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2024.06.07(Fri)

守りから攻めへ。企業は知的財産権をどう活用すべきか

#イノベーション #法規制
知的財産権(知財)とは、人間の創造的活動や事業活動で生み出される、さまざまなアイデアやモノ、情報などを保護する権利のことです。自らが生み出したアイデアや技術、発明などは、知財によって保護されるため、無断で他者に使われることなく一定期間独占的に利用することができます。

この知財を管轄する特許庁では、毎年、日本の知財制度の発展・普及・啓発に貢献した個人および知財制度を積極的に活用した企業などを「知財功労賞」として表彰しています。令和6年度は、経済産業大臣表彰として個人1名と企業等7者、特許庁長官表彰として個人5名と企業などの14者が受賞。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)も、表彰された企業の1社で、「特許庁長官表彰(オープンイノベーション推進企業)」を受賞しました。

受賞にあたり評価されたのが、社会実装をめざす事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」、そしてスタートアップとの新規事業創出をめざすオープンイノベーションプログラム「ExTorch」の取り組みです。これらのプロジェクトには知財担当者が積極的に参画しており、知財を背景とした独自性の高いビジネスアイデアの創出を支援しています。

生成AIによるデータ学習や、無形資産への注目の高まりなど、知財を取り巻く環境は大きく変化しています。このような状況のなか、NTT Comでは知財戦略をどのように考えているのでしょうか。「OPEN HUB for Smart World」および「ExTorch」の担当者に話を聞きました。

目次


    重要度が増す知的財産権

    —-なぜNTT Comは、「OPEN HUB for Smart World」「ExTorch」のプロジェクトにおいて、知財担当者をメンバーに加えたのでしょうか? NTT Comの知財戦略について教えてください。

    松岡和(以下、松岡):NTT Comが知財に力を入れる背景としては、近年、知財の定義が広がりつつあることが影響しています。

    ひと昔前までは、知財といえば特許庁が所轄する産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の4つが中心でしたが、最新の定義では、それに加えてデータ、ノウハウ、顧客基盤、さらには人的資本も加え、まとめて「知財無形資産」として扱うケースが増えています。知財無形資産の中には著作権も含まれており、特に最近では、企業の競争力の源泉となるプログラム、アルゴリズムといったソフトウェアにおいても、著作権のあり方が重視されています。

    知財の定義が変わりつつある理由としては、GAFAM(※)をはじめとする先進的な欧米企業が積極的に知財や人に莫大な投資をして、事業を成長させてきたことがあります。これまで日本企業は工場や設備といった有形資産に重きを置いていましたが、これからは日本企業でも知財無形資産に力を入れる流れが主流になるかもしれません。

    ※GAFAM…アメリカにおける巨大かつ支配的なIT企業5社の略称。Google・Amazon・Facebook(現Meta Platforms)・Apple・Microsoftの頭文字が元となっている。

    松岡 和│NTT Com イノベーションセンター 技術戦略部門(知的財産担当) Chief Catalyst /Service Coordinator
    大手通信キャリア、外資系グローバルメーカー等の知的財産部を経て、現在はSmart World事業に関する知財戦略の立案・実行・推進業務やスタートアップへの知財による共創支援に従事している。

    知財の使い方についても、これまでは自社で特許を取得、権利を独占し、模倣する企業が出てきたら権利を行使する、というのが一般的でした。しかし、共創が当たり前になったいま、NTT Comでは共創ビジネスの促進のために知財を活用しています。たとえば、共創を考えるお客さま企業に対して、当社で保有する魅力的な知財をお見せすることで、競合他社との優位性をアピールすることも可能です。また、後ほどお話ししますが、知財の情報をベースにすることでオリジナリティの高い新規事業を生み出せるメリットがあります。

    一方、オープンイノベーションプログラム、いわゆるスタートアップとの共創の場合、大企業が成果物を取り上げるという好ましくない慣習が一部において存在しています。これではスタートアップ側は、積極的にプログラムに参加することは難しいでしょう。

