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2025.04.30(Wed)
Generative AI: The Game-Changer in Society
2025.07.09(Wed)
#62
この記事の要約
中部経済産業局は、NTTドコモビジネスのデジタルヒューマンやVR/ARを活用した観光DXの実証実験を、名古屋市のホテルと大阪・関西万博で実施。これらのソリューションにより、中部地域の伝統工芸や食文化などの魅力が体験的価値として届けられることの成果と課題、今後の観光分野における技術活用の展望を関係者が語る。
目次
――まずは、中部地域の観光産業がどういった課題を抱えているのか、また、強みという点についても教えてください。
藤井隆史氏(以下、藤井氏):中部経済産業局が所管するエリアは愛知県、岐阜県、三重県、富山県、石川県の5県です。これらの地域には陶器や漆器、刃物など伝統工芸品の産地が多く、観光産業の潜在力は大きいといえます。強みは首都圏、関西圏双方からのアクセスのよさですが、インバウンド客の宿泊数は、愛知県の場合、ピーク時と比べてまだ6割ほど。観光資源としての魅力があまり知られておらず、宿泊などにつながっていないという課題があります。
特に今年(2025年)は大阪・関西万博がありますし、来年には第20回アジア競技大会が愛知・名古屋で開催されます。こうした世界的なイベントの機会を生かし、もっと多くの方にこの地を訪れてもらい、駅前での買い物だけで終わらずに滞在してもらいたい。そんな思いから立ち上げた施策が「中部のホンモノ体験」プロジェクトです。中部経済産業局のWEBサイトでは、中部地域の伝統工芸に触れられるスポットを英語で紹介しています。
――ドコモビジネスの北陸支社がプロジェクトに関わったのは、どういう経緯からだったのでしょうか。
是永大希(以下、是永):以前に私が、石川県のある自治体に弊社のロボットソリューションを提案し、導入につながったことがあるのですが、そのときのご縁をきっかけに、中部経済産業局のみなさまとのつながりが生まれました。その後、弊社のOPEN HUB Parkでさまざまなソリューションを見ていただく中で、デジタルヒューマンを活用した対話形式での観光情報の提供や、VR/ARの没入感ある情報サービスにより、地域の魅力を体験型でアピールできるのではないかと提案に至りました。
藤井氏:「中部のホンモノ体験」の狙いは、外国人観光客(特に富裕層)に現地を訪れてもらって、ものづくりの工程を体験したり、職人さんと交流したりして、地域の歴史や風土を感じてもらい、地域のファンとして継続的な消費につなげることです。そのきっかけづくりとしてVR/ARは有効だと感じましたし、デジタルヒューマンの活用までは想定外でしたが、生成AIを活用した旅のプラン検討というアイデアに新鮮さを感じました。
――プロジェクトはいつごろからスタートしたのでしょうか。
多田大輔(以下、多田):2024年9月から、まずはインバウンド客のニーズ分析、プロモーションツールの活用方法検討などを行いました。そして、2025年1月末から2月にかけての計5日間、デジタルヒューマンによる観光コンシェルジュとVR/ARを活用した観光情報発信の有効性を検証する実証実験を行いました。
「中部のホンモノ体験」プロジェクトの主要ターゲットは富裕層のインバウンド客です。そこで、ターゲット層の利用者が多い名古屋マリオットアソシアホテルのロビーを実証実験の場としてお借りし、滞在中の外国人観光客に各ツールをご体験いただきました。
――具体的には、どういった体験を提供されたのでしょうか。
勝山凌太(以下、勝山):観光コンシェルジュは、NTTドコモビジネス・NTTコノキュー・東映ツークンの3社共創で生み出したデジタルヒューマン「CONN」を活用しています。モニター画面内のCONNが、実際のホテルコンシェルジュさながらに、利用者へ「旅行でやりたいことは何かございますか?」と声かけをし、利用者が「美味しいものが食べたい」「伝統工芸を体験したい」などの要望を口頭で伝えると、当日の天候なども加味しながらおすすめの観光スポットを提案、日程表を提示します。日程表はQRコードの読み取りにより、利用者のスマホでも確認できます。現状は、日本語、英語の2カ国語に対応しており、将来的には中国語などその他の言語での実装を予定しています。
実際の人間と同じような感覚で会話ができるように、「あなたは誰ですか?」「お天気がいいですね」など雑談にも対応できるように工夫しました。
ARグラスによる観光情報紹介は、利用者が装着したARグラス内に地図情報と観光情報・写真を重ね合わせて投影し、興味のある情報を選んで、観光情報を見ることができる仕組みです。GPSを活用したことで、現在地から観光スポットの位置関係も直感的に知ることができます。また、土地勘のない外国人観光客でも中部地域の観光情報を俯瞰的に認知しやすいよう、地図の表示方法や観光情報の見せ方も工夫しました。
VRについては、インバウンド客のニーズをよく知る、ホテルのコンシェルジュの方々に体験してもらいました。製作・投影したのは、岐阜県関市の日本刀鍛錬の様子です。360度の映像と立体音響で撮影・編集することで鍛錬のプロセスを臨場感とともに伝え、日本刀の背後にある歴史や伝統をも感じさせるようなコンテンツとしました。迫力ある没入体験は、コンシェルジュのみなさまから高い評価をいただきました。
――検証を通じてどういったことが確認できましたか?
