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Co-Create the Future
2023.12.13(Wed)
目次
鈴木絵里子(以下、鈴木):フェムテックは、グローバルではこの10年ほどで注目を浴びている領域です。世界的には2025年には約400億ドル(約5兆円)の市場規模になると予測され、日本でもこの5年ほどで急成長しています。
ただし、その課題は国ごとに大きく異なります。米国では医療コストが高騰し、寿命が下がり、妊娠出産の死亡率も上がりつつある状況。そこに対してテックでイノベーションを起こし、解決を目指しているのです。日本と海外ではまったく背景が異なる、というのは前提として押さえておきたいところです。
鵜飼耕一郎(以下、鵜飼):おっしゃる通りですね。日本は診療報酬制度や国民皆保険制度といった制度が充実している点で、欧米とは仕組みが異なり、単純なコピーペーストが不可能。特に日本の診療報酬制度は非常に整備されているという優れた面があるため、ユーザー起点で考えると、予防医療にコストをかけるより、疾患の診療のほうが安価だというケースが少なくありません。そのため、ヘルスケア事業が大きな利益を産むビジネスとして成立しにくいという面もあります。ヘルスケア領域に含まれるフェムテックに関しても、体力のある大企業だからこそ、長期的に継続して取り組む価値のある領域だと思っています。
鈴木:そうですね。一方で日本は課題先進国なので、例えばエイジング領域、更年期や、高齢者介護や医療、労働への取り組みは、海外からも注目されているでしょう。これらは普遍的なテーマですから、日本がフォーカスしてソリューションを生み出せば、海外展開も可能かもしれません。
鵜飼:課題を見極める必要がありますね。私の所属する「スマートヘルスケア推進室」は、フェムテックに限らず、個々に最適な医療やヘルスケアサービスを提供する世界観を目指しています。その第一歩を、特にデータが細かく分散しているフェムテック領域で実現・成功させ、ゆくゆくは社会全体のヘルスケア課題解決を進めていきたいと考えています。
鈴木:「Value Add Femtech Community」では、どのように共創を進められているのでしょうか。
鵜飼:社会実装というゴールを目指し、ワークショップでは段階的にテーマを立てて進めています。最初は女性だけで悩みを出し合い、機会領域となるテーマを決めた上で、男性も交え会員企業とディスカッションしてきました。次に海外事例にも目を向け、外部の専門家の知見も取り入れ、課題解決方法を共有します。そして、実際に共創によってどんなサービスが作れるのか、自社ならばどのパーツを担えるという視点で、具体的に検討してきました。
鈴木:細やかに進められているのですね。ヘルスケア領域では、一度「死の淵」を経てから成長が加速するJカーブの法則をなぞることが多いので、短期・中期・長期のゴールを明確にして取り組むことは効果的だと思います。一方で共創には課題もありますね。その最たるものが、データ共有です。ライフサイエンス領域では、個人の健康にまつわる機微な情報を取り扱い、社によって取り扱いのポリシーが異なる。それによって共有が阻まれてきました。
鵜飼:おっしゃる通り、ライフサイエンス領域ではデータ共有が共創の最大の障壁のひとつでした。その解決として、弊社ではデータを安心安全に扱えるヘルスケア業界向けプラットフォーム「Smart Data Platform for Healthcare」を提供しています。匿名加工や秘密分散・秘密計算等、機微なデータの共有をサポートする機能が備わっており、「Value Add Femtech Community」参加企業がデータを共有する際にも有効です。
鈴木:きっと多くのデータ解析によって深いインサイトが見いだされ、個々にとってバリューのあるサービスを提供できるのだと思います。インサイトという面で考えると、日本の消費者があまり大きな声を上げないというカルチャーがあるため、企業は既存のサービスの10倍、20倍といったインパクトを与えないと、ソリューションにもつながりません。グローバルな流れを見ていると、フェムテックが目指すのは「誰もが働きやすい社会」、つまり誰もがベネフィットを得られる社会です。男性にも更年期などがありますし、データを駆使しながら、みんながウェルビーイングな方向性へとマインドシフトできるといいですね。「Value Add Femtech Community」のような場所を通して、抜本的に「新しい時代がきた」と感じられるくらいのプロジェクトの誕生に期待したいです。
鵜飼:更年期に入る40〜50歳くらいは、ちょうどキャリアアップの時期にも重なります。周囲の人は労働者の生産性向上といった面のフォローだけでなく、相互に協力的な社会の雰囲気を作っていくことも大切だと思います。また、ウェルビーイングを目指すにあたり必要な情報を提供していくのが、企業の役割だとも考えています。企業間のデータを利活用し、サービスやプロダクトの良し悪しの情報も含めたすべての選択肢を出した上で、個人がその時々に応じて最良の選択ができる社会をつくりたいです。
鵜飼:「Value Add Femtech Community」では現在2件のビジネスアイデアが生まれ、会員企業と個別検討を進めています。今後は、完成したサービスやプロダクトをユーザーに浸透させていくことが課題に入っていくでしょう。
鈴木:日本のユーザーは受動的なのですよね。ユーザーのマインドとしても必要なのは、一人ひとりが環境問題も含めてよく考え、価値観と照らし合わせてサービスやプロダクトを選ぶこと。理想論だと言われるかもしれませんが、確実に時代の潮流はこの方向性です。また、そうした社会の実現には、個々のリテラシーも必要。企業にも、個々を尊重したエンパワーやコミュニケーションが求められていると思います。
鵜飼:ユーザーも、自ら選択しようというマインドを持つことが大事ですね。フェムテックには、男性や社会、企業が絡み合わないと解決できない問題も多々あります。そこで感じるのは、先の話にもありましたが、フェムテックは女性のためのもののようで、実は男性や社会のためであり、win-winだということ。男性だって、家族や同僚が毎日いきいきと暮らしていたら、仕事も捗り、生きやすくなるはずです。また、いまはまだそれほど注目されていませんが、男性にも更年期があり、苦しんでいる人がいます。女性の更年期に対するフェムテックやソリューションが成熟することで、男性の更年期にも応用される可能性も高いのです。
鈴木:日本のヘルスケアに関しては、データなどの「技術」と、従来の日本の価値観を変える「文化醸成」の両輪で走ることが大事ですね。そして継続することによって事業は社会的な価値となり、最終的には大きなビジネスへと成長すると思います。
鵜飼:私たちは、人生それぞれの時期に最適なサービスを提供し、さらにそのデータをうまく利活用することによって、ゆくゆくは後の世代にも役立てたい。狭い意味でのフェムテックではなく、その人の一生に寄り添えるようなサービスを創造できるよう、努力していきたいと思います。
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鈴木絵里子
鵜飼耕一郎
text by Nayu Kan / photographs by Yoshinobu Bito / edited by Kaori Saeki
Forbes JAPAN BrandVoice 2023年11月30日掲載記事より転載
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