Co-Create the Future

2024.02.14(Wed)

未来のプラントは“DX実証施設”から生まれる。
5G Innovation Plantに見た、プラント省人化・無人化の最前線

#製造 #イノベーション #AI #ロボティクス #5G #スマートファクトリー #データ利活用

#42

2022年、JFEエンジニアリングの燃焼実験用プラントに高速無線通信網を整備した「5G Innovation Plant」が誕生しました。ローカル5G、Wi-Fi6に加え、NTTドコモが提供するキャリア5Gと3種類の大容量高速無線通信インフラを持つ当施設では、プラント内におけるロボットやドローンの低遅延操業実証実験が2社共同で進められています。この拠点がプラント業界にどのような革新をもたらすのか、その狙いと2社の共創価値について、JFEエンジニアリング株式会社DX本部の岡哲史氏と後藤満之氏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の西野敬生、瀬田純一が語り合いました。

目次


    生産性向上の起点は「本番さながらの試験環境」にあり

    ——2022年、JFEエンジニアリングが持つプラントにNTT Comが提供する通信網を整備した、プラントDXソリューション開発施設「5G Innovation Plant」が誕生しました。この施設が誕生した経緯と、どのような課題解決に貢献するものなのか聞かせてください。

    岡哲史氏(以下、岡氏):そもそもはプラント産業の未来について社内で議論したことがきっかけです。2030年にプラントの操業形態がどうなっているのかを考えたとき、「ロボットの活用で無人化・省人化が進む」「人間がいなくてもプラント操業や保全ができる」などの意見が出てきました。

    今の技術進歩から考えると、そうなる可能性は大いにあります。ですが、その未来を本当に実現するには、現段階から技術検証が必要です。それも研究施設での検証ではなく、実際のプラント内で検証しなければ、本当に現場に適用できるかどうかわかりません。

    プラントの無人操業やロボットの活用にあたり、キーとなる技術はおそらく高速かつ低遅延の無線通信技術でしょう。5Gは非常に進化していますが、技術理論的に大容量高速通信が可能といってもそれはあくまで机上の数値です。実際のプラントに実装して本当にその性能が出るのか確認し、その知見を蓄積することが私たちエンジニアリング会社にとって大切な財産になります。

    そこで、私たちが燃焼実験のために構築したプラントにNTT Comの高速無線通信網を組み込み、次世代のプラント運営にふさわしいDXソリューションを創出する場として誕生したのが5G Innovation Plantです。

    プラントごとに異なる最適なDXソリューションを、さまざまな障害物のある実環境に近い5G Innovation Plantで開発・検証することで、スムーズかつ効率的なプラントDXにつなげる

    岡哲史|JFEエンジニアリング株式会社 DX本部 DX推進センター長
    計装制御エンジニアとしてプラント監視制御システムの設計に携わり、2006年より防爆型無線LANシステムの開発に従事。その後、5G Innovation Plant設立を構想。2022年4月よりセンター長として、社内DX推進、外販DXビジネス拡大・新事業創出、社内風土改革に取り組む

    瀬田純一(以下、瀬田):映像技術やセンシングなどさまざまな要素技術が整ってきている中、それらの技術をプラント産業のDXに活かしていきたいというニーズが次々に出てきています。

    例えば、本来は人が施設点検すべきところを、センサーによるデータ取得や映像送信で代替しPCでモニタリングだけを行う、といったアイデアが出ていますが、これを実現するには個々の要素技術を実装するだけでなく、それらを一気通貫で連携させてデータや映像を通信に載せたりAIで処理させたりできるネットワーク環境を整えなくてはなりません。

    このように、トータルでどのように運用できるかという視点で検証する必要があるので、プラント内で技術を体験・実証実験できる施設は非常に大きな意義があると思います。

    瀬田純一|NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部
    2001年にNTTドコモへ入社以降、営業・SEとして法人顧客に対するモバイルソリューションの提案・導入プロジェクトに従事。現在はマーケティング・ビジネス共創部門において、「製造現場のDX」をテーマに、5G・IoT・先進技術などを活用したソリューションの導入・創出に関する取り組みを推進中

    イノベーションを誘発する。革新技術をスピーディーに現場導入する“指標”となる存在に

    ——5G Innovation Plantではどのような技術を体験できるのでしょうか。

    後藤満之氏(以下、後藤氏):5G Innovation Plant内にはローカル5G、NTTドコモのキャリア5G、Wi-Fi6と3つの高速無線環境があります。まずこれらの通信網それぞれの違いを検証した上で、プラント内で動く四足歩行ロボットやドローンの操作感にどのような違いが生まれるか、それぞれ低遅延で操作できるかどうかを実際に見ることができます。

