Solitude / Loneliness

2023.09.01(Fri)

ビジネスパーソンは「孤独」をどう捉えるべき?
山口周氏と考える、孤独にビジネスチャンスを見出す方法

#OPEN HUB #ヘルスケア #事例 #メタバース
2040年、日本では約40%が独居世帯になるといわれています。ウェルビーイングを阻害する要因として、孤独は世界的な問題となっている一方、「ソロ活」のように孤独をポジティブに捉えるライフスタイルも一般化しています。孤独は、社会やライフスタイルを変化させる重要なファクターのひとつといえるでしょう。

そこでOPEN HUBでは、孤独をテーマにした全5回のワークショップ「Dialog孤独」を開催。さまざまな企業から参加者が集い、有識者を交えながらディスカッションを重ねて、ビジネスアイデアの創出を目指しました。「3人に1人は孤独を感じている」といわれる今、孤独という問題にはどのようなビジネスチャンスが潜んでいるのでしょうか。参加者の目線から、ビジネスの可能性を前後編でレポートしていきます。

前編では、独自のビジネス研究で知られ、OPEN HUB Catalystでもある山口周氏を迎え、孤独に対するビジネスアイデアを検討した模様を中心にお伝えします。

目次


    “孤独”の切り口から何を生み出せるか?

    孤独をテーマにした今回のDialog、参加者は何を期待して申し込んだのでしょうか。化学メーカーで新規事業探索を担当している原佳那恵さんは、ヘルスケア領域の新規事業を考える中で、ウェルビーイングにも関わりの深い「孤独」というテーマに関心を持ち、参加してみたいと思ったとのこと。

    原佳那恵|化学メーカー勤務 ヘルスケア領域で新規事業探索を担当

    「これまでもヘルスケアやマテリアルの切り口から新規事業を模索してきて、社会との接点が一時的に断絶される産休・育休中の女性、専業主婦など、多くの人が孤独に苦しんでいることには問題意識がありました。そんな折に『Dialog孤独』の参加者募集を知って、老人の孤独死なども含めて社会課題としての意識がより高まり、参加を決めました」と原さんは語ります。

    「着眼点がユニークですよね。孤独という状態を起点にどのようなアイデアが生まれるのか、期待しています。以前、上司から山口周さんの本を薦められて読んだことがあるので、山口さんのお話を伺えるのも楽しみです」。今回は原さんの視点を交えながら、Dialogを追体験していきます。

    “生きるに値する豊かな社会”ってどんな社会?「ソーシャルベネフィット」の重要性を実感

    全5回のワークショップのうち、Day 1は孤独について考えるためのイントロダクションとしてウェビナーを配信。孤独に関するデータや、現代人が孤独を感じる背景などをインプットしました。孤独には、ウェルビーイングに悪影響となる「望まない孤独」だけでなく、一人の時間を積極的に楽しむような「望む孤独」もあります。「望まない孤独」の解消が重要なのはいうまでもありませんが、「望む孤独」への需要もビジネスチャンスと捉えることができます。

    Day 2ではグローバルなリサーチコンサルティングファームであるStylus Japanの秋元陸氏が登壇。「孤独」に関するデータやインサイト、さまざまな孤独を解決するビジネス事例について学びました。気づかぬうちに心身をむしばむことから「サイレントパンデミック」とも呼ばれ、世界的な問題となっている「悪い孤独」。秋元氏は、孤独というテーマが多様性を帯びてきていることを指摘します。

    「ライフステージによって孤独の性質が変わる、という話が印象的でした。『誰の孤独にどのように向き合うか?』という観点は、ビジネスアイデアを具体的に考えるDay 3以降でも活きてきそうです」と原さんも気づきを得られた様子。その後、参加者は4つのグループに分かれ、孤独に関する課題や需要、自社のアセットなどを洗い出しました。

    Day 3は、山口氏の講演からスタート。ビジネスアイデアを考える上で重要なポイントを話してもらいました。山口氏はまず、これからのビジネスのあり方として「成長の再定義が必要」と指摘します。

    「20世紀は、安全で快適で便利な社会をつくるべく、山を登るように経済成長を目指すことが最重要課題でした。しかし、社会が十分な発展を遂げた今、経済性の中に人間性を取り込み、真に生きるに値する豊かな社会を目指す必要があります」

    山口周|独立研究者、著作家、パブリックスピーカー、OPEN HUB Catalyst
    慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。ビジネス書も多数あり、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞

