2024.10.09(Wed)
DIVE to METAVERSE
2023.03.08(Wed)
#23
目次
多様な業界から注目を集めるメタバース。初めこそゲームやアニメーションなど、主にエンターテインメントの分野から火がついたものの、仮想空間における経済成長の可能性の大きさが語られるようになるにつれ、多くの企業が高い関心を持つようになりました。
OPEN HUBでもウェビナーや体験会イベントなどを通じて、メタバースに実際に触れ、その可能性を自分ごと化して考えるための機会を提供してきましたが、去る11月9日、とある重要な人物をお迎えして勉強会を開催しました。
そのゲストとは、経産省の商務情報政策局コンテンツ産業課課長補佐を務める上田泰成氏。コンテンツ産業の活性化を推進する経産省において、メタバース体験に直結するコンテンツや空間そのものを生み出すクリエイターの参入を促す事業に深く携わっています。
そもそも、なぜ上田氏を招いて勉強会を開催したのか。OPEN HUBのカタリスト岡直樹は、その狙いをこう明かします。
「OPEN HUBではこれまでもメタバースに注目してきましたが、メタバースについて幅広い文脈で語ってくださる方を探していました。そこでどなたがふさわしいかと聞いて回っているうちに、経産省の上田さんにたどり着いたというわけです。OPEN HUB Base会員がさまざまな面からメタバースを体感するイベントの1つとして講演を依頼したところ、ご快諾いただき勉強会が実現しました」
メタバースという未知なる領野に勇気を持って踏み出そうとする OPEN HUB Base会員たちと、それをサポートするための制度設計を担う行政の担当者がじかに対話する機会を設けることで、この先に広がる可能性とともに注意すべきリスクや取り組むべき課題などを共有していきました。
勉強会の冒頭、上田氏はこのように語りました。
「最近、メタバースに関する講演をする機会が増えており、世間の関心が日増しに高まっているのを感じています。今日は皆さんに、経産省がどのような観点からメタバースに注目し、日本の経済発展へとつなげていくためにどのような課題を見出し、どのような取り組みを画策しているかをお話ししたいと思います」
そうしたあいさつから講演を始めた上田氏は、まず「What Is the Metaverse, Exactly?」(メタバースとは、つまりなんなのか?)と題されたスライドを投影。メタバースが「Meta(超越)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語であり、1992年にアメリカで出版されたSF小説『Snow Crash』に初めて登場したという事実から講演はスタートしました。
「メタバースは、現段階ではヘッドマウントディスプレーをつけて、バーチャル空間に没入するものとして語られていますが、それはVR(Virtual Reality)という1つの側面に過ぎません。例えばリアルな場にスマートフォンをかざして、文字や映像などのデジタル情報がその場にあるように感じるAR(Augmented Reality)もメタバースの1つです。
またメタバースはXR(Extended Reality)と呼ばれる仮想空間の意味も持ち、そこにさまざまなサービスや経済圏などが創出され得るところに大きな可能性があります。VRとARをも包括するMR(Mixed Reality)という概念もあり、仮想世界と現実世界の情報を組み合わせて、両者がリアルタイムで相互に影響する体験ができるという点で、脚光を浴びています」
参考:メタバース入門―XRが人々の生活や社会にもたらす新たな価値
メタバースの基本をひと通り学んだのち、話題はいよいよビジネスシーンにおけるメタバースの適用にシフト。さまざまな分野のさまざまな企業に身を置く参加者たちは、いよいよ身を乗り出し、一言一句を聞き逃すまいと耳を傾けます。
「実際にどのようにビジネス利用していくのかといえば、メタバースを業務改善ツールとして活用するケースが増えつつあるように見えます。例えばアバターで参加するリモート会議や、没入感のあるロールプレイ研修、アバターを通じた健康状態の可視化による健康管理、製品や都市の3Dモデルを用いた視覚に訴える開発や設計、さらには生産ラインの3Dモデルを用いたシミュレーションによる製造体制の改善といった方法が考えられます。
既存の商品やサービスの市場に加わる新規商品・新規市場というものも、すでにVRに慣れ親しんだZ世代、α世代に向けて提案されています。例えば、自動車会社がメタバース上に仮想店舗を設け、デジタルコンテンツを販売したり、あるいはVRゲームなどに公式アバターやグッズを展開したり、ユーザーを潜在顧客として取り込もうとするような施策もその1つです」
経産省では2021年に、「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」という、いわばメタバースの予想図のようなものを作成。そこで浮き彫りとなったのは、コンテンツの普及、デバイスの性能向上と普及、さらに技術者育成が必要不可欠な課題であるということでした。
「日本でメタバース関連のビジネスを盛り上げるには、官民が連携していかなければなりません。そして、企業やクリエイターの方々が活動しやすいように法規制を整えるには、省庁間の横の連携をもっと密に取っていかなければなりません。なぜなら、メタバースをストレスなく利用できるネットワークの整備などは総務省、民間企業への対応は経産省など管轄が異なるからです。世界に勝つためにも、今日は事業者である皆さんが行政に対して期待していることを、貴重なご意見としてお聞きしていきたいと思っています」
上田氏の呼びかけに応じて、以降は参加者との対話の時間に。熱気に満ちた活発な意見交換が行われました。ここからは OPEN HUB Base会員と上田氏との間でやりとりされた内容の一部を対話形式でお伝えします。
参加者:法整備を進めるために経産省や総務省などの省庁間を横串でつなぐことがとても重要だと感じています。そういった動きはこれからさらに期待されるものでしょうか? またアーキテクチャの統一、セキュリティなど、今後どのような規制が入る可能性があるのでしょうか?