是永:体験人数は5日間で20名弱と伸び悩みました。端末を置いた場所が出入口付近だったこともあり、時間を気にして立ち止まってもらえないなどのケースがあったのです。この点は観光スポットやホテル内でのツール運用を考える上での示唆を得られたと感じています。旅行者にとって必然性のある場所で、自然にツールに触れられる状況をいかに用意するかは、運用における重要な課題です。
――技術的には、どのような課題が見つかりましたか?
勝山:観光コンシェルジュが作成する日程表では、観光地までのアクセス方法も案内したのですが、経路や乗り換え情報などが実態と即していないケースがありました。また、デジタルヒューマンのレスポンスに関して改善を求める声もいただきました。ネットワークの影響もありますが、生成AIが会話内容を認識し、それに対する返答を考えるのに時間を要することもあります。今後の課題だと思います。
――名古屋での実証実験に続いて、大阪・関西万博でも各種ツールを用いた展示をした目的について教えてください。
藤井:万博という世界中の人びとが集まる機会を生かし、中部地域の魅力を発信したいと考えました。そこで、中部経済産業局管内の自治体や伝統工芸品の団体と連携して、愛知県瀬戸市の瀬戸焼、岐阜県多治見市の美濃焼、岐阜県関市の刃物、富山県南砺市の井波彫刻、石川県小松市の九谷焼の5つの産地の工芸品を5月6日から1週間、展示しました。
これと合わせて、デジタルヒューマンによる観光コンシェルジュやVRでの観光体験も提供しています。例えば、関市の刃物をご覧いただいた方に、刀鍛冶の様子を映したVRコンテンツも見てもらい、「現地では、ものづくりの現場を見学できます」と、観光地への送客を意識したPRを行いました。
――お客さまの反応はどうでしたか?
多田:工芸品の実物を見るだけでなく、ものづくりのプロセスをバーチャルで体験できることが大変好評で、ブース来場者4528名(1週間/延べ人数)のうち24%にあたる1000名以上がVRや観光コンシェルジュを体験してくださいました。
アンケート結果では、外国人来場者の満足度が日本人に比べて高くなっています。特に刀鍛冶のVRコンテンツは好評で、職人技や日本らしさが伝わったのではないかと感じています。
――名古屋での実証実験と大阪・関西万博での体験型展示から得られたこと、今後の取り組みやビジョンについてお聞かせください。
藤井氏:デジタルヒューマンは観光客が直接利用する形だけでなく、ホテルのコンシェルジュがお客さまへサービス提供する際に情報を補完するサポートツールとして利用する可能性もあると感じました。万博会場では、「地域の観光案内所で活用できるのではないか」といった声もありました。また、私たちもVR/ARでの観光情報体験を試してみて、迫力ある臨場感や没入感を味わうことができました。現地へと誘うためのツールとして大きな可能性を感じました。
また、大坂・関西万博での展示は、リアルとバーチャルによる情報提供の相乗効果を確認できたことも大きな成果です。展示品と説明員を配置するだけの展示会はよくありますが、今回のように実物の展示にデジタルヒューマンやVRという新たなツールが加わることで、体験のレベルや満足感がさらに高まることが分かりました。ただ、全ての産地が刀鍛冶のような迫力あるVR映像を作れるわけではありませんので、そこをいかにフォローしていくかも考える必要があると思います。
是永:大阪・関西万博では目標を大幅に超える来場者に体験していただくことができました。また、プロジェクトを通じて、中部経済産業局のみなさまからも一定の評価をいただけたことをとてもうれしく思います。私たちの取り組みはまだ道半ば。中部地域にあるホンモノ(=伝統的な工芸品やその地域ならではの魅力)の価値を、よりホンモノ(=実感、没入感)に近い形で体験いただくことで、多くの観光客を中部地域へ誘引していけるよう、中部経済産業局と議論し工夫を重ねていきたいと思っています。
――技術的な観点では、今後どのような開発を考えていますか?
勝山:デジタルヒューマンに関する1つのキーワードは「ハイパーパーソナライゼーション」です。観光コンシェルジュを例にとると、近い将来にはユーザーの興味・関心や行動履歴、趣味・嗜好といったデータや表情分析・属性分析などのシステムと連携させて、一人一人に寄り添った日程づくりなどの提案ができるようになるでしょう。そうした方向をめざして、技術を磨いていきたいと考えています。
また、現地に行かなくても没入型で印象的な体験ができれば、多くの人が「現地に行ってみたい、これを実際に見てみたい」という気持ちになるのではないでしょうか。日本に来た外国人観光客や日本への旅行を検討する「タビマエ」の潜在層に対しても、各地の魅力をより深く直感的に伝える一つの手段になるよう、ブラッシュアップや提供機会を増やしていければと思います。
――NTTドコモビジネスとしては、観光DXをどう展開していきたいと考えていますか?
多田:ドコモビジネスは、観光庁と連携し、観光分野におけるDXの推進を図りながら、地域活性化や持続可能な経済社会の実現をめざす取り組みを、令和3年度から支援しています。この4年間で全国44地域の伴走を行ってきました。
観光に関する課題やニーズは、地域によってさまざまであり、効果的なデジタルツールも異なります。「これを使えば観光客が増える」というような「正解」はありませんが、観光のDX化は地域が「稼ぐ力」をつけるための大きな一歩になり得ると考えています。
地域の魅力の発信と誘客、ブランディング、人材不足対策といった観光産業の活性化につながるサービス開発やソリューション提供を通じて、世界各国のみなさんに日本を旅してみたいと思ってもらえるようにするとともに、全国各地の産業活性化と、地域のみなさまの活動をご支援していきたいと思っています。
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