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Co-Create the Future
2024.06.19(Wed)
この記事の要約
知財には特許、実用新案、意匠、商標の産業財産権と著作権があり、保護、連携、信用の機能があります。特許庁は知財を社会課題解決に活用するI-OPEN PROJECTを推進しており、子ども食堂のような取り組みを商標と運営ノウハウのライセンス化で支援しています。
IPランドスケープという知財の分析手法で、自社の強みを把握し、戦略立案に活かすことができます。知財部門は事業開発の初期段階から関わることで、より事業に貢献できます。
研究開発フェーズでは技術の特許を、ビジネス化フェーズではビジネスモデル、UI/UX、ソフトウェアの知財保護が重要です。NTT Comの社会可能性発見AIを活用し、特許情報から新規ビジネスアイデアを創出するワークショップを体験しました。知財には事業開拓において大きな可能性があることを学びました。
※この要約はChatGPTで作成しました。
目次
福嶋麻由佳(以下、福嶋):知財という言葉を耳にする機会はあるけれど、正確な定義はわかっていないという方も多いと思います。まずは、知財について橋本さんから簡単に解説いただけますか。
橋本直樹氏(以下、橋本氏):知財は皆さんが思っている以上に幅広い概念を指す言葉です。特許庁が扱っている知財には、さまざまな発明/考案を保護する『特許/実用新案権』、デザインの権利を保護する『意匠権』、企業等の商品やサービスを保護する『商標権』の3種類の産業財産権があります。
皆さんに馴染み深い『著作権』も知的財産権の1つなのですが、この著作権は文化庁が所管しており、申請しなくとも創作した時点で権利が発生するのが特徴です。一方、特許庁が所管する3種類の産業財産権は、権利者が特許庁に申請を行い、審査が通れば権利が発生するものです。
福嶋:保護する対象ごとに種類があるのですね。
橋本氏:はい。そして、それらの知財には共通して『保護』『連携』『信用』という機能があります。
『保護』は特許やデザインが他の人に使われてしまった場合に、裁判所に申告することで、その使用を止めることができるというものです。みなさんがイメージする知財の機能はこうした『守り』の方だと思います。2つ目の『連携』は、言わば『攻め』の機能です。『このアイデアをあなたも使ってもいいですよ』といったコラボレーションのためのツールとして知財を活用できるのです。
さらに、3つ目の『信用』ですが、投資を受けたりパートナーシップを組んだりする際に、ある発明やデザインについてパートナー相手に一定期間の独占的な使用を保証するなど、知財を『信用』につなげていくというものです。
福嶋:知財には権利の保護以外にも重要な機能があるのですね。特許庁は、知財の活用を推進する取り組みとして「I-OPEN PROJECT」を立ち上げていますが、このプロジェクトについて設立の経緯と具体的な活動内容を教えていただけますか。
橋本氏:特許庁は2018年に『デザイン経営』宣言を発表し、デザイン経営を特許庁自らが実践すべく、80名の有志職員によって6年間にわたって『特許庁デザイン経営プロジェクト』を進めてきました。このプロジェクトの一環として、『知が尊重され、一人ひとりが創造力を発揮したくなる社会を実現する』という特許庁のミッションも新たに策定され、このミッションを達成するために立ち上げられたのが『I-OPEN PROJECT』です。
『I-OPEN PROJECT』では、知財を社会課題の解決に活用することで持続的な社会をつくるような仕組み作りの活動を行っています。せっかく素晴らしい知財を持っていても、個人でできることには限りがあります。同じように企業であっても1社だけで社会課題を解決することはできません。そこで、アイデアや想いに共感する人に知財のライセンスを付与することで、社会課題解決に取り組む仲間を増やせる、そんな仕組みをつくる狙いがあります。
福嶋:知財がビジネスにおける共創を生み出すきっかけになるわけですね。具体的な活動も知りたいです。
橋本氏:社会課題解決を目指す企業や個人の方に、知財の専門家やデザイナー、経営者をメンターとして付けて、知財を使った社会課題解決やビジネス創出を支援しています。
2021年には、2022年度のグッドデザイン大賞に輝いた、まほうのだがしや チロル堂の吉田田タカシさんに、このプロジェクトにご参加いただきました。チロル堂は子どもの貧困の解決を目指すいわゆる子ども食堂に似ている取組です。誰もが気軽に来店しやすい駄菓子屋という形態や『ガチャガチャ』の仕組みを導入することで、子どもたちが後ろめたさを感じることなく楽しく晴れやかにご飯を食べられる場を提供している点が特徴です。
全国に広まってほしい素晴らしい取り組みですが、何もルールがないまま『どうぞ真似してください』と言ってしまうと、その表層だけを真似する人が現れ、チロル堂の想いと違い、子どもたちが悲しい思いをするような事態が起きないとも言い切れません。
