Coming Lifestyle

2024.01.31(Wed)

スマート道路灯が照らす、まちづくりの未来
共創によって実現する“路上のデジタルハブ”

#IoT #データ利活用 #事例 #公共 #地方創生 #デジタルツイン

#40

「スマート道路灯」をご存知でしょうか? 道路を照らす道路灯に、AIカメラやセンサーを搭載してスマート化したもので、環境情報や交通データを集め、省エネ対策や交通安全、さらには地域活性化にまで活用することが狙いです。

NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、自動車用照明機器のトップ企業であるスタンレー電気らとともに共創事業に取り組んでおり、2024年1月からスマート道路灯とローカル5Gを使った実証実験を、国内自治体で初めて開始しました。

スマート道路灯は、どのような社会課題を解決し、いかなる未来と暮らしを照らそうとしているのか――。5人のキーパーソンに伺いました。

地域に「デジタルハブ」をインストールする。

――まずは「スマート道路灯」とはどんなものなのか、教えていただけますか?

廣瀬和則氏(スタンレー電気 以下 廣瀬氏):弊社が企画・開発した、5Gネットワークでつながった新しい道路灯です。国道や高速道路といった道路には、一定間隔で道路灯が立っていますが、「道を照らす」という単機能しかなかった従来型の道路灯に加えて、人や車両を検知するAIカメラ、温度や照度を測れる環境センサー、また光で文字や絵を照射する路面描画機なども組み込まれています。

つまり、スマート道路灯を介して、道路周辺の交通状況に加えて、人流や天候といった多様なデータを収集・分析したうえで多彩なアウトプットができるのです。そして地域一帯の「デジタルハブ」として、さまざまな社会課題を解決するために有効なデータを提供できるようになると考えているのです。

廣瀬和則|スタンレー電気株式会社 技術統括部 電子応用製品技術部 設計三課 係長
大手電子部品メーカーで産業用カメラを中心とした組込システム開発、美容や農業向けIoT機器立上げに従事。 2020年にスタンレー電気に入社し、スマート道路灯プロジェクト全体を担当。 要求分析、システムアーキテクチャや光学設計など役割は多岐にわたる

――具体的には、どんな社会課題を解決できるのでしょう?

廣瀬氏:まず、常時ネットワークに接続しているため、道路照明灯の故障、不点灯などの常時監視の「省力化」に貢献できると考えます。続いては「省エネ化」です。人流や車両の流れをセンシングすることで、人やクルマが近づいたときだけ光量を増やす、というようなコントロールができるようになります。コスト削減のみならず、環境にも優しい、インテリジェンスな道路灯の運用ができます。

さらに、今後はリアルタイムの交通量データを解析したうえで「この先で交通渋滞が起きているので、迂回したほうがいい」「路面凍結注意」「この先に倒木あり」というような情報を文字で道路に照射する路面描画機能も備えていけたらと考えています。より効果的で臨機応変なトラフィックコントロールや、安全性の確保が可能になり、交通事故防止・削減に貢献できると考えています。

道路灯はすでに日本中に配されているインフラなので、置き換えではなく既存の道路灯にデバイスを後付けし、スマート化してくことで得られるメリットは大きいと考えています。

――なるほど。このプロジェクトをNTT Comをはじめとした他企業との共創で進めることにした背景についても教えていただけますか。

廣瀬氏:弊社は道路照明や景観照明といった照明製品の開発は専門分野であり強みです。しかし、スマート道路灯に必要なセンサーやカメラの開発や接続するネットワークの検討などは自社だけではできません。

そこで、以前から取引があり、ドライブレコーダーの組み込み系システムなどを手掛ける加賀FEIさまにお声がけして、スマート道路灯に使うセンサーデバイスやエッジAIカメラなどのシステム開発をお願いしました。

――エッジAIとはどういったものでしょうか?

廣瀬氏:AIをデバイスに直接搭載し、そのデバイスで処理を行うようにするものです。動画をAIで解析する場合、ネットワーク経由でクラウドコンピューター上で行うのがスタンダードです。しかし、その方法だとどうしても処理に時間を要します。しかし、エッジAIカメラは、デバイス側で簡単なAI処理をする機能があるのです。そのため、よりスピーディーにAI解析したデータを活用できるようになるわけです。今回のプロジェクトでは、加賀FEIさんに開発いただいた新しい組み込みAIシステムを搭載しています。

