2024.11.15(Fri)
Coming Lifestyle
2023.10.27(Fri)
#33
目次
――全国のコンビニエンスストアをはじめ6万2,000店舗以上で販売されている、ショッピングやゲーム、各種サブスクリプションサービスなどのプリペイドカードとしてお馴染みの「POSA(ポサ)カード」ですが、改めてその機能や利点について、教えてください。
馬橋瑶氏(以下、馬橋氏):「POSAカードを見たことがない」という人はあまりいないかもしれませんが、名称とカードが認識として一致していない人はいると思います。
そもそも「POSA」というのは、「POS」+「Activation(アクティベーション)」を意味していて、販売店さまのPOSレジを通すことで初めて有効化/価値化される仕組みを指します。つまりPOSAカードは、店舗に置いている状態では無価値状態の商品というわけです。これは、金券を店頭に置いていることによる盗難や紛失といったリスクを避けるために、元々アメリカで生まれた仕組みでした。
日本において、こうしたPOSAの特許を有し、POSAカードの発行事業者と小売事業者をつなげる仕組みを提供しているのが、私ども「インコム・ジャパン」です。
POSAカードは、セキュリティの高さに加えて、基本的に現金で購入するものになっていることもメリットのひとつです。日本ではまだ現金管理のニーズが高いこともあって、クレジットカードを使用しない現金ユーザーに好まれている傾向がありますね。また、ギフトとしての需要もあります。
POSA事業としては、POSAカードの発行や流通だけでなく、販促や販売データの分析、発行事業者によるキャンペーンの事務局なども手掛けています。今回の取り組みは小売事業者さま向けの施策において行ったものでした。
――今回、NTT Comとインコム・ジャパンが協力して行った、約9,500万人のd会員顧客データを活用したプロモーション施策は、具体的にどのようなものだったのでしょうか?
富谷葉月(以下、富谷):今回の施策では、アンケートを通じて把握するユーザーの関心傾向や購買意欲、さらに性別や年齢、位置情報といった顧客データから取得できる情報を踏まえて行うキャンペーンプロモーションを、3つのプロセスで実施しました。
まずNTTドコモの「dポイントクラブ」アンケートサイトなどにて、dポイントクラブに加入している会員に向けて「10名の当選者は欲しいものがほぼ何でも(上限10万円まで、1品のみ)当たります」というメリットを提示し、簡単なアンケートに回答してもらいました。具体的には、「どんなギフトカードを使ったことがありますか?」といったことを尋ねたうえでインコム・ジャパンのキャンペーン応募サイトへ送客していく、というのが1つめのステップです。
ユーザーにとっては、これまで知らなかったPOSAカードやデジタル版のプリペイド・サービス、スマホプリペイドなどを認知する機会にもなったのではないかと考えています。
続いて、キャンペーンサイトに自然流入で訪問した方も含めて、サイトにアクセスしたもののすぐには応募に至らなかったユーザーに対して、応募を促進していくようなご案内を送る「リターゲティング」を実施する、というのが2つめのステップになります。
このキャンペーンに応募するには、ユーザーはコンビニエンスストアに行ってPOSAカードを購入し、そこで得たPINコードをキャンペーンサイトに入力する必要があります。デジタル上のデータを顧客管理データベースに蓄積することで、つい応募を忘れてしまっているようなユーザーに対しても、キャンペーン期間を逃さないように繰り返し応募を促進する、というのが一連の施策プロセスになります。いくつかある応募プロセスを、ユーザーが着実に進めていくための助けとしてお役に立てていれば幸いです。