    そこでNTT Comでは、スタートアップの意向に沿って権利を“持ってもらう”、あるいは“共有する”といった、これまでとは逆の考え方で共創の促進を図っています。中長期にわたり友好的な関係を構築することにより、スタートアップもNTTのアセットを活用する可能性が広がりますし、それが当社にとってのメリットにもなると考えています。

    特許が「ない」ところにビジネスチャンスがある

    —-「OPEN HUB for Smart World」ではどのように知財を活用しているのでしょうか。

    仲田汐見(以下、仲田):まずOPEN HUBで進める共創の取り組みには大きく2つのパターンがあります。クローズドな環境下でNTT Comとお客さま企業の1対1で共創を進めていくパターン、もう一つはオープンなコミュニティで複数のお客さま企業と特定のテーマについて議論しながら共創を推進するパターンです。

    クローズドな環境下では、多くの場合私たちとお客さま双方のアセットを組み合わせる検討を行うのですが、そこで出たアイデアの帰属先はどうなるかなど、あらかじめ安心感を持って議論を進められるようお互いで知財活用に関する規約を取り交わしています。

    一方で複数社が関わるオープンなコミュニティでの検討の場合は、特定のテーマに関わる特許を洗い出し、その裏返しで特許のない未開拓の領域を狙って新しいビジネスのアイデアをつくることに知財を活用しています。

    知財活用の具体例としては、OPEN HUBが手がける継続性のワークショップ・プログラム「Dialog」で、社会課題となっている「孤独」をテーマにした取り組みがあります。実際にビジネス化を検討する際、特許をベースにブラッシュアップを行った結果、よりアイデアに具体性が出てきました。知財を活用することで、魅力的なビジネスアイデアに仕上がったと思います。

    仲田 汐見│NTT Com ビジネスソリューション本部 Catalyst/ Business Producer
    営業組織の業界戦略検討支援を経験後、2021年にOPEN HUBに参画。カタリストを統括する立場として共創案件を推進するプログラム『PLAY』の設計・運営・支援を行う。

    松岡:実はNTT Com社内でも、同じアプローチを実践しています。いくつかの事業創出につながっており、某省庁に知財ベースで考えた新たな事業を提案したり、顧客企業に既存の知財を踏まえた新たなビジネスアイデアを持ち込むといった動きも出てきています。こうした取り組みも社内でどんどん展開していきたいと考えています。

    スタートアップのCEOは、知財に関心を持っていない?

    —-もう一つの「ExTorch」の知財活用についても教えてください。

    木付健太(以下、木付):2019年から開始したExTorchは、スタートアップと社内の部署をマッチングして、新たな事業をつくっていくオープンイノベーションプログラムです。NTT Com内では発想し得ないビジネスをつくり、社会課題を解決し、新たな収益源を創出することが大きな目標です。私は、さまざまなスタートアップと社内の部署の関係を取り持ち、伴走しながら事業につなげていく事務局の役割を担っています。

    ExTorchでは知財に関して、以下3点の方針を掲げています。

    ・ExTorch 採択テーマ以外にも事業拡大される意向を尊重し、事業拡大される領域についての活動制約を行いません
    ・多様な環境・ニーズを認識し、スタートアップの成長を後押しする知的財産取り扱い等のプランを提案します
    ・革新的技術・ビジネスモデルで優位性を獲得するために必要な知的財産活動をサポートします

    ここまで知財方針を明言したオープンイノベーションプログラムは、ExTorchが最初ではないでしょうか。スタートアップの要望に応じて、NTT Comが柔軟に対応する体制こそが最大の強みといえます。

    木付 健太│NTT Com イノベーションセンター プロデュース部門
    2011年、NTTコミュニケーションズ入社。アウトバウンドセールス、アカウントセールス(新潟支店、首都圏担当)を担当。2020年より現職でExTorchオープンイノベーションプログラム責任者を務める。