――NTT Comが共創パートナーになった経緯と本プロジェクトにおける役割を教えてください。

坂田光一郎(NTT Com 以下 坂田): 先ほど廣瀬さんがパートナーとして挙げられた加賀FEIさまと弊社は、2019年ごろから共創案件を手掛ける「BBXパートナー」というパートナーシップを結んでいます。それもあって、スマート道路灯のプロジェクトについて加賀FEIさんからお声がけいただいたのです。

私どもに求められた役割は、まずネットワークやデータ流通領域の開発・運用です。具体的にはローカル5G回線による大容量データの流通、そしてスマート道路灯をはじめとするセンサーデバイス接続からのデータ収集、可視化、分析、管理を可能にする「Things Cloud®」というIoTプラットフォームサービスの提供運用です。

また、テクノロジー面だけではなく、スマート道路灯をどう事業化していくか、社会実装していくかを考えるビジネスプランニングと事業化もわれわれNTT Comの大事なミッションです。

坂田光一郎|NTT Com 第五ビジネスソリューション部 Chief Catalyst / Business Producer
NTT Comに入社後、法人営業・製造業を中心としたCIDO補佐官業務を経て現在はパートナー顧客との新規事業創出にビジネスプロデューサーとして従事。人間中心設計専門家として様々なパートナー顧客との新規事業創出にビジネスとデザインの両面から取り組む

――もう1社、ダッソー・システムズも共創に参加されています。

坂田:はい。ダッソー・システムズさんはわれわれから、お声がけしました。ダッソー・システムズさんは弊社のスマートシティ推進室が提供するSDPF for Cityのデジタルツインプラットフォーム機能提供にご協力いただいているパートナー企業です。スマート道路灯の具体的な用途を探るうえで、デジタルツイン上の都市モデルで多角的にその利活用のシミュレーションを行うことが必要と考え、参画をお願いしました。

廣瀬氏:この4社によるスマート道路灯プロジェクトは2020年に始まり、2023年2月~3月には静岡県裾野市内でスマート道路灯を活用したLED照明による路面描画でドライバーへ路面凍結の注意喚起を行う実証実験を実施しました。この実証実験を通じて路面描画機能により一定の車両の減速につながる行動変容が確認できたことから、地域の交通安全に向けたスマート道路灯のさらなる活用のため、総務省地域デジタル基盤活用推進事業に応募。「新しいソリューションアイデアの実用化に向けた実証事業」として採択され、2024年1月から新たな実証実験が行われることになりました。

「凍結注意」「速度注意」と路上に示す

――採択に先だって2023年2月~3月に裾野市で行われていたという実証実験はどのような経緯で実現されたのでしょうか?

坂田:背景にあったのは、岸田内閣が提示した「デジタル田園都市国家構想」です。「各自治体がデジタルの力で地方の個性を生かしながら社会課題を解決していく」との方向性が示され、補助金も整備されました。この構想を実現するのに、スマート道路灯はデジタルの力で地域の安心・安全を高める最適なインフラであり、これを地方自治体に導入展開していけないかと考えたわけです。

廣瀬氏:もっとも、そのためには「スマート道路灯がどんなもので、何ができて、地域にどんなメリットをあたえるか」をわかりやすく各自治体に伝える必要がありました。

坂田:そこでダッソー・システムズさんに、デジタルツインプラットフォーム上に品川プリンスホテル横にある「柘榴坂周辺」の都市モデルを作成していただきました。デモデータを活用して、スマート道路灯から収集されたデータをさまざまな形式でデジタルツインプラットフォーム上で可視化を行ったり、また、スマート道路灯が持つ路面描画機能による描画イメージのシミュレーションなどを実施しその有用性を検証しました。

――デジタルツイン上のシミュレーションで、どんなデータがとれるか実験したわけですね。ほかに、どのようなことを行ってきましたか?

櫻田玲子(NTT Com 以下 櫻田): 加えて、実際に活用するエンドユーザーの視点や、導入する自治体の視点も入れた検討が必要と考えました。スマート道路灯を活用した新たなユースケースの検討では、業務でクルマを使用するドライバーの方々や自治体の方々にニーズや課題などをインタビューしてアイデアを創出していきました。これらの施策では私が所属するKOEL Design Studioという社会インフラなどのデザインを手掛ける部署が協力させていただきました。

エンドユーザーの方々へのインタビュー結果をもとに、2022年の夏ごろの3カ月間、スタンレー電気さま、加賀FEIさん、弊社の3社で5回ほどのワークショップを実施しています。その中で社会的なニーズや課題に加え、「そもそも道路灯とは何か」「スマート化したときにどんな使い道が考えられるか」という考察を掛け合わせ、新しいアイデアを探ってニーズやアイデアの掘り起こしと整理を行っていきました。

――そうしたプロセスによって発見できたニーズやアイデアはありましたか?