上田氏:アバターに関しては、標準規格を作る動きが出てきており、プラットフォームを跨いで適用されるかもしれません。一方で現在はメタバース黎明期ですから、各プラットフォーマーの自由な動きをできるだけ阻害することなく見守り、成長を促すことが最優先であると考えます。
参加者:私はあるメーカーに勤めていますが、日々の業務におけるメタバースの利用はまだ先のことのように思えてしまいます。日本の製造業において、今後メタバースはどのように活用できるでしょうか?
上田氏:インダストリアルメタバースと呼ばれるもので、建設現場のデータをAIで集約化して効率化させるなどの技術導入はすでに行われています。働き手不足の助けにもなっていますし、工場での安全確保、保安の課題解決にも寄与するものとして期待されています。
例えば日立や川崎重工といった企業では、遠隔操作で研修を行なったり、機械を操作したりといったことが、メタバースを活用して実際に行われています。またマツダではVRで製造を行い、それをリアルに展開する試みもしています。VRがそのまま製造現場に降りてくるのはまだ先のことですが、プロセスの効率化にはますます役立てられるでしょう。
参加者:ニュースなどでメタバースの話題を多く目にするようになりましたが、まだ私たちビジネスパーソンの生活に浸透しているとは言い難いかと思います。政府が後押ししていることは分かりましたが、実際にメタバースはバズワードを超えて、実際に世界を席巻するものへと成長していくのでしょうか?
上田氏:Z世代はすでに、ほとんどの時間をバーチャル上で費やしています。RobloxがZ世代1,000人に実施したファッションレポートがかなり興味深いのですが、このレポートによると、42%は現実よりも仮想空間のファッションの方が大事だと考えているとの結果が出ています。
若者たちの間では「現実世界ではない」という価値観に変わりつつあるのです。
またLINEやTwitterといったSNSは、2000年代に一気に広がりました。まずは若者たちの間で火がついて、そこから金融、経済、行政の中へも浸透していきました。やがて親世代でLINEが浸透したのも、振り返るとそもそもは子どもたちとコミュニケーションを取るためでした。
メタバースも、まずはバーチャルネイティブのα世代に刺さるコンテンツとして注目が集まり始めたという背景があります。これから事業者が参入を図っていく上でのグレーゾーンや規制を取り払い、誰もが気持ちよく参入できるような下地を整えることが政府の役割です。
参加者:私は旅行会社に勤めていますが、今後メタバースをどのように活用すればいいか悩んでいます。観光業がメタバースを活かす上で重要なポイントはありますか?
上田氏:観光の分野では、バーチャルがリアルの劣化版にならないよう「バーチャルならではの価値はどこにあるのか?」という観点から考えるべきでしょう。
例えば、バーチャル池袋で謎解き大会イベントが開催された際には、問題を解くにはリアルの街に行かなければならないような仕組みが用意され、リアルな人の動きとつなげることに成功しました。今後はこうした連動の画策が重要となってくるでしょう。
こうした熱のこもった意見交換を経て、イベントはいよいよ終盤のワークセッションに。各参加者の手元にシートが配られ、それぞれの立場からメタバースでやりたいこと、現状の課題、ギャップを埋めるためにやるべきこと、ファーストアクションとして何をするべきかなど書き入れる時間が設けられました。
終了後、共通して寄せられた声は、まだどこへどう進めばいいのか分からなかったメタバースへの取り組みに関して、行政からの明確なインプットが得られたということ。大手旅行会社から参加した方は「参加者の分野や属性も多岐にわたっていて、他業界の情報や意見も聞けた。上田さんの意見交換では、これまで得てきた知識が腑に落ちるようになった。このような機会があれば、また参加したい」とコメントしました。
また小売業を営む大手企業から参加した方は「子どもを見ていると、デジタル空間が主な活動場所になっているのがよく分かる。上田さんがZ世代の動向についてお話しされていましたが、将来メタバースが普及するだろうと確信を持つことができた。小売業に関わる者として、今後メタバースをどのように活用できるか考えていきたい」と語りました。
勉強会の最後に、上田氏はこのような言葉で会を締めくくりました。
「メタバースはまだ黎明期にあるからこそ、日本にもチャンスがあります。平成時代は『失われた30年』ともいわれてきましたが、その要因はイノベーションと競争を掛け違えていたところにもあったのではないでしょうか。
メタバースは民間企業による開発に委ねられる部分が大きいからこそ、それをサポートするべく官民連携で推進していきたい。今日お集まりの皆さんには、ぜひ自社の強みを活かした戦略を改めて考えていただくなかで、メタバースの可能性に引き続き注目していっていただけたらと思います」
またNTT Comの岡は、今回の勉強会をこう総括しました。
「行政が考えるメタバースビジネスの在り方についてインプットを受け、私たち民間企業の期待の一部を行政に伝えることができたのは、大きな収穫だったと考えています。今後、このようなメタバースの現状を共有しながら語り合う今回のような場が重要になってくるのではないかと改めて感じました。
また実際に話し合われた内容だけでなく、参加者たちの興味の大きさや期待する熱量といったものを、行政に伝えることができたと思っています。行政には、従来の縦割りのやり方だけでなく、上田氏がお話しくださったような横断的な取り組みや見方というものを持ってほしいという、私たちの要望を認識していただけたら幸いです」
OPEN HUB
Issue
DIVE to METAVERSE
ビジネス“プレイヤー”
のためのメタバース