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2025.06.27(Fri)

AI渋滞予知で社会課題を解決!「移動×データ」でモビリティの未来はどう変わるのか

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高速道路は人やモノの移動など現代社会における営みに欠かせない重要インフラです。しかし、頻発する渋滞は時間や経済的な損失はもちろん、環境や人々の行動にも大きな影響を与えます。この長年の課題を解決する1つの方法として東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO東日本)は、「AIによる渋滞予測」を採用。関越道、東京湾アクアライン及び京葉道路・館山道を対象にドライバー向けの「AI渋滞予知」を提供しています。

このサービスは、行楽地や観光名所などへの人出の多さが「帰りの渋滞」の発生の有無や規模に影響を与えることに着目し、数時間先の交通状態についてAIを用いて予測する仕組みです。同サービスの開発および運営に深く関わっているNEXCO東日本、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の3名のキーマンが、その可能性と社会課題解決に向けて果たすべき使命について語り合いました。

目次


    社会に不可欠のインフラとして高速道路が果たしている使命と課題

    ――NEXCO東日本さまは高速道路の運営を通じて、どのような社会的使命を果たし、またどんな価値を提供していこうとしているのでしょうか?

    上野渉 氏(以下、上野氏):高速道路という社会に不可欠なインフラを最大限に活用し、日本経済の活性化に貢献することを目指しています。また、高速道路によって相互につながる地域社会の発展や暮らしの向上も私たちが担うべき使命だと考えています。

    上野 渉 氏│東日本高速道路株式会社 関東支社 渋滞予報士(管理事業部 道路管制センター・交通技術課)
    2021年に入社。入社後は新規路線の建設工事や、管理路線の舗装補修工事を担当して現場経験を積む。現在は現場経験を活かして、年間365日の渋滞予測や、渋滞対策の立案及び検討業務に携わる。また、渋滞予報士として、お客さまへ渋滞予測や渋滞内容の広報を実施して、渋滞の削減に努める。

    ――昨今ではオーバーツーリズム対策や環境負荷軽減の重要性も叫ばれるようになりました。こうした社会課題の解決にはどのように注力されていますか?

    上野氏:例えばかねてから取り組む休日割引の適用除外も、そのような社会課題を見据えた施策の1つです。ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの長期連休に集中する交通需要の平準化を図ることを目的としています。

    ――近年の高速道路における渋滞発生状況について教えてください。

    上野氏:2020年はコロナ禍の影響を受けて高速道路の交通量が減少し渋滞による損失時間も減少しました。しかし、最近は再び交通量が増加している傾向にあり、渋滞損失時間も増加しています。特に2023年には、コロナ以前の水準を上回る過去ワーストの渋滞損失時間を記録しました。

    また、渋滞が増えているもう1つの要因として、「交通容量※」の経年的な低下が挙げられます。これにより以前よりも渋滞が発生しやすくなっており、例えば、ある場所で以前であれば交通量が3,000台を超えた時点で発生していた渋滞が、現在では2,000台を超えた時点で発生するといった現象が起きています。背景には、「ドライバーの高齢化に伴う運転能力の低下」や「自動車のドライブアシスト機能と人間による運転の混在」といった社会情勢の変化が要因として考えられます。

    ※交通容量:ある道路区間において、一定の時間内に通過できる最大の車両台数のこと。同じ場所であっても天候や季節などさまざまな条件で変化する

    ――そうした渋滞対策を模索する中、高速道路のETC化や車線拡幅といった従来型の対策に加え、「データ活用」や「AIによる予測」に注目するようになったのですね。

    上野氏:おっしゃるとおりです。交通容量の経年的な低下に対する新たな打ち手として、交通需要の分散に焦点を当てました。お客さまに道路を使用する時間帯や日付をずらしてもらうことで、交通量が平準化されて交通容量の範囲内に収めるという考え方です。

    NTTドコモならびにNTT Comとの共創で取り組んでいる「AI渋滞予知」では、NTTドコモから提供されるリアルタイムの人口統計データを活用し、NEXCO東日本が保有する過去の渋滞実績や交通流※に関する技術的知見などをかけ合わせることで、「移動×データ」という観点から高精度の渋滞予測を実現しています。

    ※交通流:道路を走る車両の移動を流れとして捉える概念で、渋滞の分析などに役立てられている

    共創プロジェクト「AI渋滞予知」とは

    ――「AI渋滞予知」を立ち上げるに至ったきっかけや、これまでのプロジェクトの経緯を教えてください。

    赤塚裕人(以下、赤塚):NTTドコモでは、2013年からモバイル空間統計というサービスを提供しています。これは、日本全国を対象に「いつ、どこに、どんな人がいるのか」を24時間365日推計するものです。このデータをリアルタイム化することにより、従来は3カ月前の人口しか分からなかったのが、現在では数十分前の人口データを取得できるようになりました。すなわち、現時点の人の動きをほぼリアルタイムで把握することができます。

