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Co-Create the Future
2024.10.18(Fri)
この記事の要約
「知財×ビジネス創出セッション Vol.2」では、知財を活用したビジネスの具体的事例が紹介されました。デロイト トーマツの國光氏は、企業の知財に対する意識が「守り」から「新規事業開発や共創のツール」へ変化していると指摘。三菱電機の曽我部氏は、自社技術を紹介するプラットフォーム「Open Technology Bank」の取り組みを紹介し、共創実現の難しさを述べました。同社の齋藤氏は、ビッグデータを用いた共創機会探索ツールについて解説。NTT Comの松岡氏は、営業プロセスにおける知財活用や、大企業とスタートアップで異なる契約ポリシーについて説明しました。知財ビジネスの現場では、失敗を恐れず冷静に数をこなすことが重要だという意見も出ました。知財活用はまだ発展途上ですが、新たな可能性を切り拓く手段として注目されています。
目次
最初にマイクを握ったのは、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー知的財産アドバイザリー パートナーの國光健一氏(以下、國光氏)。國光氏は、「知財情報解析を活用した戦略提言を指す『IPランドスケープ』という概念が流行り始めた2018年頃から知財情報を経営に活用していこうという流れが生まれ始め、企業の知財に対する意識が変化し始めた」と語ります。
そうした潮流のなかで、ここ数年では技術獲得のためにM&Aをするケースや知財を出し合って新規事業をつくるケースが増え、知財デューデリジェンスと知財価値評価のニーズがさらに高まっています。特に最近は、日本と海外の企業が知財を出し合ってジョイントベンチャーをつくるケースも増えており、知財の価値がそのまま出資比率に影響するため、知財の価値をあらかじめ知っておきたいというニーズが増加しています。
かつて知財には「競合他社を排他して自社を守るツール」というイメージがありましたが、昨今は「知財を『新規事業開発や共創のためのツール』と見なす方向に、企業の意識が変わり始めている」と國光氏は言います。
また、そうした意識の変化にあわせて、知財の専門家に求められる業務もかつてのような訴訟に耐える体制やノウハウだけでなく、知財情報の価値に注目した事業戦略立案への貢献、つまり戦略的またはコンサルティング的な要素がより求められるようになってきています。
知財を活用した共創のニーズは高まっているものの、お互いが利益を得られるようなマッチングは容易ではありません。そこで、國光氏は課題を乗り越えて共創を実現するための3つのKFS(重要成功要因)を挙げます。
「1つめは、知財そのものだけでなく、ビジネスアイデアまでを想定してマッチングを検討することです。その技術を使えば、どのようなことが可能になるのか、そしてどんなビジネスに紐づけられそうなのかを具体的に提示することで、共創が進みやすくなります。
2つめは、異なる企業同士をつなぐコーディネーターの存在です。また、社内で新規事業を開発する場合には、知財に詳しい人がハブとなり、事業部門や技術部門、社外の人をつなげることが重要になると考えています。
3つめは、ウェブサイトやイベントなどを通じたPR活動です。持っている知財を認知してもらえないことには、共創は始まりません。同社が持つ3万件の特許を社外に公開し、その技術がどのようなことに使えるのかを独自に分類して発信しています」
知財に関する企業の意識変化のトレンドを押さえたところで、三菱電機の開発本部 知的財産センター長の曽我部靖志氏(以下、曽我部氏)より、同社が取り組む「Open Technology Bank」とそこから生まれた共創事例についてお話しいただきました。
共創パートナーを見つけるために自社の技術を紹介するプラットフォームであるOpen Technology Bank。曽我部氏は「必ずしも自社のメインの技術が共創につながるわけではない」としながら、マッチングの傾向について説明します。
「特許を利用したいという企業さまにはライセンス提供を行い、共創をしたいという企業さまには特許とノウハウを併せて提供することで、多様化する社会課題の解決に貢献することがOpen Technology Bankの目指すところです。
三菱電機では、現在グループで約7万件の特許を取得しています。電機メーカーですので、電気機械や電気エネルギーに関する特許が多いのですが、実はOpen Technology Bankでもっとも多くお問い合わせをいただくのは、電機メーカーらしからぬ『プラスチックマテリアルリサイクル※技術』なのです。というのも、電気関連の特許のなかには競合他社の特許に対する差別化技術も多く、そうしたものは業界の外からは魅力的に映らないのです」
※プラスチックマテリアルリサイクル:プラスチックの廃棄物を同じプラスチック製品の原材料として再利用するリサイクル方法
三菱電機のプラスチックマテリアルリサイクル技術については、グループ内での実用化に成功し、大手日用品メーカーとも事業化に向けた実証実験を進めているといいます。この知財を起点とした事業開発が軌道に乗った要因について曽我部氏はさまざまな要因がタイミングよくかみ合ったと分析します。
「2022年にプラスチックのリサイクルに関する法律ができたことで、リサイクルの機運が高まりました。そこでもともとプラスチックのリサイクルをやっていた工場の事業に研究所の技術を組み合わせることで、より精度の高い選別ができるのではないかと、まずはグループ内での実用化を進めていました。
その後、この取り組みを知った大手日用品メーカーから、技術を活用したいとお声がけいただき、実証実験に進んだという流れです。そのメーカーではシャンプーやリンスのボトルのリサイクルにおける選別が課題であり、その課題解決に弊社の技術がたまたまマッチしたのです。当初は私たちの技術を使っていただくというイメージでしたが、共創を進めていくなかで新たなご要望やフィードバックもいただけており、良い関係性を構築できています」