――今回の施策はNTT Comから提案されたそうですが、顧客データを活用したマーケティング施策は初の試みだったそうですね。今回の施策を発案された背景を教えてください。
飯島広一(以下、飯島):営業の立場では、これまでもインコム・ジャパンのPOSA事業を支えるネットワーク・インフラ部分を中心にお力添えさせてもらっていました。昨年1月にNTT ComがNTTドコモグループになったことを受けて、ドコモのアセットを活かすことでPOSA事業をさらに拡大・発展させるような新しい価値のご提供が可能なのではないかと考え、さまざまな仮説を立てながらサービスご提案を検討しはじめました。
最初はコンビニの棚割りを監視してリアルタイムに最適化していく品出し管理サービスの提案からはじまり、OPEN HUB Parkにインコム・ジャパンをお招きして議論を重ねながらさまざまな施策アイデアを絞り込んでいき、最終的に今回の送客保証型の広告マーケティングサービスにたどり着きました。
馬橋氏:dポイントクラブはユーザーの母数が大きいサービスなので、膨大なデータを何かマーケティングに活かせるのでは、という期待がありました。実際に議論を通じてデータ利活用に関するNTTドコモのアセットへの理解が深まる中で、ユーザーの関心や行動履歴をかなり精密に分析できることがわかってきて、ユーザーの具体的な消費行動を踏まえた効果的なプロモーションをできそうだと考えるようになりました。
――今回の施策を実施するにあたり、NTT Comとして特に意識していた部分があれば教えてください。
中井大輔(以下、中井):初回のターゲティングでは、シンプルにインコム・ジャパンの要望を伺いながらPOSAカードの新規ユーザーとなりそうなターゲットを絞った結果、スムーズに「20~40代の男女」と決まりましたので、さほど労力はかかりませんでした。
一方、2回目施策以降のリターゲティングをしていく段階では、1回目のプロモーションに反応があったユーザーの中で、どういった方が購買行動につながっていたのかを分析して、より詳細に検討していく必要がありました。今回の施策では、このリターゲティングがポイントになります。
dポイントクラブ会員には、ドコモの携帯回線を契約されている方や、dポイントクラブのサイトに登録をされている方、もしくは「d払い」などのサービスを使われている方などがいます。例えばドコモの携帯回線の契約者であれば、会員属性情報や実際の行動(位置情報・サービス/アプリ利用)、アンケートデータなど、推測ではない確かなデータを持っています。
これらの情報を掛け合わせていくことで、ユーザーの「インサイト(=購買行動の根拠・動機)」を探っていきました。NTTドコモのデータを活用してできることとしては、広告配信による購買者やサイトアクセス者情報からターゲットの詳細な分類や分析をしていくこと、そして、その分類・分析に応じて、各ターゲットそれぞれにコンバージョンにつながる最適な広告配信を行っていけることなどが挙げられます。
もちろん、こうしたマーケティング施策は個人情報が関わる部分ですので、プライバシーポリシーが変わるときには、ユーザーに許諾をもらいながら対応することなどに注意を払わなくてはなりません。また、傾向データとして統計的な処理をすることで、個人情報を外部に出すことなく、パートナー企業のマーケティングに安全に役立てることができます。
――インコム・ジャパンとして、NTT Comとともにプロモーション施策を推進していく中で、何か印象的だったことはありましたか?