    そんな中で山口氏が強調するのが、「カスタマーベネフィット」から「ソーシャルベネフィット」への移行です。オランダのスマートフォン「Fairphone」を例として挙げつつ、こう語ります。

    「従来の製品開発は、『スマートフォンは軽いほうがいい』『バッテリーの持ちを良くしてほしい』といった個々のニーズを細かく拾い上げて応えていくのが一般的でした。『カスタマーベネフィット』にもとづいた製品開発です。しかしFairphoneは、修理できて長く使えるため、頻繁に買い替える必要がないことが特徴。『環境負荷を減らせる』という社会への利益、すなわち『ソーシャルベネフィット』につながる製品なのです」

    ソーシャルベネフィットを優先すると、自己利益が犠牲になると思う人もいるかもしれません。しかし山口氏は、「特に若い世代は、公共の利益に貢献することが自己利益として内面化されている人が多い。やせ我慢しているわけではない」と解説。欧州で顕著なこの動きは、日本でも今後進んでいくことが予見されます。「新規事業を構想していく上で欠かせない発想になりそうですね」と原さんもその指摘に共感します。

    ここで山口氏は、孤独の解消につながる国内外のビジネス事例を紹介。離れていてもコミュニケーションが取れる分身ロボット「OriHime」や、集合住宅の中に共有スペースを設けることで住民同士のつながりを促進するIKEAの「アーバン・ビレッジ・プロジェクト」、敷地内をテーマパークのようにすることで入居者の豊かな文化・社会生活を設計しているオランダの認知症介護施設「ホグウェイ」など、まさに孤独解消というソーシャルベネフィットを提供している事例ばかり。講演内容に対する理解が一段と深まります。

    「世代や住んでいる地域などによって、抱えている孤独の種類や質はさまざまです」と山口氏。孤独が一通りではないなら、解決方法も多様なはずです。人と人をつなげる場づくりのような直接的ソリューションから、将来の退職に備えて孤独になりにくい状態をあらかじめつくっておくような間接的ソリューションまで、いくつもの可能性があるでしょう。「今の社会は、生きるに値すると思えるような社会なのか? そう考える中であなたが『これはおかしい』と気づいた点が、ビジネスチャンスになるはずです」と山口氏は締めくくりました。

    異業種ディスカッションから見えてくるビジネスアイデアとは

    山口氏の講演の後は、4つのチームに分かれて、それぞれのチームに与えられたテーマに対するビジネスアイデアを考えるワークショップを実施。最終回まで、同じチームで同じテーマについて検討していくことになります。

    原さんが参加するチームの議論をのぞいてみました。テーマは、「都市で生活していて、日常的にストレスを抱えているビジネスパーソンのメンタルヘルスケア」。まずは各自で、ターゲットとなる人物像やニーズ、データなど思いつくものを書き出していきます。「私は地方出身なのですが、東京のような都市部は時間の流れがまったく違います。人が多いのに寂しさを感じることがありますね」と、原さんは自身の経験に照らしながら取り組みます。

    チームの議論に参加した山口氏からはこんなコメントも。

    「都市の場合、物理的には人が多いですが、つながりが希薄で孤独を感じる人が多い。でも、つながっていれば孤独ではないのか?という問題もありますね。地方ではつながりが密接すぎてストレスを感じる人もいます。価値観の違う人と一緒にいるのも、疎外感があって別の難しさがありそうですね」

    都市と地方の孤独の違いを言及しながら、議論を掘り下げていきます。

    さらにチーム内では、「一人でいたい時間もあるけど、楽しさを共有したいときもある。一人でいることを自分で選択しているかどうかが大切なのでは?」「一人でさっそうと生きているイメージと、そうではない自分。このギャップが孤独感につながるのでは?」「孤独だと思いたくなくて、気づかないふりをすることもあるかも」など、日ごろ異なる企業で異なるポジションを担っているメンバーからさまざまな意見が。原さんも「一人ひとりが語る孤独が、それぞれまったく違いますね」と驚きます。

    その後、「大人になると『褒められる経験』が減って自己肯定感を失いがちなことも、孤独につながっているのでは」という原さんの意見や、「都市部に出てくる前に、いじめや引きこもりなど、孤独につながるような何らかの原体験があったのでは?」といった話から、「自分自身の過去を掘り下げて『自分と出会う』ことが自己肯定感を高め、ひいては孤独の解消にもつながる」という発想へ。そこから、個人のライフヒストリーをまとめて価値観や傾向などを分析する「私の履歴書」サービスや、分析を踏まえて自分と似た価値観を持った人とつながれるマッチングサービス、社会人向けの県人寮など、さまざまなビジネスの種が生まれました。

