Smart City

2024.11.08(Fri)

デジタル実装の加速のためにNTT Comが仕掛ける一手とは?
スマートシティ実現に向けたコミュニティ発足とMSI機能強化の狙い

#共創 #スマートシティ #デジタルツイン #ロボティクス
2024年9月2日、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、スマートシティ実現に向けた新たな取り組みについて、プレス向け取材会をOPEN HUB Parkにて開催しました。

第一部ではスマートシティ事業の新たな取り組みと具体的な施策の紹介を行うとともに、デジタルを活用したグリーンでサステナブルな街づくりを目指す「スマートシティ デジタル実装コミュニティ」の発足が発表されました。第二部では、スマートシティの世界を体験できるソリューションのデモンストレーションが行われました。

NTT Comが描く、デジタル実装を加速させる施策の全貌とは。取材会の模様をレポートします。

この記事の要約

NTT Comは2024年9月2日、スマートシティ実現に向けた新たな取り組みを発表しました。その中心となるのが「スマートシティ デジタル実装コミュニティ」の発足です。建設・不動産業界の有識者と協働しながら、スマートビルのベストプラクティス創出と先端デジタル技術の社会実装を目指します。また、ビル構築の計画段階から竣工後の運用まで統合的に支援するMSI(Master System Integrator)機能の強化も発表されました。技術面では、デジタルツイン技術を活用したビル管理運営のリモートオペレーションや利用者の快適性向上、IOWNを活用した低遅延ネットワークによるロボットの遠隔操作や空間接続など、新たなコミュニケーション手段の提供が紹介されました。これらの取り組みを通じて、NTT Comはスマートシティの実現と、それに伴う社会課題の解決を目指していくとしています。

※この要約は、生成AIをもとに作成しています。

目次


    デジタル実装のためにクリアすべき3つの課題

    冒頭は、ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長の福田亜希子から、「スマートシティ デジタル実装コミュニティ」発足の背景が説明されました。

    福田亜希子|NTT Com 執行役員 ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長

    「NTT Comでは、DXにより社会課題を解決し、持続的成長が達成された世界であるSmart Worldの実現に向けて、パートナー企業の皆さまと連携しながら様々な取り組みを行っております。Smart Worldを構成する事業のなかでも、街への実装と価値提供を行うスマートシティ事業は重点分野と位置付けられています。

    これまでのスマートシティ事業では、『ビルや街区のデジタルインフラの高度化』と『顧客提供価値の高度化』という2つの取り組みを主に進めてきました。

    しかし、デジタルインフラやサービスの街への実装を進める上で、いくつもの課題が存在します。今日はこれらの課題をどう解決し、デジタル実装をどう加速させていくのかについて、業界のパートナーの皆さまとの新たな取り組みを発表させていただきます」

    続いて、ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室長の塚本広樹が、スマートシティ実現に向けた課題を解説します。

    塚本広樹|NTT Com ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室 室長

    「スマートシティを実現するためにはさまざまなアプローチがありますが、我々はまず大規模な複合ビルやスタジアム、ホテルといった施設や建物のスマート化に着手しています。建物の中での連携はもちろん、建物間で連携や都市の中にあるほかのサービスとの連動も目指していますが、ここで大きく3つの課題が存在します。

    1つ目は個別最適化の問題です。従来の建物ごとに個別最適化された計画では、デジタル実装のためにエンジニアをアサインしていちから専用のプランを考えなくてはならず、ハードルになっていました。

    2つ目は設計施工のプロセスにおいてデジタル実装を行うフェーズが後に置かれてしまっていることです。企画・構想段階からのデジタル実装検討ができていないことで、デジタル利活用に制約が生じてしまっています。

    3つ目は竣工後の価値創出が限定的になっていることです。従来の商業施設では、竣工をゴールにしたビジネスモデルが主流のため、竣工後は建物の価値が経年で減少していくばかりでした。デジタル実装によって、竣工後にビルOSのアップデートやサービスの追加やカスタマイズ、データ活用などが可能な、進化する施設を計画する必要があります。

    これらの課題に加え、デジタル人材の不足や建設業界の労働時間規制、円安による建築資材の高騰などによりデジタル実装の領域にコスト削減が生じ、スマートビル化の流れに逆行するようなトレンドも起きています」

    有識者と実証を進めていくスマートシティ デジタル実装コミュニティ

    これらの課題を解決するため、NTT Comは新たな取り組みとして「スマートシティ デジタル実装コミュニティ」の発足とMSI (Master System Integrator)機能の強化を発表しました。これによって、デジタル実装への最善策を創出するために、企画・構想から運用フェーズまでを一気通貫で行うための取り組みを促進していきます。

    まずはスマートシティ デジタル実装コミュニティの活動について、塚本は次のように説明しました。

    「本コミュニティは、日本におけるスマートビルの促進を、業界のパートナーの皆さまと協力して進めていく取り組みです。実際の開発フィールドやアセットを保有する案件も活用しながら、実フィールドでのデジタル実装、スマートビル化を進めていきます」

    コミュニティには、Smart City Catalystとして東京大学大学院の江崎浩氏、竹中工務店の粕谷貴司氏、日建設計の中村公洋氏、日本設計の佐々木真人氏、NTTアーバンソリューションズの上野晋一郎など、業界を代表するキーパーソンが参画し、NTT Com社員と共に業界の課題解決とデジタル実装促進に向けたワークショップや、実フィールドでの実証を行っていきます。

