Solitude / Loneliness

2023.09.06(Wed)

それぞれの「孤独」のかたち。
「Dialog」から生まれた4つのサービスアイデア

#OPEN HUB #ヘルスケア #メタバース
OPEN HUBが手がける継続性のワークショップ・プログラム、Dialog。今回は、社会課題化する「孤独」をテーマに実施しました。レポートの前編では、孤独にまつわるグローバルなインサイトや、独立研究者・著作家の山口周氏の講演から得た知見を参加者たちがビジネスアイデアに結びつけていく様子をレポートしました。

後編では、各分野のエキスパートであるOPEN HUBカタリストが登場。参加者は、4名のカタリストとともに議論を深めていきます。社会実装を見据えてブラッシュアップされたビジネスアイデア、そして「Dialog孤独」への参加を通じて得られた成果はどのようなものだったのでしょうか。前編に引き続き、化学メーカーでヘルスケア領域の新規事業探索を担当している参加者、原佳那恵さんの視点も交えながらお届けしていきます。

目次


    カタリストとの対話から、具体的なビジネスアイデアが見えてきた

    Day 4はまず、チーム内でDay 3の振り返りからスタート。原佳那恵さんが参加しているチームでは、定年後のセカンドキャリアを見据える50代のチームメンバーから「定年が近づいて不安を感じ始めている自分にとって、これまでの人生を振り返ることができて、さらにマッチングにも結びつけられそうなサービスは魅力的」との意見が出たこともあり、Day 3で出たビジネスアイデアのうち、これまでの生き方をまとめて価値観などを分析する「私の履歴書」サービスが議論の中心になっていきました。

    「前回は議論でアイデアを発散させていくのが大変だったけど、アイデアを絞って収束していくのはわりと得意なので、今回はやりやすかったです」と語る原さん。異業種メンバーたちによる継続的なワークショップ参加を通して、自身のビジネススキルや特性を改めて実感できることも、Dialogの特徴のひとつです。

    その後、4名のカタリストが順番に各チームを回り、フィードバックを行いました。メディア・コミュニティー分野のカタリスト山根尭氏は、「メンタルに問題を抱えているかどうか、そして孤独を感じているかどうか。この2軸による4象限のどこにターゲットが該当しそうでしょうか?」と、ターゲットの可視化を促します。さらに「『私の履歴書』はBtoCだけでなく、社内で信頼関係を構築する際に活用するなど、BtoBに広げる手もありそうですね」と発想を広げ、思考を掘り下げます。

    山根尭|NTT Com OPEN HUB Catalyst/Media_Community

    デザイン分野のカタリスト児玉秀明氏は、「都市部のビジネスパーソンが対象ということなので、皆さんのリアルな孤独の感覚が言語化できると解決しやすいのではないでしょうか」と、孤独のイメージの具体化を提案。すると、「正直あまり孤独を感じたことがないかも……」「人と会ってはいても、毎日決まった人としか会わずに広がりがないことも孤独なのでは」と、メンバーからさまざまな意見が。原さんからは「大人になると、親友をつくるのが難しいですよね。それも孤独のひとつなのかな」というコメントも。孤独のかたちが多様であることが改めて浮き彫りになりました。

    ウェルビーイング分野のカタリスト渡邊淳司氏からは、「直接的に孤独の解消やつながりの創出を目標にするのではなく、その一歩手前にある楽しいことを一緒に行う。例えば、雑談しましょうと声をかけるよりも、ごはんをつくったので一緒に食べませんかと声をかける。自然と雑談も生まれて、つながりも生まれますね」とゴール設定についての見解が共有されました。原さんも、「たしかに、『孤独を解決します』という押しつけがましいサービスではなく、副次的に孤独の解決につながっていくようなサービスづくりのほうが受け入れやすそうですね」と、腑に落ちたようです。

