Co-Create the Future

2023.02.15(Wed)

セブン&アイと推進する、超高齢社会を見据えた電話の新たな価値創造

#事例

#17

セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とともに高齢者の方の心身の健康維持を図る「いきつけフォン」の実証実験(以下、PoC)を行いました。経験豊かなNTTグループのOB・OGの方々が、一人暮らしの高齢者の方に定期的に電話をかけてコミュニケーションの機会を提供することで、高齢者の方が前向きな気持ちになることを目的とした取り組みです。あたかも行きつけのお店に行ったかのような温かい会話をという思いから名付けられた「いきつけフォン」サービスについて、両社から話を聞きました。

目次


    あらゆる方の暮らしに寄り添うセブン&アイの取り組み

    ―セブン&アイの社会課題を解決する取り組みについてお聞かせください。

    山口匠氏(以下、山口氏):私の所属する経営推進部では、地方の若者に新しい視点を与える対話型教育プログラムや社会課題の深掘りを通して学ぶ企業向け研修事業、共働き世帯の家事負担を軽減するメディアサービス、そして私が担当している介護者の方や高齢者の方への支援等といった社会課題に事業を通じて取り組んでいます。

    またグループ全体では、これまで築き上げてきた店舗網や物流・情報システムなどを駆使したお買い物支援や新たな体験価値の創出に注力しています。セブン‐イレブンで販売している商品を最短30分でお届けする「7NOW」や、ネットスーパー、移動販売などの形で高齢者の皆さまを含む多くの方々にお買い物の新しい機会を提供しています。

    その他にも地方自治体とさまざまな連携協定を結び、見守り支援や高齢者の方の人材活用などに取り組んでいます。一方で健康意識の高まりを受けた商品開発も行っており、イトーヨーカドーでは介護や高齢者の方向けの商品に特化した売り場を展開しております。

    山口匠|株式会社セブン&アイ・ホールディングス 経営推進部
    2002年株式会社セブン‐イレブン・ジャパン入社。OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー:加盟店経営カウンセリング業務)を経て、2017年株式会社セブン&アイ・ホールディングスへ出向。広報、人事部門を経験。2021年より現職。

    前向きな気持ちで生活してほしい。「いきつけフォン」に込められた願い

    ―高齢化社会をより豊かにするために、さまざまな事業を立ち上げている貴社が「いきつけフォン」のPoCに着手した経緯について教えてください。

    山口氏:「いきつけフォン」は一人暮らしの高齢者の方に定期的に電話をしてコミュニケーションの機会を提供するサービスです。まるで行きつけのお店に行ったかのような温かい会話を交わし、利用者の方に寄り添う手紙を差し上げることで、利用者の方の気づきを増やし、前向きな気持ちを持つことに寄与したいという思いでサービスを考えました。

    高齢者の方が長年使ってきてなじみのある電話の活用がキーポイントになるので、これまで当社とさまざまな事業を立ち上げていて、なおかつ音声コミュニケーションに精通したNTT ComにPoCを伴走していただこうと考えました。

    ―「いきつけフォン」はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。

    山口氏:もともとは、同じ担当の池本(現在育休中)が高齢化社会に貢献する事業を模索していました。彼女は働きながら介護をしていて、その大変さを実感しており、自分と同じような人たちへ貢献したいという思いを持っていたんです。当時私も彼女と同じ部署(広報部門)にいて、介護と仕事の両立の大変さを間近で見ていました。そうした彼女の思いに共感して、希望して現在の部署に異動しました。

    私たちが「いきつけフォン」のサービス構想に行きつくまでは、仮説を立てては失敗する、の繰り返しでした。当初は介護者の方の支援をしたいというコンセプトでサービスを検討していたため、介護をしている方や施設にいる高齢者の方を訪ね歩き、その方々からヒアリングを行う日々を送っていました。

    そうした多くのヒアリングを行う中で実感したのは、介護をしている方々は自分が楽になりたいという思い以上に、「高齢者の方に健康で幸せな生活を送ってほしい」と考えているということです。一方で高齢者の方からは「家族に迷惑をかけたくないから健康を維持したい」という思いがひしひしと伝わってきました。