そこでプロジェクトの伴走支援では、チロル堂の商標権と運営のノウハウをセットでライセンスする仕組みをつくりました。チロル堂の想いやコンセプトに共感した人が、正しい形でその取組を広げられるようにしたのです。
『I-OPEN PROJECT』は、2024年の夏頃にまた新たなプロジェクト参加者を募集予定ですので、ぜひご興味ご関心のある方はご応募ください。
福嶋:続いて特許庁I-OPENプロジェクトリーダーの武井さんに、知財をもとに自社の強みを把握し、戦略立案に活用する「IP ランドスケープ」についてお伺いしたいと思います。
武井健浩(以下、武井氏):新規ビジネスの創出には自社の強みを把握することが重要であるのにもかかわらず、自社の強みを明確に把握できている企業は意外に少ないのです。
そして自社の強みを理解するために役立つのが、知財なのです。そこで私たち特許庁が推奨する知財の活用方法「IP ランドスケープ」についてご紹介します。
IPランドスケープとは、自社の経営戦略を定めるときに、経営情報に加えて知財情報を取り込み、分析することをいいます。具体的には、パテントマップと呼ばれるこれまで取得した特許を可視化するための図を作成します。このマップでは、特定の領域に特許が集中していることが可視化されるため、その企業の強みやコアの技術が分かります。自社の強みを起点にどのような事業を生み出せば良いのかが見えてくるのです。逆にマッピングの薄い部分は自社の弱みであり、その領域を強みとする企業と協業すべきであることもわかるのです。そしてこのマップは他社とパートナーシップを組んで協業するときに、自社の技術や知見をシェアする際にも役立ちます。
福嶋:IP ランドスケープは共創時代における知財活用の重要なツールなのですね。一方で知財をビジネスでいかしていく上で、注意すべき点はありますか。
武井氏:オープンイノベーションのような手法で複数のステークホルダーで新たなビジネスを検討する際には、知財活用について事前に正しい取り決めを行っておかないと後々トラブルになる可能性があります。
例えば、大企業とスタートアップが協業するような場合、企業の文化や性質が大きく異なるために、プロジェクトの進め方や知財契約の場面において話が噛み合わないといったことが起こりえます。そこで特許庁では、バッググラウンドの異なる企業同士が同じ方向を向いてオープンイノベーションを推進していくために必要な考え方について、『事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック』という資料を作成し公開しています。こちらは図やイラストも交えて読みやすくまとめてありますので、皆さんにぜひご活用いただければと思います。
福嶋:続いてはNTT Comで知財戦略の立案を担当する松岡さんから、事業会社の知財部の観点で知財を取り巻く課題と可能性についてお伺いしたいと思います。
松岡:おそらく多くの企業の知財部の方が同じ悩みを抱えられていると思うのですが、私たち知財部の悩みは、『特許出願の手続きをしてくれる事務屋さん』と思われており、あまり期待してもらえていないことです。しかし実際には知財には多くの可能性が眠っています。武井さんがおっしゃったように知財を分析することで、企業の強みや市場全体の動向などを把握することが可能になり、より強靭な経営戦略の立案や新規事業の創出につなげることができるのです。そのため私たちは企業経営における戦略の執行部門を目指して活動を行っています。
具体的にはオープンイノベーションなどのプロジェクトには、できるだけ早期の段階から私たち知財部の担当者がプロジェクトに関わるようにしています。先日、このOPEN HUBやスタートアップとの新規事業創出を目指すオープンイノベーションプログラムの「ExTorch」に私たち知財部が初期の段階から参画、活動している点が評価され、特許庁の『令和6年度 知財功労賞』を受賞しました。今後も、このような活動を通じて、事業に貢献できる知財部を目指していきたいと考えています。
福嶋:なるほど。オープンイノベーションが進む今、知財部には事業に貢献するあり方が求められる時代なのですね。
それでは、ここからは参加者の皆さんから寄せられた質問に答えていきたいと思います。まずは1つ目の質問です。『どうすれば、事業開発と知財戦略が一体となってプロジェクトを推進できるのか。 実際のビジネスで使えるようになるためのポイントを教えてほしい』というご質問です。
松岡:知財と事業開発の現場が一体となって活動を行うためには、知財部に開発の上流工程に入り込んでもらうことが重要です。開発の最終段階で、「特許の出願だけお願いします」といったコミュニケーションでは、一体になったプロジェクトとは言えません。
私たちNTT Comの場合、企画や構想といった事業開発の最初の段階から、知財の担当者が一緒になってビジネスモデルやアイデアのディスカッションを行うように努めています。こうした取組は、全体から見ればまだ一部ではありますが、そうした体験をした人が「早い段階から知財に入ってもらうと良いことがある」と認知し、社内に広めてくれることで、知財が事業開発の上流に入る風土が一般的になっていくものだと考えています。