    知財戦略分野のカタリスト松岡和氏は、チームのアイデアに関連しそうな特許を参考情報として提供。「私の履歴書」から価値観を分析するという点に対応して、住居の中で音や外見、履歴などの情報を獲得して、価値観を分析し、商品をレコメンドする技術が紹介されました。「その人の価値観を評価し、合いそうな人とマッチングする仕組みを考える際に参考になるかもしれません」と松岡氏。チームメンバーからは「言語から価値観を読み解くという、これと逆方向の技術があるといいのでは」と、知財という新たな視点からのフィードバックでアイデアの輪郭が少しはっきりしたようです。

    カタリストやチームメンバーとの会話が気づきの源泉に

    原さんが参加するチーム以外でも、カタリストのフィードバックによってアイデアが発展。地方の高齢者向けのアイデアを検討しているチームは、「食事」という日常の出来事をきっかけに孤独を感じる可能性に注目してアイデアを掘り下げていました。中高年の孤独対策をテーマとするチームは、継続性があり、共感を得られる場として「スナック」というアイデアが。メタバース空間を活用した孤独解消を目指すチームは、リアルとバーチャルの切り分けや双方でのギャップなど、仮想空間ならではの体験性やメリットを活かす方法を議論していました。

    4名のカタリストからフィードバックを得た後は、チーム内でアイデアを磨いていきます。これまでのディスカッションで出てきたビジネスアイデアを整理し、次回の発表に向けて、ペルソナやサービスの概要、新規性などをまとめていきました。議論が白熱するチームでは、サービスの詳細だけでなくBtoBへの展開方法など、さらに踏み込んだディスカッションも。

    次回はいよいよ最終回のDay 5。これまでの成果発表が行われます。誰がプレゼンを担当するのか、どのような方向性でアイデアをまとめるのか――。終了後も、各チームでしばらく活発な話し合いが続いていました。

    Day 4を終えて、原さんはどう感じているのでしょうか。「チーム内に『私の履歴書』サービスのペルソナに該当する当事者意識が強い方がいたことで、リアリティーを伴った観点から議論の推進力が生まれた気がします。ただ、ペルソナに該当していない私個人としては、正直なところ、まだこのサービスの価値が十分腑に落ちていないんです」と、現時点での率直な思いを聞かせてくれました。「でも、自分で気づけていない価値やニーズに気づかせてもらえているなと、皆さんとのディスカッションを通して強く感じました。やはり、会話の中から生まれるものがとても有益ですね」と、異業種メンバーで行うワークショップならではの価値も改めて感じているようです。

    次回の成果発表では、原さんもプレゼンを担当することに。「しっかり準備して、皆さんを引きつけられるような、そして自分自身もワクワクできるようなプレゼンにできたらいいなと思います」。

    全5回を経て、自信を持てるビジネスアイデアへ

    Day 5は、各チームがこれまでに検討してきたビジネスアイデアの発表会です。原さんがプレゼンする「私の履歴書」サービスは、仕事の経歴だけでなく、これまでのライフヒストリー全般を振り返るもの。サービスを受ける本人や周囲の人たちに取材してライフヒストリーを作成するとともに、その内容にもとづいて、似た価値観を持った人とのマッチングにつなげることを目指しています。

    ターゲットは、50代以上でセカンドライフを意識し始めているが、仕事以外の人間関係が希薄で退職後が不安になってきている人。「作成された『履歴書』を通して、自己肯定感の向上やコミュニケーションの活性化、セカンドステージでやりたいことの手がかり探しなど、さまざまなかたちで孤独の解消が期待できます」と原さんはビジネスコンセプトを説明。Day 4でのぞかせた不安な様子はなく、自信がうかがえます。さらに「個人向けサービスとして提供するだけでなく、企業の福利厚生として提供したり、コーチングと組み合わせたりと、BtoBサービスとしての展開も可能です」と、ビジネスの持続可能性を高めるプランへと発展させていました。