    現在は核家族化が進んでおり、高齢者の方の4人に1人が一人暮らしです。そうした一人暮らしの高齢者の方は人とのコミュニケーションの機会が減っていることで前向きな気持ちが必ずしも持てなくなっているかもしれない。そこで電話を使ってコミュニケーションを図るサービスを提供すれば、発話機会を増やすことができ、人とのつながりが生まれ、前向きな気持ちをさらに高めることができるのではないかという仮説から「いきつけフォン」のサービスの発案、PoC実施に至りました。

    ―吉田さんはNTT Comのメンバーとして「いきつけフォン」のPoCに参画してきましたが、参画当初に抱いていた思いなどはありますか。

    吉田裕貴|NTT Com 第四ビジネスソリューション部 流通・サービスグループ

    吉田裕貴(以下、吉田):プロジェクト発足当初、新入社員だった私にとって、いわゆるICTやSNSではなく電話を使った取り組みということで驚きと不安が正直ありました。ただ、電話というのは歴史あるNTTらしさを出せるのでは?と思いましたし、私の祖母が一人暮らしをしているため、身近にある課題として目の当たりにしていたこともあり、この社会的意義のある取り組みを事業化につなげたいという使命感を持ちました。

    経験豊かなコールスタッフが持つ「会話力」

    ―2022年6月から開始したPoCは、どのような形で行われたのでしょうか。

    山口氏:さまざまな経路でPoCへの参加希望の高齢者の方を募り、集まっていただいた25名の方を対象として、コールスタッフが6回にわたって30分ほどの会話をするという取り組みを行いました。そして利用者の方へお渡しする手紙については、コールスタッフのメモなどの内容を参考に、私と池本が書いてお渡ししました。

    ―「いきつけフォン」は、電話を用いたコミュニケーションがメインになっています。コールスタッフの方は高齢者の方と心を通わせるように会話できることが求められると思いますが、実際にコールスタッフはどのような方が担当されたのでしょうか。

    吉田:PoCでは、コールセンターや104・116での電話応対経験が豊富なNTT グループ OGの方々に担当していただいています。以前からNTT ComでNTTグループのOB・OGの仕事面での活躍の場の提供について検討を進めており、今回の話を紹介したところ、「ぜひやってみたい」と4名の方が手を挙げてくださいました。

    山口氏:集まってくださったコールスタッフの皆さんが、私たちの思いに共感して参加してくれたことは初対面の時から感じていました。スタッフの方は経験に裏打ちされたコミュニケーションスキルを活用して利用者と十分なコミュニケーションをしてくれたと思っています。また利用者の方と同じ年代なので、話が合い会話が弾むというメリットもありました。

    吉田:電話で会話をする際は、NTT Comの「COTOHA® Call Center」というクラウド型のコールセンターのサービスを使いました。このサービスを使えば在宅でも仕事ができますが、コールスタッフが集まってコールした方が情報共有しながら仕事を進められ、より良いコールができるのではないか。そのような狙いもあり、あえてアクティブシニア支援機構のオフィスの中にコールセンターの環境をつくりました。

    ―PoCを実施する中で苦労したことがあればお聞かせください。

    山口氏:最初は利用者の方となかなか電話がつながらないことが多かったですね。利用者の中には軽度の認知症の方も含まれていて、予定を忘れてしまうことも少なくありませんでした。しかし、そのうち利用者の方も電話を楽しみに思ってくださるようになり、電話がつながりやすくなっていきました。

    吉田:私はオペレータの方々に対する電話ツールの操作レクチャーやコールセンターの運営サポートをしていました。当初は慣れないツールに戸惑われることもありましたが、いざコールを始めると、スタッフの皆さまのトークスキルや傾聴力が素晴らしく、経験豊かなスタッフのコミュニケーションスキルが「いきつけフォン」の強みの1つであると改めて認識しました。