馬橋氏:これまでのキャンペーン施策だと、そのキャンペーン一度限りのプロモーションになってしまうことが多くありました。その点、今回の施策では、1回目の結果をもとに2回目を、2回目の結果をもとに3回目を、と情報を蓄積していくことができたので、都度改善を加えて次の施策を見据えながらプロモーションを進めていけたことが一番魅力的だったと感じています。
あとこれまでは、アンケートの応募にまで至った方であれば属性を把握・分析しやすかった一方で、キャンペーンサイトに訪問したけれど応募には至らなかった方の属性を得ることは、なかなか難しかったところでした。しかし今回の施策では、プロモーションから離脱したタイミングごとにユーザーの行動分析をする「ファネル分析」を用いることで、サイトに一度だけ訪問してくれた方、再訪してキャンペーンの応募に至った方など、それぞれどういうユーザーなのかを絞り込み、ペルソナに応じた最適な施策を行っていくことができました。
富谷:ファネル分析は特に注力したところですね。リピーター化を目指して購買者に引き続きプロモーションを打っていくことも大事ですが、「潜在顧客」――つまり、サイトには訪問したけれど、キャンペーンの応募に至らなかった人――に対して、どうすれば「応募」という行動に至るまでの興味関心を醸成できるのか検討し、施策化するうえでも、こうした分析は重要だと考えています。
例えば、「20代男性」「30代女性」といったステータス的な属性だけではなくて、「家族がいるかどうか」「どういう旅行が好きか」「スポーツが好きかどうか」「どういったところで買い物をしているか」といった嗜好性や行動属性の情報をさらに掛け合わせることで、解像度はより上がっていきます。リピーター向けとは別に、潜在顧客のニーズにピンポイントに刺さるプロモーションも企画できるわけです。
――今回の施策導入により、過去キャンペーンと比較して最多のサイトアクセス数があったこと、そしてサイトに送客したユーザーの再訪問率やキャンペーンへの応募数などにも良い効果があったことを伺いました。
馬橋氏:応募サイトのアクセス数でいうと、元々10万人のサイト送客を目標にしていた中で、合計で45万強にも及びました。そのうちの半分程度の送客を今回の施策で達成しています。やはりdポイントクラブ会員の母数が多かったことに加えて、再度送客させる工夫をしてもらったおかげだと思っています。
――NTT Comとしては、今回の施策を経て、今後の事業展開につながるような知見として、どのようなものが得られたと考えていますか?
中井:やはりNTTドコモの強みは、約9,500万人という会員数のボリュームで、属性情報や決済情報、位置情報などを含めた質の高いデータを持っていることにあります。こうした条件を満たせる企業は、日本ではさほど多くありません。一方で、こうしたデータを自社でただ持っているだけではなく、幅広い分野で利活用していける可能性があると感じます。
さまざまな企業がマーケティング施策に課題を持たれている中で、データ基盤やインフラを強みとしてきたNTT Comとしては、さらにこうしたデータを使った何か新しいサービスのご提案の可能性を模索している段階です。ネットワーク・インフラのご提供を通じてお客さまの事業を理解している強みに加え、データ利活用によるマーケティングを掛け合わせてお客さまに最適な新しい価値を提供できるのが、競合他社にはない我々の優位性になってくるのでは、と考えています。
――今回の施策から得られたPOSA事業やその他の事業への新たな展望などあれば、お聞かせください。
馬橋氏:POSAカードに関連するキャンペーンはこれまでも定期的に実施してきましたが、「購入者の情報は得られても、購入していない方の情報は得づらい」という課題を解消し、ピンポイントで購入者の属性を知って、属性に合うアプローチができた今回の施策では本当に多くの気づきを得られました。
また、こうしたキャンペーンではリピートで応募される方は意外と多い一方で、まだPOSAカードに馴染みのない人たちにも認知を拡大していくことが重要です。今回はdポイントクラブ会員に向けてプロモーションしたことで、これまでのキャンペーンでは認知が広がらなかった方々にもアプローチできたのではないかと思っています。
さらに今回の施策を経て、より具体的な顧客の属性がつかめてきたと感じているので、今後はよりピンポイントなアプローチをしていけたらなと。例えばヘルスケア領域などでは、新しい商材も日々拡充しています。こうした部分のチャレンジももっと認知を広めて、より多くのユーザーに選択肢の豊かな世界を実現していきたいです。そのために幅広い分野で、今後もNTT Comと共創していければと考えています。
富谷:ヘルスケア領域でも、将来的にはインコム・ジャパンのアセットとNTTドコモの健康データのアセットを組み合わせて何かできると良いですね。コンビニエンスストアやドラッグストアなど、パートナー店舗、小売店の規模が非常に大きいインコム・ジャパンの強みを活かしながら、NTTドコモの会員基盤やデータ利活用のアセットを活用できれば、ユーザーのライフスタイルにおける利便性をより高めるような貢献をしていけるのではないでしょうか。
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