    「孤独をいかに自分ごとにできるか」が新規ビジネス創出のポイント

    最後に、チームごとに議論した内容やアイデアを発表してもらい、それぞれ山口氏からのフィードバックを受けてDay 3は終了。「交通インフラが整っていない地方で暮らしている老人の孤独解消」を考えるチーム、「仕事以外に社会関係資本を築けていない、キャリアに悩む中高年の孤独対策」に取り組むチーム、そして「自分の好きなことや得意なことを発揮しきれていない人が、仮想世界(メタバース)に集う場所をつくる」ことを目指すチーム。原さんが参加していたチーム以外も、業種の異なるメンバーたちの多様な視点が集まり、「思った以上にさまざまな孤独があることに気づかされますね」とユニークなアイデアの数々に刺激を受けていました。

    Day 3を終えて、「今日はインプット量がとても多かったので、学んだことを復習しながら、さらに考えを深めていきたいと思います」と語る原さん。普段なかなか接することのない他社の方々との交流でも視野が広がったようで、「私と同じように新規事業を担当している人もいました。知見や苦労などを共有しあえて楽しかったです」。

    山口氏にも、終了後にお話を伺ったところ、アイデアのブラッシュアップに向けた示唆がありました。

    「『自分がどのようなときに孤独を感じるか』という議論が大事だと思っています。皆さん、フレームワークありきの思考プロセスに慣れていることもあり、つい問題を自分の外側に設定して“正解”を出そうとしてしまう。孤独を自分ごととして捉え、『私はいつ孤独を感じるか?』と考えることも、踏み込んだ洞察へのヒントになるでしょう」

    次回以降、参加者はさらにインプットとアウトプットを重ね、アイデアをブラッシュアップしていきます。この先、アイデアはどのように育っていくのでしょうか。「孤独の自分ごと化」を経て、豊かな新規ビジネス構想へと発展するDay 4とDay 5の様子は、後編でお届けします。

    JOURNAL
    それぞれの「孤独」のかたち。「Dialog」から生まれた4つのサービスアイデア
    OPEN HUBが手がける継続性のワークショップ・プログラム、Dialog。今回は、社会課題化する「孤独」をテーマに実施しました。レポートの前編では、孤独にまつわるグローバルなインサイトや、独立研究者・著作家の山口周氏の講演から得た知見を参加者たちがビジネスアイデアに結びつけていく様子をレポートしました。 後編では、各分野のエキスパートであるOPEN HUBカタリストが登場。参加者は、4名のカタリストとともに議論を深めていきます。社会実装を見据えてブラッシュアップされたビジネスアイデア、そして「Dialog孤独」への参加を通じて得られた成果はどのようなものだったのでしょうか。前編に引き続き、化学メーカーでヘルスケア領域の新規事業探索を担当している参加者、原佳那恵さんの視点も交えながらお届けしていきます。
    OPEN HUBが手がける継続性のワークショップ・プログラム、Dialog。今回は、社会課題化する「孤独」をテーマに実施しました。レポートの前編では、孤独にまつわるグローバルなインサイトや、独立研究者・著作家の山口周氏の講演から得た知見を参加者たちがビジネスアイデアに結びつけていく様子をレポートしました。 後編では、各分野のエキスパートであるOPEN HUBカタリストが登場。参加者は、4名のカタリストとともに議論を深めていきます。社会実装を見据えてブラッシュアップされたビジネスアイデア、そして「Dialog孤独」への参加を通じて得られた成果はどのようなものだったのでしょうか。前編に引き続き、化学メーカーでヘルスケア領域の新規事業探索を担当している参加者、原佳那恵さんの視点も交えながらお届けしていきます。

    <ワークショップイベント参加者募集>
    OPEN HUB Parkで行われるワークショップイベントをご紹介します。
    ご参加お待ちしております。

    「データの掛けあわせが切り拓く顧客エンゲージメントの新時代」
    日程:2023年11月1日(水)18:00~20:00
    会場:OPEN HUB Park(大手町プレイスウエストタワー29F)
    消費行動が多様化する今、企業が持つ「データ」の価値とは何でしょうか。
    顧客情報や人流などのデータの活用したビジネス事例を紹介しながら、会員の皆さまとともに顧客理解の視点からデータ活用した顧客エンゲージメントについて深掘りします。

    ▼イベント詳細・お申し込みはこちら
    https://openhub.ntt.com/event/7396.html