    プレゼンを終えた原さんにお話を伺うと、「『私の履歴書』自体は退職の近い方向けで、Day 4までは個人的な共感ポイントが見出せていませんでしたが、Day 5の発表に向けて準備していく中で、『このサービスを、社内のつながりを可視化する人脈マップに発展させられたら面白そうだな』と自分なりの展開アイデアが浮かんだんです。BtoBサービスとしての発展形までを見据えることで、より自信を持ってプレゼンできるようになりました」とコメント。継続的にワークショップを重ねて「孤独」と向き合う日々を経て、自分ごととして価値を感じられるアイデアに育ったようです。

    他チームの発表も、完成度の高いものに仕上がっていました。地方で一人暮らしをしている高齢者向けにアイデアを練ったチ―ムは、「夜、夕食を一人で取るときに孤独を感じやすいのでは?」という発想から、一緒に食事をする場と相手をマッチングするサービスを考案。中高年男性の孤独を解消するアイデアを考えていたチームは、「孤独の先には認知症があるのではないか」と、スナックバーのような対話体験ができる治療用アプリを使った孤独解消と認知症予防を提案しました。メタバースを使った孤独解消をテーマにしてきたチームが考えたのは、一人で長距離運転する運送業者のドライバーをターゲットとしたサービス。一人で運転している人同士がメタバース上でマッチングし、同じ空間と時間を共有できるというものです。原さんからも、「どのチームのプレゼンも個性的で面白かったです。斬新なアイデアを出す頭の動かし方、資料のつくり込み方や見せ方も勉強になりました」と感想が。アイデアの内容だけでなく、参加メンバーたちのビジネススキルにも刺激を受けたようです。

    成果発表が終わった後には、参加者同士のネットワーキングの時間が設けられました。これまで一緒にアイデアを磨いてきた同チームのメンバーはもちろんのこと、自然と顔見知りになる別のチームのメンバーやOPEN HUBのカタリストとも交流を深める機会となりました。「一度お話ししてみたいなと思っていた他のチームの方ともお話しできたし、カタリストの方々とも有意義なディスカッションができました」と原さん。

    全5回のDialogを通して、何が得られたのでしょうか。原さんは、「ヘルスケアの事業を考えるときに、『孤独』というキーワードは考えていませんでした。しかし、他チームからは「孤独の先には認知症がある」という発想も出てきた。認知症となれば完全にヘルスケアの問題ですよね。発想の広げ方がとても参考になりました」と、他チームのアイデアが新たな視点につながった様子。他社の方々との交流も大きかったといいます。「同じような考え方の人が集まっている社内では、どうしても思考が固まりがち。しかし、業種が違うと持っている知識の幅も違います。外に出て荒波にもまれることも大切ですね」。

    「孤独」をテーマにビジネスアイデアの創出を目指した全5回。さまざまな業種のメンバーと1つのテーマを深く掘り下げただけでなく、オフライン開催ならではのネットワーキングも大きなメリットとなりました。今後の各自の仕事に活かされるだけでなく、メンバー同士の共創にもつながることが期待されます。

    インプットとアウトプット、ワークショップと日常を行き来しながら、自分の中に眠っていた「新しい価値」と出会うプログラム、Dialog。OPEN HUBでは今後も、あらゆるテーマでDialogを企画していく予定です。

    <ワークショップイベント参加者募集>
    OPEN HUB Parkで行われるワークショップイベントをご紹介します。
    ご参加お待ちしております。

    「データの掛けあわせが切り拓く顧客エンゲージメントの新時代」
    日程:2023年11月1日(水)18:00~20:00
    会場:OPEN HUB Park(大手町プレイスウエストタワー29F)
    消費行動が多様化する今、企業が持つ「データ」の価値とは何でしょうか。
    顧客情報や人流などのデータの活用したビジネス事例を紹介しながら、会員の皆さまとともに顧客理解の視点からデータ活用した顧客エンゲージメントについて深掘りします。

    ▼イベント詳細・お申し込みはこちら
    https://openhub.ntt.com/event/7396.html