    私たちはこの技術をさまざまな企業に紹介してきました。しかし、技術としては高い評価をいただくものの、具体的な活用方法が見つからないという課題がありました。例えば、コンビニエンスストアでは、リアルタイムの人の動きが分かったとしても、物流網の問題から30分後に商品を入荷することは難しいという現実があります。

    そうした中で、有効性が高いと考えられたのが、交通分野への応用でした。ある学会で偶然出会ったNEXCO東日本さまにモバイル空間統計をご紹介したことが契機となってAI渋滞予知の開発プロジェクトに発展していきました。

    赤塚 裕人│株式会社NTTドコモ R&Dイノベーション本部 モバイルイノベーションテック部 社会予測技術開発主査
    大学院修了後、2013年NTTドコモ入社。モバイル空間統計のリアルタイム化と、モバイル空間統計をはじめとする大規模データに基づく社会予測最適化技術の研究開発および社会実装を推進。情報処理学会 業績賞、前島密賞、文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞。博士(情報理工学)。

    上野氏:実際、赤塚さんからご紹介をいただいたモバイル空間統計は、まさに私たちが待ち望んでいた技術でした。弊社の渋滞予測は、旅行計画の策定にお役立ていただけるよう約2ヶ月前に発表しています。そのため、一度予測を発表した後は、当日の天候や急な人出などへの対応が難しく、仮にこれに対応しようとすると多くの人手と時間を要すこととなり現実的ではありません。

    これに対して、モバイル空間統計を活用した予測ではリアルタイムに人の動きが把握できるため、利用者はその予測に基づいて出先で自らの行動を柔軟に変化させることが可能となります。また、予測結果が機械的に提供されるため、業務の省人化が図れる点にもメリットを感じました。

    後藤佳祐(以下、後藤):AI渋滞予知の技術検証の段階までNTTドコモが担当し、その後の社会実装をNTT Comが支えていくというのが、大まかな役割分担です。AI渋滞予知は、関越道および東京湾アクアラインにおいて2022年1月に商用環境に移行しました。その際にもモバイル空間統計をNEXCO東日本さま向けにカスタマイズし、サービス提供する役割をNTT Comが担わせていただきました。

    NTT Comとしても、今後のAI渋滞予知サービスの更なる認知度向上・普及に向けて、NTTドコモグループのアセットも活用しながら全力でご支援できればと考えています。

    高速道路AI渋滞予知(NEXCO東日本&NTTドコモ) | ドラぷら(NEXCO東日本)

    後藤 佳祐│NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com) ビジネスソリューション本部
    大学卒業後、2021年にNTTドコモに入社。官公庁・自治体へのソリューション営業を担当。2022年よりNTTコミュニケーションズ第二ビジネスソリューション部に着任。その後、東日本高速道路様の担当営業としてAI渋滞予知(商用環境)サービスの提供に携わり、東日本高速道路様とAI渋滞予知の認知度拡大に向けた取り組みを推進。

    ――AI渋滞予知のアルゴリズムや主要データについて、分かりやすく教えていただけますか?

    赤塚: AI渋滞予知について簡潔に述べるならば、特定地域における当日の人口分布に基づいて将来の交通状況を予測します。

    例えば、東京湾アクアラインを渡った先の房総半島に、昼間の時間帯に東京や神奈川在住の人が多く存在する場合、夕方以降の帰宅時間帯に渋滞が発生することが予測されます。一方、ほとんど人がいない場合には、渋滞は発生しないと予測されます。このような「行った人が帰ってくる」という人の分布と交通の関係をAIに学習させパターン化したモデルを構築しています。

    このモデルに当日の人口データを入力することで、帰宅時間帯の交通渋滞状況を予測することが可能となります。さらに、この予測を利用して、ドライバーに対して目的地に到着するまでの所要時間を示すことができます。

    ――AI渋滞予知と、従来のプローブ情報による渋滞予測との最大の違いは何でしょうか?

    赤塚:AI渋滞予知の最大のポイントは、「数時間先の交通状況を実用的な精度で予測できる」ことにあります。従来の交通データに基づく予測手法では、基本的に1時間程度先までしか高精度に予測することはできませんでした。しかし、1時間先の予測情報が得られたとしても、その余裕時間を思うように活用することは難しいでしょう。

    これに対してAI渋滞予知では、数時間先の予測が可能になります。例えば、昼食をとった後に夕方の交通状況が把握できれば、渋滞する前に帰る、あるいは逆に渋滞が解消するまでその場にとどまって観光や買い物を楽しむといった行動変容に役立てることができます。

    AI渋滞予知は渋滞を発生させる源流である人口に着目し、人口分布と交通の関係を学習することで、数時間先の状況まで見通した高精度な予測を行うことができます。予測実施時点で走行している車両だけでなく、将来的に走行状態になる車両も考慮することで、高精度な予測を実現しています。

    ――実証試験や商用化後の検証を通じて、AI渋滞予知サービスについては、どの程度の精度向上が確認されていますか?

