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2025.03.06(Thu)
――久野さんと横山さんは、もともと認知症に対してどんなイメージをお持ちでしたか?
久野:高齢者の5人に1人が認知症になるというのは、かなり多くの割合だと思います。しかし私自身は、本人や家族が認知症で困っているという話をあまり聞いたことがないのです。本当は困っているにもかかわらず、人に言えずに苦労を抱えている人が多いのかもしれませんが、数字と体感のギャップが大きいと感じていました。
吉村氏:高齢になると、生活にあまり変化がなく、日々同じパターンで生活している方が多くなります。認知機能がある程度低下してきても、いつもと同じ行動をこなすことはできるので、一見すると困りごとがあるようには見えません。認知症で困っているという話をあまり聞かないのだとしたら、それはパターン化された生活の中で、認知機能の低下に気づいていない人が多いことも理由の1つだと思います。
――そうなると、日常生活の中で認知症を早期発見するのは難しいのでしょうか?
吉村氏:認知症は早期に適切な介入を行えば進行を遅らせることができますし、認知症の手前の段階に当たる軽度認知機能障害(MCI)であれば、認知機能が回復する可能性もあると考えられていますので、早期発見が理想です。
しかし、日常生活の中で、軽度の認知症やMCIに気づけることはほとんどないでしょう。チャンスがあるとすれば、例えば冠婚葬祭のように、普段と違う相手と、違う服装での行動などが求められる場面でしょうか。いつもと同じ行動なら問題なくこなせても、非日常的な場面ではうまく行動できず、「何かおかしい」と気づける可能性はあります。とはいえ、こうしたイベントは頻繁にあるわけではないですよね。
横山:私の場合は、親族や知り合いに認知症患者の方がいましたが、周囲の人たちは「認知症になったらどうしようもない」と諦めてしまっているようでした。認知症になったらもう何もしてあげられないのだ、と。正直、私自身もどうすることもできないものだと思っていました。
――現状では、認知症を完治させる方法はないのですよね。諦めてしまう気持ちも分かる気がします。
吉村氏:治療の前に、正確な診断が必要です。甲状腺機能低下や正常圧水頭症など、認知症を引き起こす疾患は多くあります。病院の詳しい検査で診断ができ、内科・外科的な治療により劇的に改善する場合もあり、見逃してはいけません。その上で、症状の評価や生活への影響を評価します。認知症には、認知機能の低下によって直接的に生じる「中核症状」と、二次的に生じる「周辺症状」があります。前者には記憶力や理解・判断力の低下などが該当します。後者には、できないことが増えて落ち込んでしまう、不安が強くなって外出しなくなってしまう、イライラして周囲の人に怒鳴ってしまうといった症状が該当します。
認知症に対する治療としては、20年以上前から薬が使用されていますが、あくまで進行を抑制するものであって、中核症状を完全に治したり劇的に改善したりする治療薬は、残念ながらまだありません。しかし周辺症状は、精神科で従来使用されている薬を使えばかなりの部分が改善できます。たとえ記憶力などが衰えてしまっても、周辺症状の治療を受けていれば、穏やかに生活していくことも可能です。ですから、まったく何もできないわけではなく、医療機関を受診し適切な治療を受けるだけでも、大きな意義があると思います。
――個人や家族だけでなく、社会や国のレベルで考えても認知症の影響は大きいですね。
吉村氏:そもそも私たちの社会は、認知機能が十分にあるかそれに近い状態であることを前提に作られていますよね。認知症の方が増えると、うまく機能しなくなる部分が出てくる可能性があります。例えば、自動車の誤操作や交通事故がある一方で、車がなければ移動できない地域もあり、免許返納をためらう人も少なくないでしょう。また、買い物に行ったときに、会計を忘れて店を出てしまったという話を患者さんから聞くことがあります。これはまったく悪気がないとしても軽犯罪になってしまうわけです。
国や自治体のレベルで考えると、医療と介護の負担が大きいことが問題です。医療費も増加していますが、同等かそれ以上に介護費用が伸びていますし、老々介護のようにそれを支える人材不足も深刻です。従来のように、自宅にいながら介護を受けるというスタイルから、集合住宅などでの効率的な介護を組み合わせることも考えるべき時期に来ているのかもしれません。
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