    上段:(左から)粕谷貴司氏、中村公洋氏、佐々木真人氏、上野晋一郎
    下段:江崎浩氏、福田亜希子、塚本広樹

    NTT ComがMSI機能を強化する3つの価値提供

    続いて塚本から、MSI機能の強化に取り組む背景が語られました。MSIとは、建物のデジタル実装における高度な知見を有する専門家と協業しながら、ビル構築の設計段階から竣工後の運用まで統合的に支援する役割を持つ主体を意味します。塚本は、「海外で先行しているMSIの取り組みを日本で普及させるため、ステークホルダーと連携し推進していく」としながら、取り組みの背景について次のように説明しました。

    「NTT ComがMSI機能を強化する背景には、我々が提供できる3つの価値があります。1つ目は、企画構想フェーズからのスマートビルディング実装支援の実績を長年にわたって重ねているということ。

    2つ目は、NTTグループが保有しているIOWNをはじめとする先端のデジタルインフラサービスを、ビルのデジタル実装の取り組みに全面的に提供していきたいということ。

    3つ目は、導入後の継続的なアップデートとさらなる進化の実現です。NTTグループには、通信やデータセンター、海底ケーブルなどといったインフラを長年にわたって支え進化させてきたDNAがあり、スマートビルの継続的な価値創出を支援できるということ。

    これらの提供価値を用いてMSIとして取り組みながら、業界の各社様からの期待、必要とされるベストプラクティスを生み出しつつ、今回発足したコミュニティの取り組みと連動して、さらに高めていきたいと考えています。

    NTT ComがMSIの役割を担っている取り組みとして、2024年6月から虎ノ門一丁目東地区市街地の再開発に向けてスマートビルのプロジェクトを推進しています。スマートビルのガイドラインやデジタルシステムの導入検討を一貫して行い、竣工後も継続的にアップデートし、建物価値の向上を実現していきます」

    NTTアーバンソリューションズとの「街づくり×デジタル」の共創。
    名古屋、仙台、大阪等の都市の大規模ビルでのデジタル実装を支援し、今後
    ほかの再開発プロジェクトでの実装支援を目指す

    デジタルネーティブな社会インフラを民主導でつくっていく

    塚本のプレゼンテーションの後にはスマートシティデジタル実装コミュニティのメンバーとして名前を連ねる江崎氏が代表して登壇。コミュニティの発足およびMSIの意義について次のように語りました。

    「建築業界は実質、竣工までと竣工後が分離している構造で、そうした状況を変えていくことが我々の共有している課題です。つくって終わりではなく、つくった後のアップグレードができるような構造をあらかじめ用意しておかないと、サステナブルな社会インフラをつくることはできません。

    そのためには、官主導ではなく民主導で、物理とサイバーの両面がしっかりと接続されたデジタルネーティブな社会インフラをつくることが重要であり、それこそがMSIの使命です。

    NTTグループの持つインターオペラビリティ(相互運用性)のDNAを21世紀、22世紀の次世代に渡していくようなMSIや都市技術をつくり続けることに協力したいと思い、我々は今日のこのお披露目に立ちあわせていただきました」

    江崎浩|東京大学大学院 情報理工学系研究科教授

    スマートシティの未来像を描くソリューションたち

    スマートシティ デジタル実装コミュニティやMSIの活動を通して目指していくスマートシティの展望が語られた第一部に続いて、第二部では今後に実装が想定されるソリューションを用いたデモンストレーションが公開されました。

    NTTコムウェア エンタープライズソリューション事業本部 ビジネスイノベーションソリューション部 部門長の芝田豊綱が登壇したデジタルツインコンピューティング技術を用いたビル管理運営のリモートオペレーションを紹介するデモンストレーションでは、大手町プレイスビルの29階をデジタルで再現。人流、設備、エネルギーなどのデータを一元的に管理することで、現状の可視化だけでなく、高精度な予測にも活用できます。また、デジタルツイン技術によって遠隔地からのビル管理が可能になり、人手不足対策や緊急時の対応にも役立つとされています。例えば、設備の不具合が発生した際、ロボットを派遣して状況を確認し、過去の故障履歴などを参照しながら迅速な対応が可能になるのです。

    デジタルツイン化された大手町プレイス29階

    また、ビル利用者の快適性やおもてなしの向上も目指しています。センサーからの人流データを活用し、周辺の混雑状況に応じてビル内の商業施設を案内するなど、利用者の便宜と施設の売り上げ向上を両立させる取り組みが紹介されました。

    デモンストレーションの後半では、大手町と五反田のデータセンター施設をIOWN APNで接続し、ロボットの遠隔操作を行いました。デジタルツインにより、ロボットの位置や動きを正確に再現し、スムーズな操作を実現しています。

    デジタルツイン上のデータセンター(モニター左)と、実際のデータセンター(モニター右)の様子

    そのほかにも、大手町プレイスのエレベーターとビルOS「SDPF for City」を連動したことで実現した施設案内ロボット「temi」による来客の案内や、触覚伝送デバイスをIOWN APNを介して接続することで、離れていても同じ場所にいるかのようなコミュニケーションを実現する空間接続のほか、ビルや街区のにぎわい創出やおもてなし、サステナビリティ施策検討を支援する「街区データダッシュボード」のデモンストレーションも行われました。

    ロボットが自動でエレベーターに乗り、来客を案内。来客はエレベーターのボタンを操作することなく、目的地に移動することができる
    低遅延・高精細の空間接続デバイス「OPEN HUB Window」をIOWN APNで接続。さらに触覚伝送デバイスを使うことで、同じ空間を共有しているかのようなリアルなコミュニケーションが可能に
    ビルや周辺街区の人流情報を可視化。人流と外部データを連携させることで詳細な分析を実現し、それらのデータを提供することでにぎわい創出やおもてなし、サステナビリティ施策につなげていく

    スマートシティの新たな展望を示した取材会。OPEN HUBでは今後に開催する取材会についてもその模様や取り上げるソリューションなどに関する情報発信をしていきます。