    上野氏:2022年7月から開始した京葉道路の実証試験に先立ち、京葉道路の蘇我ICから篠崎ICまでの過去979日分の交通状況を対象に、NEXCO東日本が過去の渋滞実績をもとに作成した「従来予測」と「AI渋滞予知」について、それぞれの予測に基づいた所要時間と実際の走行時間を比較しました。この結果、30分以上の誤差となった日数は、従来予測の115日(11.7%)に対して、AI渋滞予知ではわずか14日(1.4%)となり、大幅な精度向上を確認できました。

    ――実際の高速道路利用者からは、どのような声が寄せられていますか?

    上野氏:AI渋滞予知の本格運用を開始している東京湾アクアラインと関越道を利用するお客さま(ドライバー)に対してWebアンケートを行ったところ、回答者のうち約9割のお客さまから「大変満足している」または「満足している」といった声をいただきました。

    今後の活用意向についても、9割以上のお客さまから「活用したい」という意向をいただきました。さらにAI渋滞予知を利用した結果として、6~8割のお客さまから「利用する時間やルートを変更した」といった回答をいただいており、何らかの渋滞回避行動につながっていることが確認できています。

    ――高速道路沿線の観光施設や自治体などの反応はいかがでしょうか? 今後、AI渋滞予知サービスとのコラボが広がっていく可能性がありそうな気がします。

    上野氏:まだ本格的なコラボまでには至っていませんが、近隣の施設との連携や協力は進みつつあります。例えば、京葉道路の沿線には大規模商業施設や観光施設が複数存在しており、これらの施設のホームページにAI渋滞予知サービスのリンクを設置していただいています。これにより各施設に滞在する時間が増え、ショップやレストランなどの売上向上に貢献し、さらには交通の分散化にもつながるといった、相乗効果をもたらすことが期待されています。

    「移動×データ」のアプローチで社会課題解決と地方創生を目指す

    ――AI渋滞予知を通じて、利用者の行動変容のみならず、社会全体のモビリティや都市計画にどのように寄与していけるとお考えですか?

    上野氏:現時点ではAI渋滞予知の利用は個人が主な対象ですが、将来的に企業の間にも普及を図ることで、例えば従業員の出勤時間を調整して渋滞を避けるなど、時間をより効率的に使ったフレキシブルな働き方を後押しできる可能性があります。

    また、高速道路以外でも例えば路線バスなどの公共交通機関について、その日の交通状況を踏まえながら動的なダイヤ編成を行うといった取り組みにつながるかもしれません。

    後藤:上野さんに挙げていただいたような社会課題の解決に向けて、重要な鍵を握っているのは、やはり「移動×データ」のアプローチです。

    例えば、物流・輸送業界ではトラックドライバーの時間外労働に厳しい上限(年間960時間)が課されたことで、一人当たりの走行距離が短くなり、モノを運べなくなることが懸念されています。このいわゆる「物流の2024年問題」を解決するためにも、AI渋滞予知は有力な技術になると考えています。

    そして、私個人としても特に期待しているのが、地方創生への活用です。先ほどAI渋滞予知と近隣の観光・商業施設との連携といった話がありましたが、モバイル空間統計から得られる「いつ、どこに、どんな人がいるのか」という情報を活用することで、よりアクティブな観光マーケティングやプロモーション活動を展開することが可能となります。NTT Comとしても、地方の自治体やさまざまな企業の取り組みを、積極的に後押ししていきたいです。

    赤塚:基本的に社会的活動は人の営みによるものですので、極端なことをいえば、人の動きを捉えることで、あらゆる社会的活動を把握・予測し、最適化できる可能性があります。モバイル空間統計をはじめ、NTTドコモとNEXCO東日本さまが有している多岐にわたるデータを効果的に掛け合わせることで、上野さんや後藤さんに語っていただいたビジョンを、実現に向けて確実に前進させていくことができます。

    ――NEXCO東日本さまにおいて、NTTドコモ、NTT Comとの今後の協業をどのように考えておられますか?

    上野氏: AI渋滞予知の運用状況をみつつ、他路線への展開等お客さまサービス向上に向けた検討を進めていきたいです。さらに、その先の社会課題の解決や地方創生に向けては、高速道路だけでなく一般道路にもサービスの活用を考える可能性があると考えます。そのためには、引き続き3社の共創が大事になると考えています。

    NTTドコモには、路線ごとの特性を反映した交通予測モデルの構築に大きな貢献をいただいています。またNTT Comには、AI渋滞予知サービスの使いやすいUI/UXを実現していただいたことが、利用者の高い満足度につながっています。

    3社それぞれの強みを生かした役割分担のもと、「移動×データ」のアプローチによる新たな施策展開を、さらに加速させていきたいと思います。

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