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2024.08.23(Fri)

元シャープ片山幹雄×NTT Com戸松正剛 「共創を国際競争力の源泉にするために」

#地方創生 #サステナブル #Smart World #共創 #ヘルスケア #イノベーション #事例
さまざまな社会課題を抱え、課題先進国とも呼ばれる日本。これらの課題をスピーディーかつ効率的に解決するために、共創の選択肢が経営層の視野に入ることがスタンダードになってきた。共創を担うXtrepreneur(クロストレプレナー:社内において他社とともに変革を起こそうとする者)を表彰するアワード『Xtrepreneur AWARD』(Forbes JAPAN主宰)でも、ユニークなプロジェクトのエントリーが年々増えるなど、その流れは勢いを増している。

日本に限らずグローバル共通の課題解決に寄与する技術やサービスは、海外展開も視野に入ってくるだろう。グローバルで戦うために必要な要素とは何か。『Xtrepreneur AWARD 2024』の審査員で元シャープ代表取締役、現在は「Kconcept」代表取締役の片山幹雄と、NTT コミュニケーションズが運営する事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」の代表を務める戸松正剛が語った。

目次


    アセットをもつ大企業こそ
    共創におけるキーマン

    労働人口の減少やビジネスの前に立ちはだかる社会課題の複雑性から、複数企業による共創プロジェクトが目立つようになってきた。物流業界が2024年問題を契機に業界再編や協業、共創といったさまざまな方法で新陳代謝を図ったことが話題になっているが、今後は新たな価値を創出するための共創が大きな流れの一つになるだろう。

    戸松は日本で共創のスタイルが根づき始めた背景として、貿易収支が赤字となった2011年を大きな転換点とする。それまで日本は貿易立国として、海外で稼いだ資本を国内の技術開発に投資し、また海外で新商品を販売するというサイクルが循環していた。しかし、11年に東日本大震災が起こり、並行して世界ではデジタルサービスが勃興。GAFAMやウーバー、Airbnb(エアビーアンドビー)など、海外から資本コストの低いサービスが流入し、ビジネスの潮流も大きく変化した。

    「日本が国際競争力を取り戻すためには再び、海外販売→国内開発→海外販売というサイクルを構築し直さなければなりません。デジタル領域が一巡した一方で、今後はデジタルとフィジカル(物理)を組み合わせた新たなビジネスが求められています」(戸松)

    片山も、戸松の11年が転機になったという話に頷き、「2010年までは、大企業の時代だった」と分析する。

    「それまでは大企業が、中小企業を『下請け』として使って日本経済をけん引していましたが、東日本大震災が引き金になり、電機メーカーの勢いが落ちました。それまで国内におけるテクノロジー開発の中心地は電機メーカーでしたが、海外のデジタル技術やサービスが席巻して、大打撃を受け続けたのがこの10年あまり。ここから盛り返すには、企業は異なるアセットをもった企業と手を組んで、事業ポートフォリオを替えなければ勝ち残れない」(片山)

    Kconcept 代表取締役の片山幹雄

    昨今はスタートアップや大学発ディープテックなど、さまざまなプレイヤーを巻き込んだ共創プロジェクトが生まれている。戸松はその中でもキーマンは、豊富なアセットを有する大企業だと明言する。

    「日本の知的財産権の約8割、全資産の7割ほどを大企業が有していることを踏まえると、大企業をテコにグローバルなビジネスを展開していかなければ、国際競争力の獲得は難しい。現在も日本の研究開発費(科学技術研究費)は産学官合わせて約20兆円と、世界第3位を誇っています。大企業自体も研究開発に注力するなかで、地方企業やスタートアップともアセットを組み合わせることで国際競争力を伸ばしていくほうが合理的なはずです」(戸松)

    片山は、そういった日本の強みを、「Xtrepreneur AWARD 2024」の複数の受賞プロジェクトからも強く感じたという。

    例えば、グランプリを受賞した「心・血管修復パッチ『シンフォリウム』の共同開発」。これは大阪医科薬科大学の医師・根本慎太郎の発想から、福井経編興業の経編(たてあみ)技術と帝人の高分子技術を掛け合わせたプロジェクトだ。

    「GX/カーボンニュートラル部門で受賞した『CCU活用による環境保全型ハイブリッド農業「藻類Xアクアポニックス」プロジェクト』など、本アワードでは医療や環境問題に関するプロジェクトが高く評価されました。これらは日本の研究開発力の高さがうかがえるもの。

    また、都心部の大手企業と地方の中小企業がもつ技術やモノづくりとの組み合わせを実現しているプロジェクトが多いのも特徴です。地道に培ってきた技術をもつ中小企業と、グローバル目線のビジネスを手がける大手企業が組み合わされることで、新たな事業を創出したのは非常に興味深い。創業とは違った視点であり、これから日本が目指すべき方向性を感じました」(片山)

    管理されない技術や研究こそ
    グローバルで勝てる勝機に化ける

    共創によるグローバルでのビジネス展開に期待が寄せられるものの、片山は大企業が抱える構造的な課題として、資本や人の流動性の低さを指摘。

    「欧米企業は事業も人も新陳代謝が活発で、生き残るために創業時の事業が整理されるケースも珍しくない。一方、日本の大企業は縦割り組織で他社の技術を使うのをよしとしない自前主義です。加えて、四半期決算など法律に基づくルールによって経営者が目先の数字にとらわれがち。今後はアメリカ大統領選や地政学リスクなどさまざまな要因で、日本でも大規模なM&Aや業界再編など大変革が起こるでしょう。そういった破壊と再生によって、日本経済の活力が生まれてくるはず。経営者はそういった変化を想定しながら、経営シナリオをシミュレーションしておくべきです」(片山)