    さらに、プラント内でロボットを動かして「これならプラントの保全ができそうだ」と体感してもらったり、これまで人が対応しなければならなかった領域での代替ソリューションを検証したりなど、さまざまなシーンで活用できます。5G Innovation Plantには「イノベーション」という言葉が入っていますが、イノベーション創出に非常に大きく貢献するのはこの「現場検証ができる」という点が非常に大きいと思います。

    先進技術の効果体感とスムーズな現場導入、その双方を促進することでイノベーション創出を目指す

    後藤満之|JFEエンジニアリング株式会社 DX本部 DX推進センター デジタルソリューション部長
    計装制御エンジニアとしてプラント遠隔監視制御装置の設計に長年携わり、2021年3月より5G Innovation Plant立ち上げに従事。2022年4月より、DXサービスの外販によるビジネス拡大とDX新事業・サービスの創出を担当し、5G Innovation Plantの運用管理と活用推進を担う

    岡氏:今、新しい技術が次々に出ていますが、それらをプラント内で活用するためのハードルは、実は非常に高いです。例えば無線通信にしても、先進的で開放的なオフィス内であればほとんど問題ありませんが、あちこちに遮蔽物があるプラント内では安定した通信状態を保つことが難しい。だからこそ、こうした施設で現場適用できるかどうかを事前に検証することで、導入実装のスピードも格段に上がります。これは大きなアドバンテージになるはずです。

    あとはお客さまのニーズに合わせ、スピーディーに実証を進めていくことが大切ですね。イノベーションはシステムで起こるものではなく、やはり実際に現場で運用しながら利用することで起こるものですから。

    西野敬生(以下、西野):われわれキャリア会社からすれば、通信技術を持ってはいるけれど、現場の課題についてはわからない。例えば5Gにしても「キャリア会社だけでは現実的な活用方法が見えていないから普及がいまひとつ」な実情があります。

    西野敬生|NTT Com 第三ビジネスソリューション部
    2000年にNTTドコモへ入社以降、自治体・流通・電力・鉄道・製造業などの法人向け直営アカウント営業担当として活動中。現在は日本の少子高齢化など避けられない社会課題に対して、お客さまとNTTグループが持つさまざまなアセットを組み合わせた課題解決方法を模索し続けている

    一方で、JFEエンジニアリングのようなプラント事業者の方は「プラントの省人化・無人化には5Gが必要だ」と将来を見越した具体的な課題が見えていて、実際に“現場”を持っています。効果が最大化された机上の数値も大事ですが、ここにはその実効果をシミュレーションできる現実の施設がある。今回の5G Innovation Plantについて、私は「この2社でなければ、このようなイノベーションを誘発できる施設はできなかったのではないか」と思っています。

    「遮蔽環境での低遅延接続」実現の先へ。共創で蓄えられた知見とは

    ——これまで行われた実証実験の内容とその成果について教えてください。

    岡氏:当社では、2030年までに「未来のプラント」を構築するという目標を掲げ、2022年度はネットワークの検証を行いました。具体的にいうと低遅延技術の開発です。ローカル5G、キャリア5G、Wi-Fi6それぞれの速さや遅延状態を施設内で実際に検証し、現在値を確認した上で、ロボットが許容できる速さを保つためにどのような工夫が必要なのか、どうしたら遅延を少なくすることができるのかをNTT Comと一緒に考えていました。NTT Comからは、単に通信網だけではなく、プラント内のロボット操業を見据えたプラスアルファの技術を提案してもらっています。

    西野:ネットワークの状態を監視して複数のデバイスを一括運用するインフラミドルウェア「intdash」を活用し、ロボットを複数動かした場合の稼働状況を見て、不具合が起こったときの原因究明にあたることもありましたね。

    瀬田:MEC(Multi-access Edge Computing)を使った低遅延の実証実験も行いました。MECとは、インターネットに接続される手前の社内ネットワークやローカル5G内など、モバイル機器により近い場所にサーバーを構築してアクセスできるようにする技術です。モバイル機器からサーバーまでの通信経路が短くなることなどにより、低遅延の通信が期待できます。実証実験では、NTTドコモのモバイルサービス網内に構築し、提供している「docomoMEC」に実際にデータを格納し、外部のクラウドサービスと比べて遅延にどの程度の差異があるかを検証しました。こうしたさまざまなパターンで低遅延の指標を得て、実際にプラント内でロボットを動かすために適した遅延値を蓄積していきました。