武井氏:参考になる優れた事例として、特許庁では「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」という事例集を作成しています。知財を活用したプロジェクトをどのようにして推進していったのかについて、各企業にヒアリングした内容を盛り込んでいます。知財部、事業部、研究開発部といった部門同士が早期の段階から密に連携を取り合いながら進めていった優良事例が紹介されています。ぜひお読みいただき、参考にしていただけたらと思います。
福嶋:続いて2つ目の質問は『生成AIをはじめとする近年の新たな技術の変化を、特許庁はどのように捉えているのか』です。いかがでしょうか。
武井氏:新しい技術で付加価値を生み出すという取組は、日本の産業力の強化につながるので、政府としては新たな技術を使う取組を応援していきたいと考えています。一方で、新しい技術に対してリスクやハードルを感じる人もいるので、それをクリアしていくためのケアも並行して行っていかなければなりません。生成AIに関してはAIによる学習行為が著作権等の知財侵害に当たるのか、AI生成物に著作権等の権利が発生するのかといった議論がいままさにありますが、ルールの検討や整理を重ねていく必要があります。
またAIのような最新技術は世界全体に関わることですので、日本のことだけ考えていてもいけません。グローバルな情報をキャッチアップしつつ、日本が産業力で世界をリードしていくために知財はどうあるべきなのか。そうしたことを考えながら、昨今の技術の変化に向き合っています。
福嶋:それでは、最後の質問です。『研究開発における発明をビジネス化する段階において、特許を申請する際のポイントやアドバイスがあれば教えてほしい』これについてはいかがでしょうか。
松岡:前提として、研究開発のフェーズとビジネス化のフェーズでは、対象とする知財が変わってきます。まず、研究開発の場面では、技術開発の成果物が出てくるので、そこに対してしっかりと特許を取っていくことになります。
一方で、ビジネス化のフェーズにおいては、技術というよりもビジネスモデルに対する特許を取ることになります。また現在はUIやUXが非常に重要な要素になっているため、そこも知財でしっかりと守っていく必要がありますし、ソフトウェアも知財による保護の対象になります。研究開発で出てきた技術を起点に新規ビジネスを創出していくというケースも多いと思いますが、いまお話ししたような観点で、研究開発フェーズとビジネス化のフェーズを分けて考えられるとよいのではないでしょうか。
第1部のトークセッションに続いて、参加者は知財を起点に新規ビジネスのアイデアを検討するプロセスを体験するワークショップに入りました。
NTT Comでは、「社会可能性発見AI」というビジネスアイデア共創に資するツールソリューションを開発しており、特許出願に向けて準備を進めています。このAIソリューションは解決したい社会課題のテーマを選択し、企業の持つアセットを入力すると、あらかじめインプットされたNTT Comの持つアセットと掛け合わせたビジネスアイデア候補が出力されるというものです。
今回は、「フードイノベーション」というテーマを選択し、MIRAI LAB PALETTEを運営する住友商事のアセット「ペットケア製品」を入力してみたところ、NTT Comの「モバイル空間統計」ソリューションと掛け合わせた、ペット同伴型農業プラットフォーム「Pet Harvest」というビジネスアイデアが生成されました。
このアイデアをもとに、特許情報プラットフォーム「J Plat Pat」で特許情報を検索し、似たようなアイデア/特許がどの程度申請されているのか、既に取得されている特許がある場合にはどうすれば差別化できるのか、といった内容を検討するのが今回のワークです。
ワークの最後には、回答例として知財担当である松岡がどのようなキーワードで特許情報を検索し、ビジネスアイデアをブラッシュアップしていったのか、プロセスとアウトプットの共有があり、参加者は自分のものと比べながら熱心に聞いていました。
参加者からは「特許情報を見たことはあったが、見るポイントがわからなかったため参考になった」「キーワード検索で新規事業を検討するといった活用方法は想像もつかず良い気づきになった」と新規ビジネス創出や事業開拓において知財が有効であり、活用の可能性があることを知ったといった感想が多くありました。
本イベント第1部の全容は当日の模様を収録した動画、もしくはPodcastでも配信しています。ぜひご確認ください。
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知財の可能性を学び、「MIRAI LAB PALETTE」とコラボレーション企画として双方のコミュニティでの連携もあり、大いに盛り上がった本イベント。OPEN HUBでは、2024年7月3日に「知財とイノベーション」をテーマにした第2回のイベントを開催します。ぜひ、ご応募ください。
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