    「おっしゃる通りで、中期経営計画も日本特有の文化です。経営環境の不確実性が高い今、3〜5年後を見通す術はありません。外資系企業のように、ビジョンを核としつつ、変化にスピーディーに対応しなければ生き残れない」(戸松)

    では、そういった大企業の体質を変革し、グローバルで勝てるような事業を生み育てるためには、どういったリーダーが求められるのか。

    「会社が完全に管理していないがゆえに生まれた研究・技術があり、その価値に気づかれないまま、社内で眠ったままになっていることも。そこで、その技術の価値に気づき、新規事業としてグローバルに展開できるようなビジネス感覚をもった人間が必要とされます。また、世界的な販売網やキーパーソンを押さえることのできるグローバルな人脈も求められる。中国や韓国、インドは他国への留学が盛んで、そういった文脈を捉えたビジネスパーソンを続々と生み出しています」(片山)

    戸松も、共創プロジェクトをグローバル展開するうえで、異なる業界の情報や関係性の結節点となり、そのネットワークの価値を高める“ストラクチャル・ホール”的人材の重要性を強調。さらに、共創を進めるうえでの資質について、次のような持論を展開する。

    「ビジネス界には構造的な説明や事業評価のできる“ツッコミ”の人が多く、飛躍したアイデアや面白い掛け合わせを生み出せる“ボケ”の人が少ないと感じています。“ツッコミ”のほうが論理的で会社からも評価されやすいのですが、実は新しい議論やイノベーションには“ボケ”こそが必要です。

    技術の価値は外部からの目線で初めて気づくことも多々あり、だからこそ今、共創が必要とされている。グローバルビジネスを手掛けられる人材の育成と併せて、技術や人材を的確に評価して回していくための仕組み化をしなければならない。共創プロジェクトが成功するかどうかは最終的には確率論でもあるので、失敗を所与としながらも作用するシステムの構築が求められているのです」(戸松)

    「OPEN HUB for Smart World」の代表を務める戸松正剛

    “ガラパゴス日本”の価値

    では、実際に社会実装が可能な事業が生まれた場合、それをグローバルに展開する際に必要な観点とは何か。

    「韓国や北欧諸国など国内需要だけでは成立しない国々は、事業のスタート時からグローバルにフィットするかを徹底して考えており、そうでなければ国境を越えることは難しい。今、スタートアップの若い経営者は最初からグローバル指向ですし、さまざまな規模の企業が取り組む共創においても、走り出しからグローバルを踏まえた発想が必要とされます」(戸松)

    「『Xtrepreneur AWARD 2024』を見ても、受賞プロジェクトを日本国内だけで終わらせてしまうのはもったいないので、国際的に通用する人や戦略をもたなければなりません。一方で、日本の既存の教育や社会システムは内向きであり、グローバルに向いていないことも事実です。であれば、例えば地域活性/モビリティ部門を受賞した『沿線まるごとホテル』プロジェクトのように、まず日本中に広めたうえで、インバウンドで来日した観光客に世界へと広げてもらう方法もあるはず。日本食の価値もそんなふうに発見され始めています。日本はよく“ガラパゴス”といわれますが、だからこそ観光地としての価値があるわけです」(片山)

    これまでグローバル市場における日本企業は、「技術は強くても、ビジネスには弱い」と揶揄されてきた。しかし片山は、日本のビジネスパーソンは、グローバルなリレーションシップを構築する力が弱いものの、それ以外で劣っている部分はなく、海外子会社などのオペレーションも軌道に乗り始めていると話す。事実、近年多くの日本企業が海外売上比率を高めている。

    「しかし、日本での再投資の流れには至っていません。なぜなら、日本は税金が高く規制も強いため、投資効率が悪い。共創によってグローバルビジネスのタネは生まれ始めているので、国としても規制緩和や事業投資の優遇政策を考えていくべきです。日本の労働人口が急減するなかで、新しい投資の考え方やモノづくりこそが課題であり我々がやるべきことなのです」(片山)

    共創が根づき、課題が出揃った今、実行に移すフェーズに入っている。共創によって自社に眠るイノベーションの源泉を掘り起こし、新たな価値を与えられた企業がグローバルでも勝ち抜ける企業になっていくはずだ。

    Xtrepreneur AWARD 2024 特設サイトはこちら
    https://forbesjapan.com/feat/xtrepreneur_award_2024/

    かたやま・みきお◎1957年、岡山県生まれ。東京大学工学部金属工学科卒業後、シャープ入社。液晶事業本部長、同事業部取締役等を歴任、太陽電池や液晶の研究開発に尽力した。2007年に同社最年少の49歳で代表取締役社長に就任。14年にシャープを退社、日本電産に入社。副会長最高技術責任者(CTO)に就任。22年に日本電産を退社、Kconceptを立ち上げる。

    とまつ・せいごう◎NTT コミュニケーションズ OPEN HUB for Smart World 代表、ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 部門長。NTTグループ各社にて、主にマーケティング/新規事業開発に従事。米国留学(MBA)を経て、NTTグループファンド出資のスタートアップの成長/Exit支援、Jリーグ他プロスポーツ業界とのアライアンスなどを手掛ける。2021年OPEN HUB for Smart Worldを設立、代表に就任。


    text by Michi Sugawara / photographs by Yoshinobu Bito / edited by Kaori Saeki

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