    後藤氏:2022年度の成果を受け、2023年度は低遅延技術を活用して実際にロボットやドローンを動かしていく取り組みを進めています。そこで実際に意図した動きができるのか、もしできない場合はどうしたら解決できるか、ということで引き続き両社で実証にあたっています。

    西野:一例を挙げると、2023年3月にはNECと3社でプラント内の作業員の安全見守りを行う3Dマップとスマートグラスを活用した実証実験を実施しました。作業員が着用したスマートグラスが映し出す視覚映像と、あらかじめ作成したプラントの3Dマップを連携することで、屋内でもGPSに頼らない位置確認を行うことができました。高速通信を利用し、より精細な画像データをやり取りすることで、より正確で確実な位置情報を検知できるようになると期待しています。こういった現場での検証ができたのは、5G Innovation Plantのひとつの成果だと思います。


    実証の構成図と、スマートグラスで撮影した映像から特徴点を捉える様子

    後藤氏:完成した技術があるとしても、世の中にソリューションとして提供する場合は事前に課題を解消しておかなければいけません。優れたソリューションが世に出ていくにあたり、5G Innovation Plantが果たす役割は大きいと思います。

    岡氏:それこそが5G Innovation Plantの目的です。私たちが1からソリューションをつくることは難しいので、これからもその領域を得意とするメーカーの方と共創しながら最良のソリューションを探っていきたいですね。

    2030年、プラント業界が迎える新時代とは

    ——5G Innovation Plantの取り組みを経て、将来どのようなソリューションを開発していく構想があるのでしょうか。

    岡氏:まだ検討している段階なのですが、まずはネットワークインフラを含めてプラント業界に求められる機能や設備をワンストップで提供できるソリューションを構想しています。それも単に売って終わりのシステムではなく、サービスとして提供することで、利用事業者のイニシャルコストを抑えたいと考えています。それこそ通話から映像まで含め、プラントを省人化・無人化して操業するための必要機能をパッケージにして、それを誰もが自由に低料金で利用できれば、業界の裾野が広がると思うのですよ。

    これまでプラント操業や経営に必要なシステムは大企業しか導入できませんでした。しかし、サービス化によってイニシャルコストがかからず、ランニングコストもリーズナブルに利用できれば、中小規模の企業も導入することができます。そんなプラットフォームソリューションにより業界が活性化することを目指しています。

    ——最後に今後の両社の共創展望について聞かせてください。

    岡氏:お客さまが安心・信頼を持って使ってもらえるソリューションシステムをこれから実装していきたいと思っています。その検証を行うのが5G Innovation Plantであり、NTT Comとの共創です。この2社を含めてさまざまなソリューションベンダーと検証した成果を積み上げ、業界全体を活性化するプラットフォームを提供し、プラント向けソリューションで唯一無二の存在になっていきたいですね。

    後藤氏:私も同じ思いです。そのためにもNTT Comと引き続き協力しながら、2社ともにWin-Winになれるような革新を創造していければと思っています。

    西野:2030年までに無人化・省人化プラントを実現するには、ICT技術だけではなく現場のノウハウを掛け合わせることが必要です。それをいかに掛け合わせれば豊かな未来が実現できるのか、まさにその検証段階にあるのが現在です。

    先ほど岡さんから「安心・信頼」というキーワードが出ましたが、とくにプラント業界においては「命を守る」という点も大きな要素になります。そういう要素も含め、プラント業界の方が本当に安心して利用できるソリューション開発のため、JFEエンジニアリングの持つ豊富な現場の知見を共有してもらいながら、テクノロジーの検証を進めたいと思います。

    瀬田:個人的な見解になりますが、製造業の現場の作業員に負担がかかる場面はまだたくさんあると思います。スマートファクトリーという言葉がありますが、私個人としてはそんな現場の負担をできるだけスマートに軽減したいという思いがあります。そして現場のスマート化が進んでいくと、会社の事業そのものもスマート化していくことにつながると思うのです。そういった未来を目指しながら、JFEエンジニアリングとお互いの強みを持ち寄り、シナジーをつくりながらスマートなプラント現場の実現に向け、お客さまに提案していきたいと思っています。

    5G Innovation Plant では、稼働中のプラントと同等の条件・環境下で、運転自動化・無人化/遠隔操作/ロボット・ドローン活用などのさまざまな実証が行えます。DXを推進したいプラント事業者の方は、ぜひ5G Innovation Plantをご活用ください。

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