    松岡:ExTorchでは、スタートアップと共創が始まったら、まず私がCEOの方と直接お話しする機会を設けています。ただ、ほとんどの企業のCEOは、知財にそれほど関心がありません。むしろ、「お金がかかる」「事業的なメリットを感じない」といった否定的な意見も少なくありません。

    知財の必要性を伝えるために、競合の知財に関する動向調査を行い、競合は多くの特許を取得していることを具体的に提示します。その上で、「御社も強みの領域でどんどん特許を取得して、競争力を発揮しましょう」という提案をすると、ほとんどのCEOに知財の価値を理解していただけます。

    スタートアップに特許取得に必要な資金が不足する場合には、一定条件のもとNTT Comが負担します。手続きが面倒という場合には、サポートも行います。スタートアップの成長こそが私たちの利益になりますので、支援は惜しみません。この姿勢が評価され、積極的に知財を取得するスタートアップが続々と増えています。

    木付:毎年、ExTorchでは5~10件くらいのマッチングを支援しています。現在、事業化できている案件としては、NTTビズリンクのビデオオンサイトソリューション「Beamo™」など2件、事業化検討中の案件は「風況可視化プラットフォーム」など数件あります。これから、さらに増えていくのは間違いないでしょう。

    知財が日本の経済成長につながる

    —-今後の知財戦略としては、どのような展望を描いていますか?

    松岡:今回は共創の領域で知財功労賞を受賞しましたが、今後は知財を事業戦略、経営戦略の立案と実行に活用することをめざしています。

    企業が成果物を開発した場合、一般的にその会社は特許を出願しますが、その特許出願の情報を分析することで、企業の注力する開発領域がどこにあるのか、あるいは特定の領域にどのような企業が参入しているかが明らかにできます。こういった情報をうまく活用すれば、これから注力すべき領域、競合との差別化ポイントが見えてくるため、事業戦略、経営戦略の明確な指針に活用できると考えています。

    仲田:OPEN HUBとしては、まずは約700人の社内のカタリストに対して知財に対する意識を高めていくことが重要だと思っています。その上で、知財の可能性について理解していただくため、イベントなどに取り組んで社内外に発信していきます。ゆくゆくはNTT Comの全社員に知財の意識を浸透させていきたいです。

    木付:ExTorchの知財に対する手厚い対応を、多くのスタートアップの方々に知っていただき、パートナーとして選んでもらえる要因になればいいなと思っています。そのためにも知財を活用したスタートアップとの共創による成功事例をたくさん生み出し、広く発信して評判を高めていきたいです。

    松岡:ご存じかもしれませんが、コーポレートガバナンス・コード(2021年に改定された、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード)には、新たに知財に関する内容が組み込まれました。これまで開発部門からの要望を受けて特許出願をすれば、それで終わりの閉じた世界でしたが、これからはパートナーとの共創に貢献する、あるいは事業戦略、経営戦略の指針として役立つ開かれた世界、守りから攻めに転じた知財活用が求められています。

    個人的にはOPEN HUBやExTorchの取り組みは、企業の知財部の方にこそ見ていただきたいです。使い方次第でもっと企業に貢献できる知財の可能性を知っていただき、ゆくゆくはさまざまな企業の知財担当者が膝を突き合わせて話し合う世界をめざしたいと思っています。

    企業の方、特に知財部の方には、自社の強み、オリジナリティの領域を知財で守り、事業を成長させていくことで、それが日本全体の経済成長につながっていくと考えています。

    また、スタートアップについては、知財への関心を持つ企業が増えつつあると感じていますが、もっと日本国内に増やしていくべきです。スタートアップで成功する企業の多くは、最初の段階から知財を取得しています。たとえば、いま日本でいちばん成功しているスタートアップは、200件近くの特許を持っています。

    知財の活用は、事業を成功させるためには不可欠です。私たちには共創を加速する豊富なアセットがあり、パートナー企業の知財活用に寄り添った支援もできます。ぜひ、一度私たちにご相談ください。

    【関連イベントのお知らせ】
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    EVENT
    【住友商事MIRAI LAB PALETTE コラボ】知的財産×ビジネス創出セッション
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