櫻田: はい。それらを通しスマート道路灯が「まちのランニングコスト削減」や「交通・物流の改善」に使えそう、といった新しい領域で活用するアイデアが出てきました。今回の実証実験のもとになる、交通状況をセンサーで取得し、路面描画でドライバーに通知するというアイデアもその際に出てきています。専門領域の異なる3社でワークショップを行ったことで、発想がジャンプアップした気がしますね。

櫻田玲子|NTT Com イノベーションセンター KOEL Design Studio
NTT研究所にてNGNの研究開発をする傍ら、インダストリアルデザインを学び、KOEL Design Studioへ。人の価値観や行動に着目したリサーチに従事。本プロジェクトでは、エンドユーザーや導入者へのインタビューを通じた価値検証や更なる発展を見据えたアイデア創出を担当

重松桃子(NTT Com 以下・重松): 私のほうでは、交通分野以外にも防災や観光に関しても可能性の探索を進めており、自治体の方々にスマート道路灯のご紹介をするとともに、「自治体ではどのような課題があり、スマート道路灯の活用にどのようなユースケースが考えられるか」についてインタビューを実施しました。これはスマート道路灯が自治体のさまざまな課題解決に貢献できるという仮説の妥当性の検証と社会に受け入れられるソリューションなのかを調査する目的がありました。

重松桃子|NTT Com ソリューションサービス部
NTT Com入社後、法人向けマーケティングを経て、現在はパートナー企業との新規事業創出にビジネスプランナーとして従事。本プロジェクトでは、仮説・アイデアの検証やビジネスモデル検討を進める

――こうしたデジタルツインでの検証と、ユースケースを持っていくつかの自治体に提案をし、裾野市に採択されたわけですね。

坂田:はい。私たちと廣瀬さんで複数の自治体へスマート道路灯のご提案をしていく中で、幸運にも裾野市とご縁ができ、2023年の2月15日~3月31日の期間で実証実験を実施する運びとなったのです。

――裾野市はそもそも交通関連への挑戦やDXに積極的な自治体なのでしょうか?

坂田:まさにそうで、裾野市は「日本一市民目線の市役所」をスローガンに掲げ、2025年までの交通事故による死亡者数ゼロ、年間人身事故発生件数200件以下の目標達成に向け、歩行空間のユニバーサルデザイン化や先進技術の導入、データの利活用など未来都市化をリードしているという自治体です。「人と企業に選ばれるまち」を実現するために、DXにも力を入れ、市民満足度の向上や職員の業務効率化に積極的でした。

廣瀬氏:先に述べたとおり、実験では裾野市役所が選定した路面凍結が起こりやすい市道にスマート道路灯を設置し、クルマが通るたびにスマート道路灯の路面描画機能で「凍結注意」の文字を路面上に映しました。

路面描画機能の実証実験の様子

――ドライバーの反応はどうでしたか?

廣瀬氏:現場に足を運んで検証したところ、やはりドライバーの皆さんの多くが路面描画の手前で、減速していました。目をそらしてしまう看板や標識よりも、光で道路に文字が出る路面描画は、自然に注意を喚起できると実感しました。

坂田:実験後のアンケートでも、「普段より注意喚起された」という声が多く、大きな行動変容への期待が持てました。

――その結果を踏まえて、今回の2024年1月から本格的なスマート道路灯の実証実験をスタートさせることになったわけですね。

坂田:そうです。裾野市で先行した実証が評価され、先ほどお伝えした「地域デジタル基盤活用推進事業」に採択されました。今回の実証の舞台は、裾野市立南小学校と児童館前を走る市道1721号線です。

そこに4台のスマート道路灯を設置します。道路灯はそれぞれローカル5G回線に接続し、道路灯に組み込んだエッジAIカメラや環境センターを活用した各種検証を行います。

――高速・大容量のローカル5G回線を使うことで、実現できることがどう広がるのでしょうか。

廣瀬氏:例えば、今回の実験では道路灯に4Kカメラを追加しています。高解像度の動画を撮影できますが、その分、データは大きくなります。しかし、ローカル5Gであれば、高精細な動画を劣化なしで、ほぼリアルタイムで送受信と処理ができます。4KカメラとエッジAIカメラによって速度超過車両の検知と路面描画や電光掲示による注意喚起の実施のほか、車道への人の侵入検知、スマート道路灯からの高画質映像転送による遠隔映像監視機能の実装といったさまざまな用途の実証が可能になります。今回は住民の方々の課題やニーズを踏まえて交通危険箇所と認識されている小学校や児童館付近にスマート道路灯を設置しますが、子供たちへの交通安全喚起に加えて、見守りといった防犯にも活用できると考えています。