    ―PoCでは会話の内容を分析されたそうですが、どのような結果になったのでしょうか。

    吉田:今回は「MiiTel」というツールで会話の録音や分析を実施したのですが、オペレータと利用者の発話比率の変化、通話時間やポジティブなワードの増加、といった結果を得ることができました。

    発話比率については、初日はオペレータがほとんど喋っていたのに対し、最終日には自分で6割以上喋っていたような利用者もいらっしゃいました。また通話時間は1回30分と決まっているのですが、話が盛り上がってスタッフも電話を切るに切れず、徐々に長くなってしまうこともありました。「ありがとう」「うれしい」というポジティブなワードが回を追うごとに増えていった利用者がいたのも印象的でしたね。

    山口氏:最終日はスタッフと利用者の方の双方から「ありがとう」の言葉が何回も出てきて、「これで終わるのは名残惜しい」という会話もありました。サービスを利用しなければ出会わなかった人同士のつながりをつくることができたと実感しています。

    心を通わせ、つながりをつくる電話の価値

    ―PoCを実施した結果、どのような効果がありましたか。

    山口氏:利用者のご家族の方からもご意見や感想を聞いているのですが、ある方からは「生活のリズムや服装が変わった」と聞いています。以前は外出を億劫に思っていたのに、おしゃれしてデパートに行くようになったそうです。

    また利用者の方からは「周りの人に話すのをためらうような自慢話やネガティブな話を気軽に話せる」という意見もあり、普段関わりのない人だからこそ気兼ねなく話せるというのもこのサービスのメリットだと分かりました。PoCの実施を通じて、「いきつけフォン」は多くの人を前向きにさせる力のあるサービスになるかもしれないと思いました。

    吉田:顔を見せないため気負わなくていいものの、生の声によって気持ちや温かさが伝わるという電話だからこそのちょうど良い距離感があるのではと思っています。最近はSNSがコミュニケーションツールの主流ですが、入社前には気づけなかった電話の可能性を改めて感じるきっかけにもなりました。

    高齢化社会をより良くするために。「いきつけフォン」の今後の展開

    ―今後、「いきつけフォン」をどのように展開する予定でしょうか。

    山口氏:PoCを実施したことで、有償化のステージに進むための課題が見えてきました。高齢者の方に限らずですが、知らない人から電話がかかってくると多くの方が警戒心を抱きます。そのため、初回から安心して利用してもらうための方策を練っていく必要があります。

    また、「いきつけフォン」は電話や手紙といったアナログツールが主役のため、コールや手紙を書くといった作業の労力が少なくありません。そのため自動化できる部分は自動化、デジタル化できるところはデジタル化していくという効率性の向上も事業化を見据えると重要だと考えています。電話や手紙は高齢者の方の気持ちを前向きにする力があると今回のPoCで実感したので、さらにサービス化に向けて検討を進めていきたいと思います。

    ―高齢化社会の課題解決について、お二人のそれぞれの立場から今後の展望をお聞かせください。

    吉田:NTT Com内の高齢者向けソリューションとの連携も見据えながら共にサービスをつくり上げていきたいという思いがあります。今日、山口さんと私はSDGsバッジを付けていますが、セブン&アイさまとは再生可能エネルギーの活用といった環境保護の領域についても協業させていただいています。今後もさまざまな領域で連携を深め、社会に貢献していきたいです。

    山口氏:「いきつけフォン」のように「人と話したい、つながりたい」というニーズに応える以外にも、高齢者の方やそのご家族が抱えているさまざまな課題を解決していきたいと考えています。そのためには生活する人に寄り添って困り事を1つひとつ解決していく地道な取り組みが必要です。

    一般に高齢化社会は社会課題だと捉えられています。しかし私は高齢化していく日本を誇るべきものと捉え、「年齢を重ねるのは楽しく美しいことだ」と思える社会にしていきたいです。高齢者の方は年を取って以前と同じことができなくなり、諦めてしまうこともあるでしょう。しかし諦めなくていいことは世の中にたくさんあります。これからも高齢者の方が前向きに生きていくためのサービスをつくっていきたいと考えています。

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