とはいえ、「こうして共創が実現する事例は極めてまれ」であると曽我部氏は念を押します。積極的に他社との連携可能性を模索しているものの、実際の実証実験まで進んだものはそのうちほんの数パーセントなのだそうです。
「3年間で約400件の面談を実施していますが、その中で『筋がよさそう』と思えるものは1割くらい。そこから実際に実証実験につながるのはわずか10件程度です。ご一緒できる相手とビジネスの種を探すところが、一番苦労するところですね。
まだこれから成功事例をつくっていく段階ではありますが、重要なのはお客さまが求めていることに応えることです。そして、お客さまのことをもっとも良く把握しているのは営業担当者です。彼らが知財に関する情報を豊富に持っておくことで、社内外で新たなパートナーシップを生み出せるのではないかと期待しているところです」
続いて、三菱電機において、「共創」を手段とし、新規事業創出を専門に手掛けるビジネスイノベーション本部・連携企画グループ 齋藤豪助氏(以下、齋藤氏)より、ビッグデータを用いた共創機会探索の取り組みについて共有がありました。
「データに基づいた共創ネットワーク創出のため、活用を開始したのが『VALUENEX Radar』です。VALUENEX Radarは、従来、知財情報分析ツールとして使っていたものでした。このツールを共創活動に生かすため、技術や知財といったシーズ情報だけでなく、ニュース情報やIR情報、SNS情報等を加味することで、企業動向やユーザーニーズの情報を抽出し、共創パートナー・共創テーマを俯瞰(ふかん)図として表現し、「共創の見える化」を行いました。現状、こうしたやり方を試行錯誤することで、共創パートナー・共創テーマ発掘のさらなる効率化を目指しております」
VALUENEX Radarが「IPランドスケープ」と異なるのは、特許情報だけでなく顧客ニーズを加味することができる点。「例えば、モビリティ関連会社と共創する場合、SNSの情報を解析し『自動車に関する不満』を俯瞰(ふかん)する」ことで、共創のテーマになりうるニーズの有無を把握するのです。
続いて、NTT Comの松岡和より、営業プロセスにおける知財の活用事例について共有がありました。松岡は、自社の持つ技術に知財情報をひも付けることで、より説得力のある営業活動が可能になると語ります。
「弊社では営業活動にも知財情報を積極的に活用しています。営業プロセスはお客さまの課題抽出から始まり、その後お客さまに役に立ちそうな自社のアセットを探します。このときに使用しているのが、私たちが持つ技術の概要をまとめた『NTTアセットカード』です。
最近では、NTTアセットカードに知財情報を紐付け、データベース化して社内で公開しています。知財情報とは、その分野においてNTTの技術がどの程度強いのか、どのようなポジションにあるのかといった情報で、営業時のお客さまへのアピールや独自性のある新規事業の創出につなげたいと考えています」
共創パートナーの探索や営業活動はいうまでもなく重要ですが、共創の実現にあたっては、「どのようにパートナーを選定し、どのような契約を結ぶか」という視点も重要です。
松岡は、共創パートナーの選定においても、知財情報を活用することで定量的な評価が可能になるとしつつ、大企業とスタートアップで契約ポリシーを変えることで、よりよい共創関係を構築していると語ります。
「企業間の共創活動においては、『成果物が誰に帰属するか』という部分でもめる場合が多いと思います。弊社の場合には、対大手企業の契約の際には、NTT由来の技術の知的財産は弊社に属し、パートナー由来の技術の知的財産は相手企業にお渡しし、一緒につくり上げた技術は共有財産にする、といった方針のもと、細かな表をつくって丁寧に契約書のドラフトを詰めていきます。時間も手間もかかりますが、双方が納得した上で契約を締結できるため、その後の関係性が良くなると感じています。
一方、対スタートアップの契約においては、先方の知財活動を支援するような立場を取っています。スタートアップのなかには、知財専門のスタッフがいない企業も多いため、知財の啓発的な活動を行ったり、特許出願戦略を立てて提案しています。特許の出願費用を弊社でサポートすることもあります。
また、重要なのはスタートアップの意向に沿ったかたちで権利帰属を決めることです。先方が単独で権利を持ちたいという希望があれば、全面的に権利をお渡しします。スタートアップが知財を活用して成長することで、私たちにとっても出資やグループ内での事業化といったメリットがあるのです」
4名からの事例共有が終わったところで、会場の参加者からは登壇者への質問が飛び出しました。中でも印象的だったのは、知財ビジネスの“現場の空気感”に関する質問です。
「例えば、ベンチャーキャピタルが多く集うような業界は、10の投資先のうち1つホームランが出ればOKという空気感がある一方で、知財を用いた新規事業開発では失敗が許されないような空気感があり、現場の苦悩につながっているように思います。皆さんの現場の空気感はどのような感じでしょうか」
この質問に対し、三菱電機の曽我部氏は、「おっしゃる通り、会社はすぐに数字的な成果を求めますが、共創でそう簡単に大きな成果が得られないことは、現場の私たちからしてみれば当たり前。冷静に、数をこなして、そのうちのいくつかが当たればいいんじゃない、というスタンスを保つようにしています」と、現場のマネージャーに求められる姿勢を伝えました。
先進企業においても、知財の活用はまだまだ発展の途上にあり、知財を起点に共創する難しさとともにそれらが切り拓く可能性も浮き彫りになった今回のイベント。今後もOPEN HUBでは、「知財×ビジネス」をテーマに、先進事例をさらに深掘りしていく予定です。ぜひ、今後のイベント開催をお楽しみに。
関連リンク:
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