裾野市での実証実験で設置されたスマート道路灯

――デジタルツインでの検証も同時に行うのでしょうか。

廣瀬氏:はい。裾野市の都市モデルをデジタルツイン上につくり、スマート道路灯で収集したデータをどう可視化できるか、またどんな使い方が考えられるかを探っていこうと考えています。

重松:デジタルツイン以外ですと、裾野市にお住まいの方々をはじめ、自治体や大学関係者など様々なステークホルダーにご協力いただきながら、スマート道路灯にどのような使い方を期待しているのか、インタビューも実施しています。

ニーズやアイデアについてお話ししていく中で、交通安全分野に限らず、防災や観光振興などさまざまな社会課題の解決にも、スマート道路灯の路面描画やセンサーデータを活用できないか、といった期待が大きいことを実感します。これらの検証を通じて、新たなユースケースをかたちにしていく足がかりを探っていきたいと考えています。

人とクルマ、まちと人をつなぐ、その先

――観光や地方創生に、スマート道路灯がどう寄与できるのでしょうか?

櫻田:まず、自治体の方々が、人やクルマの流れをより正確かつ細かなデータとして常に取得できるメリットは大きいと考えています。例えば、新たな地方活性化の施策や観光施策を打ったときの効果検証や、ブラッシュアップの確度が大きく変わるはずです。

また、人をある場所に滞留させたり、観光地へ誘致したりするときに、スマート道路灯の光やセンサーを活用することも有効なのではと思います。それにより、地域ごとの特色を強めたり、ブランド力を高めることにもつながるのではと期待しています。

村上裕也(NTT Com 以下 村上):そもそも自治体が定点情報のデータを保有していること自体が少ないのです。例えば、われわれ通信事業者やアプリ事業者は、モバイル端末を所有する方々の位置情報を持っていますが、自治体が自前でそういった情報を集めていることはほぼありません。

しかし、スマート道路灯で環境データが収集できれば、自治体自身がデータを持つことができ、その地域に住む方々に最適なかたちで、サービスや施策を提供できるようになります。

もちろん、インフラの省エネや維持省力化のニーズは高いので、まずはそこからスマート道路灯の導入が進む可能性は高いでしょう。しかし、各自治体に水平展開されれば、日本の各地域で、省エネ・省力化以上の意義がもたらされるのではと考えています。

そうした将来像を見据えての当面の目標は2024年のスマート道路灯の商用化の実現です。そのためには国や自治体の補助金やDX事業などを活用したスマート道路灯の機能向上だけでなく、新たな協業パートナーの発掘・連携など、商用化に向けた具体的な取り組みをさらに進めていきたいと考えています。

村上裕也|NTT Com 第五ビジネスソリューション部 Catalyst / Business Producer
2020年に電機メーカからNTTドコモに入社。2022年7月よりNTT Comに出向し、大手Sier向けの営業担当として従事。本プロジェクトでは、スマート道路灯の商用化に向けパートナー企業との調整、他自治体への横展開の推進を担当する

――最初に「デジタルハブ」とおっしゃったように、地域に沿って多彩な使い道と価値を生むインフラになりそうですね。

廣瀬氏:近い未来には日本中にスマート道路灯があって、地域にふさわしい形で、多種多様に活用されたらうれしいですね。先に述べたように、速度超過しているドライバーを路面描画で注意するだけじゃなく、安全運転するドライバーをほめる描画をしたっていいわけですからね。

重松:そう思います。スマート道路灯とそこから得られるデータの用途は本当に無限大だと考えています。実証実験の取り組みの1つとして、ある自治体に所在の大学生の方々とスマート道路灯活用に関するワークショップなども行っていますが、学生の皆さんからは活発な議論を経て私たちが気づかなかったようなユースケースやさまざまなアイデアがでてきます。スマート道路灯は多くの可能性を秘めたソリューションだと思います。社会課題を解決するのはもちろん、スマート道路灯を使ってくれる、使おうとしている自治体や住民の方々がワクワクするような未来を一緒につくっていけたら、と。

坂田: 少しでも共感や興味を抱かれる自治体の方がいれば、ぜひ連携できたらうれしいです。今回の実証実験でさらに磨き上げられるスマート道路灯によって、心躍る地域の未来、明るい未来をつくるお手伝いができたらと思っています。

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