破口になるとされていますが、日本にはそうした分野を発展させていくための人材が足りていません。
人材が足りていない理由の1つとして、スタートアップや先端研究が主体として切り開いていくこういった分野に女性エンジニアが少ないことが挙げられます。優秀な女性エンジニアは大学卒業後、そのまま大企業に就職してしまうことが多く、現状、女性が活躍しやすい待遇を積極的に整えている企業のほとんどが大企業です。しかし、女性のヘルスケアソリューション開発を進めていくためには、女性の技術者の視点が必要となってきます。
また、重見先生のように医療とビジネスの両分野で活躍している方、研究とビジネスを往来しているといった「クロスセクター」で活躍されている人材が少ないという課題もあります。そのため、Femtech Commnunity Japanでもテクノロジー分野の方々にフェムテックという領域に興味・関心を持ってもらうための活動を長期的な視点で行っています。
重見氏:私が所属するKids Publicでも、サービス構築の経験があるエンジニアの方を必要としています。ただ、男性エンジニアのなかには女性の健康課題について考えたことがない方が多いですし、社会的にもそうした話題をなかなかオープンにしきれないという心理的ハードルが依然として存在しています。
私も微力ながら、会社の事業をSNSで紹介したり、関連情報を発信したりするなど、医療者に限らず多くの方々に関心を持っていただけるように日々取り組んでいます。専門用語ではなく平易な言葉で発信することを心掛けながら、人々の関心が高まっていくことを期待しています。
岡田:啓発の重要性については、先のアンケート調査からも実感しています。皆川さんがおっしゃったとおり、フェムテックは今、黎明期にあり、女性のヘルスケアに関するニュースや報道が増えたり、フェムテックという言葉が徐々に浸透して認知度が上がっているのではないかと思います。
こうした背景があるからこそ、NTTグループも商材としてのフェムテックデバイスに注目していますし、そこから取得できるデータを利活用してより良い未来を創っていこうという動きが生まれています。その動きが、同じ思いと価値を共有する共創パートナーにつながっていき、社会の関心やテクノロジー分野の方々の共感を呼び起こすきっかけになることを目指しています。
また、フェムテック市場の成長を目指すうえでは、市場ニーズとの間にギャップが発生しないようにサービス開発を進めていくことが肝心だと思っています。技術者の方に興味・関心を持っていただきながら、その後の連携スキームについても丁寧に考えていく必要があると思います。
―最後に各社の立場から今後どのような活動をしていきたいか、展望をお聞かせください。
重見氏:確立された治療法がある場合は医療機関を受診するのが最速の解決法です。しかし、医療だけでは解決できない課題があるのも事実ですし、そこにどう寄り添うかがポイントになります。その橋渡しとなるフェムテックには期待していますし、そこで解決できる多くの健康課題があると思うので、私も貢献していきたいと考えています。
皆川氏:たしかに、フェムテックがさまざまな場面において橋渡し的な存在になっているということは私も実感しています。フェムテックのプロダクトが身近になったことで生理や更年期を話題にするハードルが下がったように思います。また、ビジネスチャンスという入り口からフェムテックを知った大企業の経営者の方が関心を寄せるようになったおかげで、女性が抱える問題に対して社会全体で取り組む風潮がより強まったとも感じています。私たちも、さらに多くの方々にこの輪を広げていけるよう、大企業の経営層やエンジニアの方々などにアプローチしつつ、データ活用の重要性を政策づくりに関わる方々へ啓発していきたいと気持ちを新たにしました。
林氏:私たちPwCコンサルティングは、市場形成に取り組む企業の方々に対し、事業の柱となる収益化モデルの立案をサポートしていく立場です。コンセプトを打ち出して終わりではなく、本日いただいた課題や疑問を踏まえながら、フェムテックが産業として持続的に発展できるような環境を構築していきたいと思います。
鵜飼:重見先生がおっしゃったように、「モヤモヤを解消する」寄り添いが必要なポイントと、適切な医療を提供すべきポイントがあるので、適切かつ柔軟な橋渡しを可能にするようなソリューションが必要だと改めて思いました。
フェムテックのサービスのなかには、セルフケアを重視しているものも存在します。ただ、セルフケア頼みでは、医療で救える人を救いきれないこともあります。その役割分担をしっかり行い、悩みを抱える女性を1人でも救えるようなソリューションをつくっていきたいと思いますし、本日お集まりいただいた皆さまやValue Add Femtech Communityの参加企業の方々、フェムテックに関心のある多くの団体・組織の方々とより良い未来に向けて進んでいきたいと思います。
※ PwCコンサルティングによる「令和4年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(当事者参画型開発モデルの発展に向けた調査事業)成果報告書」
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